六章 ~36話 発掘作戦1
用語説明w
ミィ:龍神皇国騎士団経済対策団のエース。戦闘能力はそこまで高くないが、経済的な観点で物事を考える。海の力を宿したオーシャンスライムのスーラが使役対象
ウルラ領東部 領境近くの低山
発掘現場に到着
作戦を開始した
最初に俺達がやったことはフィールドワークだ
龍神皇国ファブル地区にあるマイケルさんの土地
そこにあった真実の眼の遺跡で発見された壁画
その壁画は地図となっており、現在のクレハナのウルラ領とナウカ領の領境に近いこの場所を示していたのだ
「さぁて、何が出てくるのかしらね」
ミィがオーシャンスライムのスーラを肩に乗せて発掘地点に目を向ける
「四千年前の謎の集団が残したもの、か…。やっぱりワクワクするよな」
真実の眼とは、神らしきものが大暴れをしていた四千年前の時代
そして、ウルがギアの直近に出現して、突然ペアの二連星を構成した時期
スーパー大激動の時代に、各地を放浪して多くの遺跡を残した謎の集団だ
「何もないといいけどな…」
「周囲の状況はあまりよくないわ。やっぱり、甲虫系のモンスターが多い。何度か戦闘を覚悟しなくちゃダメそうね」
ウルラ軍に事前に再調査を依頼していたミィが、資料を見ながら難しい顔をする
何でも、今の季節は虫系モンスターの孵化期
モンスターの数が増えており、しかも虫のくせに幼虫や幼体を攻撃すると親が襲ってくる可能性もある
「…せめて、盗賊だかは来ないで欲しいよな。めんどくさいし」
更に、この付近では怪しい人影が目撃されている
虫の相手で神経をすり減らせているのに、盗賊まで相手にしたくはない
「それは大丈夫じゃないかな。一応、町には私の名前で発掘作業を行うって広報しておいたから」
「それをしたら来ないのか?」
「盗賊風情が、ウルラ軍を使っている皇国の騎士様に手を出すわけないでしょ。しかも、遺跡発掘っていう金にならない作業なのに」
「そっか、確かにな」
どっかのピラミッドや沈没船みたいに、お宝が発掘する遺跡なんてめったに無い
普通は土器とか建造物の痕跡とか、そんな地味な出土がほとんど
その発見が歴史の教科書を変える可能性もあるのだが、素人がそれを金に換えることは不可能だ
「ミィさん、ラーズさん、準備できました!」
「分かったわ、始めましょう」
バビロンさんが気合の入った声で皆に声をかける
いよいよ発掘作業の開始だ
超音波の検査によってだいたいの位置を特定しているため、発掘期間は約一か月ほどを見込んでいる
一か月で全ての調査は終わらないが、全貌を確認するくらいは出来る
この期間が全面戦争までの猶予期間なのだが、内戦の状況によってはもっと早く打ち切ることになる可能性もある
「それじゃ、俺は周囲の警戒とフィールドワークに合流するよ」
「よろしく。今日と明日中には、周囲の状況を確認して警備計画を更新しましょ」
「ああ、分かった」
マキ組とスワイプ軍曹率いるウルラ軍の一小隊で、現在は詳細なマッピングを行っている
今日中に防衛拠点を設置してしまわなければならない
今日から発掘の終了、若しくは打ち切りまで二十四時間体制で警備にあたるのだ
「ラーズ、状況がよろしくありません」
俺が出ようとすると、ちょうどマキ組長が帰って来た
「何かありました? さっそくモンスター?」
「ミィ様も聞いてください。悪い報告は二つです」
「ふ、二つもあるの?」
ミィの顔がひきつった
「一つ目はモンスターについて。この遺跡は丘になっていて、ナウカ領側に下ると森になっています」
「そうですね」
俺は頷く
「その森の中に、王の蟲の痕跡を見つけました」
「お、王の蟲って…」
王の蟲とは、巨大なダンゴムシのような虫系モンスターだ
その背中には、光る複数の目のような器官がる
よくスタンピートを引き起こすモンスターとして有名で、被害が大きくなることから重要警戒対象モンスターに指定されている
「ただ、王の蟲については、あくまで痕跡を発見しただけです。こちらからわざわざ探しに行かない限り大丈夫でしょう。虫よけの煙を定期的に焚くことで対応します」
「分かりました。もう一つは?」
「もう一つは…」
ドガガガガッ
ガガガガッ
ドッガァァァァン!
「は?」
突然、発掘現場の先で銃声と爆発音が響いた
「…正体不明の戦力が襲ってきています。ウルラ軍とマキ組で対処します」
「い、い、行きましょう!」
俺達は、すぐにテントを飛び出した
・・・・・・
正体不明の戦力は、装備がバラバラだった
全員が一般兵、あいつらが目撃されていた盗賊なのかもしれない
「Bランクはいないようですね。できれば何人か生け捕りにして情報を取りましょう」
「了解」
既にルイとコウが配置について戦闘に参加していた
俺とマキ組長も、回り込むように距離を詰めて行く
ドガガガッ!
「ぎゃっ!!」
不用意に姿を晒した男にヒット
小型杖で、土属性土壁の魔法弾を撃つ
弾避けの土壁を作りながら、徐々に進行していく
ボシューーー!
ドッガァァァァン!
ウルラ軍の兵士がロケット弾を撃ちこむ
相手の隊列が崩れた
俺はホバーブーツで一気に突っ込む
陸戦銃をサードハンドで保持
左腕を銃化、右手に流星錘アーム
ダンッダンッダンッ!
ゴガッ ガッ!
岩陰にいた五人に攻撃
銃弾で三人の肩を撃ち抜く
更に、身体の捻りながら、錘を二回振るって頭を割る
「…素人だな」
俺達の動きに全く対応出来ていない
しかし、それにしては恐怖に駆られている様子がない
何なんだ?
だが素人と戦ってみると、自分の動きと感覚が変わったのが分かる
あ、銃を向けるな
これから走るな
相手の動きが予想でき、そのために落ち着いて行動できる
視野が狭まらず常に注意が周囲に向いていて、相手の驚きが分かり隙を突けるのだ
以前は、勢いに任せて動いていた
それが、相手に合わせて動けるようになっている
たまに感じる、自分が以前とは変わった感じ
素人と戦ったことで、自分の成長を実感できる
不思議な感じだ
この感覚を磨いて行けば、いつかあの人たちの領域にたどり着けるのだろうか?
「ぎゃあぁぁぁぁぁっ!?」
「ぐがっ!」「げぺっ!」「ごふっ!」
俺の視線の先には、マキ組長がアクロバティックな動きで鎌を振るっている
まるで舞うような動きで、脛を抉り、顔を蹴り込み、二丁鎌の紐で投げ、最後の一人は肘で胸を突き込んだ
ただの体術で複数の人間を倒すことは容易ではない
あれが、達人の動きだ
デモトス先生やヘルマン…、あの人たちが見ていた景色を、いつか俺も見てみたいものだ
ゴッガァァァァァン!
「なっ!?」
突然の爆音
あれは、ウルラ軍が持って来た戦車だ
この盗賊たちは、戦車を使うほどの相手ではない
急にどうしたん…
ゴシャァァァァァァン!
「…っ!?」
戦車とその周囲にいた歩兵が、突然何かに押しつぶされた
歩兵たちはおそらく即死
戦車も上から潰されるように変形、機能を停止した
…あれは、何度か見たことがある
上空から大気で叩き潰す範囲魔法
「風属性の範囲魔法(大)、ダウンバースト…!?」
そして、攻撃魔法を発動したであろう術者が姿を現した
「Bランク…」
マキ組長が、倉デバイスから超貫通砲を取り出すことで警戒感を表す
俺も闘氣特有のプレッシャーを感じた
まさか、Bランクが盗賊をやっているとはな
こんな遺跡発掘の現場で何が狙いだ?
皇国の騎士団とやり合う覚悟があるってことか?
「スワイプ軍曹、一般兵に奴から離れるように指示を! Bランクよ!」
「り、了解しました!」
「スーラ、いくわよ」
「キュイッ!」
後ろから、ミィがスーラと共に戦闘態勢を取る
「ヤエ、何人かと戦車兵の救護に向って下さい。ラーズ、奴を離します」
「了解!」
「ちょっ、あんたら、あいつはBランクなのよ!?」
ミィが慌てて俺達を止める
「…ミィ様は、他の敵兵の殲滅を手伝ってください。その方が防衛としては合理的です」
「えぇっ!?」
目を白黒させているミィを尻目に、俺達は術者に接近
俺達が相手をするというアピールだ
砂埃が散り、Bランクの術者の姿が露わになる
黒いボディスーツを着て、長い鎌を肩に担いでいる
左手には爪付きの手甲を付け、特徴的なピエロの仮面
その姿を見て、俺は身体が強張るのを感じた
なぜなら、それは忘れられない相手だったから
それは、あの国で、あの場所で戦った相手
ま、まさか…
こ、こいつは…!
「お、お前、風の道化師…!?」
壁画 六章 ~14話 ミィの依頼




