七章 ~4話 忍術と遁術と特技
用語説明w
魔石装填型小型杖:使いきり魔石の魔法を発動できる
コウ:マキ組の下忍、青髪の魚人男性。補助魔法である防御魔法、そして銃を使う
ルイ:マキ組の下忍、赤髪の獣人男性。スナイパー技能に長けている
マキ組に出撃要請が来た
「今回は市街戦、町に入り込んだ斥候部隊が相手です」
マキ組長の指示を聞きながら、皆がテキパキと準備をする
「ラーズ、これを持って行け」
「あ、小型杖をもう一本仕入れてくれたのか」
俺はジョゼからもう一本の小型杖を受け取る
今は、一本を左腕のラウンドシールドの内側に取り付けている
もう一本は腰のベルトに刺し、引き寄せの魔石以外はこちらの小型杖を使えばいい
そう言えば、軍時代は小型杖を二本使っていた
大崩壊のどさくさで無くしてしまったんだよな
俺はヴァヴェルを着込む
スサノヲが修復してくれたのだ
「ラーズ、ヴァヴェルが治ったぞ」
「おう、サンキュー」
「少しは大事に使えよ? この鎧は軽装甲だ、被弾前提の装備じゃないんだからな」
「分かってるって。そもそも、俺は防御役じゃないんだ。被弾前提でなんか戦えないって」
「装備を壊すくらいなら、お前が攻撃を喰らえ。装備を壊すな、分かったか?」
「うん、それって、もう鎧を着る意味がないの分かってる?」
このクソ赤ずきんが…、お前も戦場に立ってからもの言えや
めちゃくちゃ言いやがって
「ぶっ飛ばすぞ?」
「いや、だから何でだよ!?」
だが、スサノヲがいないと、マジで装備の修復が出来ない
ここは俺が我慢するしかないのだ
スサノヲは、ブツブツ言いながらミィ達のいる発掘現場へと戻って行った
・・・・・・
「合わせて下さい…、3…、2…、1…、ゴー!」
マキ組長合図で、俺とコウが路地に飛び出す
ドガガガガッ!
ダダダダダダッ!
「ぐわっ!?」 「ぎゃっ!」 「…っ!?」
アサルトライフルが火を噴き、三人の男たちを撃ち抜く
「クリア!」
「次のブロックまで進行、いったん待機を」
「了解」
町にナウカ軍のスパイたちのアジトが作られていた
そこを特定して包囲、現在殲滅中というわけだ
「ラーズ、敵がそちらに向かいました。数は二、迎撃を」
「了解」
気配、そして血の臭い
前からやって来たのは傭兵風の装備の男女だった
「コウ、迎え撃つぞ」
「ああ、分かった!」
コウがアサルトライフルを向ける
同時に、傭兵の女が銃を向け、男が俺の方に来る
ドガガガッ
ガガガガッ
ダダダダッ
「どけぇっ!」
銃弾が飛び交う中を、男が全力疾走
行かせない
俺は流星錘アームから錘を射出
同時に腰を落としてホバーブーツを準備する
男が突破しようとした瞬間にエアジェットで追撃だ
「おらぁっ!!」
「…っ!?」
男は錘を腕でガードしながら、俺の方に飛び出した
そのスピードが尋常じゃなく早かった!
ブォッ!
「くっ…!?」
高速の体当たりのように俺に突っ込んで来た男
とっさに男の頭を抱えながら沈み込む
後は、勝手にバランスを崩した男が慣性に従って吹き飛んでいった
ドガァッ!
「ぐはっ!!」
これは特技だ
おそらく、脚力を一時的に増強する効果なのだろう
その勢いそのままに地面に激突した
しばらく動けないだろう
俺は男の横腹を蹴り上げる
そして、男を拘束
そして、コウの方を見ると…
「…」
「…」
コウは女と向かい合っていた
まだ勝負はついていないようだ
コウは補助魔法を使えるため、銃弾が当たってもすぐには死なない
だが、女が逃げる可能性もあるためフォローに入る
ダァンッ!
「…っ!?」
突然、壁の近くから現れたルイが、持っていた銃で女の頭を撃ち抜いた
い、いつからそこにいたんだ!?
全く気が付かなかったぞ!
「マキ組長、こちらはクリアです」
「了解。ラーズ、コウ、ルイはそのままそこで警戒を」
ルイの報告に、マキ組長が無線で答える
「これが俺の遁術、影遁隠れみの術さ」
ルイが、不思議そうな顔をしている俺を見る
「影遁?」
「魔属性の遁術だ。認識阻害効果を発揮して、気配を抑えることができるんだ。本来は、スナイパーとして潜んでいるときに使うんだけどな」
「なるほど…」
認識阻害効果
魔属性は、生命力をマイナス方向へを進める力
つまり、死に向かう属性であり、生物は本能的にその力を恐れる
そして、無意識に目を背けるような挙動を取るのだ
この効果を認識阻害効果と言い、俺の魔属性装備であるヴァヴェルにも組み込まれている
ルイの忍術は、遁術も含めて全てが潜むための技術なんだな
スナイパーとしての矜持を感じる
ドッガァァァァン!
ダダダダッ
ドガガガッ
しばらくすると、ビルの中から銃声と爆発音が響いた
「…制圧完了だ。中に入ろう」
ルイがマキ組長の指示を伝える
ビルの中は酷いありさまだった
「…何人死んでるんだ?」
入口のフロアは死体の山だった
「…逃亡者はありませんね?」
「あ、マキ組長。俺達の方には来ていません」
コウが答える
「首謀者とみられる男は射殺しました」
マキ組長は、そう言いながらハンドガンと小型杖、ナイフの血を拭い、血まみれの手から指輪のようなものを外した
「その指輪は何ですか?」
「これは角指と呼ばれる暗器です。指輪タイプなので、着けたまま武器を握れるので便利ですよ」
…あの指輪についた尖った棘で、首でも切り裂いたのだろうか?
マキ組長は、二丁鎌だけでなくいろいろな武器を使う
今日は狭い場所での戦闘のため、室内用の武器を選んだのだろう
マキ組長
忍術が超貫通砲
遁術が風遁風の道
そして、二丁鎌、銃、小型杖、暗器を使った戦闘
コウ
忍術が高圧封入武器
遁術が火遁熱源デコイの術
そして、補助魔法の防御魔法を使える
ルイ
忍術が布や迷彩を使った隠れ身の術
遁術も隠遁隠れ身の術
そして、スナイプ技術と集中力を高める薬を服用
ヤエ
忍術が、話術と媚薬や幻覚剤、覚せい剤、自白剤などを使った性行為
遁術が精神属性魅惑の術
更に回復魔法を使え、身体に録音機やカメラを仕込んだプチサイバネ手術を受けた諜報技術を持つ
すげーな
この四人の忍術は技術だ
知恵と技術で作り上げた忍術を、遁術で補強している形だ
俺は遁術は習得できない
でも、マキ組を見ていると、忍術には遁術が必ずしも必要ではないと思える
必要な技術を作り上げて使いこなす、それが忍術の本質
つまり、忍術とは一つの技術をとことん極めたものということだ
グチュッ…
何かの音がして振り返ると、先ほど拘束した男が立っていた
その手が血塗れになっている
無理矢理、縛られた手を引き抜いたようだ
「うおぉぉぉっ! 死ねっ、ウルラのクズどもがぁぁぁぁっ!」
男が輪力を練って特技を発動する
その血まみれの手に炎が灯った
俺とマキ組長が動こうとした瞬間、コウが飛び出す
ボボォォォォッ
「ぐあぁぁぁっ!!」
コウの遁術、火遁熱源デコイの術が炸裂
火の玉が男を焼いた
「凄いな…」
男の火属性と思われる特技は、もう発動するところだった
だが、コウの火遁はそれよりも早く男を焼いた
遁術の発動はとてつもなく早い
「遁術は術式をあらかじめ体に書き込んでいるため、構成する必要がありません。通常の特技のように自由度はありませんが、その分発動が早いのです。通常の特技に加え、一つだけでも使い勝手のいい遁術を書き込んでおくと便利ですよ?」
マキ組長が言う
「いや、俺は輪力が練れないので、結局は発動できないんですよ」
遁術とは、特定の特技をいつでも発動できる状態にスタンバイしておくことができるということだ
チャク封印練が終わったら、俺も考えてみようかな
間もなく全面戦争
ウルラの運命が決まる
フィーナの国を守りたい
もう、近しい人に死んでほしくない
そう思っていた
…フィーナと言う、戦う理由があった
それは幸せな事だったんだろう
この血と鉄と火薬の臭い
それでも、この場所に立って、俺は充実感を持っている
この感覚は何なのだろうか?
確かに俺は戦場に残ることを選んだ
ドミオール院という理由もある
守るだけじゃない
復讐するため、セフィ姉に力を示すため
矛盾する理由で、俺は戦場を求めている
戦場に集中する
まずは生き残らなくては




