九章 ~13話 ダンジョンアタック六回目4
用語説明w
真・大剣1991:ジェットの推進力、超震動装置の切れ味、パイルバンカー機構、ドラゴンキラー特性を持つ大剣、更に蒼い強化紋章で硬度を高められる。真のスピリッツ化を成し遂げ、ラーズと霊的に接続している
自己生成爆弾:宇宙技術を使った四種類の爆弾の超小規模生産工場。材料とエネルギーを確保できれば、使用後に自動で新しい爆弾を生成してくれる
ウンディーネ…粘着性のあるゲル状爆弾
サラマンダー…液体型焼夷弾
ジン…蜂のような羽根で跳ぶ小型ミサイル
ノーム…転がることである程度の追尾性を持つ球形手榴弾
地下七階層を進行中
最初の部屋で運悪くモンスターと遭遇した
「あのモンスターは?」
「バイコーンだよ! 魔属性との属性親和性を持っているよ!」
データがモンスターデータベースで照合
あの施設の頃は、マッピング機能しかないPITを持たされていた
自分のPITを持ち込めるとモンスターの情報を得ることができ、これは大きな力となる
バイコーン
清浄の象徴であるユニコーンと対を成す、不浄の象徴とされる馬型モンスター
その頭には、ユニコーンのまっすぐな一本角と真逆の、曲がりくねった二本の角がある
ドドドドド…
広いフロアを、三匹のバイコーンが走って来る
俺とマキ組長がすぐ前に
後衛の研究員とタルヤには近づかせない
「ジン!」
俺は自己生成爆弾の小型誘導ミサイル、ジンを二発発射
エイクシュニルもそうだが、こういうモンスターは動き回られると厄介だ
陸戦銃を構えながら、エアジェットで接近
接近してからアサルトライフルを撃つ
バイコーンが二本の角を突き刺してくる
その角が黒っぽい靄に覆われている
魔属性の特技だろう
受ければ、下手すると呪いを受けて生命力を蝕まれる
大きく避けながら、流星錘をバイコーンの首に巻き付ける
グンッッ!!
「うおゎっ!?」
バイコーンの突進力で、一気に体が持って行かれる
飛行能力と、流星錘アームのモーターによる紐の巻き取りで、バイコーンになんとか取りつく
ドガガガッ!
「ヒヒーーーン!」
陸戦銃のアサルトライフルを撃ち込む
背中に被弾したバイコーンが暴れる
サードハンドで陸戦銃を浮かせ、ラウンドシールドの内側からダマスカスナイフを取り出す
眼球に突き刺し、角を握ってバランスを崩させる
ドッシャァァァッ!
馬のトップスピードからの転倒
バイコーンの首が変な方向に曲がっていた
バチバチバチ――!
マキ組長は、とっくにバイコーンを討伐
もう一体も、ミィが水属性魔法で動きを止めてタルヤが範囲魔法で倒していた
地下八階層
「ここからは、本当にモンスターが強くなる。注意してくれ」
「ラー兄、どんなモンスターが出るの?」
ピンクが尋ねる
「ギガースだ。ダンジョンは制覇できたけど、結局一度も討伐は出来なかった」
「巨人は厄介ね…」
ミィが言う
変異体はギガント、ドラゴン、エスパーの三つのタイプがある
しかし、身体能力に特化したギガント以外は、ギガースの攻撃をまともに受ければ即死する
それほどの攻撃力をギガースは持っていた
「その時はどうやって進んだのですか?」
マキ組長が振り返る
「八階層からは、ほとんど敵を無視して逃げました。強すぎて、戦える相手じゃありませんでしたから」
特にギガースは、一緒にパーティを組んでいたドラゴンタイプのリリアが一撃で殺された
攻撃力も攻撃範囲も別格で、警戒が必要な超要注意モンスターだ
「…しかし、研究員がいる以上、逃げるのも容易ではありませんね」
「その代わり、あの時土違ってBランクの騎士が二人もいます。安全を確保しながら戦うしかないでしょう」
「…大きいモンスターがこの先にいるわ」
テレキネシスによる索敵をしてくれていたタルヤが言う
「……うん、この臭いは覚えている。間違いない、ギガースだ」
「マップを見ると、この先はすぐに階段よ。多少物資を投入しても、確実にギガースを倒しましょう。下手に逃げるよりも安全だわ」
ミィが言う
俺達は頷きながら部屋に入る
本当は、研究員の三人は廊下で待っていてもらいたい
だが、稀に廊下を移動してくるモンスターもいるし、研究員を守る騎士にも攻撃に参加してもらいたい
そのために、リスクはあるが全員がフロア内で戦うという陣形を取ったのだ
ギガースは、部屋の中央であぐらをかいていた
そして、俺達を見てゆっくりと立ち上がる
「グゴォォォォッ!」
怒りを込めた雄叫び
勝手に入って来た侵入者への怒号だ
「まさか…」
「どうしましたか?」
俺の呟きに、マキ組長が振り向く
「いえ、あのギガースの左目に古傷があるんですが…」
ギガースの左目の周辺に、弾けたような皮膚の変色がある
「それが?」
「もしかしたら、以前俺と交戦した個体かもしれません」
ギガースが大きな一歩を踏み出す
あっという間に、俺とマキ組長がギガースの間合いに入る
身長五メートルの巨人の歩幅と拳の射程は俺達の常識をはるかに超える
ドゴォォッ!
凄まじい衝撃
変異体だろうが、人類の範疇に収まっている限り一撃で肉塊に変わる威力
だが、あの頃とは違う
俺は多くの力を得た、それを見せてやる
侵入者である俺が言うのも筋違いだが、お前に殺されたリリアの仇を討つ
俺は、装具メメント・モリを具現化
拳を躱し、その腕を登り始める
立体高速機動、飛行能力とエアジェットの跳躍で奔る
そして、装具の指先のグリッパーと鉤爪で一気に登る!
「ゴォォォッ!」
腕を登って来た俺に、ギガースが焦ったような顔をする
「マキ組長、足の破壊を! 大地を波打つ特技があるから注意を!」
叫びながら、忍術高速アイテム術
陸戦銃を眼球に突き刺して散弾を発射
同時に、自己生成爆弾のサラマンダーをもう片方の眼球に投げつける
そして、精力を込めた流星錘を投げつけながら、飛び降りる
バチュッ!
「グオォォォォッ!!」
錘によるサイキック・ボムが顔面で弾け、同時に残った目を激しい炎が焼く
ドゴォッ!
ズガァッ!
「ゴォォッ!?」
そして、マキ組長が左足の膝を超貫通砲で撃ち抜き、膝の裏側の腱を高熱に熱したヒートブレードの鎌で斬り裂き続ける
一瞬で両目を失い、膝への連続攻撃で倒れるギガース
強敵への長期戦は悪手、リスクを追っても短期決戦を仕掛けるのが鉄則だ
「ピンク! ミィ!」
「あぁぁぁっ!」
「スーラ!」
オーシャンスライムのスーラが、巨大なクジラとなりギガースの腹に頭突き
体液を口から吐き出すギガース
その隙に、ピンクの炎を纏った斬撃がギガースの首を切断して見せた
「あ…、終わっちゃった…」
タルヤが、呆然として言う
「この勢いで倒しきれなかったら、死ぬほど危険な戦いをタルヤとしなきゃいけなかったよ」
「…怖かった」
騎士の火力は凄い
俺やマキ組長、タルヤだけだったら、このギガースは仕留め切れないだろうな
地下九階層
「まさか、一つも部屋を通らずに進めるルートがあるとは…」
俺がこのダンジョンを制覇した時は、モンスターから逃げ回り、部屋に入り即逃げを選んで命からがら階段にたどり着いた
しかし、あの施設のデータベースにはこのダンジョンのマップ情報があり、九階層だけは部屋を通らずに抜けられる道があることが分かったのだ
「さっきのギガースとの戦いで思ったけど…、勝つ事は問題ないとしても、研究員三人を守りながらとなると難易度が跳ね上がるわ」
ミィが言う
「うん。攻撃されたら、私達は防御専門じゃないし防御用の技能も少ないから危ないと思う」
ピンクも頷いた
「でも、あの巨人を簡単に倒しちゃうなんて、やっぱりBランクは違うわね」
タルヤが感心したように言う
「ああ、俺達じゃ無理だもんな」
あの施設にいた頃から、Bランクの教官の強さは身に染みて分かっている
Bランクは強い
その差は、やはり歴然だ
「でも、さすがにギガースは簡単な相手じゃなかったよ? ラー兄やマキさんが大きな隙を作ってくれたから、防御も気にせずに攻撃出来たんだから」
ピンクが言う
「闘氣も無しに巨人に挑むなんて、正気の沙汰じゃない…、あぁっ!?」
ミィが驚いた瞬間、俺とマキ組長が飛び出す
通路の先に、コカトリスが姿を見せたのだ
俺は、ラスボス用に持っていた1991を構える
先手はマキ組長
「合わせて下さい!」
「はい!」
二丁鎌を振り、遠心力で振り下ろす
ゴッ!
「クケェェェッ!?」
脳天にザックリと鎌が刺さる
その一瞬の後、気が逸れたコカトリスの首を、ジェット突き…
ホワァァァァ…
俺の視界の端で、仄かに光る1991
そして、不思議な感覚
な、何だ?
いや、まずは目の前の敵を倒す!
ドッ…!!
高速立体機動の速度とロケットブースターのジェット、二つの速度を刃体に乗せる
コカトリスの首が、きれいに宙を飛んだ
ギガース 三章 ~24話 ダンジョンアタック四回目4




