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八章 ~9話 責任

用語説明w

フィーナ:B+ランクの実力を持ち、漆黒の戦姫と呼ばれるウルラ最高戦力。仙人として覚醒、宇宙戦艦宵闇の城をオーバーラップ、更に複合遁術を習得した大魔導士。ラーズとの別れを選んだ

ドース:クレハナのウルラ領の領主で、第二位の王位継承権を持つ。フィーナの実父


ウルラ領内 灰鳥(あすか)



俺とマキ組長は、ドースさんの元を訪ねた

ルイとジョゼは、ゲイルの病室に残って何やらやることを言い渡されていた


久々の城は緊張する


フィーナに会いたいような、会いたくないような…



「行きますよ」


マキ組長は慣れているようで、入口の衛士に声をかけて入城の手続きをしている

俺はそれに続いた


以前はフィーナがいたため、こんな手続きは全部スルーしていた

ウルラ領の主城だけあって、入るには手続きが必要だったんだな


中に入って、ロビーでしばらく待っていると迎えがやって来た


「…待たせたな」


「いえ、こちらが急に来ましたから」


迎えとは、ウルラ軍のBランク戦闘員であり最高峰の忍者の一人、五遁のジライヤだった


「ドース様がお待ちだ」

ジライヤが城内を歩き出し、俺達はそれに従う



以前、パニン父さんが運び込まれたときは、城内の一階は病棟のようになっていた

しかし、全面戦争が終わったからか現在は通常の城に戻っている


本来の姿である政治の中枢として、多くの人が歩き回っていた


忙しそうなのは、ウルラの再建、ナウカへの侵攻、龍神皇国との折衝と、同時並行でいろいろな事案が進んでいるからだろう

今、まさにクレハナが変わって行く分岐点に時代が来ているのだ



「ジライヤ!」


聞きなれた声に振り返ると、漆黒の髪、真紅の瞳のノーマンの女性が階段から降りて来た


…フィーナだ


元気そうだな、全面戦争を終えても以前とあまり変わらないように見える


「フィーナ姫、どうしたのだ?」

ジライヤが答える


「コクルからの使者が今日の午後に………」

フィーナが、言いかけた言葉をそのままにピタリと動きを止めた


その理由は、現在進行形で俺と目が合っているからだろう


「………久しぶり、だな」


若干、声が裏返った気がするが、俺は平静を装いながら言う


「ラ、ラーズ!? ど、ど、ど、ど、ど、どうしてここに!」


「ドースさんに確認したいことがあって来たんだ。マキ組の…」


「違うよ! どうしてクレハナにいるのって聞いてるの! ミィ姉が、ラーズは帰るって…」


そう言えば、俺が帰るからと言って発掘の許可を取ったとか言っていたな

やっぱり、フィーナは勘違いしていたようだ


…というか、勘違いするのを計算づくで許可を取ったんだろうな


「…ミィには帰れって言われたよ。発掘が終わればクレハナに用はないだろうって」


「それなら、何でまだクレハナにいるのよ!?」


「俺は発掘の他にもクレハナでやりたいことがあっただけだよ」


「な、何なの、それは?」


フィーナが俺を問いただす

だが、ジライヤが割って入った


「フィーナ姫、悪いがドース様の取れる時間は少ない。もう行くぞ」


「お、お父さんと何の話を? …私も行く」


「ただの確認だ。フィーナ姫には関係ないし、そもそも時間がないのだろう?」


「あ…」


「フィーナ姫は自分の仕事を進めてくれ」


そう言って、ジライヤはフィーナを置いて歩き出す

俺達もそれに倣った



「…」


ジライヤとフィーナはどういう関係なんだろうか?

ずっと一緒にいるし、どう見ても仕事以上の関係に見える


はぁ…

元カノの人間関係が気になるとか、俺は小さい人間だよ…



ドースさんの部屋の扉をジライヤがノックする

すると、ドアが開いてドースさんが中へ迎え入れてくれた


「やぁ、よく来てくれた。全面戦争では、マキ組の機転によって勝利を勝ち取ることが出来た。君たちは影の英雄だ」

ドースさんが言う


「忍びは英雄とはなりません。そんなことよりも、確認したいことが有って来ました」

マキ組長が答える


「うむ、ブルトニア家のことだな」


「はい。ウルラ軍の記録を集めて、真相を解明して頂きたいのです」


マキ組長は、ゲイルの証言を反映させた戦場の地図に死者数を表したものをモニターに表示する


「ジライヤ、どうなのかね?」

ドースさんがジライヤに確認する


「はい、間違いはありません。ブルトニア家は、ドース様が流した連合軍が崩れるというまで耐えろと言う指令の後、形勢が悪いとみるやすぐに自己判断で撤退を行いました。Bランクの火力を突然失ったウルラ軍の戦線は崩壊、横腹を突かれた味方部隊は大打撃をうけ、周囲の部隊がかなりの被害を出しています」


「なぜ、そのことが発覚していなかったのですか?」

マキ組長が尋ねる


「まずは全面戦争の全体的な被害が多すぎたことだ。それぞれの戦闘の検証が出来ていない。更に、ブルトニア家は連合軍が崩れたのを確認すると一気に侵攻、あの一帯の敵を撃ち破っている。正直、激戦の末にあのエリアをもぎ取った立役者だと思っていた」


「…」


勝利した場合でも、それが素晴らしい作戦だったとはかぎらない

勝利イコール称賛となりがちだが、そうなると問題点が指摘されず、後の戦いに悪影響が出ることになる


…例えば、このクソ貴族を今後も戦闘で使うかどうかは、ウルラ軍にとって重要だ

必要な時に必要な戦いをしない、それは勝ち負け以前の問題だからだ


「まさか、命令違反をして勝手に戦線から下がっていたなどとは思いもしなかった。実際は、保身に走って被害を拡大させた臆病者で大罪人だ」

ジライヤが眉間にシワを寄せる


なるほど、ブルトニア家は何もしなかったわけではなかったのか

むしろ、最後に攻め込んで目立ったからこそ、命令違反が表沙汰になっていなかった


実際は、一般兵や傭兵を囮にし、ウルラ領民を見捨てた卑劣な撤退だったというのに




…仲間を見捨てたこいつら、絶対に許せない



心の奥底から、何かが湧き上がってくる


ドス黒い衝動が、俺の体の中を侵食していく



俺の仲間は、こんなどうしようもない理由で死んだのか


俺の仲間は、こんなクソみたいな理由で殺されたのか



クソが


クソ共が…!



「やはり、貴様は獣だな」


そんな俺に、ジライヤが軽蔑したかのような目を向ける



「…あ?」


喧嘩売ってやがるのか?



「戦場では、貴様のように復讐に身を投じる馬鹿が出る。そして、決まって破滅へと突き進むのだ」


「…お前に何が分かる! 仲間を失ったんだぞ!? 復讐を考えて何が悪い!」


「そして、怒りで突っ走るのか? それでは誰も救われん。むしろ…」


「てめぇは馬鹿なのか!? そもそも、これはお前らの失態だろうが!」

俺は、我慢できずにジライヤを怒鳴りつける


「何だと!?」


「今回の全面戦争で何が起こったと思ってやがるんだ! ナオエ家の裏切り、ブルトニア家の命令違反、管理する側のお前らの管理不行き届きだろうが!」


「貴様、何を言っているのか…」


「お前は会議室で戦争しているのか! 現場で何人の兵士死んだと思ってやがるんだ!ナオエ家とブルトニア家がまともだったら、何人が死なずに済んだんだ! 全部全部全部! てめぇらの責任だ……!」


「小僧、言わせておけば…!!」

ジライヤが怒りに顔を歪めた



一瞬の殺気


刹那の交錯



ガキィッッ!


俺の装具とジライヤの忍者刀が甲高い音を響かせる



「…ぁぁぁあああっ!!」


その瞬間、俺の意識はドス黒い衝動に塗りつぶされる



それは俺の中から噴き出た何か


ドス黒い哀しみと怒りの色



殺す!


殺してやる!


このクソみたいな理不尽が許せねぇっっ!



「………!」


高速立体機動



装具の拳、手刀


流星錘の叩きつけ



超近接戦闘


全身を駆け巡る感情を叩きつける



破壊衝動


壊したい


砕きたい


引きちぎりたい



「ぐっ…、お前…!?」


ジライヤは闘氣(オーラ)を発動、強固な防御力を展開



だが、関係ない


構わず装具の拳を叩きつける


超高密度の連撃



「…っ!!」


ジライヤの顔が歪む



どうした?


まだ終わらせない


お前が壊れるまでぶっ叩いてやる!



「…っ!?」


突然、俺の目の前が歪に変形

遠近感の消失、色彩の減退…



これは、あの時の感覚


忘れていない、敗北の味


クレハナに入国した直後、空港で不覚を取ったあの時の感覚だ



明滅する光、甲高い音、鼻を突く化学物質

そして、精力(じんりょく)によるテレパスハック


俺の認知機能を侵食する、精神属性効果と催眠作用の併用か



俺のアクセサリーである、絆の腕輪が仄かに光る



「………!!」


リィの泣き声が、俺の頭の中で大きく響く



引き戻される意識


歪んでいた景色が、一瞬だけ元に戻る


感じる気配


敵の位置を把握



「フォウル!」


俺の叫びと共に、絆の腕輪で思念を受け取ったフォウルが動く



一瞬にして巨大化、ジライヤの後ろにいた存在に対して口を向ける


俺の切り札、サンダーブレスがほとばしる



バリバリバリーーーーーーーーーッ!!!


「ゲゴォォォッッ!!?」



凄まじい雷撃に晒され、透明だった何者かが姿を現す


それは、口ひげが生えた巨大なガマガエルだった



敗北 六章 ~12話 クレハナでのフィーナ

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― 新着の感想 ―
[一言] 二度も同じことが通用すると思うなよ(ノ*°▽°)ノ
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