八章 ~28話 紫苑城攻略1
用語説明w
マキ組長:フウマの里マキ組の上忍、ノーマンの女性。二丁鎌を使う忍びで、武の呼吸を身につけている
ルイ:マキ組の下忍、赤髪の獣人男性。スナイパー技能に長けている
ゲイル:マキ組に移籍してきたフウマの里所属の下忍。対人暗殺の専門家で、隠れ、騙し、忍ぶ、忍者らしいスタイル
ナウカ領 紫苑城
ウルラ軍が遠巻きに包囲し、徐々にその範囲を狭めている
しかし、ナウカ軍の攻撃が激しく、その侵攻は遅れに遅れていた
そこで、指揮にあたっていたウルラ領主であるドースがある決断をする
それは、少人数による紫苑城への潜入、そして内部破壊
まさに、魔王の城に乗り込む勇者パーティのごとくだ
普通に考えれば、なぜ魔王は大軍を使って勇者パーティを叩き潰さなのかという疑問が起こる
しかし、これがBランク以上の闘氣使いだと話しが違う
闘氣を使うBランクの戦闘員は、一般兵では歯が立たない
それが城内に進入してゲリラ戦を仕掛けてくるのだ
だだっ広い草原で大群で囲めば、Bランク戦闘員と言えども倒すことは可能
しかし、城内を逃げ回り、戦力を各個撃破され、魔王の間へと進まれては倒すのはおろか、発見さえも難しい
城側が倒す現実的な方法は、勇者を追い詰めてから同格のBランク以上の戦闘員を当てるしかない
そのためには、魔王の間へのルート上に必ずBランク戦闘員が滞在する部屋を作る必要がある
それが、ゲームで言う中ボスの部屋に該当する
大群が一斉に攻撃することができない城内
そこへ闘氣を持つ少数パーティによる潜入は、実に理にかなった城攻めなのだ
そんなわけで、紫苑城へは、陽動を担当する何組かの忍びのチームと二人の英雄が潜入している
城周辺の戦闘を囮として、内部へと侵入した
二人の英雄とは、漆黒の戦姫フィーナと虎王ヤマト
紫苑城にてマサカドの存在が確認されており、討伐対象として設定
撃破を可能とする戦力を投入したのだ
なお、いつもフィーナと共に行動している五遁のジライヤは別行動
未だに姿を捉えられないナウカ家の領主シーベルの居所を探している
俺達マキ組は、そんな状況下で潜入に成功した数少ないチームの一つ
潜入を試みたチームの内、七割以上は失敗して撃破されている
ナウカ軍は背水の陣であり、その闘志はウルラ軍を上回っている
「ルイ、あの窓を狙えるか?」
「…いけるな」
ルイが、別の棟の窓に姿を見せたナウカ軍の兵士に向けてロケットランチャーを発射
ボシューーーーーッ
ドッガァァァァァァン!
吹き飛ぶ壁と窓ガラス、黒煙が立ち上る
俺達は、身を隠しながら陽動を兼ねて城内の戦力を削っていく
走り回るナウカ兵
怒号が響いている
すでに俺たちが紫苑城に入り込んだことはバレている
ドガガガガガガ
ボボォーーーーー!
「…っ!?」
弾幕が張られ、範囲魔法が発動
狭い建物内では、銃弾よりも範囲魔法の方が厄介だ
壁を無視して発動する範囲魔法は、避ける手段が限られている
「この人殺し共が…!」
「俺達の土地を奪い、民を殺した! 逃がすな!」
ナウカ兵が叫びながら俺達を追って来る
ナウカ兵の言葉には、故郷を奪われ、蹂躙して来たウルラ兵に対しての憤怒が込められている
ゴキッ…
背後から首を極め折る
俺は、銃化した左腕を近くにいたナウカ兵に向ける
「…お前達もウルラ兵を散々殺して来ただろう。この先に何があるか教えろ」
「ふっ、ふざけるな! ウルラは俺達の村を焼いた! 男を殺し、女を犯し、子供を攫った! 俺達には叩く権利がある! お前達には無い!」
ドンッ!
「ギャッ!!」
肩を撃ち抜く
「この先には何がある?」
「クソどもが! ウルラは呪われろ! 死んじまえ! くそがぁぁぁぁ!」
ドシュッ…
ゲイルが土遁棘武蔵で瞬間的に棘を生成
半狂乱となったナウカ兵の喉を貫く
「…時間切れだ」
ゲイルが冷静に言う
…やっぱり、遁術は便利だな
もしくは、俺も同等の仕込み武器がほしい
その先では、三人の兵士がマキ組長に鎌で切り裂かれていた
「…」
俺は、ナウカ兵の死体を見つめる
復讐に復讐が重なる連鎖、これが戦争の実体だ
ドガガガガガッ
ルイがマークスマンライフルで弾幕を張る
その先には、身長二メートルを超える巨漢がガトリング砲を撃ち返してくる
背後から近づいてくるナウカ兵
まずい、このままじゃ挟み撃ちにされる
後方の集団には魔法使いもいるため、更に危険だ
俺は高速立体機動に入る
ホバーブーツと飛行能力を駆使、廊下の壁と天井を蹴る
装具メメント・モリは具現化済み
指先の鉤爪で顔面を引き裂く
「ぎゃあぁぁぁぁっ!!」
鮮血で顔を覆った巨漢
だが、これだけでは当然倒せない
目的は視界を奪って隙を作ることだ
着地と同時に、メメント・モリの手刀を腹に差し込む
肋骨の内側に差し入れるように、胸へと突き上げる
「ごふっ…」
内臓に触れ、斬り裂く感覚
腕を引き抜くと、巨漢は抵抗なく前のめりに倒れる
俺は変異体であり、常人よりも高い身体能力を持っている
更に、ナノマシンシステム2.0によって筋力を底上げしており、装具の爪や手刀を使えば人体を斬り裂くことが可能だ
ゴッ…、ガッ ザクッ!
後続のナウカ兵に突っ込み、流星錘を振るい、装具の拳や肘で叩きのめす
近接攻撃は、強化された俺の身体能力を活かせる
ダダダダッ!
「ぎゃっ!」「ぐっ…!」
更に、銃化した左腕で撃ち抜いていく
リィの巻物による範囲魔法
竜牙兵の牙と爪による近接攻撃
データ2の小型杖とモ魔による魔法攻撃
敵を殲滅
よし、クリアだ
「…前方、増援だ」
しかし、俺は変異体の五感で新たな敵の接近を感知する
ゲイルがロケットランチャー
ルイがマークスマンライフル
マキ組長と俺は、風遁風の道と立体高速機動で突進
俺達の床や壁を蹴る不規則な軌道は敵を混乱させる
その隙に一気に接近
手刀と拳による近接攻撃
敵兵士が向けてくる銃口を跳んで躱し、壁を蹴って三角跳び
「…なっ!?」
しかし、敵兵士が一枚上手だった
俺の三角蹴りを読み、俺の着地地点に銃口を先回りして向ける
こいつ、やるな!
俺は、咄嗟に装具メメント・モリの新機能を使う
その機能とは、ずっと研究して来た引っ付く機能
指先に超極細毛を敷き詰めることでファンデルワールス力を働かせてくっつく力を作り出す指先
更に、手のひらに吸盤のような動きをする人工皮膚を構築、両方の力で壁などに貼り付くことが出来る、ヤモリのような機能だ
俺は蜘蛛男よろしく、壁に引っ付くことで敵兵士の予想を裏切る
一瞬の時間引っ付くことでタイミングをずらし、そこから改めての三角蹴り
敵兵士の顔面に真空膝落としを叩き込んだ
「こっちだ!」
「囲むぞ!」
「もっと人数を連れてこい!」
ナウカ兵の声と近づいてくる足音
徐々に場所を特定されて包囲されてきている
陽動としては成功だ
だが、俺達の危険はどんどん上がっていく
ドォーーーーーン!
ゴッガァァァッァン!
城の外から聞こえる戦闘音は、徐々に大きくなっている
ウルラ軍が着々と侵攻してきているのだ
「ラーズ。敵が集まってきていて、ちょうどいいです」
マキ組長が口を開く
「はい?」
「私達で敵を引きつけます。ラーズはこのまま外壁を登って城の上層階へと進んでください」
「で、でも、それでは…」
マキ組長たちが囮となって包囲されてしまう
「私達は斥候のプロである忍びです。今は時間がない、効率重視で行きましょう。ラーズは実を隠しながら壁をよじ登れる。…城内の調査をお願いします」
「…っ!?」
その言葉に、俺はハッとする
なれ合いはいらない
城内の構造と敵の位置を報告、そして陽動が俺達忍びの任務
俺達の任務が成功すれば、ウルラ軍の被害は大きく減る
この瞬間も、死傷者が出ているのだ
そして、敵が喰いついているこのチャンスにマキ組長たちが囮になってくれれば、俺は悠々と上層階に侵入できるはずだ
「…分かりました。死なないでくださいね」
「危険性はラーズの方が上です。後ほど会いましょう」
そう言うと、マキ組長、ルイ、ゲイルが小さく頷いて走っていく
俺は、その姿を見ながら、コウとヤエと最後に言葉を交わした全面戦争の時のことを思い出していた
・・・・・・
俺は、紫苑城の外壁を登っていく
装具メメント・モリのグリップ力は大したものだ
接着力だけでなく指先の鉤爪もあるため、ヤモリと猫のいいとこ取りといった感じだ
出来るだけ影のなるようなルートを選び、ヴァヴェルの認識阻害効果を発動
俺はスイスイと壁を登っていく
マキ組長たちの陽動が効いているのか、今の所バレていない
ゴォォ――――!
突如、凄まじい火柱が上層階から巻き起こった
あれはおそらく、フィーナの火属性範囲魔法(大)だ
(大)ってことは、ナウカ軍のBランクとでも戦闘中なのかもしれない
異次元の戦いに俺が出来ることはない
俺は自分の仕事をする
俺は、排気口のダクトに体を滑り込ませる
そして、匍匐前進、狭いダクトを進んでいく
しばらく進むと…
ゾクッ……!!
凄まじいプレッシャーを感じる
この先にいるであろう何か
その何かから発せられる恐怖
…マサカドだ
こんなに簡単に見つけられるとはな
相変わらず、心臓を鷲掴みにされたような気持ち悪さを感じる
俺は、同じく潜入しているフィーナとヤマトにマサカドの位置情報を送る
当たり前だが、一般兵の俺で何もできない
俺の仕事は発見までだ
ナウカの最高戦力であるマサカドの相手は、同じB+ランクであるフィーナとヤマトにやってもらえばいい
…後は見守るだけだ




