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七章 ~30話 戦場9・第三勢力

用語説明w

ナノマシン集積統合システム2.0:人体内でナノマシン群を運用・活用するシステム。治癒力の向上、身体能力の強化が可能


サードハンド:手を離した武器を、一つだけ落とさずに自分の体の側に保持して瞬時に持ち替えることができる補助型のテレキネシス。大型武器の補助動力としても使用


倉デバイス:仮想空間魔術を封入し、体積を無視して一定質量を収納できる


データ:戦闘補助をこなすラーズの個人用AIで倉デバイスやドローンを制御。メイドソフトがインストールされ、主人の思考の把握が得意となった。戦闘用端末である外部稼働ユニットのデータ2と並行稼働している


「お前達は?」


「フウマの里マキ組所属、コウとヤエです。ここから南方の集落の防衛のために、ブルトニア様の戦力に加わります!」


「わかった。かなり戦線が南下してきている、今が勝負どころだ!」


マキ組長の采配で、コウとヤエはブルトニア家の部隊に合流

ルイはヤマトの部隊に合流した


ヤマトの部隊の活躍で周囲の敵を後退させ、ウルラ軍の再編を行う

壊滅状態の部隊が点在する中、動ける戦力をかき集めて何とか防衛線を再構築している状態だ


「マキ、フィーナ達は大丈夫なのか!?」

ヤマトが尋ねる


「ジライヤが合流したはずです。ラーズの作戦は伝えました、後は戦線を維持するだけです!」


マキ組長の遁術、風遁風の道はホバーブーツに匹敵する機動力を持つ

その速度はBランクであるヤマトを凌駕している



「ラーズ、頼んだぞ…」


「コウ、信じましょ?」


不安そうな顔をしたコウにヤエが声をかけた




領境よりも北、ナウカ領内にて大きな砂埃が森の中を走っている


よく見てみないと何が起こっているのかは分からないが、百をとっくに超えた数の虫系モンスターの集団だ



ギチギチギチ!


「あ、暴れるな! 手が使えないと危な…、うおっ!?」



ホバーブーツでジャンプ、引き寄せの魔法弾で木の上まで飛び上がって飛行能力で高度を維持

背中の触手にナノマシン群の膜を生成して滑空する


だが、直線の移動では狙撃される可能性もある


既に何度か銃弾が掠め、コウがかけてくれた防御魔法はとっくに消費してしまった



ドドドドドドドドドーーーーーーーー!


「ぐっ…、こいつら早すぎるんだよ!」



前に王の蟲の幼体を届けた時は、数匹の虫が代わる代わる襲って来た

だが、今回は本拠地から拉致ってやったため、大量の虫が一直線に追い続けてくる


しかも、死にかけていた前回と違って、王の蟲の幼体がワキワキと暴れている

右手は抑えるのに使っているため、常に左手の引き寄せの魔法弾で移動しなければいけない


右手が使えない状態での高速立体機動がこんなにきついなんて!



「ご主人、前方にナウカ兵の部隊! 北西に進路を!」


「うらぁぁっ!!」



データのナビで、進路を変えながら移動

敵部隊との衝突を避ける


もちろん、後続のスタンピートの連中は自由に襲ってくれて構わない



枝を蹴り、もう一度木の上に出て滑空


だめだ、森の中での移動は虫たちに追いつかれる!

危険はあるが、木を越えて滑空して距離を作らなければ



ドォン!


ドォン!


ドォン!



「…データ、何の音だ!?」


「西方向から砲撃だよ! スタンピートの一部が向かって行ったよ!」


データのアバターが見る後方の映像には、砂埃の中から飛行系のモンスター達が砲撃の方向に向かて行くのが見えた


モンスターを引き寄せてくれるなら大歓迎だ!

むしろ、もっと持って行ってくれ!



「あぶッ!!」


気がついたら、王の蟲の成体にかなり接近されていた



もう一度木を蹴って滑空へ


ここら辺は森が深く、気が生い茂っていて地上では全然スピードが出せない

必然的に、何度も木の上に出ることになってしまう



ナウカの部隊を上空のドローンで見つつ移動

ジグザグに移動していることが、周囲のモンスターを呼び寄せてスタンピートの規模を広げている


俺の命の危険は上がっているが、ナウカへの打撃力も上がる

しかし、制御できない力は危険すぎる



「目標まで五キロだよ!」


データがドローン映像を仮想モニタ―に表示



遠くに駐留しているナウカ軍が見えた


ゴールが見えれば頑張れる

データは人間の心理学を顧慮してゴールを見せてくれたのだ


うおぉぉっ!

確かに頑張れるぜ!


ゴールが見えないのに敵の部隊を避けながら虫の大軍を引き連れるとか、怖すぎて心壊れるわ!



ドォン!


ドォン!


「ぐぁっ!?」



砲撃がこっちに向いた

爆風と轟音で周囲が揺れる



「………」


聴力がマヒして音が消えた



静寂の中、必死に疾走する

敵に狙われたということは、スタンピートの元凶たる俺の存在を知られたということだ


もう木の上に出るのは危険だ


木の中を疾走するしかない



ビョォォォォォン!



データに次から次に引き寄せの魔石を倉デバイスからロードしてもらう


左手で引き寄せの魔石を撃ち続ける



ビョォォォォォン!



ビョォォォォォン!



ビョォォォォォン!




トリガーを発動

気がついたら、ひたすら木々の間を抜けることに没頭していた



「………人…いたよ! …ウカ軍の駐屯地だよ!」


「…っ! うおっ!?」



突然開けた場所に飛び出す


戦車やMEB、そして歩兵達が俺の方向に銃口や杖を向けているのが見える



…違うな、俺にじゃない

俺の後ろの団体さんにだ



ドドドドドドドドドーーーーーーーー!



戻って来た聴力が凄まじい音を拾う

俺は咄嗟にホバーブーツで左に舵を切る



ドォン!

ドォーーン!


砲撃がスタンピートに撃ち込まれる



スタンピート VS ナウカ軍の始まりだ


俺は森の木陰に飛び込むと、距離を取って王の蟲の幼体を縛っていた錘の紐を装具の手刀で切る



ギチギチギチーー!


俺から解き放たれた歪な角を持つ王の蟲の幼体が怒ったような音を出す



「悪かったよ、これで勘弁してくれ」

俺は、聖属性回復の魔法弾を王の蟲の幼体に当ててやる


怪我はしてないだろうが、気持ちってやつだ


そして、俺は回復薬をがぶ飲み



「ぎゃあぁぁぁぁぁっ!」

「撃て、撃てーーー!」


ドドドドーーー!

ドッガァァァァァァン!



距離を取った向こうの駐留地からは、阿鼻叫喚の音が聞こえてくる


「ご主人! マキ組長には連絡済みだよ!」

データが、仮想モニターに文面を表示してくれる



『作成成功』



この一文で、全てが伝わるだろう


「後は、フィーナやヤマト、マキ組長に託そう」



俺は、王の蟲の幼体を一瞥


「じゃあな」

声をかけて歩き出した



俺は倉デバイスから1991を取り出す


ゆっくりとアイテムの補充、そして準備をする

魔石の装填、銃のマガジンを交換

グレネードは品切れ、自己生成爆弾はウンディーネが一つだけ生成できている


何の準備をしているのか?


先ほど、探知魔法に引っかかったからだ

こちらに接近する気配


…まずいな、()()()()()(()()()()())()()()()()()()()()()




「…隠れても無駄だ、出てこい!」

茂みの外から声をかけられる


「…」

俺は、背中側に1991をサードハンドで保持して両手を上げて立ち上がる


立っていたのは、それぞれ剣と杖と斧を持った男女三人だ

戦場で近接武器を持つ、それはBランク以上の闘氣(オーラ)使いの証


どやら、鬼憑きの魔人ではないが、ナウカにも普通のBランク戦闘員はいたらしい


「何者だ!? どうやってスタンピートを起こしやがったんだ!?」

斧を持った男が言う


「いや、俺は関係ない! ただ必死に逃げていただけだ!」

ダメ元で白を切ってみる


「お前、ウルラ軍か!?」


「俺はただの一般兵だ! あの虫の大軍から…」



ズガァッ!

ドドドッ!


「…っ!?」

「…!」



俺の言葉が終わらない内に、剣使いの男が一閃

カウンターで銃化した左腕で三点バースト



「…やるな、一般兵」

当然、銃弾を闘氣(オーラ)で止めた剣使いの男が言う


闘氣(オーラ)を使わない、本当に一般兵なのね」

杖使いの女が俺を観察する



俺の動きを見て、三人の表情が変わった

隙はない、もう戦うしかないか


「ふぅ…」

俺は息を吐く



俺の仕事は終わった

後は、ウルラ軍次第だ


みんなに、そして、フィーナに任せればいい



闘氣(オーラ)使い三人に敵陣のど真ん中で囲まれている

俺はもう逃げられないだろう


想定はしていたが、絶望的な状況だ



「…こいつ、笑っているのか?」

「恐怖で狂ったの?」


斧使いと杖使いが言う

一般兵の俺をバカにして、下に見ている


そうやって侮ってくれれば助かる

付け込めないのが一番怖い


こいつらが言う通り、俺は笑っている

恐怖もあるが、わくわくする気持ちが勝っている


一般兵である俺の任務は成功した

俺は、()()()()()()()()()()


…だからこそ、最後に暴れてやる



ウルラのことは託した、自分の命を考えなくていい

もう壊れてもいい、最後に燃やし尽くす


初めて、トリガーという、この変異体の機能があってよかったと思った


全力を出し尽くす

それは、通常なら絶対に不可能な行為だ


なぜなら、人の身体にはリミッターがかけられているから


火事場の馬鹿力、疲労を忘れる何らかの作用

脳のリミッターを解除し、限界を超える方法が必要となる



…俺は、ある種穏やかな気持ちで殺気を込める


そして、意図的にトリガーを全開にした




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― 新着の感想 ―
[良い点] ついに生を諦めた事による後を考えないトリガー全開が見れるのか…‼︎ [一言] Bランクを殺せるという事は知られてないしな‼︎油断するのもしょうがないw
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