八章 ~19話 鎌イタチ
用語説明w
装具メメント・モリ:手甲型の装具で、手刀型のナイフ、指先に鉤爪、硬質のナックルと前腕の装甲が特徴。自在に物質化が可能
マキ組長:フウマの里マキ組の上忍、ノーマンの女性。二丁鎌を使う忍びで、武の呼吸を身につけている
リィ:霊属性である東洋型ドラゴンの式神。空中浮遊と霊体化、そして巻物の魔法を発動することが可能
今日はマキ組長と二人で出撃
相手はナウカ軍ではなく、街の近くに現れたモンスターだ
鎌イタチ
風属性の妖怪であり、Eランクのモンスター
しかし、三匹が一グループとなった場合、三位一体の攻撃を行うため危険度が跳ね上がり、その場合はCランクの危険度ともなる
一匹目が対象に打撃を与えて転倒させ、二匹目が鋭い鎌で斬りつけ、三匹目が霊薬を塗ることで出血を抑える
通常、人間に対して害を加える妖怪ではない
しかし、今回は鎌イタチが住み着いた場所と集落が近く、近くを通った住人が何人か怪我をしているのだ
「今回のモンスターのタイプは妖怪です。霊体としての比重が大きいため、霊札が有効です」
「分かりました。でも、動きが速すぎて貼り付けられるかどうか…」
鎌イタチの速さは、簡単に捉えられるとは思えない
「鎌イタチに動き回られると厄介です。三位一体のジェットストリームなアタックは、獲物を殺さない程度に、好き勝手に切り刻んできます」
「やっぱり、追い込んで行きましょう」
鎌イタチは風が妖怪化したもの
動きは風と同じ速さと言うことだ
マキ組長は、風遁風の道でスピード勝負をするつもりだったようだが、俺は必死に止めた
モンスター相手に、得意な土俵で戦うことはリスクが高すぎる
相手の長所を潰して短所を攻めるべきだ
それに、鎌イタチは反撃よりも逃がすことが怖い
「仕方ないですね…」
マキ組長は、渋々モンスターハンター中級の俺の言葉に従ってくれることになった
ビュオォォォッ!
「…!」
突風、そして、渦巻くつむじ風
装具を会得したことで副次的に取り戻した霊感のセンサーが鎌イタチの妖力を感じ取る
ドドドン!
「うおぉぉぉっ!?」
一瞬のうちに、三回の衝撃
右腕の衝撃、斬撃、そして霊薬を塗られた?
ヴァヴェルの防御力が防いでくれたが、早すぎる!
そもそも、攻撃自体が見えない…
ゴガァッ!
「キシャァァァァッ!」
突然、マキ組長が鎌をコンパクトに振る
すると、何かが弾かれて近くの岩に叩きつけられた
「クアァァァァッ!」
威嚇するような子犬サイズの獣
その手足には鋭い鎌のような爪を持っている
こいつが鎌イタチか
…え?
マキ組長、風の速さの攻撃を叩き落したの?
ガキィッ!
また、マキ組長が鎌を振るう
死角からの攻撃を完全に防いだようだ
何なんだよ、あの人!
アレが攻撃の気配を感じるって奴か!?
俺は、マキ組長のとんでも技術に対抗して陸戦銃を取り出す
俺の持ち味は傾向と対策だ
岩肌を背に、俺は鎌イタチの攻撃を待つ
ビュオォォォッ!
「…っ!!」
…来た!
攻撃の兆候、風の音
ガシュッ!
「シャァァッ……!!」
攻撃範囲特化の散弾
集弾しないため破壊力は下がるが、命中率は上がる
面での攻撃で、鎌イタチにカウンターを叩き込む
鎌イタチは、その勢いのままバランスを崩して地面に叩きつけられた
「…マキ組長、行きます!」
「了解」
俺は、落ちた鎌イタチを掴んで高速立体機動
ホバーブーツと飛行能力の全力、引き寄せの魔法弾による加速も利用する
「ご主人、ナビの準備は完了してるよ!」
「オッケー、頼む!」
目的地までのルートを把握、後はデータのナビで突っ走るだけ…
ビュオォォォッ!
「お、おい!?」
そんな俺に対して、荒れ狂ったつむじ風が追いかけてくる
残りの二匹の鎌イタチが、拉致られた仲間を助けるために追いかけてきているのだ
めちゃくちゃ速ぇぇっ!
そして、風が迫って来るのがビジュアル的に怖ぇぇっ!!
ビュオォォッ!
「くっ!!」
突風の突進を察知して、流星錘アームで急カーブ
そのまま触手に幕を展開して滑空
すぐに飛行能力、引き寄せの魔法弾による加速
「キシャァァァァッ!」
「ば、馬鹿! 暴れるな!」
掴んでいた鎌イタチが暴れる
慌てて抑えようとしたことで、木の枝を見落として肩を接触
ゴガァッ!
「……っ!?」
身体が吹き飛ぶ
だが、意地でも離さん!
俺は装具、メメント・モリを物質化して鎌イタチを掴んでいる
その指先には、試作ヤモリ型ファンデルワールス力クリッパー、手のひらには吸盤型クリッパーを導入
つまり、俺の手のひらはめちゃくちゃグリップ力が高くなっている
暴れたくらいで逃げられると思うなよ?
「ラーズ!」
「…見えた!」
インカムからマキ組長の声
データの誘導通りに大回りをして到着した
その間に、マキ組長とリィ、竜牙兵が準備を終えてくれていた
…マキ組長の遁術、風遁風の道ってやっぱり早いよな
移動速度は俺のアイデンティティであって、マキ組長をみていると自信が削られていく感じがある
俺は、後ろの暴風を引き連れたまま、マキ組長のいる岩肌へと突っ込む
そこは、洞穴となっている
天然の裂け目を、竜牙兵がひたすら掘って拡張していたのだ
「おらぁっ!」
勢いをつけて、掴んでいた鎌イタチを洞窟に投げ込む
強力なグリップ力と、いつでも手放せる能力、それが俺が開発中の装具の新機能だ
「…シャァァァッ!」
洞窟に投げ込まれた鎌イタチの叫び声
俺は、急上昇して洞窟には入らずに入口を開ける
ビョォォォォッ!
ゴバァッ!
俺を追って来ていた暴風がそのまま洞窟の中になだれ込む
これで、洞窟の中に三匹のターゲットが入った
作戦開始だ
「リィ、やれ!」
「ヒャン!」
後ろに控えていたリィが、土属性範囲魔法(小)の巻物を連続で発動
狭い洞窟内に土属性の大岩が出現して弾ける
そして、入口にはヴァヴェルを着込んだ俺
ゴオォォォッ!
ゴガァッ!
「ぐっ…!!」
風の突進が俺を襲う
めちゃくちゃ痛いが、首などの急所を守りながら、あえて受ける
属性には相克の関係を持つものがある
聖属性と魔属性、火属性と冷属性などが有名だ
そして、物質属性である風、水、土にも相克があり、風と土属性はお互いに大ダメージを受ける
つまり、風属性の鎌イタチは土属性の魔法に弱いのだ
俺の属性装備であるヴァヴェルには地竜の逆鱗が使われている
これは高い土属性の属性値を持っており、風属性の攻撃を軽減してくれるのだ
今回の作戦は、狭い場所に鎌イタチを誘い込んで機動力を殺す
そして、ヴァヴェルを持つ俺が入口に立つことで逃亡を防止
リィの土属性範囲魔法の連発で仕留めるという流れだ
念のため、竜牙兵とフォウルが後ろに控えている
ただ、別に害獣ではないため、出来れば人間への恐怖だけを刻み込んで逃がすつもりだ
「…」
そんな俺達の使役対象達を、マキ組長が見ている
しばらくすると、洞窟の中が静かになった
「キュゥゥ…」
連続で土属性の岩を叩きつけられた鎌イタチたちが、地面に倒れて弱々しく鳴いている
小動物みたいでかわいい
撫でてやりたく…
「えぇっ!?」
マキ組長がつかつかと歩み寄って、三匹の鎌イタチを抱き上げる
そして、本当に撫で始めた
「マキ組長、危ないですって! 相手、妖怪ですよ!?」
気持ちは分かるよ!
でも、さすがに危険だろ!
「…静かに」
マキ組長は、そう言いながら風遁風の道を発動
周囲の大気を圧縮して体の周りを静かに回転させる
「クキュゥゥ…?」
そんな優しい風の動きに、鎌イタチたちが首を傾げた
か、かわEEEEEE…!
マキ組長は、鎌イタチを抱いたまま洞窟から出る
そして、それぞれの頭を撫でる
「ラーズ」
「はい?」
「餌札を下さい」
「え? は、はい」
俺はリィの餌札をマキ組長に渡す
リィのような式神は霊力を餌とする
その餌となる霊力を封印して持ち運べるようにしたものが餌札だ
リィがジトッ…とした目で俺を見る
ちゃんと後であげるから
「…ラーズ、私はこの子たちを飼います」
「本気ですか? 妖怪ですよ?」
「私は風属性使い、相性はいいはずです。それに…」
「それに?」
「ラーズばかり使役対象を使って、師匠としては面白くありません」
「へ?」
どうやら、俺がスピードでマキ組長にコンプレックスを持っていたように、マキ組長も俺の使役対象に思う所があったようだ
人と比べるって、あまり意味がないな…
そんなこんなで、マキ組長に使役対象(候補)が三匹増えたのだった




