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八章 ~18話 呼び出し

用語説明w

装具メメント・モリ:手甲型の装具で、手刀型のナイフ、指先に鉤爪、硬質のナックルと前腕の装甲が特徴。自在に物質化が可能


データ:戦闘補助をこなすラーズの個人用AIで倉デバイスやドローンを制御。メイドソフトがインストールされ、主人の思考の把握が得意となった。戦闘用端末である外部稼働ユニットのデータ2と並行稼働している

フィーナ:B+ランクの実力を持ち、漆黒の戦姫と呼ばれるウルラ最高戦力。仙人として覚醒、宇宙戦艦宵闇の城をオーバーラップ、更に複合遁術を習得した大魔導士。ラーズとの別れを選んだ


今日は、マキ組の補給の日だ


マキ組長とジョゼがフウマの里の本部に行って装備や物資を受け取りに行っている


ゲイルは引っ越したばっかりのため、いろいろと買い出しをすると言って出かけて行った

ルイは山に狩に行くと言っていた


廃校には俺だけが残った


俺は、一人でもできる訓練が山積みのためちょうどいい

最初は、トリガーの発動訓練を行う


今までは、大崩壊の時のことを思い出したりして、怒りによって刺激を与えていた

しかし、習慣的にトリガーを発動し続けているため、今では発動自体を意識的に行えるようになった


だが、トリガーの制御の難しい所は維持だ

感情が振り切れ過ぎないように、かといって、出力を抑えすぎてトリガーの発動が止まってしまわないように


ちょうどいいバランスを維持する

少し抑え気味がコツだ



ドッドッドッドッド……


心臓の音が響く



「はぁ…はぁ…はぁ…」


トリガーを維持して血流が加速する状態は、異様に酸素を消費する

すぐに息切れを起こしてしまうのだ


変異体の体でこれだからな…

少し高地トレーニングでもした方がいいのだろうか?


相変わらず竜族の呪印は全然発動しないし、トリガーの制御も難しい

ナウカ領への遠征が決まり、マサカドクラスとは言わなくとも、強敵のBランクや魔人と相対することはあるだろう


早くいろいろな技術を身につけたいんだが、なかなか上手く行かないな



トリガーの発動をやりすぎると頭痛が起こるため、俺はトレーニングを切り替える


次は装具の訓練だ



「…」


俺は、廃校の校舎の真横に行く

校舎の東側は、何もない壁となっている



装具を構築


指先には、ヤモリの手足の構造を模して超微細な毛を密集させた、ファンデルワールス力を使ったクリッパーを試行錯誤中だ


装具は、戦いの時だけに使うのではない

潜入時や逃走時に壁登りに使える粘着力は、使い処が多いはずだ



ズルッ…


「おわっ!?」



…全然つかねぇ


だめだ、ファンデルワールス力はナノサイズの微細構造

そんなの、どうやってイメージしろってんだよ!



仕方がないので、粘着構造第二弾だ



ギュムッ!


「おしっ!」



手のひらに、小さい吸盤を作ってみた


必要な時に吸着し、外す

うん、なかなかの吸着力だ


これだけでは粘着力が弱いが、更指先の鉤爪をひっかければ…


「行けるぞ!」


俺は、木造の壁をスイスイと登って行く

爪だけの時よりも安定するし、捕まっているのも全然楽だ


手甲型の装具はそのまま道具も使える

俺は、流星錘アームで錘を屋根に引っかける


そして、一気に屋根の上、屋上に駆け上がった



「後は、指先のヤモリ構造だけか」


ナノサイズの毛を高密度に生やす

俺は、何度も指先の形を変えながら具現化を繰り返した


質の違う粘着構造があれば、それだけ登れる材質が増えるということ

ぜひ、実現させたい



「ご主人!」

データのアバターが俺を呼ぶ


「どうした、データ?」


「フィーナからメッセージが来ているよ!」


「…何だって?」


データが、仮想モニタ―にフィーナからのメッセージを表示する



『…久しぶり。聞きたいことがあるの。ここに来てくれない?』


フィーナのメッセージには地図が添付されている

そこは、ウルラ領の山林だった




・・・・・・




フィーナに指定された、小高い丘


そこの頂上付近に、黒髪の女性が待っていた



「フィーナ」


「…ラーズ、来てくれたんだ」


「…まぁ、呼ばれればな」


立ったまま、お互いに沈黙

ちょっと気まずい



「それで、何の用だよ?」


俺は沈黙に耐えられなくなって、先に話しかける


「うん…、その…、聞きたいことがあって…」


フィーナが言いにくそうに、それでも言う


「何?」


「…ブルトニア家のこと」


「…」


ブルトニア家?

何でフィーナがそんなことを聞いてくるんだ?

俺よりも、ドースさんやジライヤの野郎に聞けば済むことなのに


…そう言えば、フィーナはブルトニア家のグロウスと噂があったとか言ってたな



「グロウスさんがナウカ軍に襲われたこと、何か知っているんでしょ?」


「…何でそう思うんだ?」


「ラーズ達が城に来たすぐ後に、グロウスさんが殺されたんだよ? …分かるよ」


「…」


俺は、フィーナの顔を見て真意を探る

だが、フィーナはすぐに顔を背けてしまった


…まさか、俺達の行動を諫めるつもりなのか?



「何があったのか、教えて欲しいの」


「…そんなこと、ジライヤかドースさんに聞けばいいだろ」


「…」



フィーナが、少しだけ俯く

「…聞いたけど教えてくれないの。私には関係ないって」


そうか、フィーナには伝えてないのか

確かに、わざわざ伝える必要もない


なんたって、薄汚れた汚い話なんだから



「…俺がそんなこと知るわけないだろ。殺された理由だって、ナウカ軍の見せしめなんだろうし」


「…」


フィーナが、俺の顔をまっすぐに見る

その眼が、少し怒っている



「ラーズとブルトニア家に何の関係があるの?」


「…何もないって。フィーナにとっては気になるのかもしれないけど、俺は何の関係もないよ」


「じゃあ、どうしてあの時、灰鳥(あすか)城に来たのよ?」


「マキ組長の付き添いだよ。何かを確認しに行っただけ、内容は知らないけど」


「…」


それを聞いて、フィーナが俯く

俺が答える気が無いことが分かったのだろう



悪いな、フィーナ

俺達は法と倫理を犯して復讐を行った


お前に真実を伝えることは、お前自身のリスクにもなり得る

ウルラの象徴でもあるお姫様に、そんなリスクは必要ない



…正直、フィーナとグロウスの関係が気になる

さすがに、あんなクソ野郎と付き合ってはいないと思うが


だが、万が一付き合っていたとしても関係はない

奴らはやってはいけないことをした、粛清は当然だ



「…そんなに隠すことなんだ。ジライヤまで教えてくれないし」


ジライヤ…()()

その言い方、やっぱりジライヤと…


「だから知らないって。フィーナに言わないってことは、大したことないんじゃないのか?」


「…」


「…」



しばらく、気まずい沈黙が流れる


「なぁ、フィーナってジライヤと何かやってるのか?」


「は?」


「いや、いつも一緒にいるみたいだからさ」


「……別にそんなことないよ」


「…」


歯切れの悪い態度

隠し事は俺だけじゃないってことか


何で隠すんだろ

付き合ってるのなら、別に言ってくれていいのに…



「それじゃ、帰るよ。…じゃあな」


「あ…」



ダメだ


これ以上話していると、余計な詮索をしてしまう

それどころか、フィーナに大人げないことを言ってしまいそうだ


フィーナとしては、関わりの有った男が惨い殺され方をしてショックを受けているはずだ

その気持ちは理解してやらなければいけない


だからこそ、これ以上は話さないことが一番だ



「私はクレハナのために、こんなに…。それなのに……」

フィーナの口から、押し殺した声がこぼれる


「…」



俺は後味の悪さを感じながら、その場を後にした




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― 新着の感想 ―
[気になる点] 果たしてフィーナの為に引いたのか、自分が傷つく事を恐れて逃げたのか。 今後、巡り巡ってフィーナVS.ラーズに発展する可能性が微レ存出てきましたねぇ......?
[一言] ぐぉぉぉ‼︎こちらの心まで削れて来るぞ…‼︎ まぁ二人の距離が近づくのをのんびり待つとしますかな〜
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