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八章 ~25話 共鳴

用語説明w

マキ組長:フウマの里マキ組の上忍、ノーマンの女性。二丁鎌を使う忍びで、武の呼吸を身につけている

セフィリア:龍神皇国騎士団の団長心得。B+の戦闘力を持つ。ラーズの遠い親戚で、五歳年上の憧れの竜人女性。使役対象は、生きたアイテムであるヴィマナ

エマ:元1991小隊の医療担当隊員。医師免許を持ち回復魔法も使える


ウルラ領 灰鳥(あすか)



領主であるドースに用意された一室に、セフィリアとマキが座っていた 


「…三回も呪印を発動させたの?」


「はい。ですが、全て意識を失い暴れ回っています。特に、初回は暴走した末にエネルギーを使い果たして昏倒していたようです」


「やはり、呪印の力を制御するのは簡単ではないようね」


「全面戦争後は、制御の鍵となるトリガーの制御に力を置いています」


「それは私も賛成だわ。…でも、それだけじゃ足りない」


セフィリアは、ゆっくりとお茶を飲む

クレハナ産の最高級茶葉を使った緑茶だ


「他に、何か手があるのですか?」

マキもお茶を飲み、熱すぎてフーフーしながら言う



「私がクレハナに来た理由の一つは、ラーズの呪印よ。せめて、意図的に発動できるようになった方がいいと思って」


「意図的とは?」


「その言葉の通りよ。これから、ラーズの呪印を私が発動させる。上手く行けば、自分で発動できるようになるんじゃないかしら」


「…?」

マキは首を傾げる


呪印は今の所、全くと言っていい程制御ができない


発動するタイミングは、トリガーと同じようなストレスだけ

特に、死の危険であったり、極度の怒りであったりと、大きな感情の揺れが必要だ


意図的なアプローチが出来るとはとても思えない



「私はラーズと呪印と対となる紋章を持っている。やるだけやってみましょう」


「分かりました」


ラーズが戻って来るまで、セフィリアとマキは緑茶と茶菓子を楽しんだのだった




・・・・・・




俺は、灰鳥(あすか)城の医療設備を使って検査を受けていた

セフィ姉がエマに頼んだらしい


呪印が暴走し、マサカドに吹き飛ばされたダメージはまだ体に残っているようで、絶対安静を言い渡されてしまった

しばらくは、装具の訓練でもしているしかないな



「お帰りなさい、ラーズ。エマ、ありがとう」


「はい…」

エマが頷く


「セフィ姉、もう帰っちゃうんでしょ? 会えてよかったよ」


「ラーズやフィーナ、ヤマトには会っておかなくちゃ。次、いつ会えるか分からないから」


「セフィ姉も、相変わらず忙しそうだね」



龍神皇国では、大仲介プロジェクトの続きとして、宇宙拠点ストラデ=イバリに繋がる空間属性魔法陣を使ったワープゲートの建造が始まっている

それに伴い、ストラデ=イバリからの移民の居住区の選定、条約の締結と法整備、権利と義務の折衝など、やることは山積みだ


同様に、イグドラシルのヨズヘイムからも移民の受け入れを行っており、同時並行でいろいろ行っているとのこと


これらに加えて、クレハナの内戦まで引き受けているセフィ姉…

もはや、超人にしか見えないんだけど



「それじゃあ、時間もないから。さっそくラーズの呪印についてよ」


「え? う、うん…」


「マキからは、ラーズの状況について報告してもらってる。トリガーという特性を制御することが呪印の制御に繋がるというのは、私も同意見よ」


「うん」


「それに加えて、私が一つだけラーズにしてあげたいことがあるの。これは、龍族の強化紋章を持つ私にしかできないこと」


「え?」


「私の紋章とラーズの呪印は対を成す。そして、お互いに干渉し得る影響力を持つの」


「干渉…」


「そして、その影響によって他方に何らかの作用が働くことを共鳴と呼ぶ」


「共鳴…」


「今から、私の紋章によってラーズの呪印を共鳴させる。上手く行けば、何かを掴めるかもしれないわ」


「えっ!? いや、俺の呪印は発動すると暴走しちゃうんだ。それは…」


「私やマキがいるのに、暴走したところで…、ね?」


「まぁ、その点は大丈夫でしょう」

セフィ姉の言葉にマキ組長が頷く


うん、なんかへこむんだけど!


確かに一瞬で制圧されそうだ

超人過ぎるんだよ、この人たちが!



「それじゃあ、ラーズ。こっちに来て」


「はい…」


俺は、言われるがままにセフィ姉の前に立つ


「中腰になって、力を抜いて…。そして、目を閉じて…」

俺は、言われた通りにしていく



むぎゅっ…


「…っ!?」



突然、頬を柔らかい手で抱えられ、額に額を押し付けられる


えぇぇぇぇっ!?

何! 何やってるの!?



キィィーーーーーーン………


「うぅっ……!!」



突然、頭の中に甲高い音が響く



その音に対して、また何かの音が帰って来る


繰り返される音の応酬




……ィーーーーーーン………




うるさい



うるさすぎる




……ーーーーーーン………




身体の奥底から湧き上がる、ドス黒い衝動



激情が意識を引っ張る



この衝動に、身を任せてしまいたい




「……ァァァアアアアアーーーーーーー!!」




耐えられない


だから、吠える



動きたい


弾けたい



…この、衝動のままに!




バチィィッ!!


「がっはっ……!?」




目もくらむような衝撃で、俺の意識は一瞬で覚醒した


「あ…、俺…」



身体の中の衝動に、完全に意識を持って行かれていた


いや、俺は自らその衝動に身を任せた


身を任せたかった


それは、快楽にも似た興奮だった



「…ラーズ、分かる?」


目の前には、セフィ姉の美しい顔

その額には、龍族の強化紋章が輝いている


「あ…う…」


「一度落ち着いて、呪印の発動を止めないさい」


「う…」



俺は突然、完全に理解した



最近感じていた、ドス黒い衝動



…あれが呪印だ



そして、あの衝動は凄まじく俺を興奮させる


あの衝動に乗った瞬間、俺は暴走する


あの衝動を呼び出し、制御できれば、それが呪印の制御ということなのだ




「うぅ…」

一瞬で、凄まじい疲労感に襲われて動けなくなる


心配そうに見ていたエマが回復魔法をかけてくれ、俺はソファーに倒れ込む



「共鳴…、不思議な現象ですね」

マキ組長が言う


「ええ、呪印に干渉する唯一の方法なの。ラーズ、呪印について何か掴めたかしら?」


「あ…、うん……多分…」


あの衝動の正体

そして、呪印へのアプローチ


こんな一瞬で、これだけの理解を出来ることがあるなんて



セフィ姉が、静かに言う


「ラーズ、あなたはトリガーという特性と付き合って来た。そのおかげで、怒りや興奮という精神作用に対して耐性を持つようになっているのよ」


「それは…」


「これらの精神的ストレスとは、危険に対する脳の反応。その本能的な反応を、経験という情報によって理性で抑え込んでいる。理性を司る大脳皮質が、本能を司る大脳辺縁系をここまで制御する、これは誰にでもできる事じゃないわ」


「…」


「ラーズが、長い間トリガーという特性と付き合って来たから。そして、流されないように努力してきたからこそ。そんなラーズなら、この呪印は使いこなせるはずよ」


「セフィ姉…」


「竜族の呪印は、ドラゴンの闘争本能を司る。戦いとは世の摂理、生存競争は種の権利であり義務。全ての戦いを否定することは、生きることを否定するということ。あなたの衝動は、生きる上で必要な精神作用よ。…理性と意志の力で、制御しなさい」


「う、うん…」




共鳴によって強制発動した俺の呪印は、一気に俺の体力と気力を奪い去った


凄まじい倦怠感によって、身体を起こすのもきつい


目の前がグルグルと回っている

身体が熱い、明らかに発熱している


マキ組長とセフィ姉は、話が有ると言って出て行ってしまった

俺は、エマの回復魔法を受けてソファーに横になる


「大丈夫…?」

エマが言う


「あぁ…、この呪印、発動するといつも動けなくなるんだ」


「その力、私は凄く怖く感じる…」


「…俺も、実はちょっと怖いんだ」


トリガー以上に制御できない力って、どうすりゃいいんだろうか?



ガチャッ…


エマが、俺の額に貼った冷却シートを交換してくれた時、部屋のドアが開いた



入って来たのは、五遁のジライヤだった


「ジライヤ…? セフィ姉なら出て行ったぞ」


「…いや、お前に話が有って来たのだ」


「は?」


急に何だ?


「お前の戦いぶりを、ナウカ軍の基地で感じた。また暴走したのだろう」

ジライヤが、見下したような目を向ける


あの戦場にはジライヤもいた

呪印の気配でも感じ取ったのか?


「…だから何だ?」


かと言って、ジライヤには関係ない

言われる筋合いが無い


「お前がいると、フィーナ姫に悪影響を与える。クレハナから去れ」


「あ? 何でそんなことをお前に言われなきゃいけないんだ?」


「やはり、お前は獣だ。殺しを楽しみ、興奮を楽しむ戦闘狂だ。…お前のような目をした奴は、すぐに破滅へと向かう」


「…それは、お前の同期のことか?」


マキ組長が話してくれた、ジライヤの同期

心を病んで、殺人鬼となって処刑されたとか


「ちっ…、マキの奴が話したのか。だが、勘違いするな。お前みたいな狂犬でも、死んだとなったらフィーナ姫に悪影響が出る。…我々には雑兵のお前と違ってやることが有るのだ、邪魔をするな」


「…やることだと?」


やっぱり、フィーナとジライヤは…

そういうことなのか?



「ふん、お前には関係ない。死ぬのは勝手だが、クレハナではやめろ。死にたいなら、フィーナ姫の目の届かない他の国へ行って勝手に野垂れ死ね」


「余計なお世話だ。戦場は自分で決める。戦う理由があるから、俺はここで戦ってるんだ!」


いちいち、こいつの物言いは腹立つ!


そんな俺とジライヤの様子をエマがオロオロと見ている



「…忠告はしたぞ」


そう言って、ジライヤは部屋を出て行った



殺人鬼 八章 ~16話 マキ組長とジライヤ



次、閑話です

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― 新着の感想 ―
最初に空港で不意打ちをかましておいて今更、忠告はしたぞで受け入れられる訳ないじゃないですか、やだー。 あれで自分は良く思ってない相手にも利益を考えて忠告できると思っているんだろうな。
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