九章 ~9話 じゃんけん
用語説明w
装具メメント・モリ:手甲型の装具で、手刀型のナイフ、指先に鉤爪、硬質のナックルと前腕の装甲が特徴。自在に物質化が可能
マキ組長:フウマの里マキ組の上忍、ノーマンの女性。二丁鎌を使う忍びで、武の呼吸を身につけている
ピンク:カイザードラゴンの血を引く龍神皇国の貴族で、騎士見習い。カイザードラゴンのブレスを纏った特技スキルの威力は凄まじい
いよいよ、明日が真実の眼の遺跡調査
…ダンジョンアタックの日だ
ミィが、マキ組の拠点にやって来た
その後ろにもう一人女性を連れている
赤髪の竜人で、俺とも知り合いだった
「ピ、ピンク!?」
「じゃーん! 今回のパーティメンバーである龍神皇国の騎士、期待の新人で当然Bランクよ」
「ピンク・カエサリル、火属性が得意です。よろしくお願いします。ラー兄、よろしくね」
ピンクが行儀よく挨拶をする
俺が宇宙に行く前、ピンクはまだ騎士見習いだった
だが、俺がいなかった二年間で正式な騎士になったんだな
超火力と剛力の剣士
ピンクは防御力も高く、前衛タイプだ
非戦闘員である研究員三名を守るためには、ピンクのようなタイプが適任だ
「ピンク、わざわざクレハナに来ちゃってよかったのか? こっちとしてはありがたいけど」
ピンクは貴族のご令嬢だ
騎士とは言え、他国に来てしまっていいのだろうか?
「お母さんが、MEBを借りてるんだからラーズ君の力になってあげなさいって」
「ああ、そうなんだ。ありがとう、ピンクは頼りになるから助かるよ」
「えへへ…、頑張るね」
ピンクがちょっと照れる
うむ、妹可愛いとはこのことか
「そして、私も当然行く。Bランクの騎士二名で前衛をやるから、大船に乗ったつもりでいなさい」
ミィが胸をドンと叩く
「ミィ様、こちらの人員は三名です。私、ラーズ、そしてタルヤで斥候と後衛を務めさせて頂きます」
マキ組長が言う
騎士が二名、忍び二名、変異体のエスパーである魔法使いが一名
そして、バビロンさん達、非戦闘員の研究員が三名のパーティだ
「あーあ…、あたしも行きたかったな」
スサノヲが残念そうに言う
四千年前の遺跡の構造物を見たかったらしい
だが、あのダンジョンの深層はなかなかに危険だ
非戦闘員の数は最低限にする必要がある
「調査が進んで、安全なルートが確保出来たらスサノヲも見に行けるわよ。ラーズを拉致っていた施設が空間属性の魔法陣を構築していたから、もしかしたら、まだ使えるかもしれないし」
ミィが言う
確かに、あのダンジョンを制覇した時は魔法陣でエントランスまで帰って来たな
「何だっけ、発掘された壁画に掘られていたとかいう言葉」
俺はミィに言う
「照らす者の鍵、のこと?」
「そうそう、それ。何かわかるのかな?」
「無事に最下層まで行けたら、ヒントがあるかもしれないわね」
ウルラ領の領境にあった真実の遺跡
そこにあった壁画に掘られていた古代語の言葉
『照らす者の鍵 2/3』
壁画には、次の遺跡の位置と共に、この言葉が掘られていた
そもそも、古代語の翻訳が合ってるのか?
「バビロンさん達もずっとそわそわしているのよ。ここまで、真実の眼の遺跡を追えたことは世界でも例が無いんだって」
「へー、本当に未発見の何かが出てくるかもしれないのか」
「ええ、そうよ。ドースさんには話を通してあるから、明日はそのままダンジョンに向えるわ」
ミィが言う
「分かりました。明日はよろしくお願いします」
マキ組長が頷く
「こちらこそ、お願いします。…スワイプさんが生きていれば、事情も知っているし、ダンジョンまでの随行をお願いできたんですけどね」
「…あの全面戦争で多くの者が亡くなりました。仕方ありません」
「ええ…、そうですね」
真実の眼の発掘作業の際、ウルラ軍の軍曹であったスワイプさんが警備に当たってくれていた
人の良いおじさんで、話しやすかった
…コウ、ヤエといい、本当にいろいろな人を全面戦争で失ってしまった
・・・・・・
ミィとピンク、スサノヲは、明日の準備のために帰って行った
明日、現地にてバビロンさん達研究員と共に待ち合わせることになっている
ミィ達が帰ると、俺とマキ組長はそれぞれ準備を始める
タルヤも今頃はドミオール院で準備をしているはずだ
「ラーズ、装具は完成したのか? 最近、ずっと赤ずきんの嬢ちゃんにしごかれていたみたいだったが」
ジョゼが尋ねる
「なんとかね。見てくれる? 俺の装具の新機能、名付けてじゃんけんだ」
「じゃんけん?」
ルイとゲイルも俺の装具を見る
「…じゃんけん?」
そして、マキ組長までが興味を持ったのか、注目してきた
俺は、さっそく機能を紹介する
本気で千回を超える物質化を繰り返し、俺の装具は以前とは比べ物にならないくらいに洗練された
可動部の滑らかな動き、ギミックの精密な挙動、そして軽量化
この努力は装具の完成度を押し上げた
悔しいが、スサノヲはやはり職人として優秀だ
設計してもらった装具は、俺が感覚で作り上げたものとは全然違う
「まずは、グー」
俺は、装具メメント・モリの拳を握る
装甲で固められたナックル
変異体のパワーが乗れば、一撃で頭蓋骨を叩き壊せる
「そして、パー」
俺は、手を開いて壁に引っ付く
ヤモリタイプのグリッパーが付いた指先、そして手のひらには吸盤型のグリッパーを備える
これだけでもかなりのグリップ力を発揮するが、指先の鉤爪を併用することで更に取り付く力を上げることもできる
「最後がチョキだ」
俺は手首を曲げて、ニードルを跳び出させる
これは仕込み武器となっており、不意打ちの刺突武器だ
だが、飛び出すだけの武器ではない
ニードルの中央にリングが二つ付いていて、人差し指と中指を入れられるようになっている
飛び出しの刺突を使った後は、そのままニードル型の武器として使うことが出来るのだ
じゃんけんのグー・チョキ・パーに、それぞれの機能を当てはめた
グーのナックル
チョキのニードル
パーが摩擦を自在にするグリップ
これに、指先の鉤爪、手刀による斬撃を加えた五つの機能が、俺の装具メメント・モリだ
「うん、いいじゃないか」
ゲイルが言う
「使い勝手もいいし、身体にもなじんでるな」
ルイが褒める
うむ、悪い気がしない
死ぬほど物質化を繰り返して研鑽したんだ、もっと褒めてくれ
「…納得いきません」
「え?」
しかし、マキ組長が冷たく言う
「ラーズ、表に出なさい。真のじゃんけんを見せてあげましょう」
「し、真のじゃんけん?」
俺達は、マキ組長について校庭に向った
校庭では、風が渦巻いていた
「では、ラーズ。最初にグーからです」
ボッ ドゴォッ
「ぐはっ!?」
突然、身体に何かがぶつかって来た
「次はチョキです」
ズパァッ!!
「うおぉぉっ!?」
引き裂かれるような衝撃が体を襲う
「最後、パー!」
そして、最後に柔らかな風が俺を包んだ
「…その鎧、ずるいですね」
「風属性への耐性持ちです」
俺はヴァヴェルを着こんでいた
黒竜の逆鱗があるため、高い土属性の属性値を持っている
マキ組長のじゃんけんの正体は鎌イタチ
連れて来てからそんなに経っていないのに、もうこんなに言うことを聞くようになったのか
「ラーズの使役対象達を見て、私は常に考えていました」
「え、何をですか?」
「ラーズだけが使役対象を四体も持っている。師匠の私が持っていなくていいのだろうかと」
「…別に、良くないですか?」
「ダメです。欲しかったんです」
「あ、それならいいと思います」
なんだよ、俺を理由にしないで最初からそう言えばいいのに
「そんなわけで、やっと訓練が終わったので、私の使役対象としてデビューさせます。名前は、グー、チョキ、パーです」
「ああ、それでじゃんけんなんですね」
鎌イタチは、三兄弟だ
一匹目が風による打撃で転倒
二匹目が鋭い鎌で斬りつけ
三匹目が霊薬を塗ることで出血を抑える
という連続攻撃を得意とする
マキ組長が使う場合は、霊薬の有無なども決められるし、仲間の回復に使うこともできる
そう考えると、結構万能な使役対象だ
鎌イタチたちは、校庭をビュンビュン跳び回っている
そして、リィやフォウルに纏わりついている
俺とマキ組長は、じゃんけんという新たな力を手に入れた
ダンジョンアタックへの準備はばっちりだ
「じゃんけんは渡しません」
…それなのに、マキ組長がじゃんけんという名称をどっちが取るかでライバル視してくる
そんなに独占したいの?
真実の眼の遺跡 九章 ~3話 発掘に向けて
鎌イタチ 八章 ~19話 鎌イタチ
ダンジョンアタック開始です!




