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八章 ~20話 治安維持部隊

用語説明w

エマ:元1991小隊の医療担当隊員。医師免許を持ち回復魔法も使える

スサノヲ:見た目は赤ずきんをかぶった女の子。正体は、怪力の腕利き鍛冶職人でジャンク屋

ミィ:龍神皇国騎士団経済対策団のエース。戦闘能力はそこまで高くないが、経済的な観点で物事を考える。海の力を宿したオーシャンスライムのスーラが使役対象


ドミオール院では、子供たちの健康診断が行われている


「身長…、体重…、はい、大きく息を吸って…」


診断を行っているのは、医師免許を持っているエマ

コミュ障の割に、頑張って子供達とコミュニケーションを取っている


「わーん…!」


「あぁ…あの…あぅ……」


「大丈夫、注射は目を閉じていればすぐに終わるわ。おいで?」

タルヤが、見かねて助けに入る


男の子を抱っこして、目を瞑らせている間にエマが素早く採血を行った



なぜ、エマがクレハナにいるのか

それは、龍神皇国騎士団から()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


全面戦争が終わり、ウルラ軍によるナウカ領への侵攻が始まっている

そのため、ウルラ領が手薄となり、治安の悪化が懸念されていた


そこで、セフィ姉が治安維持部隊の派遣を決めた

更に、コクル王家との和解により、コクル領にもウルラ領を経由して龍神皇国の治安維持部隊を送ることとなった


この治安維持部隊とは、ヤマトが所属する部隊と同じ呼称ではある

しかし、長期間派遣されて戦闘に従事していたヤマト達とは違い、内戦には直接干渉しない、あくまでも治安維持のためだけに派遣された部隊となる


その第一弾の派遣で、セフィ姉やエマ、そしてミィとスサノヲもウルラ領にやって来たのだ


「タルヤ、体調はどう…?」


子供たちの健康診断が終わると、エマはタルヤの診察を始める

エマがドミオール院に来た理由は、タルヤの経過観察を行うためだった


あの施設、(そら)の恵みでの記憶は、トラウマと言う牙を使ってタルヤの精神を破壊した

薬を服用しているとはいえ、まだ完全に治ってはいないのだ


「最近、体調はいいの。クレハナに来てからは発作も出ていないわ」


「何か、心境の変化が…?」


「マリアさんやウィリンが受け入れてくれた。感謝してくれて、子供達が私を必要としてくれる。私がいないと子供達を守れないと思える。…そう感じると、生きていていいって思えるの」


「タルヤ…」



ボランティアの効果として、人をポジティブにするという効果がある

人から感謝されることで、自己肯定感を高める感ことができるのだ


精神と肉体はつながっており、肉体の不調は精神にも影響を与え、精神の好調は肉体にも良い効果をもたらす

前向きになり人に寛容になることで、人間関係のストレスに耐性を持つことができ、自分が恵まれているということに気がつくことが出来る


災害などで被災しショックを受けた人の中で、ボランティア活動を行った人の方が立ち直るのが早かったという記録もある


思いやりの行動は、自らの心を救うのだ



「タルヤ、良くなってる…。でも、無理はしないで…」


「ええ、分かってるわ」


エマが診察を終えて、タルヤに持って来た薬を渡す


…タルヤが良くなってきている理由

それは、ドミオール院が自分の居場所となったからだ


自らが人のために尽くしたことで、自らが必要とされた

認められるという感情は、大きな充実感を得られる


俺もシグノイアの軍時代、1991小隊という居場所があった

その居場所によって俺は救われ、成長し、そしてコンプレックスを受け入れることが出来た


俺も、あの居場所によって変われたのだ



「ラーズさん、もう帰ってしまうのですか? よかったら、一緒に昼食でも?」

マリアさんが、俺に声をかけてくれる


子供達を見てくれたエマに、お昼を御馳走してくれるらしい


「すみません、マリアさん。エマと一緒にクレハナに来た赤ずきんが、俺の装備品をメンテナンスしていまして。さっさと戻らないと怒るんですよ」


「…? そうですか、またいらしてくださいね」


「はい、また。タルヤ、良くなってきて良かった」


「…ラーズのおかげでもあると思うの」


「俺は何もしてないって。全部タルヤの頑張りだろ?」


「そんなことないのに。…早く、ラーズとお出かけもしたいな」


「もう少し、内戦が落ち着いたらね」


俺はドミオール院を出て、マキ組の廃校へと戻った




「遅い!」

スサノヲがプンプンしている


「エマを送りに行ったんだって。話しただろ?」


「いいから、さっさとヴァヴェルを着ろ! メンテ出来ねーだろ!」


「はいはい」


俺は、素直にヴァヴェルを着る


「相変わらず、使い方が酷いな。こんな使い方をしていたら、いつか修復不可能になるぞ?」


「この装備品は、もう俺の体の一部なんだ。そうならないように頼む」


「…お前、分かってるな。そこだけは評価してやる」


スサノヲが照れくさそうに、嬉しそうにごにょごにょ言っている

こいつのポイントは、()()()()


もう長い付き合いだから、スサノヲ攻略法を確立できてきた

…反対に、俺はすぐに心を読まれてるようになってしまったが


ヴァヴェル、1991、そして、絆の腕輪

俺のメイン装備品のメンテを一手に引き受けているスサノヲ


俺はいい職人に巡り合ったもんだ

…性格は残念だけど


「ぶっ飛ばすぞ?」


「心を読むなって!」




・・・・・・




ウルラ領 灰鳥(あすか)



龍神皇国騎士団による、治安維持部隊と復興部隊の大規模派遣

本日より、クレハナ各地のウルラ王家の管轄地域において活動することになる


そして、この治安維持部隊はコクル領へも派遣される

これは、コクル領の治安維持と共に、コクル王家に対する監視と裏切りの抑止を目的としている


コクル領へと治安維持部隊を引き連れるのは、ウルラ領の代表であるフィーナだ



「セフィ姉、久しぶり」


セフィリアの到着をフィーナが出迎える


「フィーナ。元気そうね」


「うん…」


「…まずは、明日のコクルとの会談を終わらせましょう。私はラーズと会って来るわね」


「セフィ姉、ラーズに龍神皇国に帰るように言ってよ。もう、ラーズがクレハナで戦う理由なんか…」


「フィーナ。ラーズはあなたがクレハナで戦っている限り、帰るとは言わないわ」


「でも、私達は…」


()()()()、帰らないわ」

セフィリアが断言する


「…」


「まずは、コクル領の件を終わらせましょう。ラーズのことはそれからよ」


「う、うん…」


フィーナは、これからすぐにコクル領へと出発する

このニュースは大々的に報道され、クレハナの内戦は新たな局面へと移行したことをアピールした



つまり、


「ナウカ・コクル連合 VS ウルラ」


という構図から、


「ナウカ VS ウルラ & ウルラに協力するコクル」


という構図へと変わったのだ



セフィリアは、フィーナを見送ると領主であるドースの部屋へと赴く


「セフィリア殿、お待ちしておりました。ようこそ、クレハナへ」


「ドース様、直接顔を合わせるのは何年振りでしょうか。よろしくお願いいたします」


「はい。クレハナの内戦は、間もなく最終局面へと向かうでしょう」


セフィリアが頷く

「ところで、ドース様。五遁のジライヤはいないのですか?」


「今はナウカ領にて戦闘の指揮を執っております。ウルラ領に戻るのはしばらく先になるでしょう」


「そうですか…」




その頃、マキ組の拠点


「ラーズ、いますかー?」


「おー、ミィ。来たか」


「ええ。やっとあいさつ回りが終わった所」


「あいさつ回り?」


「私は、ウルラの経済対策のために呼ばれたの。ブロッサムの再稼働だったり、マネロン対策だったり、コクルの資金の巻き上げだったり…」


「どんだけ仕事があるんだよ!?」


「クレハナも人手不足だろうし、裏方の仕事くらいなら手伝おうかなって思ってさ」


「ブロッサムって、ドースさんの国営企業だろ?」


ブロッサムは、大崩壊に利用された企業だ

確か、ドースさんが主導している複合企業だったはずだ


「ええ、そうよ。今回の全面戦争に全ての資金をつぎ込んで活動停止中なのよ」


「本当に総力戦だったんだな。…マネロンって何?」


「資金洗浄よ」



マネーロンダリング


麻薬取引や犯罪、違法な手段で入手した資金を、架空口座や他人名義口座などを利用して移転することで出所を分からなくする手法

これをされると正当な手段で得た資金と見分けがつかなくなり、反社会的な組織の経済力となってしまう


このマネロンは法整備が整っていない国が格好のターゲットとなり、海外の反社会的な組織に次々と利用される

この場合、その国の国際的な信頼を損なうこととなり、国際的な経済活動に支障を来たすこととなるのだ



「はぁ…、難しそうだな」


「内戦中の国なんか、対策の余裕もないし狙われるからね」


「ミィが仕事してる…。いつも、発掘とか騎士団と関係ないことばかりやってたのに」


「あ、発掘も再開するからね。ドース様とフィーナの許可はもらったわ」


「あ、そうなのか?」


「ウルラ軍が国境を越えて駐留していて、危険も少なくなったから。バビロンさんがもうすぐクレハナに来て、再発掘を開始する予定よ」


「分かった。早く、真実の眼の遺跡の続きが分かればいいなー」


「内戦って言う邪魔な要素が無ければ、とっくに終わってたはずなのにね」



ドタドタドタ…


その時、廃校の中を走る足音が響いた



「ど、どうした?」

俺が廊下を出ると、ゲイルが走って来た


「ラーズ、緊急出撃要請だ! 場所はナウカ領、依頼は騎士ヤマトからだ」


「え、ヤマト?」

俺はミィを見る


「確か、ナウカ領への侵攻に加わっているって言っていたけど」


「すぐに準備しろ! 出発だ!」

ゲイルの声が響いた



タルヤの病状 六章 ~3話 タルヤとの再会

コクル領への派遣 閑話23 コクル領での密談

真実の眼 七章 ~19話 発掘の進捗2

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