七章 ~20話 フウマの里公認認定試験
用語説明w
サードハンド:手を離した武器を、一つだけ落とさずに自分の体の側に保持して瞬時に持ち替えることができる補助型のテレキネシス。大型武器の補助動力としても使用
倉デバイス:仮想空間魔術を封入し、体積を無視して一定質量を収納できる
流星錘アーム:紐の先に、重りである錘が付いた武器。紐は前腕に装着した本体のポリマーモーターで巻き取り可能
マキ組長:フウマの里マキ組の上忍、ノーマンの女性。二丁鎌を使う忍びで、武の呼吸を身につけている
俺とコウは、帰って来たマキ組長を探す
「あ、いた!」
「マキ組長!」
「ラーズ、コウ。どうしたんですか?」
マキ組長が振り返る
俺達は、マキ組長にお礼を言いに来たのだ
なぜなら、ドミオール院を救ってくれたのはマキ組長が監視の采配をしてくれていたからだ
全面戦争前で忙しく、マキ組長もずっと出かけていて、お礼を言えてなかった
マキ組長がやっと帰って来たのだ
「…私達の仕事は敵に恨まれる仕事です。そのことを理解した上で大切な者を守る方法を探さなければ、巻き込んで後悔することになります」
「はい…」
「ですが、気にする必要はありません。組員の大切な者、大切な場所を守るための采配は上忍である私の仕事ですから」
「あ、ありがとうございます」
「でも、次からはちゃんと理由を教えてくださいよ。俺、てっきり冷徹に…もがっ!?」
俺は慌ててコウの口をふさぐ
「…コウ。今日の午後にウルラの王家が会見と演説を行います」
「え?」
「全面戦争へ向けて、ナウカ・コクル連合へ改めての宣戦布告をするのです。つまり、午後からは全面戦争に突入、これに向けてマキ組も動き出します」
「は、はい!」
俺達の背筋が自然とピンと伸びる
ついに戦争が始まる
「…それはつまり、午前中はまだ訓練の余地があるということです」
「はい?」
「コウはシミュレーションを五十回、身体と頭に叩き込む必要があります。すぐに準備をしてきなさい」
「えぇっ!? そ、そんな、何で!?」
「組長である私は、時に冷徹に部下へ訓練を課すことも仕事ですからね」
マキ組長がにっこりと笑う
コウもアホだが、マキ組長も繊細過ぎるんだよな…
そんなこんなで、コウがシミュレーションを強制されている時、俺もヴァヴェルを着込んでマキ組長の前に立つ
「ラーズ。これから、あなたの忍びとしての認定試験を行います」
「は、はい」
「これに合格すれば、あなたは正式にフウマの里が認定した忍者ととしての資格を得ることになります」
「し、資格ですか?」
「忍者と名乗ることは自由です。しかし、その実力をフウマやイガ、コウガなどの里が認定、保証することで、忍者全体の雇用を促進する制度です」
忍者にも資格制度があったとは
だが、適当にフリーの自称忍者を雇うのも、実力が未知数だ
メジャーな忍者の里が実力を保障することは、雇用側にも安心感を与えるというわけか
「私はフウマの里から認定官として認められています。この試験で合格すれば、フウマの里の中忍として正式に認定します。…全面戦争前の最後のチャンスです、全力でかかって来て下さい」
「…よろしくお願いします」
俺は、文字通りの本気、完全フル装備だ
ヴァヴェルに取り付けた、外付けのサック付きベルトとポーチ
それらに入れた、整理した消費アイテム
メイド仕様にアップデートしたデータと倉デバイス術
反復練習を積んで来た、アイテムの取り出しとサードハンドとの連携、持ち替え
俺の忍術、高速アイテム術は完成した
それを今から証明してやる
俺は流星錘アームから少しだけ錘の紐を伸ばして垂らす
「しっ…!」
鋭いジャブ
マキ組長が当然ながら反応し、カウンターで鎌を振るう
躱しながら、錘をハンマーのように振るう
近接戦闘、左ミドルキックを当てる
腰のベルトから素早く小型杖を抜き、拘束の魔法弾を発射
マキ組長が跳躍して躱し、板塀を蹴っての三角蹴り
ドゴォッ!
「…っ!!」
左腕のラウンドシールドで、強力な蹴り込みをがっちりとガード
銃化させた左腕を瞬時に向け、躊躇なく射撃
ガガガッ!
三点バースト
同時に、右手で自己生成爆弾のウンディーネを掴む
ポーチや自己生成爆弾のボックスから、ノールックで目的のアイテムを探り当てて取り出す
地味だが、これが出来ることは戦場で大きな意味を持つ
素早く掴んで、接近と同時にマキ組長の服に引っ付ける
マキ組長の鎌を躱しながら、飛び込み前転の要領で脱出!
ドッガァァアン!
ゲル状の粘着物であるウンディーネは、貼りついたら剥がしにくい
マキ組長は、上着を脱いで爆発を回避
同時に、データが自己生成爆弾を操作
ジンを射出してマキ組長をターゲットに指定する
フィーーーーン!
蜂のような羽根を持つ小型自動追尾ミサイルがマキ組長を狙う
俺は、既にデータがロードしてくれていた陸戦銃を引き抜いて銃口を向ける
ガシュッ!
ズパッ!
ジンを叩き切って、左右のステップで一気に接近してきたマキ組長を散弾で押し返す
腰に巻いていた防弾の布を纏いながら、弾をいなして接近するマキ組長
風遁風の道、この突進力は反則だろ!
だが、俺もホバーブーツを使う身として高機動には慣れている
ガードしながらの、全力の正拳突き
下半身で大地を踏みしめて支えることで、高機動中のマキ組長よりも体を安定させる
「…っ!?」
マキ組長が、一瞬驚いた顔をする
ふっふっふ…
高速アイテム術によって、俺の攻撃方法は劇的に種類を増した
いつもは俺がせめて迎撃されるパターンだが、おかげで俺がマキ組長を迎撃するという手段を得た
そして当然、俺が攻めるという手段もある!
俺は全力で右手を振る
流星錘アームの錘を投擲!
ガキガキィッ!
マキ組長が、鎌を二回振る
錘の投擲と見せて、俺は折り畳みのマキビシを右手にこっそり握っていた
手首から錘を射出し、同時にマキビシも投げつけていたのだ
ルイに教わったマジックの手法だが、しっかり対応したマキ組長はさすがだ
突然、マキ組長がにっこりと微笑む
力を抜いて、自然な動きで接近してくる
緩やかな動きに一瞬戸惑うも、やることは変わらない
ジャブから左手で太もものナイフを抜いて振るう
鎌を躱しながら、こっそり生成した装具、メメント・モリで固めた拳!
返しの爪の斬撃
左手のナイフと銃撃、右手の装具の手刀、モ魔を読み込みながらハンドグレネードを転がし、サードハンドで浮かせた陸戦銃で狙う…
ジジジジ…
変な音がする
よく見ると、マキ組長が二丁鎌の片方の鎌を腰のアタッチメントに入れている
何をしている?
警戒しながらも、小型杖で魔法弾を狙う
変な動きをされる前に勝負だ!
俺は引き寄せの魔法弾を後ろの壁に当てる
ボッッ!
ホバーブーツのエアジェットからの、引き寄せ効果、飛行能力
一瞬の高速立体機動!
マキ組長も風遁風の道で空気の塊を噴射
高速機動に応じる
一瞬
空気抵抗が激増した世界
急激な方向転換により、加速度が体を襲う
おそらく、変異体の強力な筋力とヴァヴェルの保護力が無ければ、ブラックアウトやレッドアウトを起こしているだろう
ブラックアウトとは、足方向に急激に血液が移動することで脳が虚血状態になり失神する状態
レッドアウトとは頭部に血流が集まり、眼球の毛細血管が破れて視野が赤く染まる状態だ
つまり、この速度での戦いに応じるマキ組長は何者!? ってことなんだよ!
高機動中は、体幹から近い部位での攻撃が望ましい
その方が体がぶれないからだ
つまり、蹴りよりもパンチ、パンチよりも肘や頭突きだ
ボシュッ
スタン・スモークグレネードを転がして、あえて五感を制限
装具によって前腕と肘に刃を生成
マキ組長の鎌をラウンドシールドでガードして、肘でフィニッシュ…
バチュッッ!
「え…?」
なぜかマキ組長の鎌が真っ赤に光り輝いていた
さっきまで、そんなことは無かった
そして、俺のラウンドシールドと銃化した左腕を簡単に切り裂いて、そのまま首の手前で鎌を寸止めされた
…その切れ味は、おそらく止められていなかったら俺の頭を脳天から叩き切っていただろう
「…その鎌は何なんですか?」
「この鎌の刃をこのアタッチメントに入れておくことで、急激に熱することができます。すぐに冷めてしまうのが欠点ですが、短時間ヒートブレードとして使うことができます」
「まだ、そんな隠し玉を…」
超絶体技、二丁鎌、遁術、超貫通砲…
この人は引き出しの数が違う
「ラーズ、忍びとなったからには常に隠し玉を確保しておきなさい。それが生き残る基本です」
「はい…、って、忍び?」
「上忍である私とここまでやり合ったのです。合格です、あなたをフウマの里公認の中忍と認めましょう」
「え!? 俺、マキ組長に勝てなかったのにいいんですか?」
「そもそも、私に勝つなんて不可能です。ですが、あなたの忍術、高速アイテム術は十分実用性があり、また今後の拡張性もありました。実戦で通用すると判断します」
「は、はい! ありがとうございます!」
そうかぁ、ついに俺も忍者として認められたのか
遁術は使えないが、俺も今日から忍びだぜ!
「マキ組長! ウルラの演説が始まりましたよ! 正式に宣戦布告です!」
その時、ヤエが俺達を呼びに来た
クレハナ編のメイン、全面戦争が始まります