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八章 ~6話 疑問点

用語説明w

装具メメント・モリ:手甲型の装具で、手刀型のナイフ、指先に鉤爪、硬質のナックルと前腕の装甲が特徴。自在に物質化が可能


マキ組長:フウマの里マキ組の上忍、ノーマンの女性。二丁鎌を使う忍びで、武の呼吸を身につけている。

ルイ:マキ組の下忍、赤髪の獣人男性。スナイパー技能に長けている

ジョゼ:黒髪のエルフ男性。情報担当と事務を行う非戦闘員、整備などもこなす


「…」


俺は、廃校の校舎を見上げる


木造の二階建ての構造

廃校だが塗装がしっかりとされており、メンテナンスは行き届いている



「ラーズ、何をやっているんだ?」


「あ、ジョゼ。…ちょっと、装具を改造しようと思ってさ」


「装具って、腕に出しているやつだろ?」


「ああ、俺の装具、メメント・モリだ」


俺は二―ベルングの腕輪に精力(じんりょく)を送って装具を物質化させる


チャクラ封印練のせいで、俺の体からは常に霊力と氣力が発散されてしまっている

だが、この腕輪がそれらを溜めてくれるおかげで、俺は装具を使うことが出来るのだ


「完成したんじゃなかったのか?」


「完成はしたんだけど、装具は好きな形に変化させられる。もう少し手を加えたいなって思ってさ」


装具メメント・モリは、前腕を覆う装甲、固めた拳、指先に収納可能な鉤爪、そして手刀型の刃物を構造として持っている

そして、発想と反復練習次第で、更に新たな機能を付け加える拡張性もあるのだ


「校舎を見上げて、どんな機能を追加するつもりなんだ?」


「…まだアイデアが無くてさ、相談に乗ってよ。この校舎の壁面を登ったり貼りついたりする機能があったら便利なんじゃないかなって思ってるんだ」


「壁面を?」


「前回の出撃要請で壁を降りたんだけど、鉤爪だけじゃ安定しなくてさ。壁や天井に貼り付ければ、高速立体機動にも生かせるかもしれないしからさ」


「なるほどなぁ…。壁に張り付く…、接着剤みたいなもの、磁石…」


「理想論だけど、材質を選ばず、すぐに剥がせるというか離れられるようなのがいいと思うんだ」


「貼りつくとしたら、ナメクジ、タコ、蟻、ヤモリ…」


「何それ?」


「生物界には、壁に張り付く先輩方がたくさんいる。その構造をそのまま真似すればいいんじゃないか?」


「なるほど…」


ナメクジは粘着物質か?

痕跡が残るし、物質を生産する構造を作り出すのは装具ではきつい


蟻などの昆虫は、爪をひっかけてるのか?

良く知らないけど、爪はもうあるから却下


そうなると、タコの吸盤にヤモリか…


「タコは吸盤か…」


「そうだろうな。くっつく材質は選ばないんじゃないか?」


「…ヤモリって、どうやって壁にくっついてるんだ? あれも手足に吸盤でもついてるのか?」


「いや、ヤモリはファンデルワールス力でくっついていると思ったぞ?」



ファンデルワールス力


分子間力と呼ばれる引力であり、その名の通り分子同士を引き付け合う力

ヤモリの足裏にはナノサイズの毛が高密度に存在し、壁面にこの毛がかみ合うとでファンデルワールス力によって貼りつく


ファンデルワールス力は通常は意識されない弱い力だが、超高密度の膨大な量の毛のそれぞれにファンデルワールス力が働くことで、強力な粘着力を生む



「ヤ、ヤモリってそんな凄いくっつき方してたのか!?」


「この構造を使った人工的なグリップを作ることにも成功している。剥がすのも容易だし材質も選ばない、試してみればいいんじゃないか? タコの吸盤と併用してもいいし」


「そうだな…、ちょっと調べて試してみるか」


目に見えないほどの微細な毛って、装具として再現できるものなのだろうか?

だが、壁に貼り付けるのはなかなかに魅力的だ


ちょっと研究してみよう




・・・・・・




マキ組長が帰って来ると、俺達を集めた


「ヤエの件で、確認したいことがあります」


「はい?」


マキ組長が、資料をモニターに表示

そして、印刷された紙を広げる


マキ組長がウルラ軍本部から得た軍事情報だ


「結論から言うと、私達は解明しなければいけない問題に直面しました」


「え?」


マキ組長の言葉に、俺達は顔を上げる


マキ組長が、領境の地図を広げる

そこには付箋がはられ、数字が書き込まれている


ウルラとナウカの領境を中心に、東西に広がった戦場

付箋の数字は、全面戦争での戦死者の数字のようだ


ナオエ家が裏切り、不意を突かれて死傷者が多数出た場所

そして、ドミオール院の周辺に、付箋がいくつも貼られていることから明らかだ

…そして、その数字にはコウとヤエも含まれている



「マキ組長、解明しなければいけない問題とは?」

ルイが尋ねる


「…この地図を見て、何か疑問を持ちませんか?」

マキ組長が俺達の顔を見回す



領境の戦場


ナオエ家が裏切った場所、ドミオール院周辺の激戦区

戦場と死者数の統計は、特に間違っていないように思える


「…?」

俺達は、地図を前に首を傾げる


うん、全然分からない


「では、説明します」

マキ組長が口を開いた


「この地図では、お分かりの通り死者数が多い所に付箋を貼って数字を書き込みました。このデータは、ジライヤ経由でウルラ軍から得た物ですのでだいたいは合っているでしょう」


「はい」


だから、マキ組長とジライヤってどういう関係なの?


「戦死者は全体的に多いのですが、他の場所よりも明らかに多い場所が二つあります」


「ここは、ナオエ家が裏切って攻撃した場所ですね?」

ジョゼが指で示す


「そうです」


「こっちが、コウとヤエが死んだ、ドミオール院に迫った戦場」

ルイが言う


「ええ、激戦区となった場所です。戦死者が多く、それはデータ上でも間違っていません」


「…特に、問題は無いように思えますが?」

俺はマキ組長を見る


「いえ、大有りです」

マキ組長が言い切る


え?

どこに疑問点が?


「…ナオエ家が裏切り、その影響で周囲の隊列が崩れました。そして、この中央部から広範囲に連合軍の侵攻を許したことで、全体的に死傷者の数が増えています」


「はい」


「…このドミオール院の周辺のエリアも、その影響で死傷者が増えています」


「激戦区になったと、集落の住民も話していました」

聞き込みを行っているジョゼが言う


「では、質問です。なぜ、この集落周辺が激戦区になったのですか?」


「…え?」


「この集落は、ナオエ家が裏切った場所から少し離れています。一番押し込まれた場所は、ナオエ家が裏切った直近の場所であるはずなのに、どうしてこの場所が?」


「…っ!?」


「私達が解明すべき問題とは、そもそもどうしてコウやヤエがいる場所が激戦区になってしまったのか。どうして他の場所よりも連合軍の侵攻を許してしまったのか。この点です」


「………!」


そ、それは発想が無かった


確かに、どうしてドミオール院の集落周辺だけ不自然に連合軍に侵攻されたのか

他の場所では、そこまで侵攻を許してはいないのに


この地区だけが不自然に被害が大きくなってしまった原因は何なのだろうか?

ナオエ家の裏切りのような、合理的な理由が見当たらないのだ


「この問題は、ウルラ軍でも問題になっていました。現在検証中ですが、当時の全面戦争の戦場が混乱しすぎていて調査が進んでいないのが現状です」


「…」


「…引き続き、私達はコウやヤエと戦っていた兵士の生存者を探す必要があります」


「はい」


「ジョゼは、また病院等の聞き込みを。ラーズとルイは集落の聞き込みをしてください」



改めて見ると、不自然なほどに連合軍の侵攻を許してしまっていた場所

それが、コウとヤエが死んだ場所だ


俺達は、仲間の死の真相を探るため、動き出した





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― 新着の感想 ―
[一言] 確かに鉤爪よりはるかに痕跡が出ないね。
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