七章 ~6話 発掘進捗
用語説明w
ミィ:龍神皇国騎士団経済対策団のエース。戦闘能力はそこまで高くないが、経済的な観点で物事を考える。海の力を宿したオーシャンスライムのスーラが使役対象
スサノヲ:見た目は赤ずきんをかぶった女の子。正体は、怪力の腕利き鍛冶職人でジャンク屋
フィーナ:B+ランクの実力を持ち、漆黒の戦姫と呼ばれるウルラ最高戦力。仙人として覚醒、宇宙戦艦宵闇の城をオーバーラップ、更に複合遁術を習得した大魔導士。ラーズとの別れを選んだ
今日はミィ達と会うことになっている
マサカドとの戦闘後の、遺跡発掘の状況を聞くためだ
「ラーズ、遅いわよ」
「悪い、少し寝坊した」
ここはウルラ領内にある町のレストラン
ミィ達は、すでに料理を頼んでいた
「ラーズ、装備を壊してないだろうな?」
スサノヲがじろっと睨んでくる
「あれから、マキ組の戦闘は一回しかない。今の所大丈夫だって」
「ふーん、少し平和になったのか?」
「嵐の前の静けさでしょ。領境に両軍が着々と集まっているんだもの、わざわざ境界を越えるバカもいないから戦闘が少なくなっているだけよ」
ミィが口を挟む
間もなく始まる全面戦争
ウルラ軍とナウカ・コクル連合軍の実質の勝者が決まる戦いだ
「それで、発掘はどうなんだ?」
バビロンさん達の発掘チームが行っている、真実の眼の遺跡発掘
神らしきものの教団の襲撃、ナウカの侵攻、そしてスタンピートの危機…、前回は散々な目に遭った
前途多難すぎて反吐が出そうだった
「今の所、特に問題なく進んでいるわ」
ミィがハンバーグを口に運びながら言う
前回、マサカドに龍神皇国の騎士団が調査をしていることを直接伝えたことで、ナウカ側からの干渉は無くなった
神らしきものの教団も、マサカドが壊滅させたからか姿を現していない
しかし、唯一の懸念事項としてモンスターの存在がある
周辺には、相変わらず虫系モンスターが多く姿を現しており、何度かウルラ軍が戦闘を行っている
孵化期だけあって、王の蟲だけでなく、甲冑ムカデやティタンワームなども姿を見せた
「それで、何か発見はあったのか?」
「事前調査では、石室と大きな岩のようなものがあることが分かってる。あの教団の連中が言っていた通りなら、本当に壁画があるのかもしれないわね」
「また壁画か…」
龍神皇国ファブル地区にあるマイケルさんの土地
そこにあった遺跡にも壁画があり、クレハナの遺跡の位置を示す地図となっていた
「ま、そこは実際に掘り出してみないと分からないわ。その時のお楽しみね」
そう言って、ミィはサラダに手を伸ばした
たまにミィやスサノヲと飯を食べるのも、仕事から離れられて楽しい
いい気分転換になる
「そういや、ラーズ。装具ってやつが出来たんだって?」
スサノヲが尋ねる
「まだ完成じゃないけどな。ニーベルングの腕輪を使えば、なんとか物質化できるようになったよ」
「へー、見せてくれよ。装具なんて見たことがないからさ」
「セフィ姉が両手に翼を纏ったところを見たことないか? アレが装具だぞ」
「えぇっ、アレが!? 本物の翼だと思ってた…」
「いや、人間のセフィ姉に本物の羽根が生えるわけねーだろ」
驚いているスサノヲを尻目に、俺はニーベルングの腕輪に精力を送り込んで装具を物質化させる
「うおぉぉっ!? そ、それが装具なのかか! 」
「ああ、やっと形が整ってきたんだ」
「ラーズのは手甲型なんだな」
「本当は刃物にしようと思ってたんだけどさ、遺跡での魔人との戦闘中にナックルガードの形で発現したんだ。その形を変化させた感じだ」
最初は卵の殻のようなざらざらした歪な形だった
それを、物質化を繰り返して金属のような手触り、均整の取れたフォルムに調整してきたのだ
繰り返し調整してきたため、愛着がハンパないぜ
「ふーん、凄いな。見たことのない物質だけど、硬度もあるし完全に物質だ」
スサノヲが俺の装具を触りまくって観察している
俺の装具は、手の甲から肘までを覆う装甲が付いた、手袋のような形になった
そして、指の先に伸縮式の鉤爪を備えている
ナックルや肘での打撃、爪でのひっかき、そして装甲での防御
これだけでもなかなか使えるが、今後もっとアイデアを詰め込んでブラッシュアップしていくつもりだ
「どうやるか考え中だけど、この装具に刃物を仕込みたいんだ。サバイバルでも戦闘でも使える必須道具だからさ」
「このグローブタイプでどうやって仕込むんだ?」
「それが思いつかなくてさ。何かアイデアない?」
やりたいことはあるが、その実現方法を思いつけないのは中々にもどかしい
装具は理論上、どんな形も再現できる
だが、逆に選択肢が広すぎてどうやればいいのか決められないのだ
ゴテゴテ付けたって、使い辛くなるだけ
取捨選択、引き算な考え方も大事だ
「そういや、ミィはともかく、スサノヲはいつまでクレハナにいるんだよ」
「全面戦争まではいるつもりだ。ラーズの装備の修復もあるだろうし、発掘の手伝いもある。発掘の結果を見届けたいという気持ちもあるしな」
「クシナダは帰って来いって言わないのか?」
「言われたけど、頼んだら納得するまでやってこいって言ってくれた」
ちっ…
相変わらずスサノヲのカップルは仲がいいし分かり合っている感じがする
スサノヲなんか、ただのがさつなヤンキーなのに何でだ?
「…お前、また失礼なこと考えただろ?」
「いやいや、そんなことあるわけないだろ。スサノヲがいてくれれば装備のメンテナンスをしてもらえるから心強いよ」
「…そう言えば、エマがロン君のタイトルマッチ挑戦が決まったって言ってたぞ」
疑わしい目で俺を見ながら、スサノヲが言う
「えっ!?」
そう言えば、ロンの試合のことを完全に忘れていた
延期になったとかいうタイトルマッチ、ついに決まったのか!
「みんな、それぞれ頑張ってるなー」
内戦が無ければ絶対に応援に行ってたのに!
ロン、頑張れよ…!
「ラーズはクレハナの内戦が終わったらどうするの?」
ミィが口を開く
「まだ何も考えてないよ。セフィ姉が合格をくれて、アイオーン・プロジェクトって奴に入れてもらえたらいいんだけどな。まずは生き残ることが大前提だけど」
「私達と会社をやるって話も考えておいてよね」
「…」
ミィ達との会社か
遺跡の発掘、真実の眼の正体の探求、フィールドワーク、素材を求めての冒険
…まるで大昔の冒険者のような、ワクワクできる仕事ができるのかもしれない
だが、俺はまだ何も終わらせていない
1991小隊の仇討ち、神らしきものの教団の壊滅のために、まだ動き出せてもいない
これが終わらないと、俺はどこにも行けないし何にもなれない
「…フィーナには会ったのか?」
俺は、ちょうど話が途切れたタイミングで、気になっていたことを尋ねる
「ええ、昨日会ったわよ。スワイプ軍曹とウルラ軍を貸してくれているからお礼を言いに行ったの」
ミィが答える
「元気なのか?」
「ええ、元気そうだったわ。気になる?」
ミィがニヤリと笑う
…そりゃ、気にはなるだろうよ
「フィーナ、最近すごいモテてるよな」
スサノヲが何も考えて無さそうに言う
「…そうなのか?」
「ミィさん、何だっけ? あのしつこく付きまとってる男」
「ああ、ナオエ家の当主でしょ? フィーナが何回断っても、ずっと食事に誘ってたわね」
「あと、龍神皇国の貴族も声をかけてたよな?」
「ええ、クレハナの内戦に派遣されている、治安維持部隊以外の唯一の騎士、貴族でもあるブルトニア家の次男ね。名前はグロウス・ブルトニアよ」
「フィーナ、前に食事に行ったって言ってたもんなー」
「国営企業ブロッサムの代表取締役、リャン氏とも最近親密だって。最強の忍者、五遁のジライヤともずっと一緒だしね」
ミィとスサノヲが次々とフィーナの噂を始める
「…」
もう、振られたから関係ないんだけど…
やっぱり元彼女の噂とか聞くもんじゃねーな
悶々としか出来ねーわ
それが全部真実だったら、どんだけの男と食事に行ってるんだっての
「ブルトニア家とナオエ家のダブルボンボンは、結構しつこく誘ってる感じよね」
「あいつら、人を見下した態度するからあんまり好きじゃないな」
そんな二人の会話から現実逃避をし、俺はロンのタイトルマッチの試合動画をもらう算段を考え始めた
ロン 六章 ~4話 家族の食事
発掘の経過 七章 ~1話 忍者への道