八章 ~1話 戦後
用語説明w
タルヤ:エスパータイプの変異体。ノーマンの女性で、何かに依存することで精神の平衡を保っていた。サンダーエスパーの二つ名を持ち、雷属性魔法を使う。重症を負い冷凍保存されていた
ウィリン:ヘルマンの息子。龍神皇国の大学生だが、現在は休学してドミオール院に戻ってきている
マリアさん:ドミオール院を切り盛りしている院長。慈愛に満ちた初老のエルフ女性
ヤエの遺体はドミオール院に葬られた
コウの墓の隣だ
コウの時と同様にマリアさんが簡単な葬儀を行ってくれ、俺達はヤエを見送った
コウとヤエ
…俺達は、二人も戦友を失ってしまった
「あれから、生活はどうですか?」
マキ組長が尋ねる
「とても穏やかに過ごさせてもらっています。配給も途切れることがなく、助かっていますわ」
マリアさんが言う
どうやら、新しい小領主はちゃんと仕事をしてくれているようだ
ナオエ家がつぶれてから、驚くほど生活が変わったらしい
行政機能の回復、配給、警察機能の復活
過疎地の集落にも、ちゃんと国からの支援が届くようになったのだ
更に、領境にウルラ軍が駐留していることで治安が良くなった
集落では、食料などをウルラ軍に卸すことで収入も入ってくるようになったらしい
「ふーん、良かったじゃないか」
俺は、タルヤに言う
コウの死でショックを受けていたタルヤは、やっと回復してきているように見える
「いいことばかりじゃないのよ。町では両親を失った子供も多くて、ドミオール院にも次々と送られてくるの」
「受け入れたいのは山々なんですけど、施設の広さ的にも大人の数的にも手が回りません」
ウィリンが困った顔をする
そうか、孤児となった子供達が大勢出ているのか
全面戦争で、両軍にかなりの死傷者が出た
その影響は、戦った兵士達だけに留まらない
「それでも、ドミオール院が無事だったのは、皆さんが命をかけて戦ってくれたおかげです。コウさんやヤエさんのお陰で、私達は命を繋げることが出来ました」
マリアさんが静かに言う
「そう言えば、全面戦争中に一度、ゲイルさんが来てくれたんですよ。無事なんでしょうか?」
ウィリンが思い出したように言う
「ゲイルが?」
ゲイルは、組は違うがマキ組と同じフウマの里の忍びだ
マキ組長に依頼されて、ドミオール院の監視をしてくれていた
そのため、ドミオール院の皆とも顔見知りになっている
俺も全面戦争中に一度会った
無事なのだろうか?
「はい。この集落の周辺は龍神皇国の騎士であるブルトニア家が戦ってくれていました。コウさんやヤエさん、そしてゲイルさんも合流してくれていたようです」
「ただ、集落の直近までナウカ・コクル連合軍が迫ったことで大激戦になったみたいなの。ゲイルさんも、私達が無事なのを声で確認すると、すぐに戦闘に向って行ってしまったわ」
タルヤが心配そうな顔をする
「…正直、マキ組以外は誰がどこで戦っていたのかは分かりません。ですが、ゲイルは優秀な忍びですから生きている可能性は高いと思います。探してみましょう」
マキ組長が答えた
外では、ルイとジョゼが子供達と遊んでいた
コウが遊んでいたのを知っていて、挑戦しているようだ
不器用ながらも、子供達に振り回されながら遊んでいる
そんな二人を、微笑ましく見つめる
「テレビにフィーナ姫が映っていますよ」
マリアさんが言う
「フィーナ姫のおかげで、この集落やドミオール院はナオエ家から守られました。いつかお礼を言いたいですね」
ウィリンが言う
ナオエ家…
本当にクズだった
あいつらが裏切らなければ、ウルラ軍があそこまで押し込まれることもなかった
コウとヤエも死なずに済んだのかもしれない
あいつらのせいで、ウルラ軍は甚大な被害を出した
ナオエ家のクソ野郎どもが…
絶対に許さない……
「…ラーズ」
「え?」
不意に呼ばれて、俺は思考の沼から脳みそを引き上げる
「殺気を収めなさい。ナオエ家は粛清されました、今更どうにもなりませんよ」
「あ…」
殺気とは、本能を刺激する
戦闘の素人であるウィリンやマリアさんが、青ざめた目で俺を見ていた
強い殺気には、やはり何かを感じるようだ
「…失礼しました。つい…」
「い、い、いいえ…」
ウィリンが引きつりながら言う
怖がらせてしまって申し訳なかった
「…ラーズ、あの施設にいた頃に戻ったみたいね」
タルヤが、懐かしむような不思議な表情をする
「…そうかな。やっぱいり戦場に出ると、感覚が引っ張られるよ」
あの頃は、今よりもトリガーや殺気が抑えられなくて苦労していた
テレビでは、フィーナが領境からナウカ領へと侵攻する状況が映されていた
周辺の町や村を次々と占領し、ナウカの民へ支援物資を支給していく
ウルラ領と同じで、ナウカ領も領境周辺は小さな集落が点在しているに過ぎない
ウルラ軍を駐留させながら、少しづつ占領地域を広げて行くようだ
ウルラ軍の被害も大きいため、再編にはある程度の時間がかかる
それでも、占領という手段を取ることでウルラが勝ったという印象付けが出来るのだ
フィーナは堂々と指揮を執り、演説を行ってウルラの一致団結を訴えていた
そして、ゆくゆくはナウカとコクル、ウルラが一つのクレハナ国民に戻ることを訴えた
その姿は、クレハナと言う自分の国を嫌っていた少女の面影はない
姫としての、凛とした表情を見せるフィーナがいた
「…」
寂しいな
もう、生きる場所が違う
立場が違う、家が違う、仕事が違う
好きと言う気持ちだけでは、一緒にいられない
それでも、俺達が一緒だった時間は本物だったはずだ
「ラーズ…」
「ん?」
呼ばれて振り向くと、タルヤが俺を見ていた
「ボーッとして、どうしたの?」
「…いや、なんでもないよ」
俺は、未だに未練があった自分に少し驚いた
それだけ、フィーナと過ごした時間は楽しかった
大学生活もそうだし、軍に就職してからもだ
喧嘩もしたし、酒も飲んだ
二人で一緒に歩き、成長して自立していった
一般兵の俺が振られるのは仕方がない
相手は一国の姫なんだから
そう思いながらも、姫ではなかったフィーナとずっと一緒にいられると思ていた
だからこそ、まだ未練が残っているんだろうな
早く忘れなきゃな…
「…フィーナ姫のこと、まだ好きなの?」
「え!? いや、もう………、うん」
「…思いっきりひきずってるのね」
「そんなことない…」
「ラーズ、本当に好きだったのね。あの施設でも言っていたし」
「…まぁ、俺は振られたからさ。今更どうにもならないよ」
「それなら、そろそろ新しいきっかけがあってもいいんじゃないかしら?」
「きっかけって?」
「もう少し落ち着いたら、私にお礼をさせてくれない?」
「お礼って何?」
「このドミオール院を救ってくれたこと。ラーズのおかげで全面戦争に勝てたんでしょ?」
「俺だけの力じゃないって。全員が死力を尽くして戦ったからだよ」
「それでも、私がお礼をしたいのよ。ちょっとくらい、いいでしょ?」
「いや…、まぁ…、タルヤがそうしたいのなら」
「うん、約束。楽しみにしてるね」
タルヤが嬉しそうに笑う
…タルヤが元気になるならそれでいいかな
でも、俺は死を呼び込む
1991小隊に続いて、マキ組の仲間も失った
あの施設では、ヘルマンやガマルもだ
自分が不幸を呼び込む存在に感じる
そんな俺に、タルヤを関わらせたくない
そう思ってしまう自分がいる
ゲイル 七章 ~22話 戦場1・複数の魔人
八章開始です
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