九章 ~14話 ダンジョンアタック六回目5
用語説明w
サードハンド:手を離した武器を、一つだけ落とさずに自分の体の側に保持して瞬時に持ち替えることができる補助型のテレキネシス。大型武器の補助動力としても使用
真・大剣1991:ジェットの推進力、超震動装置の切れ味、パイルバンカー機構、ドラゴンキラー特性を持つ大剣、更に蒼い強化紋章で硬度を高められる。真のスピリッツ化を成し遂げ、ラーズと霊的に接続している
絆の腕輪:対象の一部を封印することでテレパス機能を作れるアクセサリー。リィと竜牙兵、フォウルとの思念通話が可能
地下十階層
ダンジョンボス、通称ラスボスの部屋だ
あの時と同じく、広いフロアの中心に二首のドラゴン、アマロが丸くなっていた
その奥には、このフロアの奥へと繋がる小さな出口が見える
あの出口の先に、エントランスへと戻るための空間属性魔法陣があったはずだ
「グルルル…」
ゆっくりと二つの首をもたげるアマロ
威嚇するように、尻尾を地面に叩きつけている
「ピンク様、ミィ様は研究員達の防御をお願いします」
マキ組長が臨戦態勢を取る
「でも、あなた達だけじゃあのドラゴンは…!」
ミィがマキ組長に言う
「遠距離から攻撃に参加してください。アマロの範囲攻撃から研究員を守れるのは、騎士のお二人だけです」
その時、アマロが大きく口を空ける
「グオォォォォッ!」
響く、ドラゴンの咆哮
…何だろう?
若干、肌がピリピリする感じがある
「ご主人! ドラゴンの咆哮には、魂を揺さぶる効果があるよ!」
データが教えてくれる
そうか、マサカドと同じように精神属性の特性を持っているのか
俺は、陸戦銃を構え、背中側に1991をサードハンドで保持する
襲い掛かって来るアマロ
ゴガァッ!
長い首がマキ組長を強襲
マキ組長がそれを華麗に躱す
ドッゴォォォォォン!
「グオォォーーーッ!!」
アマロが悶える
マキ組長の超貫通砲だ
だが、その傷口はアマロの巨体に比べると小さすぎる
右に角有の頭、左に角無しの頭
角有の頭が口に風を圧縮している
俺は携帯用小型杖で土属性土壁の魔法弾を放ち、土壁を生成
更に、ミィが耐輪力障壁魔法を展開する
ゴバァァァァァッ!
渦巻くすさまじい突風が吹き荒れる
俺達は土壁と障壁魔法によって、なんとか吹き飛ばなくて済む
俺とマキ組長は、それぞれ高速立体機動と風遁風の道を持っているためブレスを物理的に避けることが可能だ
Bランクの闘氣使いであるミィとピンクは、ダメージを受けてもブレスの一撃でやられるということはない
だが、タルヤと研究員は別だ
広範囲攻撃のブレスを避ける術はなく、喰らえば一撃でゲームオーバー
俺達は、守りながらの戦闘を強いられている
バチバチバチーーーー!
「グオォォォ…!!」
タルヤの雷属性範囲魔法(中)が発動
巨大なモンスター相手には、体全体にダメージが通る範囲魔法の方が銃弾よりも威力は高い
逆に、小さい敵に対しては、範囲魔法よりも銃弾の方が効率的だ
その差は、単純に銃弾で仕留められるかどうかだ
「データ2は弱体化、リィは範囲魔法で体と翼を削れ! フォウルは待機、竜牙兵は手足を攻撃しろ!」
俺は使役対象達を解禁、指示を出す
マキ組長が、鎌イタチを伴って角の無い頭の方へと向かった
角の無い頭は攻撃魔法を使う
俺は角の有る頭、ブレスを使う方が相手だ
陸戦銃を倉デバイスにしまい、左腕を銃化
1991を構える、対大型モンスタースタイルだ
アマロの角の無い頭が高速で突っ込んでくる
牙が俺に突き立てられる
俺は小さく飛び上がり、空中で1991の刃体を縦に構えて盾として使う
1991は、持ち手と刃体が分かれていて盾のような使い方もできる
と言うか、それがこの大型武器の目的でもある
ガキィッ!!
アマロの頭の突進で、俺の体は吹き飛ばされる
体重差を考えれば当然だ
俺は触手に溜めた精力をテレキネシスとして開放
飛行能力でアマロの頭に取りつく
そして、銃化した左腕の銃口をアマロの眉間に向ける
「おらぁぁぁぁっ!」
ドガガガガガガガガッ!
このチャンスに全力を
全弾フルバーストだ
「グギャァァァァッ!」
アマロの眼球が飛び出し、肉と骨を削り、巻き散らす
大暴れる角の有る頭から振り落とされる
その瞬間に、自己生成爆弾ウンディーネ
接着機能の有る爆弾を貼り付けて、同時にハンドグレネードをねじ込む
ドッガァァァァン!
頭に張り付いた二つの爆弾が爆発
同時に、1991を構える
アマロの広範囲攻撃は危険だ
広いとはいえ、ここは壁に囲まれたダンジョンで逃げ場は少ない
確実に仕留める必要がある
フル機構攻撃で首を叩き切ってやる
銃撃と爆発によって、地面に落ちるアマロの角の有る頭
俺は、精力を込めたサイキック・ボムを1991に形成する
準備が出来た
これで決める
俺が覚悟を決めた、その瞬間
ホワァァァ…
また、1991が仄かに光り出した
何かが繋がったかのような感覚
その感覚に意識を向けながら、俺は跳んだ
ロケットブースターをオン、ぶつかる寸前にパイルバンカー機構
横一文字に薙ぐ、フル機構斬り
ゴゥッ ズッパァァァァァァン!!
角のあるアマロの首が飛んだ
よし、後はマキ組長の相手をする角の無い頭だけだ
…不思議と、いつものフル機構攻撃よりも数段上の切れ味を感じた
この仄かな光のせいなのか?
「グオォォォン…」
角の無い頭が仰け反る
ミィの水属性投射魔法が直撃
スーラの体に発動したようで、高圧の液体がアマロの体を穿っている
更に、リィとタルヤが連続で範囲魔法を発動
アマロはもうひん死だ
「ラー兄、さっきもその大剣が光っていたけど、それって何?」
ピンクが尋ねる
ミィや研究員の防御に徹しているため、ピンクは手が空いているようだ
「…多分だけど、これはスピリッツ装備って奴だと思う。何でか分からないけど、自在に光らせられるようになったんだ」
「え!? スピリッツ装備って…、あの伝説の!?」
「ピンク!!」
ピンクが驚いてアマロから目を離した瞬間、ミィが叫ぶ
死にかけた角の無い頭が、研究員の方に突っ込んでいく
そして、火属性範囲魔法(中)を形成
やけくそになったのか、まるで火の玉のようだ
研究員が危ない
俺は反射的に、絆の腕輪を使ってフォウルに攻撃を指示
同時に、リィと竜牙兵に俺との思念による接続を最優先させる
そして、動いたのはピンクも同じだった
特技による身体強化と闘氣による能力上昇で、一気にアマロの前に割り込む
ピンクの周囲の空間が歪み、二本の大きな腕が出現
その腕は、青空のようなきれいな青色で塗装されている
一本の大きな腕でアマロの突進をガード
ピンクの力で受け止める
ドゴォッ!!
「グゴォッッ!」
そして、もう一本の大きな腕でアマロの頭を殴りつける
それは、さながら怪獣大決戦のようだった
あれは、オーバーラップされたMEBの腕
ピンクに貸している俺のMEB、リロのディスクを受け継いだ青いMEBだ
ピンクの奴、しっかり使いこなしているようだな
俺は大切なMEBを見て、少しだけ嬉しくなる
だが、そんなことより先にアマロを倒さなければ
俺はトリガーを発動、呪印に働きかけて一気に発動する
「ヒャン!」「…!」
リィと竜牙兵の思念が届く
感情が乱れる、闘争本能が暴走する
危機感を持て
フィーナに剣を向けたことを思い出せ
恐怖心でブレーキをかける
「五秒間、呪印を発動する! 警告し続けてくれ! フォウル、合わせろ!」
バチバチバチーーーーーー!
俺の合図でフォウルがサンダーブレスを吐く
アマロがダメージで硬直
俺は、仄かに光る1991に呪印の力を乗せる
真・フル機構攻撃とも呼べる俺のリーサルウェポンだ
ゴゥッ ズッガァァァァァァァァン!
二発目のフル機構攻撃である、フル機構突きがアマロの首の根元を穿つ
千切れかける首
アマロがゆっくりとよろけ、苦しんでいる
だが、アマロはまだ生きていた
俺は、暴走のリスクを考えて呪印を強制的に切る
その反動で動けない
まずい…!
ズガァァッ!
だが、いとも簡単にアマロの首が飛ぶ
俺が振り返ると、ピンクが炎を纏った片手剣で斬撃を放っていた
・・・・・・
「クキュゥ?」
「か、か、かわいいいいいい…」
俺は、マキ組長の使役対象である三匹の鎌イタチ
その内のパーを撫でる
回復能力を持つ鎌イタチが霊薬を塗ってくれている
打撃のグー、斬撃のチョキと違ってあまり戦闘で活躍の場がないが、回復能力は生存率に直結する
「ラーズのフル機構攻撃、かなり威力が上がっているように見えましたが、何をしたんですか?」
マキ組長が言う
「あ、それは私も思った。ラー兄の攻撃で、アマロの動きが鈍っていたから」
ピンクも頷く
「ああ、それは1991のドラゴンキラー特性だと思う。イグドラシルのヨズヘイムで、ドラゴンキラーの特性が完成したからね」
「ラーズ、こんなダンジョンをよく変異体だけで制覇できたわね…。しかも、たった三人で」
タルヤが呟く
「もう一度やれって言われても難しいね。アマロだけでも倒すのが難しいのに、途中にギガースやコカトリス、エイクシュニルとか、今思うと本当に運が良かっただけだと思う」
地図も手探り、倉デバイスもなく、武器も近接武器だけ
運が悪いと簡単に全滅する
…それでも、ギリギリで制覇できたのだから、変異体はやはり凄いってことなのだろう
やっとダンジョンを制覇
みんなで一休みしていると…
「ちょっと落ち着いて! まだ、この先が安全って決まったわけじゃないのよ!?」
ミィの声が聞こえる
「こ、この先に世界が求める真実が…!」
「は、早く調査を!」
「が、我慢できません!」
バビロンさん達研究員が、ミィを引きずりながら次のフロアに進んでいく
俺達は顔を見合わせて、笑いながら立ち上がるのだった
ピンクのMEB 五章 ~24話 宇宙産兵器
スピリッツ装備 九章 ~2話 職人の熱意
ドラゴンキラー特性 五章 ~11話 異世界7
ダンジョン編、次でラストです!