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八章 ~17話 ドミオール院の午後

用語説明w

ルイ:マキ組の下忍、赤髪の獣人男性。スナイパー技能に長けている

竜牙兵:黒竜の牙に魔属性と竜の魔力を封入し、幽界から骸骨戦士を構成する爪と牙を武器とするアンデッド


ウィリン:ヘルマンの息子。龍神皇国の大学生だが、現在は休学してドミオール院に戻ってきている

マリアさん:ドミオール院を切り盛りしている院長。慈愛に満ちた初老のエルフ女性


今日は、マキ組で自主的な出撃を行っている

それは何か?


現在、ドミオール院周辺は、ナウカ領への物資の輸送の拠点となっている

そのため、ウルラ軍とその関連業者が通過するため、物流ができて商売のチャンスが生まれている


実際に、ドミオール院の集落は食材をどんどん仕入れてウルラ軍や業者に卸しており、大きな利益を上げている

今では、集落全体で物資を買い付けているほどだ


そこに目を付けたのがマフィアたちだ

その利益をかすめ取ろうと、自警団を名乗って契約を迫っているのだ



パンッ!


パンッ!


パンッ!



銃化した左腕で、ホローポイント弾を撃ちこんでいく

一階は制圧完了だ



ドゴォッ!



リィが土属性範囲魔法(小)を発動

大岩を形成し、扉を叩き壊す



スタンスモークグレネードを投げ込み、白煙と閃光の中を進んでいく


パンッ!


パンッ!



人影の頭を撃ち抜き、階段を上がる


「一階はクリア」


「了解。二階は、ドアをソファーで塞いでいる」


「リィの出番だな」


「ヒャン!」


「狙撃も開始する」



インカムで手筈を確認しながら制圧を進める

ここはマフィアのアジトになっている屋敷だ



バチバチバチッッ


「ぐあぁぁぁっ!!」



ダァーーーン!


ダァーーーン!



壁を越えて、リィの雷属性範囲魔法(小)が発動

部屋の中で何人かを巻き込む


その直後、ルイの狙撃が頭を撃ち抜いて行く





………




……








終わると、俺達は地元のウルラ軍にアジトを引き継ぐ


ジョゼが状況説明と交渉を行ってくれるので任せ、俺とルイは着替えてドミオール院へと向かった

汚れ仕事の直後に、子供達と遊ぶのも思う所があるな


最初に、俺とルイは庭先に眠っているコウとヤエに報告をする


「終わったからな、コウ、ヤエ…」

そして、静かに手を合わせる



「ラーズさん、ありがとうございました。マフィアがいなくなったと聞きましたよ」

ウィリンがお茶を入れてくれた


「ああ。これで、しばらくは大丈夫だと思う。また、何かあったら連絡をくれ」


「いつもすみません。ドミオール院のために…」


「俺は好きでやってるんだ。俺がやっていることに価値があるんだって思える、数少ない機会だからさ」


「ラーズさん…」


マリアさんとタルヤは、ウルラ軍相手の行商に出かけている

売り上げが出れば、それがドミオール院の収入になるからだ


「全面戦争は終わったけど…。ウィリンは大学には戻らないのか?」


「…まだ、内戦自体は終わってないですし、ここが領境なのは変わりはありません。それに、全面戦争によって孤児が増えて人手が足りなくなっているんです」


ドミオール院の子供達は、いつの間に三十人を超えている

大人が三人で世話できる数ではない


人手不足はどうにかしないといけない問題だ



「タルヤの様子はどう?」


「元気ですよ。お話を聞いていた精神的な症状も見られません。全面戦争の時は、一人で戦う準備をしていたくらい強い女性です」


「そっか…」


ドミオール院に来て、確かにタルヤは前向きになった気がする

子供達と接し、必要とされたことが良かったのかな



「だーーっ! つ、疲れた…!」

外で遊んでいたルイが、部屋に入って来て椅子に倒れ込む


「お疲れ、ルイ」


ルイは、最近は子供達との遊び担当だ

子供達も、ルイは口数が少ないだけで優しいことが分かり、懐いている


「…コウがいれば、負担も減ったのにな」

俺は呟く


「…仕方ないさ。それに、あいつが頑張らなきゃ、このドミオール院自体が無くなっていたかもしれないんだからな」


「そうだな…」


コウとヤエの仇討ちは終わった

やることはやったが、二人は当然ながら帰ってこない


辛いし寂しい

1991小隊のトラウマが、また首をもたげてくるようだ


俺は、結局誰も守れていないのではないか?


フィーナと喧嘩をして、振られてまで戦場に居座った

だが、何の意味もなかったのではないか


まるで全てが無駄に思え、無力感が襲ってくるのだ



そんな俺を見て、ルイが言う


「ラーズ。コウのことはさ、()()()()()()()()()


「仕方なかった?」


「戦場で死はつきものだ。コウとヤエは、運の悪い戦場に当たっちまった。そして、仲間である俺達は理不尽に対して制裁を加えた。…そうだろ?」


「………あっさりしてるんだな」


仲間を失ったっていうのに

しかも、仲の良いいチームだったのに


「ラーズが考えすぎなんだ。全面戦争で何人が死んだと思ってるんだ? 犠牲が出ない方がおかしいんだぞ」


「…」


「戦争で死ぬのは当たり前だ。死んだのが自分じゃなかっただけでも運が良かった。そして仇も討てた。充分な結果じゃないか?」


「ああ…」



…ルイの言いたいことは分かる


俺とルイの違いは、戦って来た環境だろう

おそらく、ルイはこれまで何人もの仲間を失って来た


だからこそ、その結果を受け入れることに慣れている

悲しいけれど仕方がないと、どこかで思っている


…俺はどこかで、仲間は、大切な人は必ず守れると考えているのかもしれない

だからこそ、コウとヤエの死を認められない


人の生死を完璧にコントロールすることなんてできない


だからと言って、仲間や大切は人を守りたいと考えることは傲慢なのだろうか?


俺は…




「ただいまー」


玄関からタルヤの声が聞こえる

マリアさんと一緒に、行商から帰ってきたようだ


「お帰りなさい、お茶入れるね」

ウィリンが立ち上がる


「あら、ラーズさんとルイさん。子供達を見てくれてありがとうございます」

マリアさんも入って来た


「今日は、ルイがずっと遊んでくれましたよ」


「コウのスタミナの凄さを感じていますよ。あいつ、ずっと遊んでいましたからね」


「コウさんはそうでしたね。無理しないで、出来る範囲で遊んであげて下さいね」

マリアさんが微笑む


ちなみに、今は頼れる俺の使役対象達が代打で遊んでいる


意外にも、竜牙兵が人気だ

器用にボール遊びもできるため、無口でも子供たちが寄って行くのだ



俺はウィリンと一緒に、買い物の仕分けや洗い物、洗濯物を畳んだりと雑用を手伝う

ここら辺の仕事は自動化が難しく、マンパワーが必要だ


「ラーズ、洗ったお皿は私が拭くわ」

タルヤがエプロンを付けてくる


「帰ったばっかりなんだから少し休みなよ」


「いいの。ラーズとおしゃべりするの楽しいし」


「そんなのいつでもできるじゃん」


「これから忙しくなるんでしょう? ナウカ領にも遠征に行くって言ってたじゃない」


「あー…、そうかもね」


マキ組の仕事は終わった

次は、本業務の傭兵に戻ることになる


内戦の終結まで、戦場はいくつも存在するのだから



「また、来てくれる?」

タルヤが、皿を拭きながら俺を見る


「うん、出来るだけ来るよ。手伝えることもありそうだし」


「マキ組にゲイルさんが入ったんだって?」


「そうだね。今度連れてくるよ」


「大けがしてたって聞いたけど…」


「腕が吹き飛んでたんだけど、再生医療を受けてもう元通りだよ。リハビリは必要みたいだけどね」


「そう、良かった」


ふと、タルヤと目が合う


「…ラーズが来てくれると、私、安心するの」


「どうして? 俺は何もしてないのに」


「あの施設で助けてくれたからかな。それとも、このドミオール院のためにいろいろしてくれているからかな」

タルヤが微笑む


「…タルヤ、俺はタルヤが言うような凄い人間じゃないよ。何もできていない」


「ラーズって、ハードルが高いのね」


「え?」


「あなたが何もしていなかったら、私なんてもっと何もしていないわよ?」


「そんなこと…」


「私が、ラーズがいると安心するってだけ。思うくらい、別にいいでしょ?」


「ま、まぁ…」



穏やかな午後


その影で人知れず、クレハナの内戦が大きく動き出そうとしていた



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