閑話21 ブロッサムの資金
用語説明w
ボリュガ・バウド騎士学園:ギアにあるラーズとフィーナの母校で、魔法、特技スキル、闘氣オーラを学び、Bランク以上の騎士となることを目的とする学校。十~十八歳までの九年制
フィーナ:B+ランクの実力を持ち、漆黒の戦姫と呼ばれるウルラ最高戦力。仙人として覚醒、宇宙戦艦宵闇の城をオーバーラップ、更に複合遁術を習得した大魔導士。ラーズとの別れを選んだ
ドース:クレハナのウルラ領の領主で、第二位の王位継承権を持つ。フィーナの実父
セフィリア:龍神皇国騎士団の団長心得。B+の戦闘力を持つ。ラーズの遠い親戚で、五歳年上の憧れの竜人女性。使役対象は、生きたアイテムであるヴィマナ
クレハナの国営企業、ブロッサム
内戦が起こる前のクレハナでは、国が産業を指定して各企業や研究機関に資金を補助するという取り組みがなされていた
その一連の事業が国営企業としてまとめられたものがブロッサムだ
その結果、現在は貿易、原子力、魔石精製、そして農業や畜産など多方面の産業を手掛けている
「フィーナ姫様、ようこそ」
「リャンさん、お世話になります」
リャンは、ブロッサムの現在の代表取締役社長
人当たりの良い笑顔の壮年の魚人男性だ
以前はフィーナの実父であり、ウルラ家の当主であるドースが代表を務めていたのだが、あの大崩壊に関与したことによる責任を取って身を引いている
その後継としてリャンが代表となっている
ウルラは、近づいている全面戦争に向けて兵器の増産を急ピッチで進めている
この全面戦争に向けた予算は、五割をブロッサムから出すことになっている
「しかし、フィーナ姫様。本当にブロッサムからここまで出してしまっていいのですか?」
リャンは尋ねる
ブロッサムの資金がいくら潤沢にあるとはいえ、それは過去の業績で生まれた貯蓄でしかない
貯蓄は、当然に使えばなくなるものだ
「ええ、いいんです。この全面戦争に負けるわけにはいきませんから。ウルラの全てを注ぎ込みます」
「しかし、それで勝てたとしても、その後に戦うだけの力が無くなってしまいませんか?」
ブロッサムの予算はウルラの命綱だ
ブロッサムが機能していれば収入が見込めるし、その信用で他国から借金をすることもできる
しかし、今回の資産の投入はブロッサムを使い潰しかねないほどの出費だ
とてもじゃないが、全面戦争後に出せる予算は無い
全面戦争に勝ったからといって内戦は終わらない
ウルラ領の復興と維持、ナウカ・コクル連合側の領地の制圧のための戦闘も必要
そして、そのためには更なる予算が必要となる
「それには、当てがあります。しかし、全面戦争に勝たないことには始まらないんですよ。クレハナの中で、ウルラとナウカ・コクル連合と言う看板を賭けた戦いですから」
「そうですか…。私は、フィーナ姫様とドース様のお言葉に従います。ウルラをよろしくお願いします」
「もちろんです。全面戦争が終わりましたら、私自身がブロッサムの立て直しを行いますから、その点も安心してください」
「ええ、よろしくお願いします」
そう言うと、リャンは時計を見た
「フィーナ姫様、昼食は取られましたか? よろしければ、ご一緒にどうですかな?」
「ありがとうございます。頂きます」
しばらくすると、食事が社長室に運ばれてきた
「ここの社員食堂の食事です。お城の食事と違って味気ないとは思いますが」
「豪華な食事は、必要な時に取ればいいと思っています」
フィーナは、注文した天丼とお蕎麦のセットを食べ始める
「…クレハナにいた頃のフィーナ姫様を知っていますが、ずいぶん立派になられましたな」
「え?」
リャンは懐かしそうに話し始める
フィーナは、七歳のころにクレハナを出てセフィリアのドルグネル家の庇護下に入った
六歳のころに内戦が始まり、身の危険があったからだ
リャンは、当時は灰鳥城でドースの元で働いていた
小さいときから頭のいい子供ではあったが、陰のある女の子
同じ年の子供が灰鳥城にいるわけもなく、忙しいドースの影響でいつも一人だった
王位継承権を持つが故に、メイドや家庭教師も距離を置いて接する
フィーナは孤独だった
「龍神皇国に行くようになってから、フィーナ姫様は変わりました」
「そ、そうでしたか?」
オーティル家と接し、同い年くらいの友達と遊ぶ
龍神皇国ファブル地区の小学校にも通い、八歳でボリュガ・バウド騎士学園に入学してからは更に変わっていった
「私も灰鳥城の同僚とよく話していたんですよ。毎年、帰ってくるたびにフィーナ姫様が大きく成長されてくるって」
「そんな…、ただ、子供だから成長しただけですよ」
「いえいえ、精神的な成長ですよ。学友と接し、性格も明るくなった。ドース様に言い返すようにもなり、自分で王位継承権を放棄すると言った時には本当に驚きました」
「あの時は…」
「ああ、私はフィーナ様の決断に賛成でしたよ。内戦のドロドロとした戦いに関わって欲しくありませんでしたから」
「ドロドロですか…」
「ナウカのシーベル様とドース様は、王位継承権の関係であまり仲が良くありませんでした。それに、ドース様のお后様…、フィーナ様のお母さまの件もありまして、フィーナ様は寂しい思いをされたと思います」
「いえ…」
リャンは、コクル領内にある現在は機能していない議会にもよく顔を出していた
ナウカのシーベルは、第一位の王位継承権を持っていた
ナウカはクレハナの歴史学を好んで学んでおり、龍神皇帝国時代にクレハナの地域が迫害されていたことを上げて、クレハナは自国で守るべきと言う保守派の考えを持っていた
そして、ブロッサムを主導して利益を上げていたドースは、国外、龍神皇国ともっと連携を強化して国力を成長させる方針として革新派の考えだった
当然、国の方針でぶつかることも多く、当時の王もその方針を決めかねているような状況であった
「ですが、お二人ともがクレハナの未来について真剣に考えており、私はお二人の意見の対立は必要な事だったと考えています」
リャンが懐かしそうに言う
だが、王の死、そして遺書の発覚が全てをおかしくしてしまった
クレハナのためにぶつかって来た二人が、今度は武力を持ってぶつかるようになってしまったのだ
「…ごちそうさまでした、リャンさん」
「また、いらしてください」
「はい、よろしくお願いします」
食事終え、フィーナはブロッサムを後にした
根回しは順調、後は全面戦争に備えるだけだ
「フィーナ姫、どうだったのだ?」
五遁のジライヤが、音もなく現れる
「リャンさんは了解してくれた。ブロッサムの資金は全てつぎ込めるわ」
「ブロッサムが一時的に機能しなくなるな」
「仕方ないわ。全面戦争に負けるわけにはいかないんだから」
「…目的はそれだけじゃないがな」
「セフィ姉から頼まれた調査のためには、ブロッサムを一度、活動停止にまで追い込む必要がある。再建は大変だけど、ちょうどいいわ」
「まず、全面戦争に勝つ事が条件だがな」
フィーナは、灰鳥城の窓から夕日を眺める
金色の黄昏
ラーズとシグノイアの公園で見た景色を思い出す
ラーズが告白してくれた、あの海沿いの公園
また、あの公園に行きたいな
…全面戦争は間もなくだ
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