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八章 ~27話 紫苑城攻略に向けて

用語説明w

エマ:元1991小隊の医療担当隊員。医師免許を持ち回復魔法も使える

フィーナ:B+ランクの実力を持ち、漆黒の戦姫と呼ばれるウルラ最高戦力。仙人として覚醒、宇宙戦艦宵闇の城をオーバーラップ、更に複合遁術を習得した大魔導士。ラーズとの別れを選んだ


ナウカ領に対する大規模侵攻が始まった


ウルラ軍の再編が終わり、更に龍神皇国からの支援を得て規模を増した

大軍が領境を越えて北上していく


そして、協力関係となったコクル軍がナウカ領へと侵攻

広範囲にわたってナウカ領の市町村を占領していく


占領した地域に対しては龍神皇国の治安維持部隊が駐屯し、住民と捕虜の安全を保障、同時に戦闘の放棄を強要した



次々と投入される物量に対してナウカ軍は広範囲の防衛を断念、撤退して戦力を主城である紫苑(しおん)城に集中させている


現在は、ウルラ軍が紫苑(しおん)城を広範囲に包囲

コクル軍と治安維持部隊は、ナウカ軍が撤退したエリアの占領を進めている




マキ組の拠点 廃校



俺達は、出発の準備をしている

マキ組もナウカ領へと入り、紫苑(しおん)城への侵攻に加わることとなった


前回のナウカ軍の基地での陽動が高く評価され、抜擢されたようだ



「…」


「…」



…校庭で、俺はマキ組長と向かい合って立つ

それを、ルイ、ジョゼ、ゲイルが見守っている




そして、そんなおれたちの周りをぐるぐると飛んでいる存在

三匹の鎌イタチとリィだ


「キュウゥゥ!」「ヒャンヒャーン!」



同じ霊体ベースの妖怪と式神はすぐに仲良くなった

フォウルも含めて、空でよく遊んでいる

データ2は飛べないため、ドローンを使って一緒に遊んだつもりになっている


メカと妖怪と式神と小竜…、相変わらずカオスだが今更か


鎌イタチたちはマキ組長をボスと認めたのか、ある程度言うことを聞くようになっている


妖怪であるため、攻撃能力をある程度持っている

訓練を続けて、いずれは使役対象として実戦デビューを考えているようだ


マキ組長の風遁風の道と鎌イタチたちの疾風のごとき攻撃は、とても相性がいいように思える



「…それでは、ラーズ。始めて下さい」


「…はい」



俺は、静かに大きく呼吸をする


肺一杯に空気を吸い込み、そこから更に吸い込む

限界まで肺を拡張してから、ゆっくりと口から息を吐き出す


集中力の向上、精神の安定に効果を持つメンタルコントロール

呼吸法は、自らの精神に直接的にアプローチできる数少ない方法の一つだ



これから何をするのか?

それは、俺がセフィ姉から譲渡された竜族の呪印へのアクセスだ


セフィ姉が行った、龍族の紋章による共鳴

あの現象によって、俺は始めて呪印の存在を自覚した


今まで感じていた、体の中を暴れるドス黒い衝動

あれが呪印、もしくはその一部だたったのだ


俺は静かに体の中の感覚に集中していく


意識が身体の奥底に沈み込む


痕跡を探す



「…」


俺は、静かにトリガーを発動



心拍数の増加による軽い興奮作用


これを自覚することで、少しだけあの衝動が誘発される



…見つけた


曖昧な、希薄な感覚ながら、俺の感覚の奥底にしみ出してくる黒い衝動の片鱗


俺は、その片鱗に対して静かに意識を向ける



湧き上がり、濃くなっていく



この感覚は、興奮、そして衝動


突き動かす力、弾けようとする理性


全てに身を任せたくなる欲求



「ラ、ラーズ…」

ふと、耳に入る声


ジョゼが、俺を見て驚いている



「そ、それが呪印か…!」


ルイが俺の額を凝視する



「ラーズ、呪印を制御出来たじゃないのか?」


ゲイルも俺の額を見ていた



そうか、この状態が呪印が発動しているという感覚なのか


セフィ姉の共鳴のおかげだ

俺は、呪印の発動ができるようになったんだ…



ズズン…


ブワァッ……!



「……っ!?」



突如、吹き上がる衝動


一瞬でブラックアウトする視界


いや、正確には認知する意識が消し飛んだ


俺の視界が、ドス黒い衝動が動かす何かに奪われたのだ




・・・・・・




ウルラ領 灰鳥(あすか)



ナウカ領への大規模侵攻が始まったことでマキ組にも出撃要請があり、説明を受けるために来たのだ



「…うぅ……」


「じっとしてて…」

俺は、エマの回復魔法と治療を受けている


灰鳥(あすか)城にはエマが常駐していて、負傷者の治療に当たってくれている

本当はセフィ姉と帰るはずだったのだが、俺の呪印の様子を見るために残ってくれたらしい



結局、呪印を発動したはいいものの、俺は暴走状態となってしまった

マキ組長に襲い掛かり、激戦の末、叩きのめされてしまった


気がついたら、身体がピクリとも動かない

こんな力、もういらない…


だが、発動できるようになったのだけは進歩だ

呪印が発動できれば、俺の攻撃は呪印の力が乗って闘氣(オーラ)にもダメージを与えられる…らしい


使いこなせれば、俺はBランクの闘氣(オーラ)による防御力というアドバンテージを無視できる

それは、俺達Cランクの一般兵にとっては必殺技と言ってもおかしくない力だ



「ラーズ、酷い怪我…。でも、トリガーの発動よりは疲労が蓄積していない…」


「そうなの? マキ組長が強すぎて、一瞬で制圧されたからかな」


マキ組長たちが作戦会議を受けてくれているので、俺はエマとのんびり過ごすことにした

マキ組は重要な作戦を任されるようで、会議が長引いている



コンコン


ガチャッ…



診察室となっているエマの部屋がノックされ、誰かが入って来た


「エマ、ラーズ…」


「え、フィーナ!?」


入って来たのはフィーナだった


今回の作戦では、フィーナもヤマトやジライヤと共にナウカ領の主城である紫苑(しおん)城に出撃する



「ラーズ。また怪我したって聞いたけど、大丈夫なの?」


「ああ、ちょっと暴走して制圧されただけだから。エマに治療してもらったし問題ないよ」


「治療前提なのは相変わらずだね」

フィーナはため息をつく


シグノイアの軍時代から、俺は怪我だらけだった

それは今も変わっていない


…全く成長していないということでもある

リスク管理は、どんな職業でも必要な事なのに



「今は作戦会議中じゃないのか?」


「今も紫苑(しおん)城周辺で戦闘が継続中だし、大まかな方針はとっくに決まってるわ。後は、潜入作戦に従事する人達の選定だけだよ」


「そっか、俺はまだ作戦内容聞いてないから」


「…」

フィーナが俺をじっと見る


「…それじゃ、エマに用事か? 怪我でもしたのかよ」


「…違うよ。ラーズに話があるの」


お互いに、目が合う


「また、クレハナから出て行けって話か?」


「…」

フィーナが無言で肯定する



…不毛だ


だが、フィーナの気持ちは理解している

何度も俺の気持ちを説明するしかない



「俺は、セフィ姉に認められるための力がいる。そのためには戦場が必要だ」


「…」


「どうせ命のリスクがあるなら、俺はクレハナで戦いたい。一般兵の力は、微力でもウルラの役に立っている。そう、信じてるから」


「今回の紫苑(しおん)城にはマサカドがいる。…マキ組に課せられた任務はかなり危険なの」


「それは、マキ組に頼まなければいけない任務ってことだろ? 俺達の力が必要ってことだ」


「…」

フィーナが黙り込む


マキ組を始めとする忍び達には、潜入という特殊技能がある

それは、闘氣(オーラ)の有無には関係のない難度であり、Bランクだから出来るという任務ではない


「フィーナ達のようなBランクの騎士は光だ。必要な戦場で大きな功績を上げて、民衆の希望となればいい。そして、俺達一般兵や忍びは影、お前達を支える縁の下の力持ち。それが適材適所、組織としての在り方だろ」


「でも…」


「フィーナといい、ジライヤといい、Bランク以上は一般兵を軽んじすぎる。歩のない将棋は負け将棋って言うだろ。数の少ないBランクよりも、歩兵達が処理している戦場の方が圧倒的に多い。…組織の管理者として、もう少し一般兵の重要性を認識してくれ」


「…私がどんな気持ちで言ってるか……、ラーズには分からないよね」


「心配してくれているのは分かるよ。でも、俺にもやりたいことが有る。…俺は、お前達騎士とは違う強さが欲しい。それが、大崩壊やあの施設から生き残った責任だと思ってるから」


「責任って何?」


「………俺には闘氣(オーラ)も魔法も特技(スキル)もない。それなら、現場での状況判断能力で勝負するしかない。その力でやるべきことがある」


「…」


フィーナとの平行線の会話

もう、何度目だろう


分かり合えないのが悲しい

そして、イライラする



「…これだけ言っても分かってもらえない。それは、全面戦争を必死に戦い抜いた俺達に対して、フィーナ姫様の評価がその程度だってことだ。ジライヤと何をやっているのか知らないが、もう放っておいてくれ」


「え…、何のこと?」


「…俺には言えない、何かやるべきことがあるんだろ? 仲良くやればいいじゃないか。俺になんか関わっている暇なんかないだろ」


「な、何よ、それ?!」


「フィーナ、俺は自分で戦場を選ぶ。俺は所詮、ただの使い捨ての一般兵だ。姫であるお前にはもう関係ない」


「…っ!?」



相変わらず、気まずい言い合いになってしまった俺とフィーナ

そして、その間でオロオロしているエマ


フィーナの悲しそうな目を見て、俺は胸がチクリと痛む

…完全に言いすぎた



はぁ…


どうしてこうなってしまうんだろうか



紫苑(しおん)城 七章 ~34話 動き出す時代

ナウカ軍の基地 八章 ~21話 潜入作戦1

フィーナとジライヤ 八章 ~25話 共鳴



八章ラストの戦いが始まります


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