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八章 ~23話 潜入作戦の結末

用語説明w

マキ組長:フウマの里マキ組の上忍、ノーマンの女性。二丁鎌を使う忍びで、武の呼吸を身につけている

ゲイル:マキ組に移籍してきたフウマの里所属の下忍。対人暗殺の専門家で、隠れ、騙し、忍ぶ、忍者らしいスタイル

ヤマト:龍神皇国騎士団の騎士、特別な獣化である神獣化、氣力を体に満たすトランスを使う近接攻撃のスペシャリスト


意識が、ドス黒い激情のうねりを誘導する


「…っ!!」



このうねりは、俺の奥底から噴き出ていた


まるで、殺意という概念を流れに変えたかのように


俺の体を駆け巡り、無作為に噴出する、何の目的も持たないうねりだ



「……っ!!」


これでは足りない


何もできない



爆発し、発散されるだけの大きな衝動


このエネルギーに目的を与える



「………っ!!!」


歯を喰い縛ってトリガーの出力を上げると、大きな衝動に繋がる



目標の無い、憤怒、殺意、破壊衝動


緩慢な全ての激情を、一つに集中、明確な目的へと束ねていく


その勢いに、トリガーが引っぱられる



その凄まじい引力


指向性を持った感情


気付きと意識が、俺の感情と衝動、そして意志を圧縮する




…!



……!




………!!!




かろうじて留めていた理性が消し飛ぶ


激情のうねりが、明確な目的に向って指向性を持つ



目の前にいる大敵、マサカド



「……があぁぁぁぁっ!!」


生み出された感情のエネルギーのあまりの大きさに、俺はたまらずに吠える



理性が消し飛ぶ直前


俺の記憶に残った目的



それは、たった一つ



………こいつを叩き潰せだ!




「……ぁぁぁっ!!」



1991を叩きつける


マサカドに向けられた破壊衝動



「……!」



斬り裂きたい


穿ちたい


叩き壊したい



「………っ!」



壊したい


爆ぜたい


消し飛ばしたい



「…………ぁ!」



忘れられる痛み


消え去る苦しみ


そのために叩き付ける





ゴキゴキゴキ………


ゴッシャァァァァァァン!!





………






……












「…ーズっ!?」


「…う……ぁ…」


「ラーズっ!! 大丈夫か!?」


「…ゲイ…ル……ごふっ……」



気がつくと、俺は床に転がっていた


意識が朦朧とし、身体がピクリとも動かせない


天井がぐるぐると回っている



「ラーズ、意識を失うな! 死ぬなよ!」


「…ぁ……な……?」


「しゃべらなくていい、回復薬を飲め!」


「………」


「お…、…ーズ……!?」



ゲイルの声を遠くに聞きながら、俺の意識は闇へと落ちて行った




・・・・・・




…次に目が覚めると、俺は医療カプセルの中にいた



生きてる?


何があった?


マサカドはどうなったんだ?



ここはどこかの病院

俺は夢うつつの中で治療を終え、その後に一般病棟に移された


怪我は治ったようだが、身体がだるくて全然動けない

しばらくすると、マキ組長とゲイルがやって来た


「あ…、来てくれたんですね」


「意識が戻ったと聞いたので。元気そうですね」


「いや、だるすぎて体が動かせません。…ゲイル、俺って何でこんな状況になってるんだ?」


「覚えてないのかよ?」

ゲイルが呆れた顔をする


いや、しょうがないじゃん

マサカド相手に決死の攻撃をしかけたんだぞ?


「俺、マサカドに攻撃を仕掛けて…」


マサカド相手に、どうなったのかも覚えていない

生き残ったのは運が良かっただけだろうな…


「ラーズは、突然様子がおかしくなった。そして、獣みたいにマサカドに特攻した」


「…え?」


「そして、何回か切り結んだ後、マサカドの大剣の一撃を避け切れずに吹き飛んだ。そのだるさは、霊体のダメージが抜けてないからだと思うぞ」


「マジか…。何でそこで殺されなかったんだ?」


「いや、マサカドは止めを刺そうとした。だが、ギリギリのタイミングで騎士のヤマトが駆けつけてくれたんだ」


「ヤマトが?」


「私達の陽動が効いて、あの基地にウルラ軍が侵入することに成功したんです。すぐに陽動しているマキ組を捜索、Bランクの戦闘員が突入してくれたのでラーズの命は救われました」

マキ組長が説明してくれる


「そ、そうですか…」


助かったのは、本当に運が良かったんだな



「…なぁ、ラーズ。お前のあの力は何なんだ?」


「え?」


「吠えた後、ラーズの額に何かの図形が浮かび上がったんだ。それに、お前の大剣まで仄かに光り出してさ。…お前が獣みたいになったのと何か関係があるのか?」


「それは、ラーズが持つ竜族の呪印です。…また、発動したのですね。マサカド相手では無理もありませんが」

マキ組長が言う


「…呪印の発動の自覚は相変わらずありませんでした。ギリギリの状況で、トリガーの出力が上がり過ぎて意識が飛んだのですが、もしかしたら…」


「理性を失ったのは、呪印の可能性ということですか」


「かもしれません」



ゴンゴン


力強く、病室のドアがノックされる



「おーい、ラーズいるかー?」


入って来たのは大柄の獣人、ヤマトだった



「ああ、ヤマト。お前も生き残ったか」


「だから、俺が死ぬわけねーだろ。問題はお前の方だよ」


「騎士ヤマト様のおかげで生き残ったって、たった今聞いたよ」


「おう、感謝しろよな」


俺はヤマトと拳をぶつける

うん、力が入らないため、力強いヤマトの拳が痛い



「だが、お前もいい加減にしろよ? 何でナウカ軍の最高戦力相手に喧嘩売るんだよ」

ヤマトが大げさに首を振る


「いや、気がついたら完全に補足されてたんだって。マサカドは精神属性の感知能力あるから気を付けろよ。テレパスみたいな使い方をしてきやがった」


「俺やフィーナでも苦戦する相手に、闘氣(オーラ)も無しに斬りかかって吹き飛ばされる。もうここまで来るとよ…」


「何だよ?」


「自殺願望があるとしか思えねーよな」


「せめて、英雄願望って言ってくれない? それに、逃げることも厳しいと判断したんだ」


「だから、普通は逃げられないと思っても正面から戦わないって言ってるんだよ」


「…」



しばらく話した後、ヤマトとマキ組長、ゲイルは帰り支度をする

俺は、明日には退院できるらしい


ちなみに、俺の治療はエマがやってくれたとのこと

回復魔法と緊急手術で、肉体と霊体の両方の傷を塞いでくれたのだ


軍時代から、エマに命を救われたのって何度目だろう

医療従事者には、感謝してもしきれないよなぁ…



ちなみに、フィーナはコクル領に行っていたらしい


「フィーナがいたらよ、お前、本気でクレハナから追い出されてたんじゃないか?」

ヤマトが笑いながら言っていた


結果的には無謀な特攻

そして、大怪我


…うん、お姫様の権力があれば本気で追い出される可能性があるから怖い

黙っておこう



「ラーズ。退院して落ち着いたらセフィリア様がお会いになるそうですよ」

マキ組長が帰り際に言う


「え!?」


「今回の作戦が無ければ、もっと早く会う予定だったんですけどね」


そうか、セフィ姉がクレハナに来るって言ってたな


「あー、分かりました」


「では、明日。ゆっくり休んでください」


「はい、ありがとうございます」


こうして、俺は皆を見送った


だめだ、話しただけで疲れた

もう、目を閉じて寝てしまおう…




…病院を出ると、ゲイルが口を開いた


「マキ組長。ラーズの奴、大丈夫なんですか?」


「どういう意味ですか?」


「俺は、基地にウルラ軍が突入したことが分かって引き返したんです。陽動は成功したので、隙を見てラーズを連れて脱出しようと思って」


「それで?」


「あいつ、呪印とやらが光っていた時、笑ってたんですよ。…楽しそうに大剣を叩きつけていた。まるで、子供みたいに」


「…」


「あの目は、あの顔は、狂人のようでした。俺は、見ていて怖くなったほどです」


「ラーズの件は、私が一任されてます。まだ、ラーズの修行は始まったばかり、しばらく様子を見ましょう」


「分かりました。ただ、俺の経験上、ああいう奴は間違いなく早死にします。今回、生き残ったのもたまたまだ」


「そもそも、マサカドに補足された段階で、あなたとラーズは詰んでいました。生き残れたのだから、失敗ではなかったのでしょう」


「それはそうですが…」



双方に大きな犠牲を出しながらも戦闘は終わった


痛み分けに近くとも、ナウカ軍は南部の基地から撤退、ウルラ軍は占領地域を更に拡大させることに成功したのだった



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