七章 ~18話 データのバージョンアップ
用語説明w
PIT:個人用情報端末、要はスマホ。多目的多層メモリを搭載している
倉デバイス:仮想空間魔術を封入し、体積を無視して一定質量を収納できる
ジョゼ:黒髪のエルフ男性。情報担当と事務を行う非戦闘員、整備などもこなす
データ:戦闘補助をこなすラーズの個人用AIで倉デバイスやドローンを制御。戦闘用端末である外部稼働ユニットのデータ2と並行稼働している
朝、リビングとなっている教室へ
マキ組長にドミオール院のお礼を言いたいのだが、出かけてしまっているようだ
全面戦争が近い影響か、忙しそうだ
俺もそろそろ、全面戦争に備えて本格的に忍術を完成させなければいけない
手ごたえは有る
後は、俺自身の反復練習、そしてデータとの連携だ
「あ、ジョゼ。おはよう」
「おう、起きたか、ラーズ」
ジョゼが眠そうに言う
「昨日、出かけてなかったか?」
「ああ、空港にブツを受け取りに行ってきたんだ」
そう言うと、ジョゼがスティック型の記憶媒体を取り出す
「ブツって何?」
「お前のAIにインストールする、高速アイテム術のアルゴリズムソフトだ」
「ああ、前に言っていた奴だね。結局何のソフトなの?」
俺はジョゼから記憶媒体を受け取る
「ふっふっふ…。これは、最高級にして最新のデータ蓄積型、ユニークユーザー特化のハイパーなAI用特定職業型ソフト」
「特定職業型?」
「あなたのAIがメイド長、または執事長になっちゃいますよ、バージョン17.8だ!」
「メ、メイド…!?」
ジョゼの持って来たソフトは、どうやら個人用AIにメイドや執事のような働きをさせるソフトらしい
特定職業型とは、ユーザーにとって必要な方向にAIの能力と性格を特化させるソフトであり、メイド以外にも、医者、カウンセラー、秘書など、ユーザーが求める技能をインストールしたAIのことだ
「このソフトは、最新版が出たばかりだったんだ。AIに非正規品をインストールするのは危険だから、ネット経由のダウンロードはできない。この真正マークのある記憶媒体でしかインストールできないから、品薄になってて手に入れるの大変だったんだぞ」
ジョゼが誇らしそうな顔をする
「いやいや、ちょっと待とうか!? 何をどうやったら忍術とメイドが繋がるのか、全然わかんないんだけど!?」
ドヤ顔して、何をやり切った顔してやがるんだ!?
「なにを言ってるんだ? アイテムの高速仕様のための補助をAIにさせたいんだろ?」
「そ、そうだけど…」
「そのためには、主人であるラーズの行動パターンの把握、そして使用アイテムの種類と数の把握、更に効率的な選択をするアルゴリズムを個人用AIに導入する必要がある」
「…そうだね」
「だから、メイドソフトが必要なわけだ」
「そこを一番説明してくれ!」
「何で分からないんだ!?」
「いや、何で分かると思ったんだ!?」
「…」「…」
な、何なんだ、この不毛な言い争いは!?
俺が悪いのか!?
「…つまりだな、メイドの仕事と言うのは、主人の趣味、嗜好、そしてある程度の思考パターンを把握する必要がある。さらに、秘書ほどではないが、ある程度のタスク管理、行動の先読み、スケジューリングも必要となる」
「…っ!?」
「つまり、お前の補助をしながら、お前に寄り添い、傾向を分析することで行動パターンを把握、先読みをしつつ選択肢を提示する。この動作について、メイド以上に適性のある職業があるのか!?」
「………!!」
俺個人の行動とパターンをデータベース化し、そこからアイテムのデータベースとリンクさせて、同時に使用可能なアイテムの選択肢を提示する
それこそが、俺の忍術において俺がデータに求め、未だにうまくいっていいない部分だ
俺の忍術、高速アイテム術
これにメイド要素が必要だっただと!?
誰が気がつくんだ、こんなこと!
いや、目の前に気が付いたバカ野郎がいやがったよ!
「…認めたくないが、確かに俺にはメイドが必要だったのかもしれない」
「最初からそう言ってただろ。しかも、このメイドはただのメイドじゃない。主人の、主人による、主人のためだけのメイドだ」
「えーと、要はユーザー個人に特化したメイドソフトってことだよな?」
「そうだ! ちなみに、設定によっては執事タイプに切り替えることもできる! 俺は断然メイド推しだがな!」
ジョゼが、火が着きそうなほどらんらんと目を血走らせて言い放つ
この人、こんなキャラだったのか?
俺は、まだまだマキ組について知らないことが多すぎる
「データはどっちがいいとかあるか? いや、そもそもデータは男でいいのか?」
俺はデータのアバターに尋ねる
「ご主人! 性能が一緒なら、後はご主人の好みだよ! 僕に性別はないけど、いつもご主人がより良く生きられるように考えているよ! これを愛と定義すると、僕は女になるかもしれないよ!」
「デ、データが実は僕っ娘だっただと…!?」
「ちなみに、同性設定やトランスジェンダー設定もできるよ!」
「なんでもいいわ! データに新しい設定などいらん! 俺達の関係は昨日今日じゃないんだ、今更性別なんかで変わってたまるか!」
「分かったよ! メイドソフトはアルゴリズムだけ参照、性格については今のままで運用するように設定するよ!」
どうでもいい会話が終わり、俺のPITにメイドデータが保存されている記憶媒体を差し込む
俺の個人用AIであるデータは、俺のPITにインストールされているのだ
最新版のメイドソフトがインストールされていく
「ラーズ、このメイドソフトのキャラ、めちゃくちゃいいんだぞ? 一回だけ試してみろって」
その様子を見て、残念そうにジョゼが言う
「ジョゼはメイドが好きなのか?」
「メイド喫茶に週八通うくらいには好きだな」
「どっかで一日二回行ってるじゃねーか」
ジョゼは、待ってる間に自分のPITを取り出してブツブツと話し始める
あの変な癖は、自分のメイドさんと話していたのか
ちなみに、個人用AIの存在意義は、主人の人生をより良くするもの
あまりの便利さに主人がAIに依存し始めれば、それを戒めて自分で調べるように促す
注意喚起を行いながら、作業自体は自分でやらせる
必要な情報は提示させるが、自分で決断させる
個人用AIの開発に際して一番難しかったのは、主人に対して不自由さを与えること
依存を止めながら、主人を成長させながら、サポートしていくそのバランス
便利さだけを追求させないことだったと言われている
「インストール及びイニシアライズ完了だよ!」
データが元気よく答える
「これでデータはメイド技能を身につけたってことか?」
「能力がメイド寄りになったということだよ! 同時に執事でもあるよ!」
「よし、試してみよう」
俺は、倉デバイスを取り出して腰のサックに付ける
「データ、使用可能なアイテムと、ロード中のアイテムを仮想モニタ―に表示させてくれ」
「了解だよ! 同時に、戦闘が忙しい場合は音声での報告も行うよ!」
「ああ、よろしく」
効率的な作業には、インターフェースのカスタマイズが必須だ
シャドーを始めながら、アイテムを使っていく
実際に使うわけではなく、床に置いたりソファーに投げたりして使ったということにする
ナイフで切って、投げつける
マガジンを抜いて銃化した左腕に着装
小型杖を抜き、同時に魔石をサードハンドで持つ
仮想モニターに、倉デバイス上で回復薬がスタンバイ、ロケットランチャーをロード中の表示が出ている
回復薬を抜き出してサックにはめる
同時に、データが倉デバイス上から巻物をロード
俺はモ魔を使ったことにして、次の巻物のロードを待ちながら戦う
データが俺に合わせ、俺もデータに合わせる
俺とAIが力と呼吸を合わせることで、アイテムの使用効率は上がる
但し、アイテムの選択肢は若干狭まる
だが、俺が声をかければ直ちにデータが最優先でそのアイテムのロードを始める
…俺の忍術の完成が見えて来た
後はスサノヲに頼んだベルトやポーチの使い勝手次第だ
まもなく、俺の忍術は完成する
つまり、俺は正式に忍者となる時が近づいている
そして、なれるという自信もある
…楽しみだ
データのソフト 七章 ~14 忍術修行




