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八章 ~2話 音声ファイル

用語説明w

マキ組長:フウマの里マキ組の上忍、ノーマンの女性。二丁鎌を使う忍びで、武の呼吸を身につけている

ルイ:マキ組の下忍、赤髪の獣人男性。スナイパー技能に長けている

ジョゼ:黒髪のエルフ男性。情報担当と事務を行う非戦闘員、整備などもこなす


ヤエとコウを見送った


哀しみはある

だが、まだ内戦は終わってはいない


ナウカ軍が撤退し、領境での占領ではまだ大規模な戦闘が起こっていない

しかし、それもナウカ・コクル連合軍の再編までだ


ウルラ軍の侵攻が進めば、当然戦闘となる

間もなくマキ組にも出撃要請が来るだろう



「ラーズ、これを使ってみないか?」


「ジョゼ、それって何?」


ジョゼが渡して来た物は、小さなボンベだった


「コウの私物だ。高圧封入武器用の炭酸ガスだな」


「高圧封入武器…」


俺達は、コウとヤエの部屋を片付けている

寂しいが、戦闘に従事する身としてはやらなければいけない


部屋を開けなければいけないし、整理も必要だ



「コウ、いろいろと考えていたみたいだな。この設計図なんて、高圧氷結爆弾の設計図だってよ」


「氷結爆弾って何?」


「超高圧のガスを封入した爆弾で、その容器を投げつける。容器が壊れて高圧の気体が開放されると、圧力の低下によって一気に温度を下げて周囲を凍結させるって感じかな。高圧封入武器の規模を大きくした爆弾版だ」


「へー、コウもいろいろ考えてたんだな」


普通に考えれば爆弾の方が威力は上だろう

だが、強固な装甲を持つ戦車やMEBに使えば、温度差で装甲をもろくしたり、温度によっては操縦者を低温で殺傷できる可能性もある


更に、火属性モンスターや液体の体を持つモンスターに対して必殺の武器ともなり得る

作成にはコストがかかりそうだが、こういう新しい発想は大切だ


気圧差の変化を利用した温度変化

この現象を物理的なアイテムで実現することで、魔法や特技(スキル)と併用することもできる


更に、究極の忍術と呼ばれる環境変化を利用した忍術にも応用できるかもしれない


コウとは、あまり武器の話はしてこなかった

もっと、コウと話しておきたかったな…



ヤエの部屋の片付けも終わった


覚せい剤、幻覚剤、向精神薬、眠剤、麻薬…、ヤバそうな薬がずらりと出てくる

そして、前に見せてもらったガビシ、そのほかの暗器


化粧品、アクセサリー、衣装

潜入で使い分けるためのグッズ

ヤエが、スパイとしての研鑽を重ねていたことが伝わってくる


更に、ヤエはプチサイバネ出術を受けており、肋骨にボイスレコーダー、指先に小型カメラを仕込んでいた


情報は、武器よりも大きな力を持つこともある

ヤエが得て来た情報は、ウルラ領の大きな力となっていたはずだ

更に、戦闘でも回復魔法を使えるため貢献度は高い


…コウとヤエ、共にかけがえのない仲間だった



「これで一段落ですね」

マキ組長が言う


「後は、この私物をどうするかですが…」

ルイが、コウとヤエの服を段ボールに入れて積み重ねた


「武器はしばらく保管しますよ」

ジョゼが、ヤエの暗器やコウの銃を並べてリストにしている


「服などはドミオール院に寄付しましょう。配給されているとはいえ、まだ物資は不足しているでしょうから」



俺達は、一通り作業を終えるとリビングとして使っている部屋に集まる


そして、マキ組長がテーブルに何かを置いた


「…」「…」「…」


ルイ、ジョゼ、そして俺がそれを黙って見つめる



これはボイスレコーダー

ヤエが体内に仕込んでいたものだ


ヤエは、撃たれた際に腹を庇ったような形跡があった

それは、ボイスレコーダーを守りたかったからではないか?


そこに録音されている何か

仲間であるヤエの最後のメッセージを、これから聞くのだ


「では、再生しましょう」


「…はい」


ジョゼが、ボイスレコーダーのスイッチを入れた




ザザッ……


ノイズが入り、保存されている音声ファイルが再生された



…ォォォン


ダダダダダ…


ガガガガガ…



爆発音や銃声が響いている


ヤエは戦場を走っているようだ



しばらくすると、周囲の音が小さくなる

どうやら遮蔽物の裏に入ったようで、戦場の音が多少遮られた



「…って下さい!」


ヤエの声が聞こえた



「ザザッ…るさいっ!」


そして、男の声



「……かし、このま……は、…だ、……が戦っ………」


ヤエが何かを必死に訴えている



俺達は、音が割れてノイズだらけの音声ファイルの言葉を拾うために、必死に耳を傾ける



「……ラ王家……、それ…、必……、今……撃を……」


ヤエは、何かを説得しているのか?



「……!」


男のわめき散らす声



「……ルトニア様!」


ヤエが叫ぶ



「…て、……ままだと、……らの…場が…くなる、…れ」


また男の声



「…なっ、…ってくだ……」


ヤエが驚いた声を上げる



パンッ!


「…ぅっ!!」


発砲音と思われる乾いた音

そして、くぐもったヤエの声



「…カな女…、…ざわざ…され………と…、…どめを……」


「…い、…かってお……す」



パァン!

ドォンッ!


男たちの声と、また乾いた発砲音



「…」


沈黙、そしてヤエの呼吸音、離れて行く複数の足音



「……コウ……、ごめん……死なない…で……」


ヤエの絞り出すかのような声



「マキ組長…ルイ…ジョゼ……、…ラーズ……、ごめんなさい…ウルラを…お願……」


沈黙…、そして小さなノイズと共に音声ファイルが終わった




「………」


俺達は、音声ファイルのあまりの内容に固まった


誰も口を利かない



…ヤエは一体誰に殺されたんだ?


全面戦争の最中、あの激しい戦闘で連合軍の攻撃に巻き込まれたのだと思っていた

実際にドミオール院周辺では、ウルラ軍にもナウカ・コクル連合軍にも甚大な被害が出ている


未だに戦死した兵士達の遺体の回収が終わらず、ヤエも死後三日が経ってから発見されたほどだ

だからこそ、ヤエは連合軍に殺されたのだと思っていたし、信じて疑わなかった


だが、この音声ファイルの内容では、ヤエを殺したのは…


ヤエを撃ったのは、どう考えても味方であるウルラ軍の一員、ブルトニア家としか考えられない…!



「まさか…」


ジョゼの口から呟きが漏れる



ブルトニア家とは、龍神皇国の貴族の一つである

そして、クレハナへの支援として龍神皇国から派遣され、ウルラ軍に従事して内戦を終わらせるために戦っている


そんなブルトニア家が味方を撃つなど有り得るのか?

これが表沙汰になれば、ウルラ家と龍神皇国の関係が崩れかねない

全責任を負ってウルラ家に賭けたセフィ姉が、そんな暴挙を許すわけがない



そして、ブルトニア家がヤエを殺すメリットもない

ヤエを撃つ理由がないのだ


この断片的な情報だけでは特定ができない


…確認が必要だ



マキ組長が静かに口を開く


「…これからしばらくの間、マキ組はナウカ領への遠征は断ります」


「え?」


「ヤエの死について、その調査を行います」


「マキ組長…!」


ヤエは仲間だ

その死に不審点があれば、解明する必要がある


ヤエを撃った野郎

絶対に見つけ出してやる…


「具体的には、全面戦争時のドミオール院周辺、あの一番の激戦区で何があったのか? その調査が必要でしょう」


「どうやって調べますか?」

ジョゼが聞く


「二系統で調べようと思います。まずはジョゼ」


「はい」


「あなたは、病院やドミオール院のある集落で聞き込みを行ってください。そして、激戦区での生き残りの兵士や目撃状況を集め下さい」


「分かりました」

ジョゼが頷く


「そして、私はジライヤ経由でウルラ軍本部の情報を参照します。…ブルトニア家が関わっていることは間違いないでしょうから、何か不審な状況が無かったのかを調べます。実際に現地で戦っていた兵士も特定できるかもしれませんし」


「了解です。俺とラーズは何をすればいいですか?」

ルイが尋ねる


「二人は出撃要請が来た際の対処をお願いします。基本はウルラ領内での出撃になるように話は通しておきます」


「はい」


話が終わると、マキ組長がヤエのボイスレコーダーを眺める



…ゾクリ……


「…!」



静かな殺気

俺が怒りに任せて発するような殺気とは違う


集中した、貫くような、目的と意志を持った美しい殺気

それは、まるで鍛え上げられた刀剣の美しさ


そんな殺気がマキ組長から発せられる



ヤエは殺された

そして、おそらくは全面戦争の結果によってではない


ヤエは何をしようとしていたのか


相手はブルトニア家でいいのか


全面戦争の、一番の激戦区の戦闘中に何が起こったのか



…真相を見つけ出す

そして、堂々と落とし前を付けさせる


俺達は、それぞれが出来ることを開始した





ブルトニア家 七章 ~15話 嫌な仕事

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― 新着の感想 ―
おいおいおい、これは状況次第ではブルトニア家の騎士が自分の被害を抑える為に味方ごと爆撃?魔法?か何かしようとして止めようとしたヤエを殺害、更に下手したらコウはそれに巻き込まれて死んだ可能性があるってこ…
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