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八章 ~16話 マキ組長とジライヤ

用語説明w

マキ組長:フウマの里マキ組の上忍、ノーマンの女性。二丁鎌を使う忍びで、武の呼吸を身につけている

ジョゼ:黒髪のエルフ男性。情報担当と事務を行う非戦闘員、整備などもこなす


全てを終え、俺達は廃校に引きこもっている



一週間前、クレハナでは大ニュースが流れた


『龍神皇国の貴族 グロウス・ブルトニア様 惨殺死体で発見』


グロウス様は、領境を調査中にナウカ軍と遭遇

その際、ナウカのBランクの戦闘員と交戦した模様


その後、殺害された遺体が領境で発見された



「…」


俺達はニュースを見ている



良く言えば、かなりマイルドな表現

悪く言えば、隠蔽だ


ナウカ軍からのメッセージは過激だった


グロウスの遺体は合計ニ十本の杭に貫かれた状態で、張り付けにされて晒されていたらしい


凄まじい怨嗟の念

そして、徹底抗戦の強い意思を感じた


まだまだ、内戦は終わらないということだ



「終わったな…」

ジョゼが呟く


ジョゼはあの隠密作戦中に町に潜伏し、救難信号の送信やナウカ軍の発見をウルラ軍に伝えた

おかげで、俺達に疑いの目が向くことはなかった



「ドース様が上手くまとめてくれたようです。今回の件はこれで終了でしょう」

マキ組長が言う


龍神皇国の貴族がクレハナで惨殺された

普通に考えるとなかなか問題がある気がするが…


「ブルトニア家は、ナウカ軍に対して戦う決意を示して再度の派遣を申し向けたそうだ」

ジョゼがコーヒーを皆に入れてくれた


「いやいや、やる気もない騎士になんか来られても迷惑なだけだって」

ルイが嫌そうに言う


ブルトニア家は、ナウカ兵を攻撃できる数少ない皇国の戦力だ

当然、相応の戦果を期待され、それを前提として配置されるのだ


自衛のために戦ったという理由必要なヤマト達治安維持部隊や、復興を目的とした復興支援部隊と目的が異なる


だからこそ、ブルトニア家が戦いを放棄すれば想定外に被害が大きくなる


その結果、俺達は二人も仲間を失った

そして、ゲイルは重傷を負ったのだから



「ドース様が断ったようだ。全面戦争の検証の結果、ブルトニア家が被害を拡大させたことを重くとらえての結論のようだな」

ジョゼは、自分もソファーに腰を下ろした


「ブルトニア家の屋敷も調べたようですから、大方何か出て来たのでしょう。ドース様も、全面戦争が終わった今、これ以上の支援よりもブルトニア家の切り捨ての方を優先させたのでしょうね」

マキ組長がコーヒーを手に取った


マキ組長は猫舌らしく、めっちゃフーフーしている

ちょっとかわいい


「ドース様は、ブルトニア家に対して毅然と断ったらしいな。あの人はいろいろと言われているが、間違いなくウルラのことを考えている人だ」

ゲイルが言う


確かに、ドースさんに対するウルラの民からの信頼は厚い

そして、悪い指導者ではないように思う


今回のブルトニア家のように、不正に対しては厳正に対処しているし、ウルラの発展のために力を尽くしている


「明日、龍神皇国の騎士団とセフィリア様がウルラ入りするらしい。いよいよ、内戦終結に向けて動き出すんだな」

ジョゼが自分のPITを見ながら言う



俺達は、この一週間完全に潜伏していた

あの作戦の情報がどう出るか分からなかったからだ


だが、ほとぼりが冷めた頃だ

そろそろ活動を再開する


ウルラ領からナウカ領へと、どんどん戦力を送って侵攻を進めているようだ




「では、ラーズ。また訓練を行いましょう」


「はい…」


この一週間、俺はトリガーの発動訓練を繰り返していた



「ぐ……」


トリガーのちょうどいいバランスを探る作業


地味な発動をひたすら繰り返す



それは、自分の体との対話


精神状態の把握



感情でトリガーを発動させる


そして、感情で制御する


感情が振り切らないように、持って行かれすぎないように



「はぁ…はぁ…」


「今日はここまでにしましょう」


マキ組長が、スポーツドリンクを渡してくれる


「はい…」


心拍数の増加、認知能力の強化は、身体を直接動かしていなくとも凄まじい負荷がかかる

この訓練を行うと、一瞬で汗だくになり、その後凄まじい倦怠感が襲うのだ



「多少はトリガーの発動が楽になっていますか?」


「そうですね…。体が慣れて来たのか、トリガーの維持も少しはましになった気がします」


トリガーは特性でもあるが技術でもある

使い続けることで感情の振れ幅を抑制し、意図的に出力を制御することも将来的には出来そうな…、気がする


まだまだ全然だけど



俺はスポーツドリンクを飲みながら、ふと思いつく


「そういえば、マキ組長ってジライヤと知り合いなんですか?」


「…急にどうしたんですか?」

マキ組長が首を傾げる


「いえ、いつも昔から知っているような話し方をしているので」


「…ええ、そうですね。ジライヤとは同門で、一緒に修行した仲です」


「ジライヤもフウマの里の出身だったんですか…」


五遁のジライヤの二つ名は伊達じゃない

そして、使役対象と思われるでっかいガマガエルの幻術も厄介だ


「ジライヤは特別で、フウマの里から出奔しました。そして、五大忍びの里と呼ばれる、イガ、コウガ、サイカ、トガクレの里で教えを受けています。そこでそれぞれの遁術を身につけたことで、五遁のジライヤと呼ばれるようになったんですよ」


「はぁ…」


忍びのエリートってことか

腹が立つ野郎だが、確かにあいつは強い

しかも、闘氣(オーラ)を使うBランクでもある


「昔は、クレハナを良くしようと語り合ったりしたものですけどね。今では方針の違いでビジネスライクな関係になってしまいました」


「知り合いのマキ組長には言いにくいのですが…。あの野郎、なんかいちいち俺に突っかかって来るんですよね」


「おそらくですが、あなたの目が原因でしょうね」


「へ?」


マキ組長が俺の目を覗き込む


「あなたの目は、戦場でよく見る目です。人を殺すことに慣れてしまった目。生き残るのに疲れてしまった目。私とジライヤの同期は全部で三人いたのですが、もう一人が同じような目をしていたのです。ジライヤが突っかかって来るのはそれが理由です」


「どういうことですか?」


そう言えば、マキ組に来た時に殺人者扱いされたな

俺、そんなに危ない目をしてるのか?


「あなたと同じ目をした同期は、戦場で心を病んでしまっていた。そして、人の命を消すという行為をやめられなくなってしまっていたのです」


「えっ、何ですか、それ!?」


「いわゆる連続殺人鬼と呼ばれるようになってしまったのです。本人はやめたくても、衝動が止められない、そんな苦悩を人知れず抱えていたので」


「…!」


「それを処理したのがジライヤです。それをきっかけにジライヤは変わりました。国を変えることを最優先として、権力を欲するようになったのです」


「…」


「その眼をした兵士が行きつくところは、壊れるか死ぬかのどちらかです。心を強く持ち、衝動に流されないように精神鍛錬を続けて下さい」


「は、はい…」


ジライヤにもいろいろあったんだな…

だが、俺に絡んでくるのは、また別問題だ


次は殴り倒せるように、修行を続けよう



「そう言えば、マキ組長。ジライヤのあのガマガエルって何なんですか? 何でカエルが幻術なんか使えるんですか?」


「あれは、カエルが仙人化した妖仙と呼ばれる存在ですね」



妖仙


仙人とは、人類が自らの霊体を神格化した存在だ

だが、霊体は人類以外の生物も持っている

つまり、動物が霊体を仙人化することも可能であり、それは仙人に対して妖仙と呼ばれる


妖仙は知能も高くなり、言葉を話し、特技(スキル)や魔法を使うことも珍しくない

ガマ仙人はガマガエルが霊体を神格化させた存在であり、幻術と催眠術を操る



「あのガマガエル、簡単にこっちの精神を侵食してくるんですよ。テレパスまで使ってきやがって…」


「ガマ仙人は幻術に特化しています。皮膚の粘液から催眠作用のある揮発性物質の放散、高周波の音波で催眠作用を誘発…、などなど。その気になれば、敵の部隊を丸ごと集団催眠にかけることも可能です」


「とんでもないですね」


あの野郎、使役対象まで別格かよ




訓練が終わり、俺はシャワーを浴びてベッドに横になる


マキ組長とジライヤの同期が殺人鬼になったって凄い話だ

…だが、俺は少しだけ理解できる気がする


壊れて行く自分

そんな自分に慣れてくる自分


あの施設で、俺もそうだった


自分の技術の向上が最優先になって行く

敵を殺めて自分が生き残るということに、疑問も持たない

その代わりに自分の命でさえ、どこかで軽視してしまっている



自分が快楽殺人者になるとは思えない


だが、()()()()()()()()



その自覚に、俺は寒気を覚えた




★殺人者の目 六章 ~9話 へルマンとの約束

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― 新着の感想 ―
[一言] 壊れた心を直すには強く、可愛いスーパーヒロインが必要なはずだ‼︎キョロ(・ω・`三´・ω・)キョロ
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