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閑話20 フィーナの強制執行

用語説明w

クレハナ:龍神皇国の北に位置する小国。フィーナの故郷で、後継者争いの内戦が激化している


フィーナ:B+ランクの実力を持ち、漆黒の戦姫と呼ばれるウルラ最高戦力。仙人として覚醒、宇宙戦艦宵闇の城をオーバーラップ、更に複合遁術を習得した大魔導士。ラーズとの別れを選んだ


クレハナ


ウルラ領内 灰鳥(あすか)



フィーナは、データベースからの情報、そして紙ベースの書籍や資料の山に埋もれていた


「ふぅ…」


フィーナは、いわゆる天才だ

本の読解力、記憶力、そして速読は、常人とは一線を画している


そのおかげで、フィーナは二年の飛び級を実現、八歳でボリュガ・バウド騎士学園に入学した

そのため、二歳年上であるラーズやミィ、ヤマトと同級生となったのだ


フィーナがボリュガ・バウド騎士学園に入学した一番の理由、それは疎開だ


クレハナでの内戦が激化していく中で、第四位の王位継承権の所持者であったフィーナ

成人前であり、正式な王位継承者ではないが、当然に注目を集められる存在

そして、クレハナにいることで意図せずに攻撃や懐柔の対象となる幼い子供だったのだ


そのため、クレハナを出て保護される必要があり、実父であるドースは龍神皇国の貴族であるドルグネル家に協力を要請して幼いフィーナを国外へと脱出留学させた


その後、惑星ギアにあるボリュガ・バウド騎士学園に入学

クレハナや龍神皇国は惑星ウルから離れ、また、全寮制の学校であったことも都合が良かった


この時、セフィリアを介してラーズと知り合い、オーティル家と親交を持った

そして、騎士学園への入学前は、龍神皇国ファブル地区の田舎町で一緒に過ごしていた


クレハナでは年の近い子供と接することはほとんどなかったため、フィーナは毎年の長期休暇ではクレハナの灰鳥(あすか)城よりも龍神皇国のオーティル家に行きたがっていた



「ここもだ…」


フィーナは、リストにチェックを入れる



リスト名は、「是正措置対象」とある


フィーナは、クレハナの内政担当だ

徹底的に、ウルラ領の行政機能の効率化を行っている


具体的には、私的流用の禁止

前面戦争を控えており、国力の回復を最優先しなくてはいけないこの時期に、小領主や有力者の資金や物資の濫用を是正させていく


フィーナが姫となってから、度重なる警告、是正命令、そして猶予期間を与えて来た

そろそろ、王家の姫として自分の実力を示す必要がある


人間とは弱い者だ

最初から、自分で是正できるものではない


そして、それを放置すれば正直者が馬鹿を見る状況となり、それは国益にとって大きな損害となる

最優先は行政機能の円滑化、これが出来れば国力など勝手に向上していくようになっているのだ



「行くのか?」


ジライヤは、フィーナが部屋から出て来たのを見て声をかける


「ええ、仕事をしてくるわ」


「やりすぎんようにな」


「それは、ナオエ家次第よ」



ウルラ軍を連れて、フィーナは出陣した


ナオエ家は領境のエリアを受け持つ小領主なのだが、物資の横領が酷すぎる

そして、ウルラ王家からの警告を無視し、未だに是正措置を講じてもいない


そのため裁判所の許可も取り、これから強制的に是正させる

その裏の意味は見せしめだ


権力は不正を許さない

国力を削ぐ可能性のある行為を絶対に許さない

必要なら制裁も行う


これを、国民と権力者たちに分かりやすい形で示すことが、今回の本当の狙いだ




ナオエ家の屋敷


ナオエ家当主であるガヌーが出迎える

分かりやすく、権力を欲に注ぎ込む男だ


「これはこれは、フィーナ姫様。相変わらずお美しい」


「お世辞は結構ですよ、ナオエ様。お伝えしていた是正結果を確認させて頂きにまいりました。連絡もせずに申し訳ありません」


「いえいえ…、ただ……、我らナオエ家は領境を持っているため、忙しくてなかなか手が回りませんで…」


ガヌーは、一瞬焦った表情を見せる

だが、すぐに取り繕うと、フィーナを屋敷の奥へと案内した


「フィーナ姫様、まずは奥で。私は、フィーナ姫様の美しさ、そして内政の手腕、意欲に心酔しておりましてな。ぜひともゆっくりとお話をしたかったのです」


「…分かりました」


フィーナは、お付きの者を二人連れてナオエ家の屋敷に入る


ガヌーは中年で小太りの男だ

だらしない肥満体型であり、フィーナに向けられる視線は、食欲と色欲に塗れているという噂を肯定しているかのようだ


豪華な応接室のソファーにフィーナが腰を掛けると、すぐにメイドがグラスと瓶を持って来た


「ちょうど、いいシャンパンが手に入ったのです。ぜひ、フィーナ姫様にも召し上がって頂きたい」


メイドがシャンパンをグラスに注ぎ、ガヌーとフィーナの前に置く


「…午前中からお酒を召されるのですか?」


「固いことをおっしゃらないでください。私達小領主はウルラのために日々身を粉にして働いているのです。お美しいフィーナ姫様がいらっしゃっている時くらい、ね?」


…何が、ね? なのかは全く分からない


フィーナが命じていた是正措置とは、資金の正常な運用

ナオエ領内のインフラの整備、防護施設の修繕、住人たちへの支援物資の配給の増量だ


だが、それらが一切改善していないにも関わらず、この屋敷の中には豪華な家具や美術品であふれている


「…ふぅ」

フィーナはため息をつく


「おや、フィーナ姫様。お疲れですかな? 私はフィーナ姫のためならいつでもこの屋敷の門を開けております、いつでも休みに来て下さい」


「…」


「シャンパンもワインもいいものを揃えております。ぜひ、ご一緒にお食事の機会を頂きたい。それに、フィーナ姫様に似合う宝石とドレスを…」


それを聞きながら、フィーナは心の中でもう一度ため息をつく


心底思う


私が欲しいのは、ジャージとコーラとポテトチップスだ

ラーズと公園に出かけてリィとフォウルを遊ばせ、日向ぼっこをしながら飲むミルクティーだ


国を裏切り、領民を裏切り、女は着飾らせれば喜ぶと思っている俗物

横領した資金で得た宝石なんて腹が立つだけだ


「…」


自慢げに力説するガヌーを、フィーナは残念そうに見つめる

フィーナは、当初の予定通りにすることを決めた



「おや、どうされましたか? お疲れでしたら、私の私室でお休みください」


…いや、いきなり女を私室に誘うな

バカなの?


「ガヌー様。確認ですが、是正措置は取っていただけていないということでよろしいですね?」


「へ? ああ、間もなく取れると思いますので、ご安心を…」


「とても残念ですが、時間切れです。王家の執行部が、ナオエ家に変わって行政権を執り行います」


「は?」


「それに伴い、ナオエ家の行政権を二週間凍結、財産関係の調査に応じる義務が課せられます。隠匿が発覚した場合は、小領主としての立場を失うこととなりますので…」


「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくだ…!」


「それとガヌー様。私の理想は国と民のために、血と汗と涙を流しながら必死に戦っている男性です。お食事の件、きっぱりとお断りさせて頂きますね」


フィーナはにっこりと微笑む



「突入ー――――!」

「うおぉぉぉぉっ!!」


「な、何だ!?」


「ガヌー様! 王家の執行部が令状を持って突入を!」






………






……










「フィーナ姫、戻ったのか」


「ええ、ジライヤ。見せしめは終わったわ」


「明日には、是正措置の終了報告と確認希望の連絡が殺到することじゃろう。戦闘にはならなかったのか?」


「Bランクの忍びがいたわ。ナオヤとか名乗っていたけど」


「ああ、奴は雷属性の遁術を操る。ナオエ家の戦力のナンバーワンじゃな」


「戦闘にはならなかった。私がガヌーへプレッシャーをかけておいたから」


「そう言えば、ブロッサムの代表取締役からまた電話があったぞ」


「リャンさんから? 電話しておくわ。それで、資料は揃ったの?」


「ナウカのシーベルの調査、骨が折れたぞ。それが、クレハナ王が存命だった頃の記録じゃ」


「…全部紙ベースなの?」



フィーナの前に積み重ねられた書類の束


これを全部読み終わるのと全面戦争、どっちが早いのだろうか

フィーナは少しだけ現実逃避した



シーベル 閑話5 クレハナの実家

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― 新着の感想 ―
[一言] 内政の手腕見てたならオメェみたいなのとは目指す方向が違うて分かれよww 食事に誘うならその前にそれ相応の能力や役に立つと見せなきゃな‼︎
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