九章 ~15話 ダンジョン最深部
用語説明w
ミィ:龍神皇国騎士団経済対策団のエース。戦闘能力はそこまで高くないが、経済的な観点で物事を考える。海の力を宿したオーシャンスライムのスーラが使役対象
スサノヲ:見た目は赤ずきんをかぶった女の子。正体は、怪力の腕利き鍛冶職人でジャンク屋
リィ:霊属性である東洋型ドラゴンの式神。空中浮遊と霊体化、そして巻物の魔法を発動することが可能
アマロの死体を越えて、俺達は十階層の奥の部屋へと進む
…なんとなく見覚えがある
「ラーズは前にここに来たんでしょ?」
ミィが振り向く
「ああ、そうだね。満身創痍でたどり着いたよ」
ハンク、アーリヤと共に、俺達はこの最深部にたどり着いた
ダンジョン制覇は、本当に超高難度のミッションだった
「確か、この右側に…」
報告用の情報端末があり、その先に小さな部屋があったはずだ
俺は記憶を辿って進んでいく
部屋の中には空間属性魔法陣があり、ダンジョン入り口があるエントランスまで空間を繋げてくれる
以前、制覇した時は全員がボロボロで、もう歩くこともままならなかったため助かった
「これが帰還用の魔法陣ですか」
マキ組長が魔法陣を調べる
「はい、以前はこれでダンジョンから脱出できました」
「起動は出来るのですか?」
「ちょっと待って。スサノヲ達に連絡するわ」
ミィが情報端末を調べる
情報端末は生きているようで、エントランスまで通信が繋がる
あの施設、宙の恵みの奴らが、被検体の性能評価のためにせっせとケーブルをダンジョン内に引いたのだ
あの施設にも、トラビスのようなBランクの戦闘員が何人かいた
そのため、ダンジョンを進んでモンスターを倒し、工事を進めることが出来たのだろう
俺達が死ぬような思いで進んだダンジョンも、Bランク戦闘員のパーティなら実現可能ということだ
「ミィ、着いたの…?」
「あ、エマ。無事に到着よ、帰還用魔法陣の起動は出来る?」
「チェックは終わっているから…、いつでも大丈夫…」
「オッケー、こっちの作業が終わったらまた連絡するわね」
よし、これでいつでも帰れるってことか
一安心だな
「あ、エマ。スサノヲっている?」
俺は情報端末のマイクで呼びかける
「いるぞー、どうした?」
「なんか、1991の様子変わったんだけど」
「不具合ってことか?」
「いや、そうじゃない。まるで体の一部と繋がるというか、接続というかのか…、リンクを好きな時に繋げられるようになったっていうのかな? そんなことが急に出来るようになったんだ。多分、これがスピリッツ化って奴じゃないかと思うんだけど」
ああ、上手く言語化できなくてもどかしい
「ふーん…」
スサノヲが、考え込む
「おそらくだが、それが覚醒って奴なのかもしれない」
「覚醒?」
「スピリッツ化の条件は揃っていた。だが、ラーズの体との接続がまだ構築されていなかった。それが、やっと馴染んで接続を確立、いつでもリンクできるようになったってことだ」
真のスピリッツ化、それは、絆の構築
精力、霊力、氣力を得て、武器防具が魂を囲う体の一部となること
今の1991は、好きな時に俺とリンクすることが出来る
具体的には、身体を流れる氣力や霊力、精力を共有することが出来るようになったということだ
これは、魔法や特技、闘氣の威力アップに繋がる
更に、氣力や霊力、サイキックなどの技の威力も増す
伝説級の装備であるスピリッツ装備、その性能は伊達ではない
「でも、まだ終わりじゃないからな。お前の装備品を完璧に使いこなす必要がある。死ぬまで鍛錬し続けろ、それが真のスピリッツ装備への姿勢ってもんだからな」
「…言われなくても分かってるっての」
ずっと一緒に戦って来た1991
1991小隊の象徴でもある
俺は、この剣を使いこなす
それは、俺の義務であり権利だ
・・・・・・
「それじゃあ、さっそく真実の眼の遺跡を探しましょうかね」
ミィが声をかけると、
「やっと出番だ!」「はい!」
研究員達が、背中に背負った荷物を降ろし始める
「ラーズは二回目なんでしょ? 遺跡のありかに心当たりないの?」
タルヤが尋ねる
「それが、前回はボロボロになっちゃって、すぐに帰還用の魔法陣で帰っちゃったんだ。この部屋を探すことさえもしなかったよ」
「とりあえず、探してみましょ」
ミィの言葉で、みんなが動き始めた
「この中央の柱はダンジョンコアに繋がっているのか?」
「この部屋の入口は一つ、ボスの部屋も一つ…、やっぱりこの部屋のどこかに隠し部屋が…」
「建造物自体が見当たらないな」
バビロンさん達も、周囲を丹念に調べて行く
「ないなー…」
ピンクが、壁に手を突きながら言う
「この部屋って、真ん中の柱と魔法陣の部屋へと続く出入口しかないわ」
タルヤが周囲を見渡す
「リィ、霊体になって部屋の周囲を探してみてくれ」
「ヒャン!」
俺の言葉で、リィが壁をすり抜けて行く
「スーラ、お願い」
ミィが肩に乗っていたスライムを地面に降ろす
「キュイ!」
「おわっ!?」
スーラが急激に大きくなり、波のようにゆっくりと洞窟の外壁を覆っていく
しばらくすると…
「ヒャン!」「キュイ!」
リィとスーラが同時に鳴いた
俺達が、二匹が鳴いた場所を調べてみると…
「ここは、大昔に崩れた場所なのかもしれない」
バビロンさんが呟き、詳しく調べ始めた
「崩れたって、どれくらい前なんですか?」
ピンクが聞く
「おそらくだが、数百年以上前だ。すでに周囲の壁と同化してしまっているが、レンガのような構造物の欠片のようなものが見える」
「この奥に空洞があるようですよ」
俺は、絆の腕輪で受け取ったリィの思念を説明する
「ラーズ、分かるの?」
タルヤが俺を見る
「リィが壁の向こうの空洞にいるんだ。ここを掘り進めば行けると思う」
「それなら、スーラがいればすぐよ」
「キュイィ!」
ミィが言うと、スーラが元気よく鳴く
そして…
ズモモモ…
一気に膨れ上がるスーラ
ゴバァッ!
そして、膨張した体で土砂を吹き飛ばした
「スーラが、身体を染み込ませて空洞まで体を浸透させたの。後は、一気に膨張させればこの通り」
「スーラって、やっぱり万能だな」
「キュイ」
スーラが、胸を張ったように見えた
「ヒャン!」
リィが、僕も褒めてとすり寄って来る
よしよし、かわいいやつめ
「ああ、リィもありがとう。おかげで、すぐに道が見つかったよ」
数百年以上前に崩落していた空洞への入口
おそらく、この先はあの施設の連中も気がついていなかった場所だ
どうやら、その空洞は通路となっているようで石畳が先へと続いていた
やはり、明らかに建造物だ
俺達は、はやる気持ちを抑えて通路に入る
「この先に真実の眼の遺跡があるのかな?」
ピンクが言う
「もしかしたらトラップがあるかもしれません。注意してください」
マキ組長が慎重に先頭を歩き始めた
…俺達が進んだ先
通路の突き当りには、小さな部屋があった
その奥には、祭壇のような作りの壁
その中央には、キラキラとした水晶のようなものが刺さっていた
バビロンさん達が、近づいて観察する
「これは何だ?」
「これは、霊子情報の暗号化記録媒体…精霊石ドングルじゃないか?」
「四千年前によく使われていた技術ですね」
「それって、何なのよ?」
ミィが聞く
「現代でも使われている暗号化情報です」
「何の情報なの?」
「おそらくですが、これは何かの鍵なのだと思います」
ドングルとは、コンピュータの外部接続端子に差し込んで特定の機能を提供する小型装置だ
四千年前に使われた、精霊石を使った暗号化霊子情報とは、認証キーの提供に使われることが多い
特定の端末にこのドングルを使用することにより、その端末の種類を特定、ドングル内の暗号化情報を解凍して特定の動作を行う
そして、端末側に解凍用のコードが存在しない場合は暗号化が解除されず、下手をすると自己消去をしてしまう
つまり、複製が出来ない暗号鍵なのだ
更に、精霊石に記録された霊子情報は、正常に動作した瞬間に情報が消失するため、使用済みの情報から複製することもできない
「…この暗号鍵はどこで使うんだろう」
「そんなこと、私にわかるわけないでしょ」
ミィが首を振る
「ミィさん。まだ、分からないだけですよ」
「え?」
だが、バビロンさんがミィに力強い言葉で言う
「真実の眼の遺跡については、まだまだ情報がたりません。さらに、神らしきものの教団が隠し持っている情報や、この遺跡を調べることが出来れば、自ずとこの暗号鍵の使用方法や使用場所も分かるでしょう」
「おぉ…、バビロンさんがかっこいい…」
バビロンさん達研究員が燃えている
この壮大な歴史の謎に対して、真っ向から挑む、その意思が宿っていた
「も、もう少しだけ!」
「また来れるから!」
ミィがしがみつく研究者達を引きずりながら、俺達は空間属性魔法陣へと進む
一旦、ダンジョンアタックは終了
今後、この空間属性魔法陣を双方向に構築し直して、エントランスから十階層まで直接来れるようにする
…精霊石ドングルの刺さっていた壁の上側には
『照らす者の鍵 2/3』
と彫られていた
どこで使う鍵なのか?
言葉や数の意味は何なのか?
俺は、歴史のロマンを堪能していた
『照らす者の鍵 2/3』 七章 ~19話 発掘の進捗2
ダンジョン編終了、明日は閑話です