八章 ~22話 潜入作戦2
用語説明w
サードハンド:手を離した武器を、一つだけ落とさずに自分の体の側に保持して瞬時に持ち替えることができる補助型のテレキネシス。大型武器の補助動力としても使用
倉デバイス:仮想空間魔術を封入し、体積を無視して一定質量を収納できる
真・大剣1991:ジェットの推進力、超震動装置の切れ味、パイルバンカー機構、ドラゴンキラー特性を持つ大剣、更に蒼い強化紋章で硬度を高められる
俺達の目的は攪乱だ
潜入し、電気系統の破壊が出来れば百点満点
俺たち自身は戦闘を出来るだけ避けて、本隊のウルラ軍が有利に戦えればいい
「…脱出するか?」
ゲイルが呟く
「いや、無理だ。補足された」
「何だと?」
マサカドは、鬼神とやらを自身に降ろすことでことで超常的な力を得る
その特性として、周囲の生物に恐怖という感情を与える精神属性の特性を持つ
精神属性とは、精神作用を司る属性
精神と言う情報と魂を引き付ける力を司っている
そしておそらくだが、マサカドは恐怖効果を与えた生物の位置をある程度把握できるのだろう
俺は変異体であり、サイキックに素養がある
この恐怖効果は、テレパスに近い作用を持っていると感じるのだ
マサカドは、自らが仙人として人体強化を終えており、闘氣も使えるB+ランクだ
ターゲットとされたら、一般兵の俺達では逃げるのも難しい
「ゲイル、ゆっくりと歩きながら離れろ。俺がマサカドを引き付ける」
「な、何を言ってるんだ! 一人で出来るわけないだろう!?」
「二人でも無理だ。俺は高速立体機動がある、ワンチャン逃げることも可能だ」
「…」
「ゲイルはマッピングした情報を送り、マキ組長と合流してくれ」
俺は、倉デバイスから1991を取り出す
総力戦だ、隙を作って全力で逃げ出す
俺に狙えることはこれだけだ
「…死ぬなよ」
「努力はする」
ゲイルが、音もたてずに立ち去る
それを見届けると、俺は巨大な気配に向って敢えて歩き出した
…気分が悪くなるほどのプレッシャーがどんどん強くなる
マサカドの気配が大きくなる
まるで、魔王とでも相対している気分だ
「…」
殺意の塊
恐怖を巻き散らす化け物
マサカドが姿を現した
「…小僧、こんなところで会えるとはな」
「いや、すぐ帰るから。構わなくていいよ」
「そう言うな、貴様には全面戦争の時に虚仮にされたからな。その礼に。この場で内臓をぶちまけてやろう」
マサカドは、四本の腕で大剣とヴァジュラを構える
「…その虐殺癖、いつまで続けるつもりなんだ?」
「ウルラを完全に破壊しつくすまでだ。一度の勝利くらいで、勝負がついたなどと思うなよ?」
マサカドが、真っ赤に光る眼を見開いた
その眼には、全てが詰まっていた
凄まじい怒り
吹き上がる衝動
俺は端から期待もしていなかった説得を打ち切り、1991を構える
武の呼吸
脱力
そして、観の目
トリガーを発動、高揚感がマサカドに押し付けられる畏怖を少しだけ押し返し始めた
集中しすぎない
かと言って委縮もしない
「はっ…!」
気合いと共に、マサカドの高速の二連斬り
一撃目を躱し、エアジェットを使った超低空タックル
二撃目の真下を潜り、マサカドの足に手をかけてバックに回る
トリガーとナノマシンシステム2.0を使った筋力強化、全力のハイキックを背後から叩きつける
ゴガッ!
「…」
だが、マサカドはびくともしない
闘氣は、防御力は上がるが体重が増えるわけではない
にもかかわらず、その体幹をぶらすことさえできなかった
くそっ…、やはり普通のBランクとは違いすぎる
隙を突けない
そして、隙を突いても崩せない
ゴバァッ!
ズガァァァッ!
「ギャアァァァァッ!」
マサカドの霊属性の斬撃が暴れ回る
俺が避けることによって、斬撃が基地内を切り刻んでいく
当然、ナウカ兵も巻き込まれていった
「マ、マサカド様、おやめください!」
「ちっ…!」
マサカドが、その声を聞いて一度動きを止める
「ちょろちょろと逃げ回りおって、このドブネズミが…」
「あんた、仲間を斬り裂くのはダメだろ。もう少し分別を持たないと…」
俺は、説教臭く言いながら、なんとか隙を探す
マサカドが暴れたおかげで基地内は大混乱となった
しかし、ナウカ兵が集まって来ていて、逃げられるチャンスがどんどん減って行っている
まずいな、このままじゃ…
「ふん、お前も手段を選ばないのは悪だと言うつもりか?」
「…いや、俺はあんたサイドの人間だ。俺も、生き残るために手を汚して来たからな」
「私はナウカを愛している。そして、ナウカを蹂躙したウルラを絶対に許さん。邪魔をするもの、障害となるもの、全てを斬り裂いてやる」
「…俺は、自分の出来ることをやる。ただ、それだけだ!」
俺は、トリガーの出力を上げる
全集中、ゾーンに入る
血流が加速、脳のクロック数を引き上げる
短時間しか持たない、脳と肉体の潜在能力の解放
恐怖を意思で塗りつぶす
一秒でも長く、この状況を生き残る!
バチバチィィッ!
「…っ!!」
凄まじい雷撃がほとばしる
小型杖で土壁を構築
「データ2、リィ、頼む!」
高速立体機動
接近戦にて、装具メメント・モリを具現化
銃化した左腕での射撃
ウンディーネを貼り付け、離れ際に軟化の魔法弾
ゴバァッ!
霊属性の斬撃を避ける
飛び込んで霊札
大外刈りで一瞬崩し、離れ際でサードハンドで保持していた1991を握る
ゴゥッ…
ズッガァァァァァァン!
吹き飛ぶマサカド
俺の最大火力、フル機構攻撃だ
高速立体機動、忍術高速アイテム術、近接格闘と全てを使って叩き込んだ
だが、手ごたえがない
フル機構攻撃でBランクにダメージを与えらえるのは、あくまでも意識を誘導して闘氣を片寄らせ、薄くなった場所を攻撃しているから
マサカドという絶対強者に対して、俺の攻撃はそもそも脅威とならない
つまり、意識の誘導が出来ず闘氣を薄くさせることができないのだ
「はぁ…はぁ…」
俺は、データが倉デバイスから引き出してくれていたイズミFを構える
疑似アダマンタイト芯徹甲弾を装填してある
疑似アダマンタイトとは、希少金属であるアダマンタイトを模したチタンと黒銀の高圧縮合金だ
遠距離から打ち込み、また突っ込む
…正直ジリ貧だ
だが、出来ることをやり続けて足掻くしかない
しかし、ゆっくりと起き上がったマサカドは、意外なことに口を開いた
「…やはり、お前も怒っているな」
「何だと?」
「お前も、戦場から離れられない哀れな人種だ」
「…お前には関係ない」
俺はマサカドの言葉を遮る
…本来なら、この会話を続けるべきだ
せめて、呼吸を戻すまでは時間を稼ぎたい
だが、マサカドの物言いが異様に癪に障る
こいつ、何を分かったようなこと言ってやがるんだ?
「…曖昧に怒りを振りまいて、自分の内面から目を背けている。自分が何に怒っているかも考えず、ただ誤魔化しているだけだ」
「前もそんなことを言っていたな。…意味が分からないんだよ!」
全面戦争の時、マサカドが似たようなことを言っていた
「お前は自分が分かっていない。そして、自分から逃げている。それなのに、その葛藤を怒りという形で我々ナウカにぶつけている。…当たられる我々ナウカにとっては、とばっちり以外の何物でもない」
「な、何を言ってやがる! 散々ウルラ軍を攻撃し、しかも領境の集落まで攻撃し、一般人を殺そうとした外道はお前達だろうが!」
全面戦争では、多くのウルラ軍を殺し、コウを殺した
その前には、一般住民の集落を襲って父さんを攻撃しやがった
どの口がとばっちりだと言いやがるんだ!?
「…領境の集落だと? ナオエ家が使えないから出向いた時のことか」
「そうだ。お前はやっちゃいけないことをした。あの時、攻撃を受けたジャーナリストは俺の父親だったんだ」
「…ほぉ、あのジャーナリストか。敵ながら大した男だった。だが、戦争で攻撃することの何が悪い? ナウカの勝利はすべてにおいて優先される。ウルラのお前達がやっているようにな」
「…」
「そして、何度も言わせるな。お前が怒っていることは、そんなことじゃない」
「だ、だから何を…!?」
「自分と向き合えもしない負け犬に、何度も虚仮にされてたまるか。…死ね!」
マサカドが動く
その一瞬、俺はイズミFの引き金を引く
ドォン!
徹甲弾の貫通力が、マサカドを揺らす
だが、マサカドは止まらない
マサカドが迫る
トリガーのおかげで疲労感は感じていない
だが、そろそろ負荷で限界が近い感覚がある
…関係ない
目の前の脅威に対処しろ
今、トリガーを解けば一瞬で死ぬ
マサカドの攻撃に反応が出来ない
「…!」
俺は、マサカドという存在を睨みつける
お前という存在に全てをぶつける
ドス黒い何かが湧き上がる
それは、破壊衝動
吹き上がる衝動に身を任せる
その感覚が、マサカドの言葉を少しだけ理解させた
衝動が湧き上がる
…それだけは足りない
何に怒っているかだと?
この衝動はどこへ向いているのか
湧き上がる衝動が、目の前の一点に向いた
★マサカドとの会話 七章 ~25話 戦場4・時間稼ぎ
読んで頂きまありがとうございます!
気が付いたた三百回目の投降でした
完結まで後五十話くらい…、最後までお付き合いいただけら嬉しいです♪