八章 ~10話 引き抜き
用語説明w
装具メメント・モリ:手甲型の装具で、手刀型のナイフ、指先に鉤爪、硬質のナックルと前腕の装甲が特徴。自在に物質化が可能
ドース:クレハナのウルラ領の領主で、第二位の王位継承権を持つ。フィーナの実父
マキ組長:フウマの里マキ組の上忍、ノーマンの女性。二丁鎌を使う忍びで、武の呼吸を身につけている
ジライヤの使役対象である巨大なガマガエル
…ガマ仙人が、サンダーブレスの直撃によって吹き飛んだ
それと同時に、俺の感覚が元に戻る
どうやら、あのガマガエルが俺に幻術をかけていたようだ
ジライヤに一瞬の硬直
幻術から俺が復帰したこと
そして、ガマ仙人の存在を看破したこと
…その驚愕による、一瞬の隙を見逃さない
俺の体に叩き込まれた武の呼吸、殺意をジライヤに叩き込む
体重移動からのエアジェット
飛び込みながら、装具で固めた手刀による突き
喉を貫いてや…
「…っ!?」
突然、俺の前に割り込んだ影
ドッ……
「がっ……!!」
手刀をいなされ、水月に叩き込まれた膝
カウンターによる衝撃が腹筋を貫通、衝撃が内臓を押し上げたことで、俺の意識は一瞬でブラックアウト
その一瞬、マキ組長が俺を静かに見下ろしていたのが見えた
「…マキ」
ジライヤが、倒れたラーズとマキ組長を見る
「ジライヤ、あなたは術に頼りすぎです。忍術も遁術も幻術も、所詮は付加価値。修行が足りませんね」
「…わしは個人の戦闘力だけを重視していないだけだ」
ジライヤはそう言って、ドースの部屋に展開していた封印空間を解く
ラーズの暴走による被害が及ばないよう、戦いながらも展開していたのだ
「ドース様、ラーズのご無礼をお許しください」
マキ組長が頭を下げる
「…ラーズ君の言う通り、今回の全面戦争の被害は私達上層部の失態だ。君たちの仲間を失ったことも私の責任。どうすれば償えるかね?」
「ドース様…!」
ジライヤが言いかけるが、ドースは手でその言葉を制する
「それではお願いがあります」
マキ組長が言う
「うむ、私に出来る事なら言ってくれ」
「はい、それでは。…何もしないでください」
「何だと?」
「今後、ブルトニア家に対して、ウルラ王家は一切関知しないで欲しいのです」
「…」
………
……
…
マキ組が帰った後、ジライヤとドースは静かに椅子に座る
「…やられたな、ジライヤ」
「あの小僧、闘氣を貫きおった。…マキの言う通り慢心しておりました、少し鍛え直さなければなりません」
ジライヤは、回復薬で負傷した両腕を治療する
その腕には、打撲や切創が複数刻まれている
コンコン…
「お父さん?」
「フィーナか、どうした?」
フィーナがドースの部屋のドアを開ける
「さっき、封印空間の魔力を感じたけど…、ジライヤのもの? ラーズ達は?」
「もう帰った。話をしていただけだからな」
「え…」
「封印空間は、話を漏らさないようにしただけじゃ。念のためにな」
ジライヤは、そう言ってすっと席を立つ
「…」
フィーナは、モヤモヤを感じる
自分の知らないところで何かが起こっている
ラーズのことなのに、自分だけが除け者になっているような感覚だ
・・・・・・
俺は、マキ組長が運転する車の中で目を覚ました
「まもなく廃校に着きますので、寝ていてください」
「ぐっ…、はい…」
撃ち抜かれた腹が痛ぇ…
俺とマキ組長が廃校に戻ると、ルイとジョゼの車が戻って来ていた
「え、ゲイル!?」
そして、なんと入院していたゲイルが廃校に来ていた
「ゲイル、あんた体は大丈夫なのか?」
左腕を失い、点滴を付けたゲイルは苦しそうな顔をしている
「いや、また病院に戻ることになる。だが、やることが有るんだ」
「え?」
「では、手短に済ませましょう。…ゲイルはマキ組に移籍してもらいます」
マキ組長が椅子に座る
「ああ、分かった。組長に話してみる」
「その交渉には私も行きましょう」
「え!?」
急に移籍!?
ゲイルはマキ組と同じ、フウマの里に所属するテロイ組という忍者衆に所属していた
…コウとヤエの穴を埋めるためのヘッドハンティングだろうか?
必要な事だしゲイルが嫌と言うわけではないが、コウやヤエの話が終わってしまうようでちょっとモヤモヤする
「…これから、マキ組は謀反ともとれる行動をとります。その意味が分かっていますね」
「もちろんです。そのために、俺は移籍するんです。テロイ組に迷惑はかけられませんから」
マキ組長とゲイルが頷きあう
そして、ジョゼとルイも静かに頷いた
いやいやいや! ちょっと待てよ!
何をするんだよ!?
俺だけ置いてけぼり、全然話が分からねーよ!
いつの間に何が決まってたんだよ!
「ラーズ、何を不思議そうな顔をしているんですか?」
マキ組長が言う
「いや、説明して下さい!」
…俺は泣きを入れて、どうにか一から説明を受けることが出来た
「マキ組は、ブルトニア家を粛清します」
「え!?」
「そのための黙認をドース様とジライヤに取り付けました」
「………!」
「忍びとして、この戦争中に一度だけ暗殺を試みます。本当に一度だけのチャンス、失敗したらマキ組はウルラ王家に切り捨てられて処刑対象となるでしょう。そのリスクは、龍神皇国との関係の悪化ですから」
「確かに…」
ブルトニア家は、騎士である前に皇国の貴族だ
暗殺などされた日には、国家間の紛争になりかねない
「だからこそ、暗殺と見られない方法でブルトニア家を粛清する必要があります」
「それって、フィーナも知っているんですか?」
また、暗殺か…
フィーナが知ったらどう思われるだろうか?
だが、コウとヤエの仇は討つ
どう思われても関係ない
「フィーナ姫はブルトニア家との噂がありました。情報漏洩は致命的ですので知らせていません。知っているのは、マキ組とゲイル、そしてドース様とジライヤのみです」
「…」
そうか、フィーナはブルトニア家と…
貴族同志だからあり得るのか
それじゃあ、ジライヤとはただの同僚なのか?
「…すまない、俺の責任なんだ」
黙っていたゲイルが口を開く
「え?」
ゲイルは、静かに唇を震わせる
顔を手で覆い、静かに泣いていた
「あの周辺の部隊は、俺が指揮を執っていた。それなのに、俺はブルトニア家の動きに気が付いていなかった」
「…」
「ブルトニア家が勝手に撤退し始めていたのを察知したヤエが、単独でブルトニア家の説得に向ってくれていたんだ…!」
「ゲイル、その責任感は余計です」
だが、マキ組長がピシャリと言う
「え…」
「戦場では、自分の行動は自己責任。指揮官の指示に従うも、自分から動くのも同じです。そして、コウは自分で命を使い切り、ヤエはブルトニア家の説得に動いた。これも自己責任です」
「だ、だが、俺が指揮官としてブルトニア家に抗議をしていれば…!」
「その状況把握は、戦場ではほぼ不可能。それに、貴族に勝手に動かれたら、現場の指揮官程度ではどうしようもない。余計な責任感で頭のリソースを無駄に使わないでください」
「…!」
どこまでも冷徹に、マキ組長は言い切る
「せっかく、ヤエが情報を残してくれたのです。つまり正義は私達にあり、正義と言う立場は、暗殺を正当化してくれます。不必要な責任に悩む暇があったら、目的達成のための方法を全力で考えることに頭を使って下さい」
「あ…あぁ…、その通りだな」
完全に論破され、それでもゲイルの目には強い意志の光が宿った
そして、それは俺もルイもジョゼも同じだ
ヤエが残してくれた情報
俺達は、このミッションを成功させる
この情報は、その免罪符となるだろう
こんな情報を残すなんて、さすが諜報活動の専門家であるヤエだ
後は、残された俺達が情報を活かす
見ていてくれ、ヤエ、コウ
マキ組長とゲイルは出かけて行った
テロイ組とゲイルの引き抜きについて話を着けるそうだ
そして、ジョゼとルイは、情報拡散のために出かけて行った
自然と情報を流し、更に情報屋にも情報を流す
流す情報とは、鉱石竜の出現情報らしい
俺は、マキ組長に意識を飛ばされたこと、そして暴走してジライヤとやり合ったことでの倦怠感で、休養を言い渡された
申し訳ない…
だが、俺はインドア派の作業が嫌いではない
俺は装具の物質化を繰り返しながら、新機能を作るためにひたすら試行錯誤する
「ラーズ、ヤモリの手足の構造を模したグリッパーだ。参考にしてみろ」
「ありがとう、ジョゼ」
ジョゼが持って来たグリッパーは、ナノサイズの微細構造を持つグリップで、平面に着ければ貼りつき、角度を変えれば簡単にはがれる
これを触って、装具の指先に同じ構造を作り上げる…
だが、微細構造など触っても感じられないし、見ることもできない
その場合は、単純に装具の物質化を繰り返して、貼りつきやすい構造を見つけ出す
そして、少しづつ貼りつきやすい構造を探していく……
貴族であるブルトニア家に対して、俺達はそれぞれが静かに牙を研ぐ
分からせてやる、その時は近い
ガマ仙人 閑話12 内戦と密会
テロイ組、鉱石竜 七章 ~15 嫌な仕事
フィーナとブルトニア家 七章 ~6話 発掘進捗




