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一章~24話 記憶の整理

用語説明w

神らしきものの教団:現在の世界は神らしきものに滅ぼされるべきとの教義を持つカルト教団。テロ活動や人体実験など、世界各地で暗躍


変異体:遺伝子工学をメインとした人体強化術。極地戦、飢餓、疲労、病気、怪我に耐える強化兵を作り出すが、完成率が著しく低い。三種類のタイプがある


ベッドで目が覚める


…久々に夢を見た

いつぶりだろうか?


楽しかった時の夢

隊舎での仲間達との日々の夢だった



…俺は軍に所属する公務員だった


国のために、モンスター退治を行うシグノイア防衛軍

そこに所属する一般兵だった


俺が所属していた第1991小隊

この小隊はリサイクル小隊と呼ばれていた


それぞれの場所で上手く馴染めなかった隊員達が集まっていた

そしてその名の通り、他の小隊で実力が無いと追い出された者達がリサイクルされ、才能を開花させてきた場所だった



…そして、俺もリサイクルされた一人だ


俺は、高校まで騎士を目指していた

だが才能が無く、騎士への夢を挫折して一般大学に進学、その後防衛軍に入った


そんな、挫折からの劣等感を拗らせていた俺を受け入れてくれたのが1991小隊だった



楽しかった


笑顔があった


やりがいがあった



絆ができた


訓練に汗を流し、切磋琢磨し、助け合った


時には死にかけながらも、結果を出した



強力なモンスターにも打ち勝った


仲間達との絆は、俺に自信という力をくれた


俺自身を変えてくれたんだ



だが、あの日…、あの大崩壊の日に全てが消し飛んだ


人為的に引き起こされた大崩壊

これを引き起こしたのは、「神らしきものの教団」


そう、ヘルマンが所属していたという教団だ



「…」


信じられないことに、俺はその名を聞くまで教団の名前を忘れていた

仲間の仇のことを忘れていたのだ


いや、それだけじゃない

それどころか、仲間達のことさえも忘れ去っていたのだ



…理由は簡単だ

絶望感で、俺の精神が耐えられなかったからだろう



実際に、今の俺は記憶に押し潰されそうになっている


フラッシュバックする仲間の死


壁が、床が、天井が、全て血の色に見える


…死んだ仲間達の幻影が、血塗れの部屋の中で俺を見ている



「…」


改めて考えると、俺の記憶はかなり曖昧だった



仲間を失ったという事実は覚えていた


だが、仲間が()()()()()()()()()()を忘れ去っていた


それどころか…

仲間の顔、名前、姿、思い出、会話の全部を思い出さないように心の奥に押し込んでしまっていたんだ


思い返すと、俺はここに来て仲間の顔を一度たりとも思い出していない

思い出そうとすると気持ち悪くなっていた


夢で見たときでさえも、顔は全てシルエットになっていた

思い出す前に、俺の心がストップをかけていたんだ



…楽しかった思い出、宝物のような記憶

大切であればあるほど、失った時のショックは大きい


絶望感に潰されないように


絶望を忘れられるように


俺は大切な仲間の記憶ごと、絶望という感情を心の底に押し込んだ



「…」


でも、ヘルマンの言葉で自覚してしまった


気が付いてしまった



俺は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()



この事実に、俺は打ちのめされた


…そして、忘れていたことを自覚をする事で、全てを思い出した



今は、鮮明に思い出せる

仲間の死に顔、殺された場所、あの時感じた()()()()()()()


心が震える


怒りが込み上げて来る


潰されそうな後悔



…この辛さから逃げるために、いつからか俺は失った仲間の記憶を封印したのだろう


その効果は抜群だった


絶望という感情を封印し、思い出さないように仲間達との思い出も封印、記憶の整合性を取るために()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


だから、記憶を封印しているという事実に気が付くこともなく、どう辛いのか、何が辛いのかを考えなくて済むようになっていた

いや、考えなくて済むように俺がしたのだ



精神作用には抑圧という概念がある


自我を脅かす記憶や衝動を意識から締め出し、意識下に押し留める作用

意識されないままそれらを保持している状態であり、自我の防衛機能で最も基本的なものだ


そして人間の脳は、私生活で記憶がないことの整合性を取るために都合よく記憶を編集することがある

トラウマとなっている出来事の一部だけを覚えているような「選択的健忘」などはその典型であり、精神を保つための高度な記憶編集機能なのだ



…仲間を失った絶望という感情

感情という情報は、時に自らの精神を叩き壊す


あの感情を受け入れていたら、俺は耐えられなかったのかもしれない

だからこそ、俺の自我は自分を守るために抑圧を行った


俺は仲間の笑顔を忘れた

仲間の記憶ごと、辛い記憶を全てを押し込めた


結果として仲間達に関する記憶を全て忘れ、忘れていることを自覚させないために、仲間達が死んだという事実だけをふわっと覚えていたのだ


都合のいい記憶の選択、まさに選択的健忘と呼ばれる状態だ



そして、俺の心の中の影のような()()

あいつは、その抑圧の結果、全ての記憶を押し付けられて産まれた


抑圧されていた記憶に対する安全装置だったのだ



仲間を殺した敵兵

あいつらの目は、醜い敵意や悪意に満ちていた


獣やモンスターとは違う、人間の敵意と悪意

あの目は、心の奥底に追いやった記憶を否応なく励起させる


だからこそ、思い出さないように、敵意と悪意に対して心の中の()()は必死に叫んでいたんだ



…思い出したトラウマ


そして、あの絶望感


俺は、血塗れの仲間達の幻影を見上げる




「…ふっ……」



そして、思わず吹き出してしまった




仲間達の幻は()()()()()

その姿は、とっくに血に塗れてはいない



「いつまでうなだれてるんだ」


「さっさと立てよ」


「うじうじしちゃって、何してるの?」


「へこんでる暇なんてないよぉ?」



あの頃と変わらず、口々に語りかけてくる


…分かっていた


俺の仲間達は、いい奴らだった

いつまでも、血塗れで佇んでいるような人達じゃない


…俺が勝手にそう見ていただけだ



「立ち止まるのも進むのも、人間の意思だ

希望も絶望も、そのきっかけに過ぎないのだよ」


「ラーズ、あなたならできるわ

諦めないことが、あなたの力なんだから」



もう、俺がいる部屋は血に塗れていない

普通の部屋だ


俺の脳が、トラウマによる補正をやめたようだ

思い出したのは、絶望感だけじゃない


仲間達の死はトラウマだ

だが、()()()()()()()()()()()()()



「もっとゆっくりやれって」


「ゆっくり休むことも必要ですよ」


「あまり自分を責めるな」


「肩の力を抜きなさいよ」


「辛かった逃げたっていいんだよ!?」



仲間達の幻が声をかけてくる

俺は、仲間達の幻に答える



もう充分逃げたよ


記憶からも、恐怖からも、そして復讐からも



逃げることは恥じゃない

戦略的撤退、それは選択であって本質的な逃げではないから


だが、やみくもに逃げ続けることは本質的な逃げだ

これでは改善に繋がらない


戦いは自然の摂理だ

戦いから逃げるということは、生きることからも逃げるということだ




仲間達は、俺の心の中で生きている

よく聞く言葉だ


だが、俺は今まで仲間たちのことを忘れていた

仲間たちの死を忘れ去られば、それは無かったことになってしまう


…ゾッとする


俺が忘れれば、仲間達の死は消えて埋もれる

仲間達の死が無かったことになってしまう



ふざけるな


許さない


仲間達の死は現実だ



「…」


仲間達の死を無かったことになんかさせない



目の前が明るくなったように感じる


宝物のような日々を思い出した

俺を成長させ形作った日々を思い出した


もう怖がらなくていい

思い出しても、()()()()()()()()



気が狂いそうな哀しみ、無力感、怒り、…そして絶望感


…思い出した死の光景に、今は安心さえする


二度と忘れてはいけないこの目的を、嫌でも記憶に焼き付けてくれるから



俺のやるべきこと、俺を突き動かす意思



…すなわち、大崩壊を起こした元凶


()()()()()()()()()()()()()()




「…」



大切な仲間たちを思い出してあげられた


そして、やりたいこと、やるべきことを思い出せた


それが少しだけ嬉しい



トラウマを理解したことで、気持ちが高揚している


怒りと殺意が無限に湧き上がってくる



…俺には力が必要だ


変異体の強化兵士としての力

まずは、完成変異体となる


俺は死なない

ここで力を得る



俺は仲間達の幻に語りかける


あんた達が復讐なんか望んでないことは分かってる

…俺がやりたくてやるだけだ



神らしきものの教団を潰す


そのための力を得る



二度と忘れない


やり遂げる



それが、俺の選択だ





トラウマからの復活w

悶々としながらも、ここまで読んでいただきありがとうございます!


やっとかよ…、悶々期間がおわったから少し応援してやるか、なんて思って頂けましたら、評価、ブクマよろしくお願いします♪

モチベが上がって泣いて喜びます

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― 新着の感想 ―
[一言] 色んな事がつかの間に起きて耐えられなかったんだな…
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