七章 ~16話 忍術の試行錯誤
用語説明w
ヴァヴェル:魔属性装備である外骨格型ウェアラブルアーマー。身体の状態チェックと内部触手による接骨機能、聖・風属性軽減効果、魔属性による認識阻害効果を持つ
スサノヲ:見た目は赤ずきんをかぶった女の子。正体は、怪力の腕利き鍛冶職人でジャンク屋
コウ:マキ組の下忍、青髪の魚人男性。補助魔法である防御魔法、そして銃を使う
ルイ:マキ組の下忍、赤髪の獣人男性。スナイパー技能に長けている
ヤエ:マキ組の下忍、ノーマンの女性。潜入に特化した忍びで戦闘力は低い。回復魔法を使うため医療担当も兼務
ジョゼ:黒髪のエルフ男性。情報担当と事務を行う非戦闘員、整備などもこなす
ルイが俺の前に立つ
その前にはテーブルが置いてあり、その上にはカップが四つ、ボールが二つ置いてある
「それじゃあ、やるぞ」
「ああ、頼む」
ルイは、カップをボールに被せてスイスイと動かしていく
カップをボールから外し、また被せる
そして…
「あれっ!?」
ルイが全てのカップを倒すと、二つあったボールが一つになっていた
「これがボールの消失マジック、カップアンドボールだ」
「凄い…、見逃さないように見てたのに見落とした…!」
「意識の誘導さ。疑わしい動作をわざとやって、その隙にもう一つのボールを隠す。手品の基本だな」
「なるほど…」
俺は、自分の忍術の完成のためにルイに手品をレクチャーしてもらったのだ
「手品は事前準備と反復練習が成功のカギだ。参考になればいいけどな」
「ルイは忍術を作る時って苦労したのか?」
「俺はスナイパーだ。自分が何をしたいのかは分かっていたから、後はその手段を調べて考えるだけだった。簡単ではなかったけど、他の忍び達よりは時間がかからなかったんじゃないかな」
ルイは自分の技能を生かすための忍術を作り出したってことか
ルイの隠れ身の術はスナイパーの生存率を跳ね上げる
俺はルイから話を聞くと、次はコウの所に向った
コウはアサルトライフルの分解掃除をしていた
「ラーズ、どうしたんだ?」
「忍術の考え中でさ。コウが忍術を考え付いた時のことを教えてくれよ」
「俺の忍術って…、高圧封入術のことか?」
「うん。どうやって思いついたのかなって」
「俺は普通の兵士としての技能しか持ってなかったから、近接戦闘や対モンスター相手と戦う時の切り札が欲しかったんだよ。補助魔法として防御魔法だけは使えるから、一気に飛び込んで大ダメージを狙えるような武器をさ」
「それであの凶悪な武器を考えたのか」
「俺が働いていた工場はダイバー製品を作っていたんだ。ワスプナイフは元々サメを撃退するためのナイフで構造は分かっていたし、交換用のボンベも市販のものだからすぐに手に入ったんだ」
コウは、自分の知識経験から忍術を作り出したのか
確かに、ルイの高圧封入術によるナイフの一撃は必殺の武器となり得る
「こんちわー! ラーズいますかー?」
玄関の方から大声が聞こえた
スサノヲが来たらしい
「あ、スサノヲ。悪いな、来てもらって」
「いいさ、金はもらうからよ。それで、何を作って欲しいんだ?」
「ヴァヴェルのカスタマイズとベルトの作成だ」
スサノヲを呼んだ理由
それは、俺の忍術、高速アイテム術を完成させるためだ
考えた結果、倉デバイスのロードに出来る限り依存しないでアイテムを保持することが必要という結論になった
俺の腰のベルトには、携帯用小型杖、引き寄せの魔石のスピードローダー、アサルトライフルのマガジンをサックに入れている
そして、右の背中側に自己生成爆弾のボックスを付けている
言い換えれば、倉デバイスを使わないですぐに使えるアイテムはこれだけしかないのだ
後は手で持つか、サードハンドで保持するしかない
倉デバイスからのアイテムのロードに時間がかかるからこそ、俺の高速アイテム術が阻害されてしまっている
それなら、極力使わないで済むように、と言うのが今回の改造の趣旨だ
「なるほどな…、面白そうじゃないか」
スサノヲは頷くと、プリントアウトして持って来たヴァヴェルの設計図をテーブルに置く
「単純に持てるアイテムを増やしたいんだけど、ホバーブーツとかの高速機動の邪魔になっちゃ困るんだ」
「分かった、とりあえずはここだな」
スサノヲが設計図に直接書き込んでいく
太ももと二の腕にそれぞれベルト付きサックだ
「これで四つのアイテムを付けられる。マガジンでもいいし、ナイフや小型杖でもいい」
「お、いいな!」
そう言えば、ヴァヴェルが完成した頃は、太ももにもナイフサックを付けていた
だが、度重なるダメージで何度も千切れたため、いつの間にか付けなくなってしまっていた
「そして、背中と腹にポーチを付けよう。サックと違って、取り出しに若干手間取る可能性もあるけど、そこは練習だ。固めの素材を使えば、高速機動中でもそこまで邪魔にならないはずだ」
「なるほど…」
「そして、左腕に付けているラウンドシールドの内側にもサックを付けられるだろ」
「ここもか、いいな」
「後は、脛と前腕にもサックを付けられるけどどうする?」
「脛には付けてほしいな。前腕は装具の邪魔になるから止めといてくれ」
「オッケー、分かった」
そう言うと、スサノヲはノート型の情報端末を開いて設計をし始めた
「え、ここで設計すんの?」
「うるせーーー! 邪魔だからどっか行ってろ!」
「えぇっ!? ここ、俺の部屋…!」
スサノヲは、設計や作業中に凄まじい集中力を発揮する
通称、職人モードだ
そして、このモードの時は人の話を一切聞かない
…俺は、声をかけることを諦めて部屋を出た
よし、手品で言うタネの仕込みは終わった
後は、俺が使いこなすだけだ
「お、ラーズ、ちょうどいい所に」
「ジョゼ、また何か仕入れたのか?」
校庭に出ると、ジョゼが車で戻って来た所だった
「フウマの里の本部に行ってきたんだ。いろいろ貰って来たぜ」
「いろいろって、何を?」
「とりあえず試してみればいいさ」
ジョゼが貰って来た物とは…
「すげー! 忍者って感じがする!」
それは、手裏剣、マキビシ、苦無、鉤縄、手ぬぐいなどだった
「ラーズの高速アイテム術に使える物がないかと思って、ついでにもらって来たんだ」
「へー、ありがとう。でも、苦無はナイフがあるし、鉤縄は流星錘アームがあるし…、この手ぬぐいって何なの?」
「これは殺菌作用がある布で出来ていて、簡易の包帯、水をろ過して飲む、なんて使い方が出来る。持っていても邪魔にならないし、石を包めばハンマーにもなるぞ」
「へー、これは持っておいてもいいかも」
「マキビシはどうだ? ばらまくだけで簡易地雷になるし、投げつても武器になる」
「うん、俺もいいなって思ったんだよ。でも、形状的にかさばるんだよな…。ただでさえ、倉デバイス以外でどうやって持とうか悩んでるのに」
「おいおい、これは現代の技術で作った忍具だぞ? ちゃんと考えられてるって」
ジョゼが出したのは、四本の棘を折りたためるタイプのマキビシだった
他にもいくつか種類がある
「こんなのあるんだ。こっちの、中が空洞になってるマキビシは?」
「それは車のタイヤを狙う奴だな。タイヤから空気を抜くために空洞にしてるんだ」
「よく考えてるな…」
俺は考え込む
「ラーズ、すぐに使う物はある程度決まってるだろ? とりあえず倉デバイスに入れておくのもいいんじゃないか?」
「確かにそうだな…。選択肢として、倉デバイスにあるアイテムの種類を増やすのもいいか」
俺は、いくつかのマキビシを選んでジョゼから受け取る
「他にも、投擲用のアイテムが結構あったんだ」
ジョゼが、陶器のような素材のカプセルを取り出す
「何が入ってるんだ?」
「対アンデッド用の聖水、強酸、煙幕…って感じかな」
ジョゼが説明書を見ながら言う
投擲は、すぐに使える手段としてバカにできない
しかし、聖水や酸は聖属性や水属性の魔石、霊札などでも代用できるために持つかどうかを悩む…
「煙幕は使えそうだからもらっていい?」
「ああ、持って行け。そうだ、前に言ってたAI用のソフト、もうすぐ手に入るからない」
「ああ、分かった。ありがとう、楽しみにしてるよ」
俺は、校庭に出てアイテムをサックにはめたベルトを付ける
俺はサードハンドを発動、そしてアイテムを取り出す練習だ
…後は、俺自身の成長だけだ
「データ、倉デバイスを動かしてくれ」
「ご主人! 分かったよ!」
ひたすら反復練習を行う
リィとフォウルが空を飛んでいる
「ヒャーン!」
「ガウ」
「あら、リィとフォウル?」
振り向くと、遊んでいた二匹にヤエが声をかけていた
「ヤエ、出かけるの?」
「ええ、今日はデートなの」
「また仕事か…、大変だね」
「ううん、違うわ。今日は、本当の彼氏とのデートよ」
「…え?」
そういえば、今日のヤエは薄いピンクの唇がかわいいナチュラルなメイクだ
いつもは、完全にお水って感じのばっちりメイクか、隙の多い女って感じのあざとメイクなのに
「ヤエって、彼氏いたんだね」
「先週出来たの」
ヤエは嬉しそうに言う
「今日のメイクは仕事の時と違うね」
「彼が自然な君が好きって言うから」
ヤエが微笑む
「そ、そうなんだ。ちゃんと合わせてあげるんだね」
「好きな人とのエッチは、喜んで欲しいし特別にしたいでしょ?」
そう言ってウインクすると、ヤエは出かけて行った
え? 何、この子
ちょっとかわいいんだけど
AI用ソフト 七章 ~14話 反復練習