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九章 ~4話 呪印対策の開始

用語説明w

データ:戦闘補助をこなすラーズの個人用AIで倉デバイスやドローンを制御。メイドソフトがインストールされ、主人の思考の把握が得意となった。戦闘用端末である外部稼働ユニットのデータ2と並行稼働している

フォウル:肩乗りサイズの雷竜。不可逆の竜呪を受けており、巨大化してサンダーブレスを一回だけ吐ける

リィ:霊属性である東洋型ドラゴンの式神。空中浮遊と霊体化、そして巻物の魔法を発動することが可能

竜牙兵:黒竜の牙に魔属性と竜の魔力を封入し、幽界から骸骨戦士を構成する爪と牙を武器とするアンデッド


ウィリン:ヘルマンの息子。龍神皇国の大学生だが、現在は休学してドミオール院に戻ってきている

マリアさん:ドミオール院を切り盛りしている院長。慈愛に満ちた初老のエルフ女性


「準備はいいか?」


「オッケーだよ!」

「ヒャン!」「ガウ」「…」


俺が声をかけると、頼もしい使役対象達が元気よく頷く


今から何をするのか?

それは、呪印に対する対策だ


呪印は強力な力を持っている

その力は、B+であるマサカドの闘氣(オーラ)でさえも貫くほどだ


だが、その反面、とんでもなく厄介なリスクを内包する

それが、体を駆け巡るドス黒い衝動だ



ぶつけたい


暴れたい


壊したい


そんな激しい衝動が、あっという間に俺の脆弱な理性を奪ってしまうのだ



トリガーの発動は、あくまでも自分の感覚として制御できるようになった

感情が振り切らないように気を付ければ、ある程度は自制ができる


だが、呪印の衝動はトリガーとは比較にならない


俺一人の力での制御は不可能だということが、紫苑(しおん)城での戦いで嫌というほど分かった



…俺は、フィーナが闘氣(オーラ)を解いたことを認識していた

それにも関わらず、フィーナを斬ってしまった


信じられなかった



怖い


フィーナを斬ってしまった事実

そして、呪印の暴走というリスクを分かっていたにも関わらず、全力で対策を取って来なかった自分が怖い



メメント・モリ


死を忘れるな



死が突然襲ってくることは稀だ

その近くには、必ず死の兆候が転がっている


その兆候を見逃すな、違和感を無視するな、必ず前もって対策をする


…それが、戦場の鉄則なのに



ハインリッヒの法則というものがある


一件の重大事故の裏には、二十九件の軽微な事故と、三百件の怪我に至らない事故がある

労働災害における怪我の程度を分類し、その比率を法則としたものだ


つまり、重大な事故に至らない事故が三百二十九件あったにも関わらず、反省と対策を怠ったために重大事故が起きてしまうとも読み取れる



俺は、何度も呪印で暴走を起こしていた

それなのに、たまたま生き残っていただけなのに、本気で対策を講じてこなかった

対策が全然足りていなかったのだ


フィーナを斬ってしまったことは、あの大崩壊並みに俺にショックを与えた

自分自身がその事実をはっきりと覚えている


暴走とは、自分自身が死ぬだけではない

大切な人や仲間を巻き込む可能性があるのだ


いったい、俺はいくつトラウマを抱えれば気が済むんだ?

何回、後悔すればいいんだ?


だが、後悔は悪いことばかりではない

後悔は、物事に対する姿勢を変えてくれる


俺は、呪印の暴走を二度と甘く見ない

危機感をこれでもかと持ち、全力で対策するための姿勢を手に入れた


そのための対策を行うのだ



「…呪印を発動するぞ!」


俺は、最初に軽くトリガーを発動する



心拍数の上昇と軽い興奮を自覚する

この状態で体内の衝動を探る


…体の中をうごめく、真っ黒い衝動の尻尾を掴み、少しづつ引っ張り上げていく



キィィーーーー………ン………


「う…」



呪印の発動を自覚

暴れ始める衝動によって、意識が消し飛びそうになるのを耐える



「………っ!!」


思念がぶつけられる



絆の腕輪で接続できる、リィ、フォウル、竜牙兵の三つの思念が交互にぶつけられているのだ



持って行かれるな!


大丈夫!?


静まれ!



思念がぶつかる度に、頬をつねられるが如く、思考が一瞬だけ引き戻される



「ご主人! 興奮値が上昇! 出力を下げて!」

データの警告


データは、ヴァヴェルの脳みそガード機能を利用したバイタルチェックを行っている

そして、客観的に俺の精神状態を数値化して注意を促すのだ



「うぐぐぐ…」


「レッドゾーン! 警告まで、…3…2…1…」

データがカウントダウン


これは、俺の脳波から導き出された興奮を数値化し、危険領域に入った状態が三秒以間継続した場合に最大限の警告を行うと決めたからだ



ピーピーピー!


ヴァヴェルの脳みそガード機能が警告音を発する

この音を聞いた段階で、俺は呪印の発動を止める



あくまでも、暴走しないための予防策


現状、暴走しない方法が見つからないため、絆の腕輪を使った思念による警告とヴァヴェルの脳みそガードによるバイタルチェックという、二つのアプローチで暴走を抑えようという試みだ



「はぁ…はぁ…はぁ……」


呪印は、衝動に必死に耐えるため、集中力をかなり消費してしまう

だが、継続的に訓練していくしか方法がない


二度と暴走しないために


そして、いつか呪印を使いこなすために




・・・・・・




ドミオール院



ルイと一緒に、またやって来た


「ヒャーン!」


リィを始めとして、俺の四体の使役対象達もフル稼働で子供達と遊んでいる



「ルイさん、子供達に手品を披露したら大喜びだったんですよ」

ウィリンが笑顔で言う


「ルイは器用だからな。無尽蔵のスタミナを持っていたコウとは、違う種類の遊び方だよな」


「全面戦争前から、マキ組の皆さんが来てくれるようになって、子供達に笑顔が増えました。遊んでくれる大人がいるということは、子供たちにとって大切な事ですわ」

マリアさんがお茶を入れてくれた


「タルヤは出かけてるんですか?」


「買い物です。すぐ帰ってきますよ」

ウィリンが、お茶を飲みながら答えた



「ただいまー」


「タイミングいいな!」



そして、ちょうどタルヤが帰ってくる

その後ろには、大柄な獣人男性がいた


「こんちわー。って、ラーズじゃないか」


「おー、ヤマト。来たのか」


「ああ、ナウカ領への遠征が決まったからよ。明日、フィーナと合流する予定だ」


「ああ、ミィに聞いたよ」


「会ったのか?」


「昨日、マキ組の廃校に来てくれたんだ。皇国に帰るって言ってたぞ」


「そうなんだ。なんでも、発掘がどうとかって…」


ヤマトが話しながらもどっかりと席に着く

ヤマトも、いつの間にかドミオール院の常連になったな



「ヤマトさん、どうぞ」


「お、マリアさん。いつもすいません」

ヤマトは、マリアさんからお茶を受け取る


「ヤマトがナウカ領に行っちまうから、発掘の人選に悩んでるんだよ」


「人選って何だ?」


「その発掘って、ダンジョンの中にあるらしいんだよ。深層には、Cランク以上のモンスターがゴロゴロ出て来たからな」


「ラーズが知ってるダンジョンなのか?」


「俺が拉致られてた場所で、強制的に潜らされていた場所なんだ。それと、タルヤもね」


「そ、そうだったのか…」

ヤマトが、俺と席に着いたタルヤの顔を交互に見て、ちょっと気まずそうにする



「気にしないで、ヤマトさん。私、ダンジョンには三回くらいしか潜っていないから、あまり覚えていないの。ラーズみたいに、深層階まで行ってないわ」


「そうなのか?」


「結局、深層階を抜けて制覇で来たのは俺達の組だけだったんだ。その直後に、あの施設は騎士団に制圧されたから」


「あー…」


「ラーズ。そう言えば、一緒にダンジョンを制覇したパーティって、誰と組んだの?」

タルヤが俺に尋ねる


そうか、タルヤは冷凍保存されちゃったから知らないんだな


「…タルヤとも一緒に潜った、ハンクとアーリヤだよ」


「あぁ、二人とも、凄く強かったものね? 今はどこにいるのかしら」


「………二人とも、俺とあの施設を脱出した時に、教官だったトラビスに撃ち落とされたんだ」


「え…!?」


俺は、結論だけをタルヤに伝える


そうなった原因は、俺にある

その部分を、俺は意図的に隠した


…保身のためだったのかもしれない

それでも、タルヤに余計なことを言う必要はないと思った



「ミィもいるなら、俺も行ければBランクが二人になったのか。それだったら、そのダンジョンくらい余裕だったのにな」


「そうなんだよ。今回は、装備や倉デバイスを持って行けるから、俺が制覇した時よりは格段に条件は揃ってはいるんだけど。非戦闘員の研究員を三人、守りながら行かなきゃいけないから」


「それは骨が折れるな…」


「ミィと俺とマキ組長は確定なんだけど、ルイはスナイパーだからダンジョン向きじゃないし、ゲイルは行けるのかな?」



「…ねぇ、ラーズ」


「ん?」



不意に、タルヤが口を挟む


「それって、私でもいいの?」


「は?」


タルヤの突然の発言を、俺は一瞬理解が出来なかった


ハンクとアーリヤの最期 四章 ~1話 大気圏へ

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