七章 ~21話 全面戦争の勃発
用語説明w
マキ組長:フウマの里マキ組の上忍、ノーマンの女性。二丁鎌を使う忍びで、武の呼吸を身につけている
コウ:マキ組の下忍、青髪の魚人男性。補助魔法である防御魔法、そして銃を使う
ルイ:マキ組の下忍、赤髪の獣人男性。スナイパー技能に長けている
ヤエ:マキ組の下忍、ノーマンの女性。潜入に特化した忍びで戦闘力は低い。回復魔法を使うため医療担当も兼務
ジョゼ:黒髪のエルフ男性。情報担当と事務を行う非戦闘員、整備などもこなす
マキ組のメンバーがテレビの前に集まる
ウルラ王家からの公式放送として、全チャンネルで同じ映像が流れていた
「本日、正式にナウカ・コクル連合がウルラ家に対して宣戦布告を行った。これに対して、ウルラは迎撃態勢を整えるとともに、龍神皇国から強く抗議を行い…」
ドースさんがテレビに出ている
その横にはフィーナが立つ
俺達は、その様子を静かに見守る
「…ついに始まったのか」
コウが誰ともなしに言う
「さ、準備をしましょう。すでにウルラ軍と連合軍がぶつかり始めたそうですから」
マキ組長がPITを見ながら言う
「俺達の任務は?」
ジョゼが尋ねる
「マキ組は、一番の激戦地を見極めて投入されます。現在、ウルラ軍が戦況を見極めているので、まもなく連絡があるでしょう」
忍びとして認められた嬉しさはすでにどこかへ吹き飛んでいる
戦場への緊張感、常にまとわりつく死の恐怖
出撃前のこの空気は慣れないな
「今回の戦いで、この内戦の結果が大きく左右されます。それは連合側も分かっているはず、魔人達の部隊も惜しみなく投入してくるでしょう。気を引き締めて下さい」
「はい」
「出発は改めて伝えますが、今から一時間、最後の自由時間とします。悔いの無いように過ごしてください」
マキ組長が言い、俺達は各自の部屋に戻る
…戦いの覚悟を決めろ
死んだときの遺書等を書き残しておけということか
俺は両親とタルヤにメッセージを書く
決心が鈍るので電話はしない
データに頼んで、出発の際に自動送信してもらう
「ご主人! ミィから電話だよ!」
「え?」
データに言われてPITを取る
「もしもし?」
「あ、ラーズ? 全面戦争が始まったわよ!」
「ああ、ニュースで見たよ。マキ組長も軍から指示を受けてる」
「フィーナやヤマトも戦争に出るって。ラーズも死ぬんじゃないわよ?」
「…精一杯、あがいてくるよ」
「…」「…」
少しの沈黙
生きる死ぬは、時の運
俺達がどれだけ言葉にしたって意味はない
「ラーズ、フィーナには会ったの?」
「いや、会えないよ。俺はフィーナにクレハナから出ていけって言われてるんだぞ?」
「…本当にいいの?」
「…ああ、会わない。俺は、自分のためにクレハナに残ったんだから。ミィこそ、俺がクレハナに残ってたらフィーナに言われるんじゃないのか?」
ミィは、俺をクレハナから帰すためだと言って、フィーナに発掘の許可を出させた
当然、俺はその約束を守っていないし守る気もない
「そんなの、ラーズが言うこと聞かなかったで終わりでしょ」
「おいおい…」
結局、全部俺が悪くなりそうじゃない?
「さっき、フィーナも演説していたわよ」
「へー、何だって?」
フィーナの演説
ウルラの結束を訴え、この全面戦争が長きに渡った内戦の分水嶺となる
軍も企業も、この戦いに全てを注いでほしいという内容だった
「ヤマトはもう出撃したわ」
「皇国の治安維持部隊が出撃か、凄いんだろうな」
「ブルトニア家も渋々と出撃して行ったってさ。この戦いくらいやる気出せってヤマトが最後に愚痴ってたよ」
ミィが笑う
本当は、ミィも心配なんだろう
皇国の部隊も含めて、全てを投入する総力戦
全てをつぎ込んででも、この戦いを制する必要があるのだ
「…それじゃ、準備があるからそろそろ切るぞ」
「…うん、分かった。ラーズ、ちゃんと帰ってきなさいよね」
「分かってるよ」
戦いの前に、誰とも話すつもりはなかった
だが、ミィと話したことで少しだけ元気が出た
…不思議なもんだな
俺は、マキ組長のヒートブレードに切り裂かれたラウンドシールドを交換し、その裏にあるナイフホルダーにナイフを入れる
このナイフはダマスカスナイフ
オーティル家に伝わるナイフで、父さんが持っていたものだ
…父さんの意識はまだ戻っていない
俺は、装備と消耗品を確認
そして、使役対象達を並べる
「まずはフォウル」
「ガウ」
「フォウルのブレスは切り札だ。基本は俺のポーチの上にいて、戦闘が始まれば上空を旋回しながら周囲の状況を知らせてくれ。狙撃に気を付けろよ」
「グルル…」
フォウルが頷く
フォウルのサンダーブレスはBランクの闘氣でさえダメージを与える
戦車だろうが、モンスターだろうが、行動不能に持ち込めるだろう
だが、一発限定、本当の切り札だ
使い処が難しいが、心強いのは相変わらずだ
「次にリィ」
「ヒャン?」
「基本は勾玉で待機。俺が合図したら、巻物の範囲魔法を中心に攻撃を。いつ俺が高速機動に移るか分からないからあまり離れないようにな」
「ヒャン!」
リィが頷く
子犬のような性格だが、戦闘力は高い
範囲魔法(小)の発動、そして霊体にダメージを与えられる特性、霊属性ブレス
信頼できる式神だ
「次、データ2」
「うん!」
「そう言えば、お前もデータと同じようにメイド仕様になったのか?」
データとデータ2は同じAIがインストールされ、同じ人格を共有している
記憶も定期的に同期しているため、差異はほぼ無い
「そうだよ! でも、戦闘に関してはあまり変わらないよ!」
「分かった。戦闘時は指示を出すけど、高機動時は倉デバイスにしまう。それを念頭に動いてくれ」
「分かったよ! あまりご主人と離れないようにするね!」
「最後に竜牙兵」
「…」
骸骨の竜が頷く
「また、囮に使ったりすることになると思う、よろしく頼む」
「…」
「頼りにしてるよ」
「…」
律儀に毎回頷く竜牙兵
ちょっとかわいく思えるな
準備をしていたら、あっという間に一時間が経過したてしまった
「ラーズ」
「ああ、コウ。生き残ろうな」
「もちろん! 終わったらさ、すぐにドミオール院に行こうぜ」
「そうだな、みんなを安心させてやらないとな」
「先の話をするなって。フラグになるぞ?」
「ジョゼ。あんたも戦場に出るのか?」
「本部の情報担当として従事する。ラーズ、メイドの力は世界一だ、連合の奴らに思いっきり見せてやれ」
「全然意味が分からないけど、思いっきりやって来るよ」
「ルイ、狙撃の腕、期待してる」
「ラーズの陽動も信頼してるよ。任せてくれ」
「今回は戦場の範囲が広い。領境に渡っての大戦争だ、毎回隠れる場所があるとは限らないよな」
「そこは俺もプロだから心配しないでくれ。ラーズが自分の仕事をやってくれれば俺は狙撃をやり遂げて見せる」
「オッケー、任せされた」
「ラーズ、怪我している場所はない?」
「え、大丈夫だよ。…ヤエは医療部隊?」
「そうみたい。毎回、私だけマキ組と離れるの嫌なのよね」
「回復魔法は貴重だからしょうがないよ」
「…あなたはクレハナ国民ではない。でも、クレハナのために戦ってくれている。…死なないでね」
「ヤエこそだよ。生き残って、また彼氏とデートに行かなきゃいけないしさ」
「もう別れたわよ?」
「え!?」
「だって、私と付き合ってるのにいかがわしいお店に行ったんだもの」
「…また相手を探そうよ。俺も探したいしさ」
「うん、一緒に飲み会行きましょ」
マキ組のメンバーと言葉を交わしていく
生きて戻れないかもしれない、それを分かっているからこそだ
「ラーズ、準備はいいですか?」
「マキ組長、大丈夫です」
「無理をする必要はありません。私達が生き残れば、それだけで連合軍にとっては不利となります」
「はい」
「フウマの里の、そして、マキ組の実力を見せつけましょう」
「はい!」
こうして、俺達は車へと乗り込む
俺達は、それぞれの戦場へと向かった