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七章 ~33話 葬儀

用語説明w

コウ:マキ組の下忍、青髪の魚人男性。補助魔法である防御魔法、そして銃を使う


ドミオール院で、しめやかな葬儀が行われた


「しくしく…」

「うぅ…」

「コウ兄ちゃん…」


子供たちが棺に寄り添って泣いている


俺は、その光景をまるで夢の中にいるかのような気持ちで眺めていた



「ラーズさん…、もう一度、コウさんに言葉をかけてあげて下さい」


「あ…、はい…」

マリアさんに促され、俺は棺に近づく


コウの棺には小窓が設けられており、顔が見えるようになっていた



…コウは多数の銃弾を受け、最後は魔法に巻き込まれたらしい

足が千切れ、身体の損傷が酷かった


だからこそ、棺は顔しか見えないタイプが選ばれたのだ

子供達に、コウの体の状態は見せられない



全面戦争は、お互いの軍が混乱状態になり情報が錯綜していた


ドミオール院の近くにいた兵士達から状況を聞いているが、直近まで連合軍の侵攻を許していた


コウは必死に戦っていた

防御魔法を自身にかけて、倒れた味方の銃を拾って戦い続けた

そして、最後に力尽きてしまった…と、考えられる


推測の域を出ないのは、コウが誰と一緒に戦っていたのかさえも分からないからだ

現在、コウと一緒だった者を探しているが、ドミオール院の周辺は両軍にかなりの死傷者が出た場所だ

混乱した戦場で、そう簡単に生存者は見つからない


あの戦域で戦っていたブルトニア家にも確認中だ



そして、コウと同じくブルトニア家に従事していたヤエまでもが行方不明になっている

混乱の最中、連合軍との戦闘に巻き込まれたと思われ、生死さえも不明だ


未だ、領境とドミオール院の集落周辺には戦死者の遺体が放置されている

負傷者の収容さえもが終わっていないため、後回しになっているのだ


どこかの収容所で保護されているといいのだが、心配だ…



まだ、外に放置された遺体


傷むし、モンスターや動物に食い散らかされる

すぐに発見されたコウはまだ運が良かったのかもしれない



…コウの顔はきれいにしてもらっており、穏やかな表情でまるで寝ているようだった



「コウ…」


俺は、自然とコウの名前を呼んでいた



何でだよ、コウ…


もう少しで内戦が終わるんだぞ…?


終わったら、すぐにドミオール院に行こうって…



「…」


コウは静かに眠っている



コウはいい奴だった


子供たちの喜びを、自分の喜びとして感じられる奴だった



一人でかっこつけすぎだ


絶対に引かない、そんなコウの勇気が伝わってくる死にざまだった



…ドミオール院を背に、コウはどんな気持ちで戦ったのだろうか


また、失っちまった


せっかく、また仲間が出来たと思ったのに



そう、コウは仲間だった


付き合いはそう長くはない


だが、一緒に戦場を駆けてきた仲間だった



お調子乗りで、明るくて、子供っぽくて


ムードメーカーで、一直線で、単純で


俺がマキ組にすぐに馴染めたのも、コウの性格のおかげだった




「コウ…」


涙があふれてくる




悲しい



悔しい



辛い








・・・・・・




シスターの経験を持つマリアさんが行ってくれた、質素な葬儀が終わった

コウは火葬され、ドミオール院の庭の端にある墓地に埋葬された


ドミオール院でなくなってしまった子供たちが眠る墓地

子供好きだったコウへの配慮だ



「ラーズ…」

泣き腫らしたタルヤが、俺にお茶を持って来てくれた


「タルヤ、ありがとう」


「…私、ずっと地下室に隠れていたの。外での戦闘の音がどんどん近づいて来て、怖くて…。でも、私が勇気を出して外に出ていれば、もしかしたらコウは…」

タルヤが俯く


「………それは違うよ、タルヤ」


「でも、私はあの施設で作られた変異体の強化兵なのよ? もしかしたら、コウを救えたのかも…」


「あの戦闘は、一人の力でどうにかなるような規模じゃない。虎王ヤマトや漆黒の戦姫フィーナでさえ、戦いの流れを変えられなかったんだから」


「…」


タルヤが黙る

俺からの説得力を感じたのだろう


広範囲に広がる大規模な戦闘

個人の力でどうこうできるようなものじゃない


俺が実際に体感したことだからこそ、タルヤにも伝わる



「子供達も怖かったはずなんだ。タルヤの戦いは子供たちの心を守ること。コウと同じく、タルヤも勝ったんだよ」


「ラーズ…」

タルヤが、俺の肩に頭を置いて静かに泣き始める


しばらくは、タルヤが泣くに任せる

そして、落ち着いたタルヤを部屋に連れて行く


「タルヤ、子供達もショックを受けている。まずはタルヤが元気になって、その元気を分けてあげてくれ」


「う、うん…」


「ゆっくり休んで」


そして、ベッドに寝かせた

タルヤは少し寝た方がいい



「あ、ラーズさん。タルヤの様子はどうですか?」

ウィリンが尋ねる


「とりあえず、ベッドで寝かせて来た。ちゃんと眠れたらいいんだけどね」


「コウさんのことがショックで、この二日間寝れていなかったみたいなんです」


「そうか…」


タルヤは憔悴しきっていた

寝られていなかったせいもあるんだな


「コウさんは、ドミオール院のために全滅覚悟で戦ってくれていたみたいなんです」

マリアさんが沈んだ声で言う


「全滅、ですか?」

マキ組長が聞き返す


「ええ、集落の人に聞いたのですけど…」

マリアさんが話してくれた


ドミオール院の集落にナウカ・コクルの連合軍が迫っていた

ウルラ軍が、これ以上の侵攻を止めるために必死になって戦っていたのを集落の住人が見ていたのだ



「ドミオール院の集落前は、かなり連合軍に押し込まれたところだったらしいんだ」

ヤマトも俯いて言う


すぐ後ろはウルラの土地

侵略者であるナウカ・コクルには絶対に踏ませない


その思いでウルラ軍は戦い、そしてほぼ全滅した


このまま連合軍がウルラ領に攻め入ろうとした時、謎の混乱が生じて連合軍の足が止まった

そして、しばらくしてブルトニア家の部隊が連合軍に襲い掛かったのだ



「コウ…、あいつはよくやったよ」

ルイが静かに言う


「あいつ、マキ組長にやられてしょっちゅう心が折れてたのに、こういう時には絶対に折れないんだもんな…」

ジョゼが天井を見上げる


「…コウの死に様は立派でした。自分の命よりも優先するもの、優先できるものがコウにはあった。それを誇らしく感じます」

マキ組長が言う



「………」


沈黙が流れる



「ラーズ、待ってるからな!」


俺は、コウが最後に俺に言った言葉を思い出す



…約束を破りやがって


だが、子供達を守るという約束は守りやがった

お前、凄いよ




仲間を失った悲しみ


そして、まだ終わっていない内戦


勝利の末に、何もかもを無くしてしまった感覚



コウを殺したナウカ・コクルの連合軍


俺は、この戦争を終わらせるまで戦い続ける覚悟を決めた



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