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八章 ~5話 コウの戦い

用語説明w

コウ:マキ組の下忍、青髪の魚人男性。補助魔法である防御魔法、そして銃を使う。全面戦争にて戦死した


ヤエ:マキ組の下忍、ノーマンの女性。潜入に特化した忍びで戦闘力は低い。回復魔法を使うため医療担当も兼務。全面戦争にて戦死した


俺達が廃校に帰って来ると、マキ組長とジョゼも帰って来ていた


「マキ組長、戻りました」


「ラーズ、ルイ、お疲れさまでした」


俺達は、今回の出撃の成果を報告する


「ウルラ軍からは、ミッション成功の連絡を受けています。ラーズが拘束した男も無事に確保したようですね」


どうやら、すでにウルラ軍の特務部隊があの部屋に向かったようだ


あの男はどうなるんだろうか?

仕事と割り切ってやってはいるが、変な事の片棒を担ぎたくはないな



「ラーズ、ルイ。コウと一緒に戦っていた兵士が見つかったんだ。今日の午後にここに来てくれるから、話を聞く」

ジョゼが言う


「見つかったのか!? 分かった」


コウと一緒に戦っていた兵士か

ヤエのことも見ていればいいんだけどな



午後まで、しばらく時間はある

俺とルイは、徹夜明けで腹がへっていたため朝食を取る


その後、ルイは仮眠を取ると言って部屋に戻った

俺はなんとなく校庭に出て錆びた朝礼台に腰かける


フォウルとリィが、また空を飛びながら遊んでいる


全面戦争前は、よくこの朝礼台でコウやヤエと話をしたな…



「…」


俺の手には、ヤエの部屋にあった峨嵋刺がある



俺が装具の構造を考えていた時、ヤエが見せてくれた


手の平に隠すため、中指に通すリングが付いた鉄の棒

刺突、点穴、そして掌で攻撃を受けることもできる暗器だ


俺も忍びの一員となった今、この暗器と言う特性がほしい


つまり、一見武器に見えなかったり、隠すことが出来る武器

そんな構造を装具に導入できないだろうか?


俺の装具は、前腕を覆う手甲型

この手甲に暗器を仕込む


手刀や拳と言うメイン武器に、可能ならある程度の射程を持つ武器が欲しい



「…何で俺は暗殺のための武器を考えているんだ」

ふと、我に返る


俺は兵士であり、通常は銃やモ魔という遠距離武器を使っている

対モンスター戦では1991がある


俺の装具、メメント・モリは、あくまでも保険用

メインで使うなんて状況は、暗殺等の汚れ仕事でこそだ


だが、これからどんな状況で戦うかは分からない

備えはしておくに限る


…それに、俺にはこういう汚れ仕事がお似合いだとも思える




・・・・・・




午後になると、一人の女性がやって来た


「ようこそ、マキ組へ。今日はありがとうございます」

マキ組長が挨拶をする


「いえ、私でよければ。ウルラ軍東方支部旅団所属、兵長のピチャナです」


この人が、コウと一緒に戦っていた兵士

女性だったのか


ピチャナは魔族の女性だ


「東方支部旅団と言うことは、スワイプ軍曹の?」


「はい、私はスワイプ軍曹の部下となります。あの場所は東方旅団の管轄区であり、私達は全面戦争の初期からあの場所で戦っていました」


「コウと一緒に戦ってたいのは間違いありませんか?」

マキ組長がコウの写真を見せて確認する


「…はい、間違いありません。ナオエ家の離反によって隊列が崩れ、私達東方旅団のエリアは連合軍の侵攻を最も受けた地区でした。コウさんは、離反後に増援のために駆けつけてくれた部隊の一人だったと思います」


マキ組長が頷く



ピチャナは話始めた


当時、混戦の坩堝であったドミオール院の北側のエリア

スワイプ軍曹やピチャナたちの部隊は窮地に陥っていた


次々と攻めてくるナウカ・コクル連合軍の攻撃に、徐々に後退をを余儀なくされていたからだ


だが、このエリアにはBランクを擁するブルトニア家が配置されていた


更に、しばらくすると本部からの指令が来た

周囲からかなりの部隊を回してくれているとのことだった


ナオエ家の謀反による攻撃で周囲の部隊は壊滅した


しかし、早期にナオエ家の撃破に成功、フィーナ姫の宵闇の城の戦力によって隊列が崩れ切る前に敵の侵攻を一時的に阻止

大ダメージを受けたが、かなりの速度でリカバリーが出来たのだ


しかし、一度攻め込まれた分、東方旅団のエリアは劣勢を強いられた

勢いづく連合軍を止め切れていなかった


そんな時、ウルラ軍本部から全軍に指令が来たのだ


その指令とは、


「連合軍が間もなく崩れる。混乱に乗じて特攻をかけろ」

そして、

「連合軍の増員、追撃はない。リスクを負ってでも深追いする」



この指令によって、東方旅団と増員された兵士達は決死の戦いに臨んだのだ



「さ、支えきれません! このままじゃ壊滅だ!」


「弱音を吐くな! まだ最前線で戦ってくれているんだぞ!?」


「で、でも、もう兵力が! 敵もすぐそこまで…!」


「この後ろはウルラ領民の集落だ! ここが最終防衛線だ、領民を守れ!」


「く、くそーー! ナウカのくそったれ共め! 死んじまえーーー!」



味方の戦車、MEBはとっくに破壊されていた


生き残った兵士達で、塹壕を駆けながら撃ち続ける


弾が切れ、死んだ兵士の銃を取る



魔導士が死んでいき、範囲魔法が枯渇


接近されれば、容赦なく塹壕内に敵の範囲魔法が発動する



あのエリアには、連合軍の戦力が集中していた


次々と攻撃を受けて、部隊は壊滅


耐えられたのは、増援を送ってもらえていたから



凝縮される死


疲労を感じる暇もない


いつ死んでもおかしくない


それなら、一発でも多く弾を撃つ


魔法を撃つ、グレネードを投げる



それでも、押し込まれていく


増援が間に合わない


皆の心が壊れて行く


湧き上がる、絶望と諦め…



「うおぉぉぉぉっ!」


「…っ!?」



そんな時、一人だけ敵に突き進む兵士がいた



「馬鹿野郎! 一人で突っ込むな!」


「ここで下がれるわけねーだろ! 後ろには住民がいるんだぞ! 前に出ろ!」


それは、コウだった


コウは、一人土壁を作って前に出る

そして、ロケットランチャーを撃ちこみ、防御魔法を何度もかけながら敵の部隊に攻撃を仕掛けて行った


「その力は明らかに異常、おそらく何かの薬物を使っていたのだと思います」

ピチャナが言う


コウは、疲れを知らないかのように走り続けた

そんなコウの後ろ姿につられるように、他の兵士もまた攻撃を始めたのだ



「ルイ、コウの使った薬が分かりますか?」

マキ組長が言う


「…おそらくですが、ヤエが調合した興奮作用のある経口薬だと思います」


ヤエは男を堕とす際に数々の薬物を併用していた

ヤエはコウとルイに、追い詰められた時に使える薬を渡していた


興奮作用と鎮痛作用を持ち、一時的に疲れや痛みを忘れて動き続けることが出来る薬

その主成分は強力な麻薬であり、服用すれば強い副作用を生じる


しかし、死が迫った戦場では使う価値を持つ薬だ


ルイはスナイパーとして従事する時に集中力を高める薬剤を使っているが、これもヤエから教わったものらしい



「コウさんは銃弾を受けていたようでした。しかし、それでも戦いを止めなかったんです」

ピチャナが言う


「コウさんの奮闘は、私達に勇気をくれた。なんのために戦っていたのかを思い出せてくれたのです。あの場所にいたウルラ軍、忍び、全ての戦士たちは、我先にと前に出て戦い続けた。おかげで、あの奇跡が起きるまで耐えきることが出来ました」


ピチャナは一気に話し終えると、静かに息を吐いた



…そうか、あの場所で戦っていた全ての人達のおかげでドミオール院は救われたんだ


あそこで耐えてくれていなかったら、スタンピートも意味が無いものになってしまっていた



「ピチャナさん、話してくれてありがとうございました。今、スワイプ軍曹は?」

マキ組長が、ピチャナさんに水を出す


「…あの戦闘で、殉職されました」


「そうでしたか…」


スワイプ軍曹もか…


あそこでは、敵も味方も死に過ぎた

一体、どうして俺達は…


「ピチャナさん。あそこには、コウの他にもう一人、マキ組の組員がいたのです。この女性を見ませんでしたか?」

マキ組長がヤエの写真を見せる


「この人は…。確か、一度コウさんが戦闘中に話していた…」


「見たのですか?」


「多分ですけど。でも、戦闘が激しくなった頃にはどこかへ行ってしまいました。後衛職のように見えましたから、戦線が下がって来る前に後方へと移動したのだと思いましたけど」


「そうですか…」


「そう言えば、何か慌てた様子でコウさんと話していた気がします。何を話していたのかは分かりませんが」



…俺達はピチャナにお礼を言って見送った


コウはよく頑張ってくれていた

ドミオール院のため、ウルラ領民のため


誰かのために戦えるということは、本当にかっこいいことだと思う



スワイプ軍曹 六章 ~35話 発掘計画inクレハナ

ヤエの薬物 六章 ~21話 忍術の修行

ルイの薬 六章 ~13話 爆弾と狙撃



明日は閑話です

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― 新着の感想 ―
そうか、コウは格好良く戦って死んだのか。良くないが良かった。
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