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一章~21話 選別七回目

用語説明w

この施設:ラーズが収容された謎の変異体研究施設、通称「上」。変異体のお肉も出荷しているらしい


選別場


理不尽な選別

また、この日が来てしまった


俺の前に立っているのは、()()()()()()生物だ


裂けた口からは鋭い牙が覗き、腕が長く巨大な手には大きな爪が輝いている

反対に足は短くなっている、類人猿のような風貌


…モンスター化した人間の男だ


魔素を吸収しすぎたり、魔術による怪しい薬を飲んだり、特殊な細胞を移植するなど、モンスター化する方法は様々だ


だが、共通するのは、モンスター化すると身体能力の代償に理性を失うということ

そして、人体が崩壊していくということだ



今回の相手であるこいつも、理性を失い、体の崩壊が始まっているようだ

体のあちこちに浮腫ができて、紫色になっている


この選別に使われるということは、研究者が死にかけのこいつを安く買い叩いたのだろう


理性を失っているという根拠は、よだれを垂れ流し、今にも襲いかかりそうな様子

そして、首輪以外に何も着ていないという格好だ


股間の物がブラブラと揺れているが、気にする素振りはない



「よし、始めろ」

スピーカーから声が聞こえる


相変わらず、悪趣味な研究者達が殺し合いの様子を見物しているようだ


くそったれ

研究者共(おまえら)も死んじまえ!


心の中で毒づきながら、俺は構えを取る



「グルルルル…」


モンスター野郎が四つ足で唸る



殺気を感じる


殺気を自覚するのは久しぶりだ

最近は体調が良くなり、体のセンサーの感度が上がってきているようだ



「があぁぁぁっ!」


モンスター野郎が吠えながら襲いかかって来る



それを事前に察知して、真横に跳ぶ

そして、攻撃に転じる…



「…っ!?」



だが、俺は攻撃を止める


俺は立って素手の状態

モンスター野郎は四つん這いの状態だ


姿勢が低すぎて、攻撃が出来なかった

素手の俺に対して、この低い構えは反則だろ!



また、お互いに距離を取って睨み会う


怖さはある

だが、いつもよりはましだ


このモンスター野郎から感じるのは、敵意ではない

喰らうため、生き残るため、そんな本能から来る殺気だ



…いつもの()()が出てこない


俺が怖がってしまうトラウマは、おそらく敵意だ

相手を支配しようとする意思、理性から来る殺意、そして悪意が、俺の中の()()を引きずり起こすのだ


そういえば、犬の時も、ゴーレムの時も、人間としての敵意が無い敵の時は、心の中の()()はおとなしかった



俺は左手をだらりと下げて、鞭のように振るう

脇腹辺りから繰り出すパンチ、フリッカージャブだ


こんなパンチを練習したことはない

だが、相手の構えが低すぎるので、思い付きで試してみる



パンッ


「グガッ」



こっちも腰を低くして、低くパンチを打っていく

スナップを効かせて素早く拳を戻す



モンスター野郎の本能的な殺意を受けながら考える


…俺の中の影のような()()、あいつはいったい何なのか?


俺のトラウマ?

分かってきたのは、起き上がり叫び出す条件だ


敵意、俺を支配して殺すという意志

精神的に優位に立つため、俺という存在を好きに支配したいという意志


上手く言えないが、本能からの欲求ではない敵意

…目的のための悪意とでも言うのか


この悪意に対して、俺の中の何かは必死に恐怖を撒き散らす

すると心臓を掴まれ、恐怖で魂を握りつぶされるのだ



「グガァッ!」


モンスター野郎が跳びかかり、鋭い爪が俺の肩を裂いた


こいつ、突進力が半端じゃない

まともに受け続ければ、切り刻まれて出血で動けなくなる



俺は、ゆっくりと左回りに回る

動きを予想させるように、一定のスピードでだ


そして、急に動きを止める

俺の動きを追っていたモンスター野郎が反応し、再度跳びかかって来る


来た!


半歩踏み出し、後足の力を腰の回転そして右拳に伝える



ゴガッ!


「がふっ…!!」



体勢を低くしての右のショートアッパーを、正面からモンスター野郎の顎にカウンターで合わせる

体重、勢い、そしてタイミングが合い、モンスター野郎の顎が砕けた音が響く


…動ける

体が動く


いつもと違って、恐怖で体が硬直しない

俺の格闘術が自然と出せる



いつもとの違いは何だ?


それは、やはり敵意の有無だ

俺を排除するという敵意

こいつのように、本能のまま襲ってくるのとは違う


その敵意が向けられた時、心の奥で()()が出てくる

今はその恐怖が無い

だから冷静に考えられる


心の奥にいる何か


俺のトラウマなのか?


だが、トラウマの理由は分かっている

…俺の仲間を失ったことだ


トラウマと心の中の()()

関連がやっぱり分からない



「はぅ…はふぅ……」

モンスター野郎が、情けない顔をして涙を流している


顎を砕かれ、だらしなく口が開いている

痛みで口が閉じなくなったのだろう


勝負はついた


俺は、選別場を見回す

見ているであろう研修者に、終わったぞというアピールだ


だが…



バチバチッ!


「ぎゃぁっ…!」



モンスター野郎が痛がる素振りを見せる

モンスター野郎の首輪から電流が流れたようだ


モンスター野郎がフラフラと立ち上がり、また戦う構えを取る



くそっ…、悪趣味な野郎共(研究者)だ!

殺すまでやらなきゃいけないのかよ!?



俺も構えを取り、仕方なく間合いを取る



ゾワリ…


「…っ!!」



そして、突然俺の体が硬直する

心の中から()()が起き上がった


…これだ!


こいつが恐怖を撒き散らす


体が強張るのが分かった



これは、モンスター野郎からの敵意だ

電流を受けて、俺を殺さないとやられると理解したようだ



改めて自覚した

本能的な欲求じゃない

心の中の何かは、この目的に沿った敵意で暴れるんだ



怖い


考えることが怖い



こいつは何なんだ?


俺は何かの記憶を閉じ込めてしまっている?

こいつの正体を考えることに恐怖を感じる



怖い


怖い



…俺は考えたくないのかもしれない


だから、この何かから目を逸らしてきたんだ


その自覚がある



だって、正体を考えることが、こんなにも怖いと思ってしまっている!


心の中で、この何かが叫び続けている


この何かがモンスター野郎の敵意に反応している


何かを叫んでいる



怖い


怖い


怖い




「…あっ!……?」




…何かがフラッシュバックしている気がする


だが、その浮かび上がる映像が見えない


記憶のフィルターで俺まで届かない



俺が、無意識に何かから目を逸らしている?


それとも、心の中の()()が隠している?


…俺は何をフラッシュバックしてたんだ?



だが、間違いない


心の中の()()へ意識を向け続けると、何かの記憶をフラッシュバックしかけた


…俺はトラウマを負っている



少しだけ希望の光が見えた気がする


このトラウマの原因が分かれば、心の中の()()の正体が分かるかもしれない



「…」


俺は、無言で半歩踏み込みパンチを出していく



モンスター野郎が、頭を振ってパンチを回避

下がりながら様子を見る


俺は、モンスター野郎に体の正面に向ける

更に、ガードしていた手を挙げて腹を見せた



「がぁっ!」


見えた腹に向かって、モンスター野郎が襲いかかって来た


腹は内臓が入っている弱点の一つだ

当然、狙って来ると思って攻撃を誘ったのだ


誘導した攻撃にカウンターを合わせる



ズゴッ…



腰を落とし、中段の正拳突きがモンスター野郎の鼻の下、人中に突き刺さる

モンスター野郎は、白眼を向いて地面の倒れた




別室


選別場のモニターを見ながら白衣の研究者が話している


「思ったより簡単に勝っちゃいましたね」


「…PTSDとか言ってたのに、そんな症状は出てないじゃないか。こいつ、格闘能力が高いな」


「自分が前見たときは、体が強張って動けなくなっていましたよ。典型的なフラッシュバックのときのリアクションでしたけど」


「何か条件があるのか?」


「さぁ…」





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― 新着の感想 ―
[一言] 着実にトラウマの核心に迫って入ってるにぇ‼︎(☆∀☆)
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