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一章~26話 裏切り

用語説明w

この施設:ラーズが収容された謎の変異体研究施設、通称「上」。変異体のお肉も出荷しているらしい


ギガントタイプ:身体能力に特化した変異体。平均身長2,5メートルほど、怪力や再生能力、皮膚の硬化、無尽蔵のスタミナ、高い免疫、消化能力を獲得

エスパータイプ:脳力に特化した変異体。サイキック能力とテレパスを含めた感覚器が発達し、脳を巨大化させるため額から上の頭骨が常人より伸びる


折れた右腕の治療を受ける

だが、すでに骨の癒着が始まっていたようだ


変異体は生体兵器で強化兵士だ



強化兵士


骨格の強化、筋力の発達、持久力の増強

疲労に強く、長時間眠らずに活動できる

大量出血や骨折などの怪我に耐え、超代謝での応急措置が可能

消化能力の向上、食料が無くても長時間活動ができる

暑さ、寒さ、湿気等の環境変化、毒や病気への抵抗力


…など、代謝機能、生理的機能を強化し、どんな環境下においても一般兵を凌駕する兵士だ


方法は様々だが、数ある人体強化術の中でも、この変異体は最高峰の一つだ

ちなみに、変異体と双璧を成している人体強化術があり、これを「仙人」という


変異体が肉体を物理的に変異させることに対して、仙人は霊体の神格化を目指した強化

人でありながら、神や天使、悪魔などの高次元生命体と同じ力を得ようとする強化術だ



開放骨折を、戦闘中に動かせるまでの治癒力

これは、もはや再生能力と言ってもいいくらいの治癒力だ


俺は兵士だったころ、ナノマシン集積統合システムという強化手術を受けていた

体内にナノマシン群を共生させて治癒力を上げるという手術で、それなりに貴重なものだ


…現在、このシステムは強制進化の妨げになるという理由で停止させられてる

それにも関わらず、ナノマシン群並みの治癒力を発揮できてしまうようになったのだ


変異体のスペックの高さに改めて驚かされた



人体強化の完成度とはバランスだ


人体の強化を、生理機能や思考能力、寿命等に影響を与えないようにまとめ上げる技術

この点で、変異体は他の強化術よりも完成度が格段に高い


変異体は性能が高い反面成功率が低く、各国が必死に獲得を狙っている

当然、需要があればそれだけ利益も出る


そのため、完成変異体を作り出すために非人道的な実験を行っている、非公式な人体実験施設がペアの各地にあると言われている

…そして、ここもその施設の一つなのだろう



回復魔法で骨が繋がり、採血などの検査、点滴、最後に左肩に注射を射たれて治療が終わった


食堂に行くと、クレオがいた


「どうしたんだ、その顔は?」

クレオの顔が明らかに疲れている


「…サイキックの出力を上げるとか言って、へんな器械に繋がれてひたすらテレキネシスを発動させられたんだ。おかげで、頭痛が酷くて死にそうだ」


「さすが、エスパータイプだな。そういえば、俺は最近そういう変な実験はされてないな」


「強制進化が進んでいれば、だんだんと実験や検査は少なくなっていくんだよ」



人体実験や検査は、被検体の強制進化を促すための刺激が目的だ


特に、強制進化の進み具合が鈍化してきた場合は、人体実験の頻度が上がっていく

逆に、順調に進んでいるということは、実験や検査が減っていくということだ



「…なるほどなぁ。俺達が知ることのできる、強制進化の進み具合の目安は実験の頻度ってことか」


「そういうこと。ラーズは順調みたいでよかったじゃないか」


「どうなんだろうな。でも、確かに最近体調がいいんだよ。ずっと続いていた頭痛も、最近治まっているし」


「そういや、ラーズも最初は体調が悪そうだったもんな」



この施設で目覚めてからは、体調が酷かった

吐き気、頭痛、倦怠感…

それにも関わらず、人体実験を強制され続けた


俺の他にも、体調が悪そうな病人のような被験体を見かけるが、間違いなく強制進化の影響だろう


健康は素晴らしい

苦痛のない生活は、それだけでありがたいものだ



「クレオの選別はどうなんだ?」


「んー? 変わらないよ。ジャンキーみたいな奴をテレキネシスのナイフで引き裂いて終わりさ」

クレオがあっけらかんとして言う



…ゾクッ……



俺は、そんなクレオに対して寒気を感じる


人殺しを強制され、それが当たり前になる生活

生き残るための戦い


この異常な生活を続けていると、頭のネジが一本外れてしまうのかもしれない

つまり、殺すことが当たり前になり、この生活に疑問を持たなくなる


シンヤの攻撃もそう、クレオの態度もそう


境遇を受け入れる、その異常さが自分自身の価値観を変えてしまうということだ


俺自身も、最初の頃よりも手を汚すことに疑問を持たなくなっている

耐えることと受け入れることは違う


慣れてきた俺自身にも恐怖を感じた




「…あっ……!」

突然、クレオの表情が曇る


「どうした?」


「……な、なぁ、ラーズ。少しだけ付き合ってくれないか?」


「今から?」


クレオが頷く


「分かったけど、何をするんだ?」


俺は、クレオに尋ねながら残った食事を口にかっこんだ




…クレオの様子が明らかにおかしい


結局、何をするのかも分からない

そして、ずっと俯いている


この廊下の先は運動場だ



「…ああ、そういうことか」


ビクッと体を震わせるクレオ


「…ごめん、ラーズ。お前を連れて来ないと、また俺をリンチするって脅されて…」


廊下の先の運動場の入り口は、少し広くなっているスペースがある

俺が、前にシンヤにボコボコされた場所だ


そこに、包帯を巻いたエスパータイプの男と、初めて見るギガントタイプの男がいた


「よぉ、待ってたぜ」

エスパー野郎がにやけながら口を開いた



俺は、封じていた記憶を取り戻した

…つまり、今の俺は戦場にいたころの俺だ


今までの俺は、大切な記憶を封じて心の回復を図っていた

本当の俺じゃなかった…と、思う


まぁ、記憶を封じたのは俺自身なので、結局は俺なのだが

ややこしいな


トラウマの元になっていた恐怖、そして大切な記憶を失っていた事実を理解した

…やっとトラウマと向き合えたのだ


俺はこれ以上、こいつらの自己満足に付き合うつもりはない


俺を舐めてるこいつらに、そろそろ分からせてやる

俺とお前らでは、今まで積んできた鍛練が違うんだ



「この前はよくも…ゴボォッ!」


のんきに話を続けるエスパー野郎に右ストレートを突き刺す

先手必勝だ、バーカ



「なっ…」


応援で呼ばれたギガントタイプに距離を詰める


一番大切な打算

それは、勝つことじゃない


俺に手を出した場合のリスクを提示する

そして、俺自身がお前達を受け入れないと伝えることだ


踏み込んで、ギガントタイプの手が届く半歩前に出る


「このっ…!」


ギガントが拳を振り上げる


このパンチは、ギガントが打ったんじゃない

俺が打たせた


当然、やることはカウンターだ

パンチをしっかり避けながら胴タックル

バランスを崩させた直後、そのまま俺自身が後ろに倒れるようにギガントを前に引き倒す


股に入れた右足をギガントの太ももにかけて俺の体を反転、ギガントの足首を取る



ビキッ…!


「ぎゃあぁぁぁぁ!」



ヒールホールド

足首を捻って膝を極める関節技だ


ギガントの巨体だろうが、関節ならそこまで強度変わらない

ギガントの左の膝がぶっ壊れ、ブチブチと靭帯が切れる音がする



体が動く、こいつらなんかに恐怖を感じない

冷静に、余裕を持って対応できる


…内心、ちょっとホッとした


さてと、仕上げだ



「…おい」


俺は、悶えていたエスパー野郎の髪を掴んで引き上げる

そして、思いっきり膝を叩き込む


続いて、ボディへの拳


もう一発


もう一発



「…っ!! ま…が……」


悶えるエスパー野郎

吐き出された空気が入ってこない苦しさだ


ここでしっかり覚えてもらう


軍にもクソ野郎はいた

そいつらから学んだことは、舐められるなってことだ


俺が獲物だと分かれば、とことん来る

俺を狙えばリスクがあることを分からせる



「ひっ…も…やめ……」

エスパー野郎が、目と鼻と口からいろいろな液体を垂れ流す


「…次に俺に絡んだら、お前を殺す」


「…っ!?」

エスパー野郎が、俺の言葉に固まる


「いいか、シンヤだろうが他の誰だろうが、俺に喧嘩を売ったやつがいたら、その度にお前を壊す」


「なっ…!?」


「分かったか?」


俺は、エスパー野郎の髪を掴んだまま、目を覗き込む



「わ、分かった……ゴフッ!」


エスパー野郎の答えを聞いて、もう一度ボディに拳を突き刺す



「分かったか?」



「…かっは……分かったって……ぐはっ…!」


もう一度、ボディ



「分・か・っ・た・か?」


「わ、わ、()()()()()()!」



ようやくしっかりと分かってもらえたようで、俺は頷いて髪を離した





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