七章 ~8話 装具の完成イメージ
用語説明w
ロン:ラーズのトウデン大学の同期で、共に格闘技をやって来た仲。現在は消防官兼総合格闘技のプロ、エマと付き合っている
コンコン
「どうぞー」
廃校の教室の一つ、俺が私室として使っている部屋のドアがノックされた
「ラーズ、電報が届いてるわよ」
ヤエが封書を渡してくる
「電報?」
メッセージを送り合えるこのご時世に電報とは…?
二つ折りになっていたおしゃれな厚紙を開けると、中にはプリントアウトされた写真が入っていた
「…っ!?」
そこには、円形のケージの中でベルトを巻いたロンが写っていた
その横ではエマが目を抑えて俯き、ロンが肩を抱いている
総合格闘技団体、マジ卍
そのバンダム級チャンピオンになりやがった…!
『やってやったぞ!』
写真には、オレンジ色のマジックで手書きで書きなぐられていた
そして、写真はもう一枚入っていた
「お、これは!」
そこは控室のようで、ロンと共に二人の男女が立っている
大学の空手部のゴドー先輩と柔道部のケイト先輩だ
二人とも大学卒業後はギアに住んでいたはずだが、ロンのタイトルマッチのためにウルの龍神皇国まで応援に来たようだ
軌道エレベーターによる宇宙飛行機のおかげで、ペアの惑星間の移動は簡単にできる
文明万歳だ
二人は大学時代に付き合っていたが、卒業後に分かれたと言っていた
だが、二人は笑顔で写真に写っている
別れる = 険悪、必ずしもそうじゃないよな
電報には、URLだけが記載されていた
「データ、頼む」
「分かったよ!」
データがアバターのカメラで読み込み、サイトに接続
俺の仮想モニターに映像が流れ始めた
「ラーズ、嬉しそうね。知り合い?」
ヤエが尋ねる
「あ、うん。大学の友達がMMAのチャンピオンになったんだよ」
「へー、凄いじゃない」
「電報で、試合を見れるサイトを送ってくれたみたいなんだ」
「私も見ていい?」
「格闘技、興味あるの?」
「どっちかと言うとチャンピオンの方に。それに、チャンピオンの知り合いがいるって言えば、話が広がるでしょ?」
おぉ…、ヤエは仕事熱心だな
キャバ嬢は、ただ笑って酒を注いでいればいいわけじゃない
トークの引き出しの数によって客の満足度が変わるのだ
俺はモニターにサイトの映像を飛ばす
映像が始まると、リングアナウンサーが選手の紹介を行っていた
「赤コーナー、チャンピオン! 青コーナー、チャレンジャー―――、ローーンーー!」
「うおぉぉぉぉっ!」
大歓声が巻き起こる
ロンの声援も結構あり、人気がありそうだ
カーーーン……!
ゴングが響き、お互いがコーナーから出る
コーナーと言っても円形のケージのため、お互いの入口をコーナーと言っているだけだ
チャンピオンは柔術を使うらしく、ジャブから一気に組みに行く
ドガァッ!
「ごはっ…!」
入って来たタイミングで、ロンの強烈なミドルが腹にめり込む
しかし、追撃でパンチを撃ったところで、チャンピオンが腕をキャッチして飛びつき、ロンを引き込む
そこからグランドの攻防、ロンは必死にチャンピオンの寝技を耐える
寝技の応酬はチャンピオンに分があり、一ラウンド目のポイントはチャンピオンに取られてしまった
二ラウンド目
また、チャンピオンのジャブ
そして、組みつき
だが、今度はロンが狙っていた
ゴガッッ!
思いっきり頭を叩きつける頭突き
チャンピオンが仰け反る
ストレート、フックが直撃
追撃をかわしてチャンピオンがタックル
ゲージまで押し込まれる
ロンが腰を落として、耐える
チャンピオンが勝負に出た
自分からタックルを放して、右のフック
隙を突かれたロンがまともに貰ってしまう
柔術使いがパンチに切り替えただと!?
そのまま、チャンピオンが追撃左フック
直撃と思われた、その瞬間
ロンは腰を落として、右の前腕を内から外側へと張った
空手で言う、手刀受け
MMAでは、あまり見ないガードだ
だが、チャンピオンのフックはしっかりと腕を張らないと止められないと判断したのだろう
フックを止めた瞬間、右手を返してチャンピオンの左手首を抑える
ゴガッ!
「…っ!?」
そのまま右ひじを斜めに振り下ろす
チャンピオンの頭が弾け、左眼の上から大流血
ゴッ ガッ!
肘を打ち下ろされたダメージは大きく、そのままロンはチャンピオンを打撃で圧倒
最後は、引き込んで来たチャンピオンに拳を打ち下ろし、踏みつけでTKOをもぎ取った
「きゃー、やった! ラーズの友達、凄いじゃない!」
ヤエが、普通のファンみたいに喜んでいる
「うん…、凄かった。これでも、俺とロンはライバルだったんだ。差が開いちゃったなー…」
「ラーズ、今度このチャンピオンに合わせてよ。ロンさんに」
「いや、いいけどロンは彼女いるからね?」
「彼女じゃなくても、大丈夫よ?」
「うん、ごめん、何の話? 俺の友達に変なことしないでって…!」
ヤエは俺にペロッと舌を出し、笑いながら部屋を出て行ってしまった
・・・・・・
ロンの試合を見て、あるイメージが湧いた
俺の装具、それは俺に合った形にするべきだ
俺に合った形とは、体格と言う意味だけではない
俺の使う技術、つまり俺の習って来た格闘技に適した形だ
俺は、格闘技を活かせる形で装具に刃物を仕込んだ
俺は、ニーベルングの腕輪に精力を流し込み、装具を形作る
ロンからもらった刺激を、興奮を、そのまま流し込む
汎用性の向上
俺の装具の一応の完成形とする形を作り上げる
校庭に出ると、マキ組長がコウとルイの訓練を行っていた
「ラーズ、忍術の進み具合はどうですか?」
「いえ、まだ時間がかかりそうです」
「あまり全面戦争まで時間がありませんよ?」
「はい…」
会話が終わると、無言でマキ組長が二丁鎌を持つ
忍者の組に入って、軍時代と徹底的に変わったこと
それは空気を読む能力だ
攻撃が来るかもしれない
その空気を読む
そして、読んだ結果は外れてもいい
なぜなら、外れても戦いにならないだけ、損はしないからだ
残心
常に備える
これが忍びの日常であり、兵士や傭兵のような戦場と戦場以外のオン・オフがある職業とは一線を画す
ちょうどいい、新型装具の実戦だ
まだ、形が若干歪だが、使い勝手を試す
前腕を覆う装甲が盾となり生存率が上がる
ヴァヴェルを着ていれば、装具は前腕部の追加装甲となる
ドガガガガッ!
陸戦銃でアサルトライフルを撃ちこむ
手甲のついた手袋型の装具は、具現化したまま別の武器を使えるというメリットがあるのだ
鎌の連撃にパンチを割り込み、手を返して爪を薙ぐ
仰け反ったマキ組長に更に、同時に装具の新機能、仕込み刃物で斬りつけ!
マキ組長の前髪が少しだけ散る
やった、あのマキ組長に攻撃をかすらせてやったぜ!
「…その装具、身体に馴染んで来ましたね。練度も上がっています」
「格闘術が、そのまま応用できるようにしました」
俺は答えながら、自己生成爆弾のウンディーネをマキ組長に付ける
一度は貼りつけば、その粘着力で爆発からは逃れられない
装具を付けたまま銃も爆弾も使える!
いいじゃないか!
…って、マキ組長、さすがにこれは死んじゃう!?
ドッガァァァァン!
「なっ…!?」
しかし、マキ組長は羽織りをふって爆風から簡単に逃れて見せた
「…その、手甲型装具の名前はもう決めたんですか?」
「名前?」
「装具は、完成させれば個人のオリジナル武器となります。特別に名前を付けることが多いと聞きますよ?」
「名前か…、ちょっとかっこいいのを考えて見ます」
そう言えば、セフィ姉の翼のような装具はジハードと言う名前がついていた
俺も何か考えてみよう
翼になって羽根を撃ち出せるような、ジハードのとんでも機能はいらない
この装具の利点は、器用さだけだ
装着しながら、各種武器を使える
そして、そのまま俺の格闘術にも生きる
俺の忍術のイメージが固まって来た
…よし、後でルイにマジックを見せてもらおう
ゴドー、ケイト先輩 五章 ~3話 ロンとのスパー
ジハード 閑話2 セフィリアのお仕事