八章 ~3話 新たなる力とリスク
用語説明w
真・大剣1991:ジェットの推進力、超震動装置の切れ味、パイルバンカー機構、ドラゴンキラー特性を持つ大剣、更に蒼い強化紋章で硬度を高められる
マキ組長:フウマの里マキ組の上忍、ノーマンの女性。二丁鎌を使う忍びで、武の呼吸を身につけている
「…」
俺は車を運転している
その助手席にはマキ組長
行くところがあると連れ出されたのだ
てっきり、すぐにヤエの調査をすると思っていたんだけどな
「ヤエの件は、すでにジライヤに依頼しました。後は待つだけですので、先にやるべきことをやりましょう」
俺の気持ちを察したのか、マキ組長が言う
前から思っていたけど、マキ組長とジライヤってどんな関係なの?
「俺達はどこに向ってるんですか?」
「ウルラ軍の捕虜専用の軍病院です」
「捕虜?」
ウルラ王家は、ナウカ・コクル連合軍の捕虜を可能な限り保護している
龍神皇国の援助を得て、新たな医療設備を作っているほどだ
ウルラ領民にとって、敵である連合軍の治療をすることが酷であることを理由に、龍神皇国の医療従事者が担っている
身内を失った者も多い中、仕方がないことだとは思う
これから向かう病院は、その中でも厳重に警備を行っている最重要施設のようだ
「そこで、生き残った連合軍のBランク戦闘員が治療を受けています」
「…Bランク!? 何でそんな場所に行くんですか?」
「目を覚ましたと連絡を受けたのです。…あなたが保護された場所で捕虜となったBランク戦闘員が」
「え…?」
俺が保護された場所
俺は、全面戦争の起死回生のために蟲の大軍を引き連れて戦場を横断、ナウカ軍に突っ込んだ
しかし、その後に三人のBランク戦闘員に補足されてしまった
敵陣のど真ん中に突入したのだから、補足されるのは当たり前のこと
そして、一般兵の俺とBランクの能力差は絶望的、包囲された状況から逃げる切ることは不可能と判断した
剣使いのBランク一体にフル機構攻撃を叩き込んで倒すことに成功したが、残りの二人に対してはフル機構攻撃を当てることも厳しい
そもそも、防御を固められたらフル機構攻撃でさえ倒しきれない
…俺の死は確定した
どうせなら足掻いてやる
俺は覚悟を決めて最後の勝負に出た、そのはずだったのだ
だが、俺はなぜか侵攻して来たウルラ軍に生きて保護された
そして、その側には、斬撃を受けた連合軍のBランク戦闘員が倒れていたらしい
フル機構攻撃の薬莢も使いきっていたため、闘氣を切り裂くなんて俺には不可能なはずなのに、だ
「そのBランク戦闘員が意識を…?」
「そのようです。今から、ラーズがどうやってあの状況を生き残ったのかを聞きに行くのです」
「…っ!?」
確かに、コウとヤエの件で有耶無耶になっていた
俺がどうやって生き残ったのかを知りたい
…まさか、突然現れたヒーローが助けてくれたとか言わないよな?
捕虜専用の病院は物々しい雰囲気だった
見張りが何人もいる
そして、その見張りにはBランク戦闘員もいた
まるで、あの施設のようだ
少しだけ嫌な気分になってくる
牢屋のような作りの病室にはベッドが複数置かれており、患者兼捕虜が入院していた
そして、俺達が案内された病室は最奥の区画
この病院で最も警戒度が高い、Bランクの捕虜専用の病室だった
「Bランク戦闘員の患者です、お気を付けください」
「分かりました。ありがとうございます」
ウルラ軍のBランクである男性戦闘員が丁寧な口調で説明してくれた
Bランクの捕虜にはBランクの戦闘員が監視にあたる
Cランク以下の一般兵には、Bランク戦闘員を抑えることができないからだ
病室には男女の戦闘員がベッドに横になっていた
「男の方が斧使いのヒサト、女の方が鬼憑きの術を使う魔人マイメラです。Bランク戦闘員ですが、心臓にペースメーカー型の拘束具を埋め込んでおり、暴れれば心臓を刺激して動きを拘束。緊急時には爆発により心臓を破壊します」
なるほど、やはりBランクを拘束するためにはこれくらいのことが必要になるんだな
「話すことはできますか?」
マキ組長が聞く
「彼らは重症です。短時間でお願いします」
見張りの戦闘員が頷いた
俺達はベッドに近づく
「あっ…!」 「お、お前…!?」
二人が俺を見るなり体を強張らせる
え、何その反応?
ちょっと傷つくんだけど
「あなたたちが交戦したのは、トリッガードラゴンと呼ばれるウルラの兵士です」
マキ組長が俺を示しながら言う
「トリッガードラゴン?」
「確か、召喚したグレーターデーモンとやり合っていたとかいう…」
二人が顔を見合わせた
「このトリッガードラゴンと交戦した時の状況を聞きに来ました」
「え…?」
二人は意味が分からないという顔をする
しかし、捕虜の自覚はあるようで、素直に話し始めた
「正直、私達はあなたを舐めていた。…闘氣を使えないと判断していたから」
「剣使いのジギがやられて、俺達は本気になったんだ。まさか、一般兵があれだけのスピードと闘氣を貫通するほどの火力を持っているとは思わなかった」
「ジギの剣を躱し、ヒサトの斧を避け、二人に大剣の強力な一撃を入れた。あの超高速の動きと……」
「いや、そこらへんはいいって。あんたら二人と戦った時のことを教えてくれ」
話が進まねーよ
俺はどうやって生き残ったのかを知りたいんだよ!
俺に記憶が残ってないことを知らない二人は、不思議そうな顔をしている
「戦いの時のこと? …私達は、虫の大軍の対処に向かうために、あなたを仕留めようとした」
「そうしたら、あんたの額に光る印が現れて…」
「ええ、そうね。あの印って紋章か何かかしら? アレが光った瞬間に、あなたが獣のように襲い掛かって来たの」
「印…?」
まさか、セフィ姉の呪印…!
竜族の呪印のことか!?
「呪印ですか…」
マキ組長が呟く
「え、何で呪印のことを!?」
マキ組長には言ってなかったよね?
「セフィリア様から聞いていますよ。ラーズの修行に必要な事ですから。…それで?」
マキ組長が続きを促す
しれっと言いましたけど、修行に必要ってどういう意味ですか?
「えーと、最初にヒサトが大剣で斬りつけられたわよね?」
「ああ、俺は一度攻撃を受けたから威力は把握していた。だから、闘氣を全開にして攻撃を受け止めて仕留めるつもりだった。あんたのスピードは厄介だったからな」
「…それから?」
「だが、あんたの大剣は俺の闘氣を切り裂いた。俺は想定外の攻撃をまともに受けて、一撃で戦闘不能にされたんだ。…たまたま即死は免れたがな」
「闘氣を斬り裂いただって?」
「私はあなたが闘氣を使えるのに隠していたと咄嗟に判断して、私の鬼憑きの力である天女の風属性魔法を放った。そうしたら、直撃したあなたが吹き飛んだの。あなたの闘氣は防御としては機能していなかった…と、思う。結局私も結論が出る前に戦闘不能にされたわ」
「…」
「あなたのあの力は何? 闘氣ではないの? どうやって私やヒサトの闘氣を斬り裂いたの?」
「紋章の力だとしても、闘氣を斬り裂くほどの紋章なんて聞いたことがない。だが、俺達二人の闘氣を破ったのは事実だ。それに、ジギの闘氣も破っている」
「確かに、闘氣の気配はなかったわ」
「マイメラはどうやってやられたんだ?」
「トリッガードラゴンが理性を無くしたかのように暴れ出して、最後にはあの大剣で切られた。あれだけ暴れていたトリッガードラゴンに、どうして殺されなかったのか不思議なくらいよ」
どうやら、この二人はフル機構攻撃と呪印の力を混同しているようだ
捕虜にわざわざ情報提供する理由もないから黙っておこう
俺達は、病院を後にする
「…ラーズ。忍術に続き、修行を次の段階に進める必要があります」
「え?」
「ヤエの調査と並行してやって行きましょう」
「は、はい」
…まさか、呪印が発動していたとは
だが、セフィ姉の言っていた通りだ
竜族の呪印のデメリットである暴走
確かに、完全に記憶がない
理性が飛んでしまったようだ
これでは、トリガーと同様に新たなリスクとなってしまうのではないだろうか?
やっとトリガーの暴走が抑えられてきたっていうのに
俺は、新たな暴走のリスクに恐怖を感じた
呪印 六章 ~2話 竜族の呪印