九章 ~3話 発掘に向けて
用語説明w
マキ組長:フウマの里マキ組の上忍、ノーマンの女性。二丁鎌を使う忍びで、武の呼吸を身につけている
ミィ:龍神皇国騎士団経済対策団のエース。戦闘能力はそこまで高くないが、経済的な観点で物事を考える。海の力を宿したオーシャンスライムのスーラが使役対象
俺はエマの診察を受ける
「どこかに違和感はない…?」
「力も入るし、特にないよ」
「それなら、退院して大丈夫…。でも、呪印の発動に関してはどんな反動があるか分からない…、しばらくは実戦に出ないで…」
「あー…、マキ組長に話してみるよ」
そんなわけで、俺は退院となった
俺はマキ組の廃校に戻る
午後にはミィ達が来ると言っていた
真実の眼の遺跡発掘の話だろうか?
「マキ組長、只今戻りました」
「お帰りなさい、ラーズ。ルイとゲイルは出撃しています」
「え、ナウカ領ですか?」
「いえ、ウルラ領内の現場ですので、今日中には戻るでしょう」
「ジョゼもいないんですか?」
「ジョゼは買い出しに行っています。ちょうどいい機会です。校庭に出なさい、ラーズ」
「はい?」
マキ組長に連れられ、俺は校庭に出る
「何をするんですか?」
「反省会です。…マサカドとの戦いの最中、何があって呪印が暴走したのですか?」
「…」
呪印の暴走
あの時、俺は絆の腕輪を使ってフォウルとリィ、そして竜牙兵に対してある指示をしていた
それは、俺の意識を繋ぎ留める事
もし、俺の意識が衝動に持って行かれた場合、我に戻すために強い思念を飛ばして警告するように言っておいたのだ
その甲斐あって、俺はフル機構攻撃に呪印の力を乗せられた
そして、1991が真のスピリッツ化したことにより、真・フル機構攻撃が完成したのだ
しかし…
「…俺は、マサカドの言葉で怒りに飲まれました」
「何を言われたのですか?」
「まず、お前は何に怒っているのだと以前から言われていました」
「…」
マキ組長が、頷いて続きを促す
「最初は意味が分からなかった。敵であるナウカ兵に、怒りを持つことは当然だと思っていましたから」
…だが、違った
あの大崩壊で失った仲間達
あの施設で死んでいった変異体達
理不尽な環境
目の前の、どうしようもない大きな力
仲間の命を奪った者
それに対して、俺は怒っていると思っていた
「…でも、マサカドに言われた。俺が怒っているのは自分の弱さ、俺自身の無力さだって」
「…」
「図星…、だったんでしょうね。それを理解することが怖かった。俺が戦場に来た理由は、ただの八つ当たり。自分が何もできなかったからこそ、何かをしなければいけないと思い込んでいただけ」
マサカドは言った
俺は、ナウカ兵という敵と戦うことで、罪悪感を誤魔化していただけだったと
…おそらくは、間違っていなかった
許せなかった
自分の弱さが許せなかった
自分の小ささが許せなかった
「…それを自覚した瞬間には、我を忘れていた気がします。マサカドの言っていたことが正しいと理解できてしまったんです」
俺は、次から次に零れ落ちてくる自分の言葉を止められなかった
そして、その間も少しずつ自分の感情が整理できていく
改めて、マサカドは正しかったと自覚できてしまう
そんな俺の言葉を、マキ組長は静かに聞いてくれた
「…ラーズ、問題解決のために動くことは正しいことです」
「え…」
「無意識に無力感に苛まれていた。だからこそ、何とかするためにあなたは戦場に立った。その行動は何ら間違っていません」
「でも…、俺の戦う理由に正しさなんて…」
「本当に問題なのは、目の前の問題に目を瞑って気がつかない振りをすることです。あなたは、過去を乗り越えるために試行錯誤をしている最中。結果がずれているからといって、間違っていたとはなりません」
「…俺は、自分を誤魔化しているだけじゃ……」
「あなたの誤魔化しとは、自己保身のための正常な心理作用です。そして、結果のずれはトライアンドエラーの一環。次は、正しい方向を見つけて軌道を修正すればいい」
「正しい方向…」
「そうです。あなたがナウカ兵と戦うことは、そもそも正当な行為です。ウルラの勝利は、守りたい人がいるあなたの利益に繋がりますから」
「…」
「正しい方向とは、あなた自身の本当の気持ちを理解すること。そして、理論武装をして動揺しないように準備することです」
「はい…」
「そんなあなたに、私が正しい使命をあげましょう」
「正しい使命?」
「はい。それは、二度と負けないこと。…あなたの復讐にもつながる、素晴らしい使命でしょう」
「いや、それが出来れば苦労は…」
「ラーズ。あなたは武の呼吸を身につけています。私とあなたは同類。私があなたの武の境地を開きます」
「武の境地…」
「すべてに勝つ事は難しい。それでも、負けないことは可能です。気持でも、戦いでも、負けずに生き残ること。そして、呪印にも負けないこと。これから、あなたが身につけるべき生き方です」
「は、はい」
呪印の制御
そして、負けない強さ
俺は、この二つの難題を解決しなければいけない
・・・・・・
夕方
「こんにちはー」
誰かが廃校にやって来た
「はーい?」
俺が出迎えると、そこには…
「ミィ、やっと来たのか」
「龍神皇国に帰る前に寄ったのよ。ちょっと、話しできる?」
「ああ、大丈夫だよ。…帰るのか?」
「すぐに戻って来るけどね」
俺はミィを応接室に連れて行き、マキ組の皆を呼びに行った
「それで、何の話が有るんだよ?」
皆が集まったので、俺はミィに聞く
「真実の眼の遺跡発掘の許可が出たわ」
「発掘の許可って…」
「そう。あのダンジョンよ」
ダンジョンとは、 宙の恵みが使っていた地下ダンジョン、通称「下」だ
「ドースさんが許可を出したのか?」
「ええ、そうなの。ナウカ領の占領が進んでいることと、龍神皇国騎士団から復興部隊が派遣されていることで、ウルラ領内の危険性は低くなった。だから、安全性の問題もクリアできたってことね」
「内戦の終結前に、よく許可を出しましたね。発掘なんてリスクにしかならないはずなのに」
マキ組長がお茶を飲みながら言う
「マキ組やラーズの貢献度、私やオリハによるブロッサムの再稼働、お願いできるだけの発言力はしっかり溜まっていたと自負してますよ」
ミィがちょっと得意気に言う
一国の領主に恩を着せるとは、さすが騎士団の経済担当だ
「それで、具体的にはいつ潜ることになりそうなんだ?」
「そのスケジュールを決めたいのよ。マキ組とラーズは絶対に参加してもらいたいから」
「大まかな候補期間を決めてもらえば、その間は要請を断るように根回しをしておけるぞ?」
ジョゼがタブレット型情報端末を見ながら言う
「それなら、二週間先の週にしましょう。私は、これから龍神皇国に戻って手続きや調査員、調査機器を確保してくる。戻るのは来週になるわ。その間にダンジョンアタックのメンバーを決めておきたいわね」
「今、誰が決まっているんだ?」
俺はミィに尋ねる
「Bランクの私、研究員がバビロンさん他三人、他に戦闘員をマキ組から三、四人って所かしら? 後は、龍神皇国からBランクを一人連れてくる。他に、スサノヲや回復担当のエマを連れて行くこともできるわ」
「エマは回復魔法が使えると言っても非戦闘員だし、スサノヲは兵器が使えるけど補給が出来ないダンジョンだと厳しいと思うぞ?」
ダンジョンで銃が使えない理由がそれだ
浅い階層でも大量のモンスターが発生して弾薬を消費する
そして、深層階のモンスターにはアサルトライフルだけでは刃が立たない
爆弾系が必要になるが、それでも数は足りなくなるだろう
「真実の眼の遺跡は、神らしきものの教団の関係もあるから、出来れば仲間内だけで行きたいのよね…」
「フィーナ姫や、騎士ヤマトには頼めないのですか?」
マキ組長が言う
「それが、二人ともナウカ領のスンブ地方の攻略に向うんだって。さすがに、発掘のために中止してくれとは言えないから…」
「そりゃそうか…」
「まぁ、人選はマキ組に一任しますので、決めといてもらっていいですか? また、連絡しますね」
「分かりました」
こうして、ミィは慌ただしく帰って行った
相変わらず忙しい奴だ
「真実の眼って言うのは…」
「遺跡とダンジョンに何の関係が…?」
俺の後ろでは、ルイが真実の眼の遺跡の今までの流れを新参者のゲイルに説明していた
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