九章 ~18話 セフィ姉の来訪
用語説明w
ドース:クレハナのウルラ領の領主で、第二位の王位継承権を持つ。フィーナの実父
セフィリア:龍神皇国騎士団の団長心得。B+の戦闘力を持つ。ラーズの遠い親戚で、五歳年上の憧れの竜人女性。使役対象は、生きたアイテムであるヴィマナ
エマ:元1991小隊の医療担当隊員。医師免許を持ち回復魔法も使える
スサノヲ:見た目は赤ずきんをかぶった女の子。正体は、怪力の腕利き鍛冶職人でジャンク屋
ウルラ領 灰鳥城
「やあ、ラーズ君。元気そうだね」
「ドースさん、ご無沙汰しております。ミィにダンジョン探索の許可を出して頂きありがとうございます」
「ウルラ領内の戦況が落ち着いて来たからな。君達も含めて、ウルラの民が頑張ってくれているおかげだ」
現在はウルラ領の領主であるドースさん
…ほぼ間違いなく次期ウルラ国王となる人だ
フィーナの実父であるため知らない仲ではないが、昔からのこの人の雰囲気は緊張する
圧が強いんだよな…
なぜ灰鳥城に俺が来ているのか
それは、龍神皇国からの国賓が来るためだ
国賓が、なぜ俺ごときに関係があるのか
それは、その国賓が俺の知人であり憧れの人だから
その国賓とは、龍神皇国騎士団の団長心得、セフィ姉なのだ
フィーナも龍神皇国に行っていたらしく、一緒に帰って来る
俺はミィと待ち合わせているのだ
「ラーズ、遅いわよ」
ミィと共に郊外の高級な喫茶店へと移動
そこは個室タイプの店のようで、通された部屋に行く
中ではスサノヲとエマがお茶を飲んでいた
重鎮が使うであろう店
ミィは騎士だが、スサノヲとエマは一般人
毎回思うが、俺も含めて一般人を重要エリアに通し過ぎじゃないだろうか?
「ちょうど、そこでドースさんに会ったんだ」
「ああ、そうだったのね。フィーナが帰って来るから機嫌よかったでしょ」
「相変わらず圧が凄かったよ。あれで機嫌がいいのか?」
「私は、最近やっと機嫌の違いが分かるようになったわ。娘ラブなんて、かわいい所あるわよね」
「俺は大学の頃、いろいろとかまされたんだぞ…」
フィーナと戸籍上の兄妹となり、シグノイアで一緒のアパートに住むことになった
娘に手を出したら分かっているな? と、雰囲気と言葉で直接的に恫喝された、あの恐怖
騎士学園の頃から怖いと思っていたが、それを直接向けられることになるとは思ってもいなかった
ちなみに、フィーナに男が出来たら速報しますぜ、と取り入って俺は何とか事なきを得た
今思うと、相手の懐に転がり込むあの手法も、忍術の一種だったのかもしれない
「そういえば、真実の眼の遺跡については何か分かったのか?」
「今は空間属性魔法陣の双方向化に着手している所よ。ダンジョンのルートの確保もできたし、通信網のメンテナンスも終わった。直接、地下十階層まで行けるようになれば安全に発掘作業もできるわ」
「バビロンさん達、喜びそうだな」
「最低限の調査で帰るの、ずっと抵抗してたものね」
「バビロンさん半泣きになってたしな」
地下十階層の先にあった真実の眼の遺跡
その祭壇のような場所で発見された精霊石ドングルを使った認証キー
『照らす者の鍵 2/3』という表記
バビロンさん達が過去の文献や論文を漁っているが、今の所何も分かっていない
それどころか、類似する発見結果さえ見つかっていないようだ
今回の発見により、真実の眼の遺跡が学会で注目されている
この流れで、真実の眼の研究が加速するかもしれない
「ラーズ…、ロン君が早く帰って来いって言ってた…」
エマが言う
「ああ、そう言えばチャンピオンになったお祝いもしてないな。ロンのタイトルマッチを参考にして俺の装具を完成させたんだよ。早く見せたいな」
「うん…、また、みんなで会いたい…」
「エマ、ロンとの仲は順調そうだね」
「え…、えぇ…うん…」
エマが俯く
そして、耳は真っ赤だ
おいおい、何だこのかわいい生物は
ロンの野郎、幸せ者め
「その装具、あたしの設計ってことも忘れるなよ?」
スサノヲが口を挟む
「分かってるって。だけど、基本設計は俺だからな」
「はっ、素人の基本設計なんて落書きと同じだっての」
くっ、このがさつなヤンキーめ
見た目だけロリ赤ずきんのくせしやがって
「何でお前みたいな女にクシナダはなびいたんだ? どうやって落としたんだよ」
「な、何を言ってやがる。落としてなんか…」
スサノヲが焦って、照れて、お茶をこぼしそうになる
「それか…」
「それね」
頷き合う俺のミィ
「なっ!? 何言ってやが…!」
「いいよなー、エマもスサノヲも幸せそうで」
俺はスサノヲの照れ隠しを無視する
「ラーズ。フィーナのこと、どうするつもりなの?」
ミィが言う
「え? どうするもこうするもないだろ」
俺は振られた
そしてフィーナはお姫様となり立場が変わった
まだ内戦も終わっていないしどうしようもない
コンコン…
ガチャッ
ドアがノックされてドアが開く
「あら、ラーズ。元気そうね」
「あ、セフィ姉。久しぶり」
セフィ姉が到着した
・・・・・・
「セフィ姉、ウルラ王家との会談は終わったの?」
ミィが聞く
「ええ、終わったわ。今は、ブロッサムの役員の方たちとちょっと立ち話をしていただけよ」
セフィ姉が優雅にお茶を飲む
うむ、相変わらず気品が溢れている
綺麗だな…
「セフィリアさん、フィーナはどうしたんだ?」
スサノヲが尋ねる
「もう少ししたら来るわ。龍神皇国に来ている間に、いろいろと仕事が溜まっていたみたいだから」
「お姫様も大変だなー」
完全に他人事でスサノヲが言う
「…ラーズ、聞いたわよ。フィーナのこと、どうするつもりなの?」
「え?」
「え、じゃないでしょう。このままにしておつもりなの?」
セフィ姉が俺の目をまっすぐに見る
うぅ…何でかちょっと後ろめたい
「いや、でも俺は…」
「フィーナから切り出して別れたというのは聞いた。でも、それは内戦の…」
「それだけじゃないんだって。俺にもいろいろあるんだよ」
俺はブルトニア家の暗殺に加担した
それは、フィーナだけじゃなくセフィ姉にも影響が及びかねない
結果として、俺はフィーナには関われない
そして、本当はセフィ姉にも関われないのだ
「いろいろって、それは何?」
「それは………、またいつか話せる時が来たら話すよ」
「…私にも話せないってこと?」
少しだけ、セフィ姉の雰囲気がピリつく
「いや、ちょっと待ってよ、本当にいろいろまずいんだって! お願い、ちゃんといつか話すから!」
俺は慌ててセフィ姉に言う
こういう場合は、下手なごまかしはしない
話せない理由があるから許して欲しい、そう素直にお願いするしかないのだ
「…」
セフィ姉は静かに俺を見据える
だが、小さくため息をついた後、元の優しい表情に戻った
「分かった。その代わり、話せるようになったらちゃんと話してね?」
「うん、話すよ。いつになるか分からないけど」
「一か月以内ね。それまでに、話せるようにしておきなさい」
「えっ、それはさすがに…」
「そうじゃなきゃ、私が調べるわよ?」
うおぉぉっ、怖いんだけど!?
セフィ姉が動いたら一瞬でバレてしまう!
「…セフィ姉、今日はアイオーンのことを話しに来たんでしょ」
見かねたミィが口を挟む
「あら、そうだったわね」
「アイオーン?」
アイオーン・プロジェクトとは、セフィ姉が行っている対神らしきものの教団プロジェクト
当然、俺の目的と合致しているため、セフィ姉が提示してくれた選択肢の一つだ
そして、その参加条件がクレハナでの内戦で生き残ること
…セフィ姉に対して、俺の力を証明することだった
「ラーズは危険な内戦を生き残って来た。そして、相応の活躍を見せて、呪印まで使いこなせてきている」
「え…」
「私はラーズの実力を評価する。アイオーン・プロジェクトへの参加を認めていいと判断したわ」
「…」
「ただ、まだクレハナの内戦は終わっていない。すぐに参加という訳にも行かないし、まだまだマキ組で修行もしてほしいと思っている」
「う、うん」
「でも、アイオーンとは何かくらい、話しておいた方がいいと思ったの。ちょうど、今日は…」
「…いや、まだいいよ」
「え?」
俺はセフィ姉の言葉を遮って立ち上がる
「…セフィ姉の言う通り、俺はまだまだ弱い。弱すぎる。そして、内戦はまだ終わっていない」
正直、アイオーンがどんなプロジェクトかは知りたい
だけど、同時に怖くなった
…聞いてしまったら、俺は内戦に対する集中力が切れてしまうかもしれない
この内戦は、クレハナの民が命を懸けて戦って来た
ウルラ、ナウカ、コクル、全てが血と涙を流して今に至っている
そして、その中にはコウやヤエが含まれているのだ
内戦はまだ終わっていない
次のことに意識を向けるなんてことはできない
………それだけ深く、俺は関わってしまったから
「ちょっと、外の空気を吸ってくるよ」
俺はなぜか後ろめたくなり、逃げるように部屋を出る
すると、ちょうどやって来たフィーナと鉢合わせになった
「あ、ラーズ…!?」
「お、フィーナ。セフィ姉たち、もう来てるぞ」
「あ…」
そう言って、俺はそのまま外に出る
城の近く、郊外の公園
そこで一人、ベンチに座る
…少しだけ、俺の心が動いた
一瞬、内戦を終わったものと思ってしまった
俺はアイオーンへと向かおうとしてしまった
仲間が死んだ戦争なのに、俺は通りすぎようとしてしまったのだ
それが自分で許せなかった
……自分でも驚くくらいに自己嫌悪に陥っている
「チチチ…」
ザァァーーー
鳥の鳴き声
穏やかな風が取りすぎる
静かな一人の環境は、時に自分を空っぽにしてくれる
そんな場所に、誰かが近づいて来た
まぁ、公園だし、誰かが来ることは不自然ではない
「…っ!?」
だが、俺はその姿を見て固まった
予想外の相手
想像もしていなかった者
…そこには、マサカドが立っていた
バビロンさん 九章 ~15話 ダンジョン最深部
ロンとチャンピオン 七章 ~8話 装具の完成イメージ
アイオーンとは 六章 ~5話 クレハナへの出発