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七章 ~9話 ドミオール院の出禁

用語説明w

コウ:マキ組の下忍、青髪の魚人男性。補助魔法である防御魔法、そして銃を使う

ヤマト:龍神皇国騎士団の騎士、特別な獣化である神獣化、氣力を体に満たすトランスを使う近接攻撃のスペシャリスト


俺とコウが車に乗り込む


「さ、子供たちに癒されに行こうぜ」


「コウは本当に子供達が好きなんだな」


「ラーズは好きじゃないのか?」


「いや、好きだけどさ。わがまま言ったり喧嘩したりとか、疲れる時もあるよ」


「ふーん…、まぁ、慣れだよな。子供だからしょうがないって思えばさ」


「そう言うもんかぁ」



ドミオール院につくと、軍用のSUVが停まっていた


…一瞬、また小領主のナオエ家の連中かと思ったが、中にいたのはヤマトだった


「こんにちはー」

「お邪魔しまーす」


「まぁまぁ、いらっしゃい」

マリアさんが、俺達の姿を見て立ち上がる


「よう、ラーズ」


「ヤマトの車だったんだな。またナオエ家のゴロツキが来たのかと思って警戒しちゃったよ」


俺達は、マリアさんに勧められてテーブルに着く

すぐに緑茶を入れてくれた



「フィーナ姫様が直々に注意をしてくれたらしく、あれからナオエ家はここに来ていませんね」


「そうですか、よかった。何かあれば、マキ組かヤマトにすぐに連絡してくださいね」


「ありがとうございます」


マリアさんは、そう言いながら洗濯物を畳み始めた

やはり、ここは大人の手が少ないので大変そうだ


「ナオエ家の連中、俺も話に聞いたが、かなりのダメっぷりみたいだな」

ヤマトがお茶を飲みながら言う


「そうなのか?」


「ドースさんがムタオロチ家から兵器を輸入して戦っていた頃は、ナオエ家の領内は補給基地を作って最前線として機能していた。その時はドースさんも戦力の維持のために補助金を出して手厚く扱っていたらしいんだ」


「今は?」


「戦況が拮抗、ウルラもナウカとコクルの連合もジリ貧で、補助金なんか出せる余裕はなくなった。それなのに、ナオエ家の領境は内戦の最前線のままだ。戦闘で町はダメージを受け、農地は荒廃し、どんどん衰退していってる」


「仕方ないってことか?」


「いや、これは補助金を贅沢に使い切って、領内のインフラや防衛設備に一切投資しなかったツケだ。…今更どうにもならないだろうな」


「何なんだよ、それは…」


ナオエ家は、ドースが領境の維持のために出していた補助金を使って遊び惚けていたらしい


その結果、町は放置

いざ補助金が打ち切られてみれば、内戦の影響でどんどん荒廃していったのだ



「フィーナがナオエ家を直接怒ったから、しばらくは大人しくしているとは思うぜ」


「怒ったのか」


「ナオエ家は、自分たちが悪いくせに、内戦のせいで領内が荒廃したと主張して税収を横領していたんだ。しかも、ウルラ家からの支援物資まで着服していた。内戦中じゃなければどえらい処分を下していただろうな」


「ナオエ家ってクソ野郎じゃねーか。フィーナもちゃんと仕事してるんだな」


「内政はフィーナが頑張ってるみたいだぞ。ミィからアドバイスをもらいながら、どんどん改革していってる。実際にインフラ、工場、農地などの再生範囲が広がってるしよ」


「そうか…」


フィーナ、頑張ってるんだな

ますます遠くに行ってしまった気がする

でも、自分の国のために頑張ってるのなら応援したい



「…?」


「どうした?」


不意に、窓の外に視線を向けた俺にヤマトが尋ねる


「ドミオール院を見ている奴がいるな。…二人だと思う」


ヤマトも窓の外を見る

木陰からおそらく双眼鏡のようなものでドミオール院の建物を見ている


「よく気が付いたな。どうせ、ナオエ家の者だろ」


「変異体のドラゴンタイプは感覚が鋭いんだよ。何でナオエ家が?」


「フィーナ姫にちょっかいをかけて振られ、しかも横領について厳しく言われて逆恨みしてるのさ。ドミオール院についても、二度と近づくなって厳命されて、ああやって遠くから様子を見ることしかできないのさ」


「ナオエ家ってめんどくさいな。…ドミオール院を狙ったら、マキ組も動くって言っといてくれよ」


「フィーナ姫と、俺達皇国の治安維持部隊も動くって言ってあるから大丈夫だ」


「…」


しばらく見ていると、監視していた二人は去って行った



「大分復活して来たみたいだな」


「何が?」


「失恋だよ。振られて、かなりやられてただろ」


「…騎士学園からの幼馴染でさ。その後付き合って、振られたんだぞ? だけど、やっと割り切れてきたよ」


「そりゃよかったな。もっと引きずるかと思ってたぜ」


「しばらくは忍びとしての修行に集中するのにちょうどいいかなって。全面戦争までに忍術を習得したいんだ」


「へー、ついにラーズも忍者になるのか」


「ちゃんと忍術が身に付けばな。一人でストイックに技を極めるとか、嫌いじゃないからさ」


正直に言うと、打ち込めることがあってよかった

無かったらまだ立ち直っていなかったかもしれない


振られるってさ、しかも皇国に帰れってさ、自分の存在を否定されたみたいで中々きついものがあるんだ

お前なんかいらないって言われたみたいで、もうこれ以上ないくらいハートがブロークンだったよ


分不相応だけど…


力が欲しい

ヤマトにも、フィーナにも、ジライヤの野郎にも、そしてマサカドにも負けない力が



「俺はあの決定的瞬間を見た後にラーズが振られたって聞いたからよ。なんて声かけていいか分からなかったんだ。立ち直ったならよかったぜ」


「…あれも原因なのかな」


「俺は、むしろアレが原因だと思ってる」


「そんなにアレだった?」


「完全にアウトだった」


「…」


もう、ため息しか出ねーよ

今更だけど



「でも、ヤマトさ」


「うん?」


「お前も他人事だと思ってると、痛い目見るかもしれないぞ?」


「どういう意味だ?」


「最近、ミィと会ってるのか?」


「いや、俺も戦闘が多いし、ミィも発掘がどうとかで忙しそうでな」


「…ちゃんと会う時間を無理やりにでも作らないと、俺みたいに後悔するぞ」


「…どういう意味だよ?」


「同じパーティだった俺からの助言だ。素直に来ておけ」


さすがにミィの言葉を直接は伝えられないからな



「ただいまー」


ちょうどその時、出かけていたウィリンとタルヤが帰って来た


「あ、ラーズ! いらっしゃい」


「タルヤもウィリンも元気そうだね」


「最近は集落の人達がドミオール院のことをいろいろと助けてくれて、生活しやすくなってるわ」


「ラーズさんのお父さんが集めてくれた支援物資のおかげですよ」

ウィリンが言う


身寄りのない子供達を世話する

その子供たちは、厄介ごとを持った身の上の可能性もある


自分たちの生活がギリギリなのであれば、関わりたくないというのが集落の立ち位置だった

しかし、ドミオール院側から集落の人達に支援の手を差し伸べたおかげで、少しだけ関係が変わったようだ



俺とコウ、ヤマトは、マリアさんとウィリン、タルヤの手伝いをして、子供達と遊んで、しばらくの間だけ内戦のことを忘れた


帰り際にタルヤが、

「ラーズ、彼女と別れたって聞いたんだけど…」

と聞いていた


これ、情報源はヤマトしかないだろ


「うん…、まぁ…」


あいまいに頷いたら、タルヤは「元気出して」と言って深く聞いてこなかった

そんな、タルヤの気の使い方がちょっとだけ嬉しかった




・・・・・・




マキ組の廃校に戻って来ると、マキ組長たちも帰ってきていた


「ラーズ、コウ、話が有ります」


「え…、はい」


俺とコウは、マキ組長に呼ばれて元校長室である応接室に入る


「まもなく全面戦争が始まります。そのために、戦闘員であり忍びである私達に弱みがあっては話になりません」


「は、はい」

コウが頷く


「あなた達はドミオール院に情を持ってしまっている、これは忍びとして論外です」


「は、はい…」


「今後、ドミオール院に行くことを禁止します」


「え、えぇっ、そんな!?」

コウが驚く


いや、そんな理不尽な!


「弱みを握られれば命取りになる。ウルラの命運を決める全面戦争前に看過できることではない、異論は認めません」


「………はい…」



マキ組長の、冷酷な、そして反論を切り落とすかのような命令で、俺達はドミオール院への立ち入りを禁止されてしまった

全面戦争までとはいえ、酷すぎる



マキ組長は、やっぱり目的のためには血も涙も、そして甘さも持たない


…とても忍びらしい人だった




ナオエ家のゴロツキ 六章 ~34話 教団の救い

ミィの言葉 六章 ~35 発掘計画inクレハナ

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