閑話22 漆黒の戦姫 VS 鬼神
用語説明w
フィーナ:B+ランクの実力を持ち、漆黒の戦姫と呼ばれるウルラ最高戦力。仙人として覚醒、宇宙戦艦宵闇の城をオーバーラップ、更に複合遁術を習得した大魔導士。ラーズとの別れを選んだ
キュンッッ!
ズッガァァァァン!
ボボォォーーーーーーーー!
プラズマ魔法で敵部隊を狙撃、その後、火属性範囲魔法(大)で複数の敵部隊を巻き込んだ
漆黒の戦姫と呼ばれ、ナウカ・コクル連合軍から恐れられているウルラ軍の最終兵器
B+ランクの実力を持つフィーナがこの戦場に降り立った
ブゥゥーーーーーン……
その背後に宇宙戦艦「宵闇の城」を顕現させる
ゴーレム五十体、外部稼働ユニット五十体を船内に待機させており、更に補給物資を周囲の部隊に配給、負傷者の受け入れにもスペースを利用できる移動拠点だ
宵闇の城自体にも砲台はついているが、直接的な戦闘力は低い
しかし、大容量の発電能力を持っており、その力で周囲の部隊とフィーナ自身にエネルギーを供給する
「防御魔法(中)、耐魔力魔法(中)、硬化魔法(中)…」
周囲の部隊に対して補助魔法を次々と発動
強化された部隊が連合軍に向かって行く
「くそっ、ウルラの部隊が急に…!」
「ダ、ダメだ! ランチャーに耐えやがった!」
「くそっ、漆黒の戦姫を落とせ!」
フィーナのいる直近の連合軍の部隊を、補助魔法を受けた部隊が押し下げる
部隊の防御力を上げる
これは魔法の特権だ
戦車が砲弾を耐えられるようになれば、強力な砲弾を次々と打ち込めるようになる
あっという間に、その均衡が破れ始めた
「先に宵闇の城を落とすぞ!」
「一斉射撃だー!」
「ダ、ダメです! 強力な障壁魔法で弾が通りません!」
連合軍の悲鳴が響く
このまま、フィーナの快進撃が続くかと思われた
しかし、フィーナがこの戦場を選んで降り立った、その理由が現れた
ズパァズパァッッ!
「…っ!?」
フィーナの補助魔法で強化された部隊の一つが、圧倒的な斬撃で切り裂かれる
四本の腕を持ち、一本の大剣と二つのヴァジュラを持つ異形の姿
仮面で目元を隠し、大気を震わすかのような殺気を巻き散らす存在
鬼神を背後に宿したナウカ・コクル連合軍の最高戦力、マサカドだ
鬼神と漆黒の戦姫
それぞれの最高戦力が、戦場にて相まみえる
「…」
フィーナは、ミスリルのマジックロッドを構える
腕には羽衣をはためかせ、宵闇の城とリンク中
完全に臨戦態勢を取っている
「…貴様が漆黒の戦姫、フィーナ姫か」
マサカドは、殺気のこもった声で言う
「…あなたが鬼神マサカドね」
「クレハナの癌、売国奴ドースの娘か。海外へと逃げていたのに、わざわざ戻って来て英雄気取りとはな。親子そろって虚栄心が大きすぎると見える」
「革新と保守派は表裏一体。保守一辺倒で民を飢えさせ、それでも内戦を優先するあなた達に言われたくないわ」
…バチバチィッッ!
お互いの視線がぶつかる
まるで、火花を散らすかのような、プレッシャーのぶつかり合いだ
「ドースがどれだけ汚い手を使って来たか、お前は知っているのか? それとも、知っていて養護しているのか?」
「ウルラの強引さのことを言っているのなら、ナウカは何も変えてこなかった引きこもりのニートよ。私はこの国を変える、邪魔をしないで」
「その改変の陰で、何人の民が死んでいったのか、お前には分かるまい!」
「ナウカが何もしなかったおかげで、どれだけの民が貧困にあえいでいたの? どちらが正しかったのか、いい議論ができそうね」
「………先ほどの忍びの小僧といい、ウルラの民は上から下まで腹立たしい。いいだろう、この全面戦争の決着を付けよう」
「…」
無言で構えを取る、マサカドとフィーナ
この戦いを制した方の軍が勢いに乗って領境に攻め入る
B+ランクのぶつかり合いによって、この戦争の勢いが決する
ズッパァァ!
バチッ!
マサカドの霊力の乗った斬撃が、フィーナの障壁魔法に遮られる
マサカドが一気に距離を詰める
フィーナは魔法特化の戦闘員
距離を詰めれば有利と踏んだのだ
爆破魔法の魔力球をばら撒きながら、フィーナが後退
同時に土属性土壁の魔法を複数発動
バリバリーーー!
マサカドの背中側の二本の腕が持つヴァジュラから、強力な雷が放電
同時に、マサカドの斬撃がフィーナの土壁を斬り裂いて飛んで来る
ズガァッ!
「ぐっ…!?」
マサカドがフィーナに斬りかかる直前、大地から尖った柱が突き出てくる
フィーナが準備していた土属性攻撃魔法
衝撃で、マサカドの体が浮く
同時に、引き寄せていた爆破魔法がマサカドと土属性の柱に集中
ゴッガァァァン!
大爆発を起こした
その爆発の中から、二本の雷が現れる
パリパリパリ…
放電をしながら、雷そのものである二匹の大蛇が現れた
「なっ…!」
雷の大蛇がフィーナを襲う
フィーナが解析したところ、ヴァジュラから発生した大電流に霊体を憑依させたようだ
おそらくは、マサカドの式神のような存在なのだろう
大地に降り立ったマサカドが、大剣を構える
その左右には雷の大蛇
対して、フィーナは杖を構えて羽衣の魔玉に魔力を込める
この一瞬の攻防で勝負が決まる
だからこそ、お互いに出し惜しみはしない
フィーナはブースト魔法を発動した
バチバチーーー!
雷の大蛇が襲い掛かる
フィーナが選んだ手段、それは土属性魔法だ
槍のような細長い個体を土属性魔法で投射
大蛇を貫き、大地へと繋ぎ止める
この細長い個体は金属のような性質を持たせており、土属性の中でも特に金属性と呼ばれる
通常の土属性で生み出した個体よりも熱や電流を流しやすく、粘性を持ちやすいという性質を持っている
バチッッ!!
一瞬のうちに、雷の大蛇が消失
その大電流を強制的に大地に流す、アースの役割を担ったのだ
だが、フィーナもマサカドも、そんなことには見向きもしない
本命は、この一撃だからだ
キュゥゥゥゥゥ………
全力の魔力を杖に注いだフィーナ
対して、マサカドが高濃度の霊力を大剣に込める
一撃で霊体を破壊するほどのエネルギーを秘めた強力無比な斬撃を、連続で放つ
フィーナが、力学属性障壁魔法と身体強化魔法を駆使して連撃を無理やり受けながら避ける
同時に爆破魔法の連続展開
「プラズマ魔法か! させん!」
「…っ!?」
フィーナが爆縮によるプラズマ生成を終えた
しかし、マサカドの殺気乗せた一撃が迫る
刹那の、しかし永遠にも感じる交錯
宇宙戦艦、宵闇の城から大電力を受け取り、磨いてきたダブルマジックを発動
マサカドの霊属性の斬撃とほぼ同時に、フィーナの魔法が発動する
「………っ!!」
………ォォォォォォン!
凄まじい爆風
極小規模の超高熱
あまりの閃光に、両軍の動きが止まった
………
……
…
「……はぁー……はぁー………」
フィーナが膝をついている
その手に握られた杖が砕け散っていた
ダブルマジックとブースト魔法の併用による負荷
ミスリルの杖が、その出力に耐えられなかったのだ
その視線の先、爆発の残滓の中にマサカドが倒れていた
「ごふっ…! そ、その力は…!」
マサカドが言葉を絞り出す
高熱によって、その半身は焼けただれ、四本のうち二本の腕が消し飛んでいた
…フィーナが放った魔法は、プラズマ魔法ではなかった
プラズマ魔法を発動、更にダブルマジックを応用して別の魔法を構築した
その魔法とは、ソラコア属性
強い核力と呼ばれ、核融合を起こす際に素粒子と素粒子を引き付ける力を司る属性
魔力で物質化した質量に、ソラコア属性、すなわち核融合を促進する強い核力を作用させる
質量が融合し、その一部をエネルギーに転換、膨大な熱量を発生させた
それはつまり、極小規模の太陽を発生させることと同義だ
「そ、それが貴様の忍術か……!」
高熱の中、マサカドが息も絶え絶えに言う
一瞬の、永遠にも思える瞬間
マサカドの斬撃とフィーナの魔法が発動
…ギリギリ打ち勝ったのはフィーナだった
ソラコア属性、それはフィーナが会得した新たな力だ
磨いてきた爆縮の作用、そして、オーバーラップした宵闇の城と言う新たなエネルギー源
これにより、全魔力と引き換えに太陽の力を手に入れたのだ
「…投降しなさい、私の勝ちよ」
フィーナがマサカドに言い放つ
だが、フィーナもマサカドの斬撃によって霊体にダメージを受けている
更に、ソラコア属性魔法の発動による魔力の枯渇、杖の破壊
すぐには動けないことを隠しながら、フィーナは毅然とマサカドを見据える
「………この勝負は貴様の勝ちだ。だが、戦の結末はどうかな?」
マサカドが、ふらつきながらも立ち上がる
「え…?」
フィーナは、マサカドが負け惜しみを言ったのだと思った
だが、違和感がある
戦って分かったが、マサカドは武人だ
浅はかな負け惜しみを言うようなタイプではない
「うわぁぁぁぁぁっ!?」
「攻撃を受けているぞ!!」
「ど、どこからだ!」
「…っ!?」
フィーナが声のする方を振り向いたその時、マサカドが動いた
「我らの力だけでは、戦の流れは変えられない。全面戦争が終わった時、また会おう」
マサカドは、踵を返してナウカ領へと引き返す
「…落ち着いて! 態勢を整えなさい!」
フィーナはマサカドを追うことを諦めて、この想定外の事案への対処を優先する
宵闇の城からゴーレムや外部稼働ユニットを放出した
状況的に、味方同士が戦いを始めている
…おそらく裏切り者が出た
あの口ぶりだと、どうやらマサカドが仕込んでいたようだ
やられた
裏切り者の可能性が高い
今は全面戦争で両軍が拮抗している状態
この隙に押し込まれたら、立て直せないところまで行ってしまう
「ジライヤ!」
フィーナは、すぐに状況の把握と事態の収拾に努める
両軍の頂上決戦はウルラが勝利した
それにも関わらす、全面戦争はウルラ軍とって厳しい戦いを強いられることとなった
※大いなる凡ミスが発覚しました
閑話を二つほど投稿し忘れているという悲劇(汗)
閑話20と21、内容を確認して投稿するため、数日間本編の投稿を休みます
内容的に、投稿してなきゃいけない内容で無視できませぬ
ついでに、この場を借りて…
いつも読んで頂きありがとうございます
ブクマ、評価、感想、モチベになっております!
クレハナ編の山場、全面戦争
再開まで、しばらくお待ち下さい