九章 ~25話 実戦での評価
用語説明w
ルイ:マキ組の下忍、赤髪の獣人男性。スナイパー技能に長けている
ジョゼ:黒髪のエルフ男性。情報担当と事務を行う非戦闘員、整備などもこなす
ゲイル:マキ組に移籍してきたフウマの里所属の下忍。対人暗殺の専門家で、隠れ、騙し、忍ぶ、忍者らしいスタイル
自己生成爆弾:宇宙技術を使った四種類の爆弾の超小規模生産工場。材料とエネルギーを確保できれば、使用後に自動で新しい爆弾を生成してくれる
ウンディーネ…粘着性のあるゲル状爆弾
サラマンダー…液体型焼夷弾
ジン…蜂のような羽根で跳ぶ小型ミサイル
ノーム…転がることである程度の追尾性を持つ球形手榴弾
※シーベルの演説まであと二十二日
マキ組への出撃要請、出撃だ
「マキ組長、ラーズの追い込み時期に要請なんか受けていいんですか?」
ジョゼが言う
「要請を受けたのはラーズの訓練の一環です。実戦を経験しないと、不確定要素に対処できませんから」
「ラーズ、配置についた」
「ルイ、了解」
「さ、修行の成果を見せてくれよ」
「ゲイル、そんな簡単に成果なんか出ないって」
今回は少し規模の大きいスパイ狩りだ
どうやって手に入れたのか、軍用軽装甲車両を持ち、魔法使いや兵士の傭兵を擁する五人ほどのパーティだ
「では、始めて下さい。ラーズが指示を出したときのみ、ルイとゲイルで援護を」
「「了解」」
今回は、俺が主導してターゲットを仕留める
「データ、やるぞ」
「了解だよ!」
データがドローンを上昇させる
いつも使っている、監視カメラが付いた偵察用ドローンよりも大型のものだ
これはジョゼが用意してくれたもので、ハンドグレネードを持つことが出来る
つまり、空爆や突っ込ませての簡易ミサイルとして使うことができるのだ
データ2が座標を指示することによって発射の自動化も可能だ
「ルイ、運転手の狙撃を。ゲイルとリィはそれに合わせて始めてくれ」
「了解」「ヒャン!」
しばしの静寂
スパイたちは拠点から出る準備をしている
もしかしたら国境を越えてナウカ領へと戻るつもりかもしれない
ここで仕留める
俺は、絆の腕輪で竜牙兵にも指示を出す
ダァーーーーン!
「うおぉぉっ!?」
軽装甲車両のフロントガラスに亀裂が入り、運転手の頭が吹き飛ぶ
防弾ガラスを貫通する、ルイの対物ライフルだ
バチバチバチッ!
ボボォォーーーーーッ!
同時に、リィの雷属性と火属性範囲魔法(小)が発動
ダブルマジックで二か所を攻撃
更に、データが上空のドローンをからハンドグレネードを投下
データ2がモ魔を発動
ドッガァァァァン!
ゴシャッ!!
爆発と、土属性魔法による大岩の落下で軽装甲車両を破壊
「ギャァァァッ!」
竜牙兵が襲い掛かって、スパイの魔法使いを爪で斬り裂く
更に、斥候役と思われる兵士をゲイルが後ろから仕留めていた
「オッケー、ルイとデータ2は監視を。ゲイルとリィは逃亡を許した場合のフォローを。竜牙兵は奴らの後ろに待機しておいてくれ」
俺は、あえて姿を現してスパイたちと対峙する
今回は俺の実戦訓練と言う側面が強い
敵は残り三人、これを俺が一人で制圧する
「き、貴様ら何者だぁぁぁ!」
大柄の兵士がガトリング砲を持ち出す
背中に大きな弾倉を背負う、強火力の武装だ
俺は、腰のベルトから小型杖を引き抜きながら振る
小型杖のクイックドロウ
兵士の前に土属性土壁の魔法弾を着弾させる
「おらぁっ、こんなもの!」
ブオォォォッ!
大柄の兵士がガトリング砲を発射
土壁が粉砕される
だが、この土壁は防御のためではない
目隠しのためのものだ
ホバーブーツと飛行能力の推進力を同時発動
急加速によって一気に跳ぶ
ドガガガッ!
ドガガッ!
銃化した左腕での射撃
想定外に真横から撃たれたことで、スパイたちの反応が遅れる
大柄の兵士の体や銃に着弾
同時に、その後ろにいた兵士にもヒットさせる
土壁による目隠し後の急加速によって俺の姿を見失っていた
そのため、隙だらけだ
自己生成爆弾のジンとノームを発射
上空と、地面を転がる二つの爆弾がそれぞれ兵士に着弾
倉デバイスから陸戦銃を引き出して、アサルトライフルで足を撃ち抜いて動きを止める
「ゲイル。可能なら拘束、無理なら止めを頼む」
「了解」
俺は指示を出してエアジェットで移動
これでは終わらない、敵はまだ一人残っている
「…ラーズの奴、落ち着いてますね。修行の成果ですか?」
ジョゼがマキ組長に言う
ラーズはトリガーや呪印と言う不確定要素を持っていたため不安定な印象がある
しかし、今日は安定感を感じる
「修行と言うよりも経験則でしょうね。ラーズは、並みの傭兵が知り得ない戦場を経験していますから」
「これくらいは余裕ですか? 普通は、一人で三人を相手にするとか無謀もいい所ですけど」
「ラーズのこの駆け引きこそ、ダメージを受けない闘氣使いでは決してたどり着けない境地です。正に、Bランクとは違う強さでしょう」
「駆け引きですか?」
「人とは敗北を恐れ、それでいて傷つきたくないし恐怖も嫌がる。多くのストレスを抱え、それゆえに失敗をする生き物です。奇襲によってストレスを与え、立ち直る間もなく制圧、心理的プレッシャーを与え続ける。自分が傷つき、負けて来たからこそ相手の気持ちを理解できるのです」
「まぁ、ラーズは人の気持ちを考えられるいい奴ですからね」
「私達のような求道者とは、技と技術を突き詰める者。自分の技を磨き、どうやって相手をミスさせるか、どうやってそのミスに付け込むかを考え続ける者たちです。それはある意味、究極のエゴの追求です」
「…やりたいことを持つのはいいことです」
俺は、両手に装具メメント・モリを物質化
最後の一人と対峙する
「くそっ! 殺してやる!」
男がハンドガンを抜く
俺は横っ飛びしながら、サードハンドで浮かしていたアサルトライフルを構える
「…っ!?」
ゴガァッ!
土属性の投射魔法
ボウリング大の大きさの岩が飛んで来る
障害物と目隠しを兼ねた攻撃か
杖を使っていないため意表を突かれた
更に小型杖を振る兵士
土属性土壁の魔石で土壁を作り、火属性照明の魔法弾で閃光を放つ
視界を奪われた
だが、変異体の聴覚、嗅覚は兵士の居場所を把握している
武の呼吸
同時に呪印を発動
ゴバァッ!
「がっ…!!」
呪印を発動、その力を装具に纏う
一瞬の発動、力の集中、装具を強化して土壁を貫く
ナノマシンシステム2.0の身体強化と共に、呪印の力で破壊力が向上
手刀が、壁の向こうの兵士の肩を砕いていた
・・・・・・
すぐに、使役対象たちの思念が届く
俺は呪印の発動を停止させる
「うん…いい感じだ」
「何がだ? ラーズ」
スパイたちの拘束を終えたゲイルが言う
「呪印が暴走する前に発動を止められた。仲間達の抑止システムがちゃんと動いている。それに、呪印を発動しても以前ほど疲労感がなくなっている気がするんだ」
「へー、良かったじゃないか。暴走に目が行きすぎていたけど、そういえば疲労で動けなくなっていたな。呪印って、意外とデメリット多いのか?」
「伊達に呪印って呼ばれてないよ…」
拘束したスパイたちをウルラ軍に引き渡す
とりあえず、今日の仕事は終わりだ
武の呼吸、高速立体機動、高速アイテム術…、まだまだ足りないが、洗練されてきている実感がある
積み重ねること、そして、対策を練ること
それ以外に、俺がマサカドに対抗できる術はない
まだまだ、これからだ…
「ラーズ…」
「えっ、フィーナ!?」
マキ組長とジョゼの所に戻ると、なんとフィーナが来ていた
おいおい、突然すぎてびっくりするわ!
「近くに来る用事があって。そうしたら、マキ組が来てるって聞いて覗きに来てみたの」
「王家の人間が簡単に現場に来るなよ。護衛もいないし」
「今日はプライベートだから。それに、私はそれなりに強いから大丈夫だよ」
フィーナが言う
確かに、フィーナは強い
あのマサカドに打ち勝ったB+ランクだ
今だったら、ヒルデともいい勝負をするかもしれない
「だからと言って、油断するとマサカドみたいになるぞ? 同レベルの敵に囲まれたら、どんなに強くたって負けるんだから」
「さすがに、ナウカ領に行く時は護衛を付けるから大丈夫だよ」
「そりゃそうか」
なんか、久しぶりにフィーナと普通に話が出来ている気がするな
「…大丈夫なの?」
「何が?」
「あのマサカドと戦うことだよ。普通にやったら…」
「フィーナは俺のことなんか心配しなくていいって。気にしないで、内戦終結に集中してくれよ」
「そ、そんなこと…、心配くらいしたって…」
「俺は今、充実してるよ。やるべきことがあって、そのために何をすればいいのかが分かる。マキ組長という指導者がいて、セフィ姉やヒルデ、カンナ様やミィが力を貸してくれる。集中して、いい訓練ができているんだ」
「…私やヤマトも、マサカドと戦う準備をしている。無理しないで逃げる用意もして欲しいの」
「俺は出来ることをするだけだよ。フィーナこそ、マサカドや他のBランク戦闘員と戦いながらシーベルを絶対に確保しないといけないんだ。大仕事なんだし、俺のことを心配している余裕はないだろ」
当然、フィーナ達も戦場でナウカ軍やBランクを迎え撃つ
俺が負ければ、今度はマサカドとも戦うことになる
それと同時に、シーベルの確保も確実にこなすという、高難易度で大量タスクのミッションだ
フィーナやヤマト、ジライヤといえど簡単ではない
「…」
「ほら、せっかくの休みなんだろ? 早くリフレッシュして来いよ。会うって男か?」
「女だよ、バカ!」
「え、何で怒ってるんだよ?」
「…知らないよ!」
俺はプンプンし始めたフィーナを見送る
やるべきことが出来たおかげで、やっとフィーナへの未練を断ち切れた気がする
フィーナが幸せになればそれでいい、そう思える
求道者
自らの道を切り開く者
一人で、とことん自分の技を極める
そして、いつか卓越した「力」にたどり着きたい
力が欲しい、フィーナにも、セフィ姉にも…、ジライヤにも、あの教団にも、そしてマサカドにも負けない力が
俺には力を求める資格があるはずだ
フィーナvsヒルデ 四章 ~13話 ヴァルキュリア1




