八章 ~13話 依頼
用語説明w
マキ組長:フウマの里マキ組の上忍、ノーマンの女性。二丁鎌を使う忍びで、武の呼吸を身につけている
ルイ:マキ組の下忍、赤髪の獣人男性。スナイパー技能に長けている
ジョゼ:黒髪のエルフ男性。情報担当と事務を行う非戦闘員、整備などもこなす
ゲイル:マキ組に移籍してきたフウマの里所属の下忍。対人暗殺の専門家で、隠れ、騙し、忍ぶ、忍者らしいスタイル
ゲイルが、ある依頼を持って来た
鉱石竜の討伐
ウルラ領とナウカ領の領境の森林地帯にて鉱石竜の目撃情報が複数寄せられた
おそらくは、全面戦争の騒乱によって刺激を受けて活動を活発化させたとみられる
金属を主食とし、光沢のある美しい鱗によって正に鉄壁の防御力を誇る
貴族の鎧は美しい鉱石竜の素材で作られることが多く、これを持つことは貴族界でのステータスとなる
だが、鉱石竜の戦闘ランクは最低でもB、下手をするとAランクともなる
安易に手を出してはいけない相手だ
「この依頼はブルトニア家からだ。秘密裏に斥候をしてほしいとのことだ」
ゲイルが言う
「秘密裏に、ですね」
マキ組長が口角を上げる
全面戦争が終わった直後であり、領境はウルラ軍が駐留している
いつナウカ軍が攻めてくるかもわからず、どこで戦闘になるかも分からない
そんな状況下で、領境でモンスター討伐などが許可されるわけがない
特に、鉱石竜は人類に無関心であり、自分から人類の生活圏に近づくことはほぼ無い
つまり、鉱石竜と人類んl戦いは、常に人類側からの意図によるものだ
「今日、ブルトニア家の屋敷に呼ばれています」
「…分かりました」
俺達は、ブルトニア家の次男である、グロウス・ブルトニアの屋敷に向う
この屋敷は、クレハナへの派遣要員としてやって来たブルトニア家に対して、ウルラ王家が用意したものだ
今回の依頼がゲイルに来た理由
それは、ゲイルが過去に何度かブルトニア家の依頼を受けていること
ゲイルは、前に所属していたテロイ組でブルトニア家の窓口となっていた
そして、移籍に際してわざわざブルトニア家に挨拶に行った
こういう個人の繋がりは、意外と仕事に結びつきやすい
今回のように、ウルラ王家に黙って行うような裏仕事だったら尚更だ
立派な屋敷の入口で呼び鈴を鳴らすと、中から執事が出て来た
「お呼びでまいりました、マキ組でございます」
ゲイルが言う
「お待ちしておりました。こちらへどうぞ」
初老の執事が案内をする
屋敷の中は、内戦中であるにも関わらず数々の美術品などが並んでいる
このクレハナで、一体どうやって集めたんだろうか?
一番奥の、豪華な部屋を執事がノック
「入れ」
中から声が聞こえ、俺達は扉を開けた
「グロウス様、フウマの里マキ組の皆様でございます」
「ああ、ご苦労。私がグロウスだ」
機嫌が良さそうに、グロウスが言う
…こいつがグロウスか
こいつ自身がBランクの騎士である、皇国の貴族
そして、命令を無視して保身に走って撤退、ウルラ軍に多大な被害を生んだ
…ヤエのボイスレコーダーに残っていた声と同じだ
こいつの命令でヤエは殺されたんだ
執事が下がると、さっそくグロウスが口を開いた
その横には、騎士であろう闘氣の気配を纏った男が控えていた
「さて、ゲイルには伝えたが、私は鉱石竜の素材が欲しい。鉱石竜の素材で作った鎧は、その貴族が一流であるという証ともなるからな」
「はい。グロウス様には良く似合うことでしょう」
ゲイルが話を合わせる
「ああ、そうだろう? そして、やっと鉱石竜の目撃情報が得られたんだ。今度は複数の目撃情報があり信憑性は高い」
「ですが、あまり良くない状況なんでしょう?」
「…まあな。私にとっては、内戦なんてどうでもいいのだ。さっさと終わらせればいいものを、いつまでもダラダラと続けおってからに」
グロウスがイライラとした口調になる
…そうやって他人事だからこそ、味方の被害を考えずに撤退しやがったんだな
よく龍神皇国の看板を背負ってクレハナに来れたな
こいつは、セフィ姉に迷惑がかかるってことを分かっているのか?
「それで、グロウス様。俺達マキ組を呼んでくれたのは、どういう理由で?」
ゲイルが揉み手で尋ねる
うむ、ゲイルのへりくだり方は素晴らしい
正に、敵を欺く忍びとしての矜持を感じる
「…お前が、何か仕事があれば呼んでくれと頼んだのであろうが」
「へっへっへ…、もちろんですよ。グロウス様とは知らない仲じゃない。報酬をはずんで頂ければ、満足させて見せますぜ」
「分かっていると思うが、ウルラ家にバレるわけにはいかんのだ。慎重にやる必要がある」
「それでしたら、考えがありますぜ。ナウカ領の斥候を見つけたと報告をしておけばどうでしょう? 鉱石竜の目撃場所周辺にブルトニア家の部隊がいる理由になります」
「ほぉ…、なるほどな」
「契約さえしてもらえれば、俺達はすぐに現地入りして調査を開始します。不自然にならぬよう、ブルトニア様は少しでも早く討伐を終えて屋敷に戻れるようにしなければいけませんからね」
「いいだろう、すぐに動け」
「では、報酬の方を…」
ゲイルがグロウスと話始めた
「…貴様ら、ちゃんと鉱石竜を見つけられるんだろうな」
グロウスの横に控えていた、明らかにBランクであろう騎士が口を開く
「斥候能力に関しては、フウマの里一を自負しております。お任せください」
マキ組長が答える
「鉱石竜は、グロウス様がずっと探し続けていたモンスターだ。この鎧があれば、グロウス様は社交界でより一層輝かれる。その重大性を理解しろよ」
「はい、もちろんでございます。ですが、私達は一般兵。討伐自体は騎士様やグロウス様に頼ることになってしまいます」
「はっ…、当たり前だろう。お前達斥候ごときに戦力などは期待しておらん。黙って鉱石竜を見つけさえすればいいのだ」
騎士は、馬鹿にしたように俺達を見下す
「了解しております。ご随意に」
うむ、マキ組長も忍びとしてちゃんと対応している
こいつらに怒りをぶつけたところで何も生み出さない
俺達はプロの忍びだ
…勝負は現場でつける
「…へっへっへ。ありがとうございます」
「発見できなければ、一銭も払わんからな」
どやら、グロウスとゲイルの交渉は終わったようだ
「では、我々マキ組は今日の夕方には現地入りします。そして、ナウカの斥候らしき者を見たとの報告を致しますので」
「ああ、分かった。私達は明日の朝にここを出発するからな」
「へ? 今日の夕方に出ないと、斥候の発見と時間差がありすぎて…」
「黙れ、ゲイル。たかだか一般兵が貴族に逆らうな、鉱石竜と戦うこともできないくせに。今日は、ドース様やフィーナ姫とのパーティーがあるから抜けるわけにはいかんのだ」
「…分かりました。それでしたら、報告は深夜にしましょう。グロウス様が出発する時間と合うようにしておきます」
「ああ、そうしろ。絶対に鉱石竜を見つけておけよ」
「もちろんでございます。その際の報酬は…」
「分かっている。さっさと行け」
そう言って、グロウスが手を振って帰るように示す
「はっ、では現地でお待ちしております」
そう言って、ゲイルは頭を下げた
帰りの車の中
俺達は無言でやるべきことを確認している
ゲイルは、あのにやけた顔がウソみたいに真剣に契約書を確認している
ジョゼはすでに街に出て行った
俺達は、廃校に戻るとすぐに鉱石竜探しのミッションの準備を行う
各種装備を身につけて部屋を出る
ルイとマキ組長も準備を終えて部屋を出て来た
「………」
ガラララ…
マキ組長が、空き室となったコウとヤエの部屋のドアを開ける
「…コウ、ヤエ、行ってきますよ」
静かな声で、マキ組長が言う
「ちゃんと見ていろよな…」
ルイが呟く
しばしの沈黙
俺達は仲間だった
マキ組と言う共同体の家族だった
家族のありがたさは、失ってから気が付くものだ
家族に対しての埋め合わせをさせる
それが俺達の仕事だ
「よし、行こう」
ゲイルは、校庭に車を用意して待っていた
マキ組長、ルイ、俺が車に乗り込む
…さぁ、出発だ
グロウス 七章 ~6 発掘進捗
敵討ち編の開始