七章 ~19話 発掘の進捗2
用語説明w
神らしきものの教団:現在の世界は神らしきものに滅ぼされるべきとの教義を持つカルト教団。テロ活動や人体実験など、世界各地で暗躍
ミィ:龍神皇国騎士団経済対策団のエース。戦闘能力はそこまで高くないが、経済的な観点で物事を考える。海の力を宿したオーシャンスライムのスーラが使役対象
スサノヲ:見た目は赤ずきんをかぶった女の子。正体は、怪力の腕利き鍛冶職人でジャンク屋
データ:戦闘補助をこなすラーズの個人用AIで倉デバイスやドローンを制御。メイドソフトがインストールされ、主人の思考の把握が得意となった。戦闘用端末である外部稼働ユニットのデータ2と並行稼働している
ミィとスサノヲが廃校にやって来た
「どうしたんだよ、二人して?」
「私は発掘の結果を伝えに、スサノヲは納品よ」
「ようやく完成したぜ」
スサノヲが革製のポーチを取り出す
俺がオーダーしたヴァヴェル用の小物入れ
取り出しやすさを追求したこのポーチがあれば、俺の忍術・高速アイテム術の完成にまた近づくはずだ
「ラーズ、付けてみろよ。調整するからさ」
「ああ、頼む」
俺はヴァヴェルを着込み、ベルトとポーチを取り付ける
この腰のベルトには、前と後ろにポーチが取り付けられており、それぞれアイテムが収納できる
膨らまないように硬めの革を使っているため、そこまで量は入らないが、代わりに取り出しやすく動きの邪魔にもなりにくい
「アイテムを使ったら倉デバイスから補充する感じで使え。入れやすくもしたからさ」
「うん、いい感じだ。これなら高速立体機動の邪魔にもならない」
腰の前後のポーチ、そして右側に自己生成爆弾のボックス、左側に魔石装填型携帯用小型杖
後は、どのアイテムを入れるかを決めて覚えるだけだ
「ラウンドシールドと太もも、脛にナイフホルダーを付けた。そして、たすき掛けの魔石ホルダー付きベルトも追加だ」
「うん、いいな」
スサノヲがいろいろと考えてくれ、ヴァヴェル自体のアイテム収容量が倍増した
整理すれば、倉デバイスの使用は補充だけに当てるだけにできる
俺は、スサノヲを連れて校庭に出る
「データ、やるぞ」
「ご主人! オッケーだよ!」
アイテムを的に向って投げながら、左右へと移動
同時にデータが俺の動きを予測、反応しながら倉デバイスを操作
使ったアイテムを次々にロードしていく
俺は、両手とサードハンドを駆使して使ったアイテムをポーチやベルトのサックに補充していく
俺の仮想モニターには、データがロード中のアイテム、使用可能なアイテムを表示
それを判断材料として次々とアイテムの使用、補充をしていく
………
……
…
「はぁ…はぁ…」
「ご主人! 今までと比べて動作効率が四十二パーセントアップしているよ! 凄い数字だよ!」
「ああ、確かにいい感じだった」
「使い勝手はどうだ?」
スサノヲが尋ねる
「ばっちりだった。さすがスサノヲだ」
「鎧の外付けポーチって、お前も次から次によくいろいろと考えるよな。職人としてはやりがいがあっていい。帰る前に調整が終われてよかったよ」
スサノヲがへへっと照れる
「帰る前って?」
すると、スーラとフォウルとリィが遊んでいるのを見ていたミィが口を開いた
「私達は一度、龍神皇国に帰国するのよ」
「え…、発掘はどうするんだよ?」
「一旦中止、今は遺跡を保護しながら埋め直しているわ。…全面戦争が始まるから」
「…っ!?」
・・・・・・
俺達は部屋に戻る
ミィが発掘の進捗について話してくれた
「真実の眼の遺跡は、とりあえず壁画を確認することが出来たわ」
「やっぱり壁画があったのか」
「ええ。神らしきものの教団が言ったとおりね」
風の道化師が口走った言葉
「ここもどうせ壁画があるだけなんだから」
そして、実際に出て来た壁画
やはり、教団は独自に真実の眼について何かの情報を持っているということだ
「壁画には何が書かれていたんだ?」
「また地図みたいね」
「またかよ!?」
規模のでかいオリエンテーリングみたいに、次々と目的地を目指して行けってことなのか?
「それと、意味の分からない言葉」
「言葉?」
壁画に彫られていた古代語
『照らす者の鍵 2/3』
「…どういう意味?」
「だから、意味の分からない言葉だって言ってるでしょ。発掘を担当しているバビロンさん達にも分からないって」
「ふーん…、この2/3ってのは? 二月三日ってこと?」
「それも数字の二、斜め線、そして数字の三がそのままの順番で彫られていただけ。何かの符丁なのか、暗号なのか、そもそも意味がないのか。この壁画の示す地図の場所を発掘出来れば何かわかるかもね」
「すげー気になるな」
「また、発掘までのお楽しみね」
「地図の場所はどこなんだ? まさか、ナウカ領とか言わないよな? それとも、別の国とか?」
「今回は近いわ。おそらくウルラ領のどこかだと思う。龍神皇国にもどったら正確な位置を割り出すわ」
「ウルラ領か、よかった」
発掘作業には、出土品の研究と解析、分析の時間が必ず必要となる
彫り出して終わりではない
内戦が無ければ、発掘を後回しにしなくてもいいのにな
やはり、未知の発見の可能性にはワクワクする
「出土品や地図の精査はバビロンさん達に任せるつもり。遺跡の封印も今日中には終わる予定。…次の問題はラーズの方よ」
「俺?」
「ウルラとナウカ・コクル連合との全面戦争…、本当に無事に帰って来れるの?」
「…出来ることをやるしかないさ」
「…」
少しの沈黙
俺とミィは無言で視線を合わせる
「フィーナから連絡があったの。連合軍に動きがあった、あと数日で全面戦争が始まるって」
「そうか…」
俺も覚悟を決めておかなければいけない
「私はね、ラーズの能力と性格を買っている。戦争なんかで浪費するのはもったいないと思っている」
「…」
ミィが言わんとすることは分かる
嬉しいし、ありがたい
だが、戦わないという選択肢はない
なぜなら、ドミオール院と言う守るべき場所があるから
マキ組との絆が出来たから
…そして、クレハナがフィーナの国だから
ちょうどいいとも思う
俺は試してみたい
あの大崩壊で、俺だけが生き残った意味を
もしかしたら、俺はこの戦いのために1991小隊の皆に生かされたのかもしれない
そんな俺の様子を見て、ミィは諦めたような表情をする
それ以上は何も言わなかった
「フィーナも頑張っているわよ」
「…別に聞いてないし」
「でも、気になるでしょ?」
「………今は何をやってるんだ?」
「内政関係を中心にやっているみたい。龍神皇国からの支援を使って、領内のインフラや環境の改善をさせたわ。領民からの評判も上々よ」
「…ふーん」
「おかげで、ウルラ領内の生産力がかなり改善した。それを察知したナウカ側が危機感を持ったようね」
「そんなに改善されたのか?」
ウルラ領で生活しているけど、あまり実感は無かったな
「領境が後回しになっているのは事実だけど、都市部の方はかなりね。ナオエ家を含めて、着服していた小領主には厳しく命令して是正させているし、ウルラの国力はナウカやコクルと比べても一番ね」
「フィーナ、頑張っているんだな」
「連日のように、金持ちの商社や地主の成金たちを説得して資金を出させているのも大きいわ。モテすぎてて、フィーナと一席設けるために、金持達の支援待ちがいるくらいなんだから」
「あいつ、酒強いからな」
「でも、国力では勝っていても戦力としてはナウカ・コクル連合を越えられてはいない。持久戦になればウルラが有利だから、連合軍はウルラが力を蓄える前に攻めてくるつもりなんでしょうね」
「それで、全面戦争か…」
この全面戦争の結果が、そのまま内戦の結果となる可能性もある
「フィーナには会わないの?」
「…会わないよ。会う理由がないしさ」
「別に理由はいらないでしょ。今までは、理由が無くたって会って来たんだから」
「…」
「いろいろな男がフィーナを狙っている。皇国の貴族だってフィーナに目を付けているのよ? いいの?」
「振られた俺に何をしろって言うんだよ…」
俺はミィとスサノヲを見送る
間もなく全面戦争が始まる
俺の忍術は、ギリギリ間に合いそうだ
俺はフィーナへのモヤモヤをかき消すかのように、データと忍術の反復練習に打ち込むのだった
風の道化師の言葉 六章 ~37 発掘作戦2




