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六章 ~34話 教団の救い

用語説明w

神らしきものの教団:現在の世界は神らしきものに滅ぼされるべきとの教義を持つカルト教団。テロ活動や人体実験など、世界各地で暗躍


コウ:マキ組の下忍、青髪の魚人男性。補助魔法である防御魔法、そして銃を使う

ウィリン:ヘルマンの息子。龍神皇国の大学生だが、現在は休学してドミオール院に戻ってきている

タルヤ:エスパータイプの変異体。ノーマンの女性で、何かに依存することで精神の平衡を保っていた。サンダーエスパーの二つ名を持ち、雷属性魔法を使う。重症を負い冷凍保存されていた


「ラーズ、ドミオール院に行こうぜ。気分転換にもなるだろ」


「ああ…」


コウが誘って来たので、俺達はドミオール院に向かった


「元気出せよ。女なんか、いっぱいいるじゃないか」


「…これでも、少しは落ち着いて来たんだよ」


フィーナに振られた

それが信じられない


…俺、自惚れてたのかな


ずっと一緒にいられると思っていた

フィーナも、それを望んでいると思っていた


「はぁ…」


「普通にため息ついちゃってるじゃねーか。どこが落ち着いてるんだ」

コウに呆れられる


自分の心ほど、当てにならないものなんかないんだよ



「そう言えば、またマキ組長に小言を言われたよ」

コウが愚痴り始める


「何の小言?」


「…ドミオール院に肩入れするなってさ」


「何がダメなんだ? 俺も言われたけど」


「忍者として、弱点になるようなものを持つなって。後で後悔することになるってさ…。あの人、凄い人だとは思うけど、ああいう所は本当に冷血だよな」


「俺も彼女と別れた方がいいって言われてさ…。本当に別れちゃったから、あの人を少しだけ呪ってるよ」


俺達は乾いた笑い声をあげる

笑わないとやってられねーよ



「ん?」


ドミオール院の前に、軍用車両が停まっていた

何だ?


「ラーズ、行ってみようぜ」


「ああ、行こう」


俺達は、すぐに車を停めて中に入る


「こんにちはー」


「マリアさーん、来たよー!」


コウは、ドミオール院にかなり馴染んでいる

マリアさんとも普通にため口で話しているくらいだ



「あぁっ!? お前ら、この領地が誰のものか分かってるんだろうな?」


中には、大柄の男と柄の悪い男がいた


「…この土地はクレハナ国民のものです。ドミオール院は、代々孤児院として昔からやってきました。小領主様は、国民を代表して土地を預かるものだと定義されているはずです」

マリアさんは、毅然とした態度で言う


「俺達がナオエ家の者だってことは分かってるんだろうな?」

「あんまり調子に乗ると、これを…」


柄の悪い男が、後ろのベルトに無造作に差し込まれていたオートマチック拳銃に手をかける



「…」


俺は、無言で素早く接近、拳銃を掴んだ手を蹴りつける



ガゥン!


「ぐがぁぁぁぁっっ!!?」



衝撃で引き金を引いてしまい、男の拳銃が暴発

銃弾が尻の肉を削った



「て、てめぇっ! 何しやが…」


大柄の男が振り向いて叫んだ瞬間、今度はコウが拳銃を顔面に向けた



「…っ!?」

男が目を見開く


「手を挙げて、ゆっくりとドアまで歩け。変な動きをした瞬間に、強盗と見なして頭を撃ち抜く」


コクコクと頷き、大柄な男がゆっくりとドアまで歩く

俺は、尻から血を流した男を引きずって外に放り出す


外に出ると、俺達は丁寧に男たちをボコボコにする


「次は殺す」と、優しく教えるためだ



「ひぃぃ…!」


男たちが軍用車で走り去っていくのを眺めた後、俺達は再度ドミオール院に入って行った




・・・・・・




どうやら、ウィリンとタルヤは出かけているようだ

マリアさんが、事の経緯を話してくれた


「ドミオール院を売れって言うんです」


「売れ?」


「突然立ち退けって。子供達はどこかへ売り飛ばせって…。何をするつもりなのかは分かりませんが」

マリアさんがため息をつく


「…」


これが、戦時中の町の現実だ

人の命、特に子供のような弱い存在の命は安く買い叩かれる


俺も被検体として、使い捨ての商品として扱われた

だから分かる

弱い者、弱い立場の者は都合よく、とことん喰い散らかされる


…これは人間の本能だ

だからこそ、己を律して、クズにならないように生きなければならない



「あいつらは?」


「ここの小領主のナオエ家の者です。ナオエ家は評判が悪く、領内は治安も悪い。ナオエ家当主のガヌーは、あのフィーナ姫にも言い寄っていると聞きます」

マリアさんがため息をつく


「そうですか…」


フィーナ姫というワードについ反応してしまったことは内緒にしておこう


「コウ兄ちゃん、怖かった…」

子供たちは、先ほどの男たちの大声で怯えていた


「もう大丈夫だ。何かあったら、俺やラーズがすぐに駆け付けるからな。さ、嫌なことは忘れて思いっきり遊ぶぞ!」


「うん!」「やった!」「かくれんぼしよ!」


コウは、すぐに子供達と遊び始めた

子供達を喜ばせるコウの技術は凄いな



「ただいまー」 「あら、ラーズ?」


しばらくすると、ウィリンとタルヤが帰って来た

マリアさんが、男達とのいざこざを説明ながらお茶を入れてくれた



「そ、そうだったんですか…、ラーズさん、コウさん、ありがとうございました」

「マリアさん、一人の時はあまり無茶しないで」


ウィリンとタルヤが言う


「…子供たちは、このクレハナを背負っていく宝です。ああいう輩に、弱気な所は見せられないわ」

だが、マリアさんは言う


この人の瞳と力は強い

自分の考えを、信念としている人の強さだ



「よーし、外でドッジボールするぞー!」

「よっしゃー!」「私、最初にボール持ちたい!」


コウが子供達と外に出て行く

それを、俺達は微笑みながら見つめる


「ラーズは子供とあまり接しないのね?」

タルヤが俺を見て来た


「子供と接するのが少し怖く感じるんだ。…どこかで、別れが来るかもしれないことを怖がっているのかな?」


「ラーズ…」


「大崩壊や、あの施設のトラウマかもね」


子供達との別れは辛い

ただでさえ、ここは内戦の真っただ中なのだ



「僕達は神様じゃないですから、仮にそうなったとしてもラーズさんのせいじゃないですよ」

だが、以外にもウィリンは淡々とそう言った


「ウィリン…、意外とあっさりしているんだな」


「もう、何人もそう言う子供たちを見てきています。戦闘にまきこまれたり、行方不明になったり…。病気やケガだってある。ここは、そういう場所ですから」


「…」


自分の無力さ、世の無情さを知っての結論なのか



「ラーズさんは、この国をどう思いますか?」


「え?」


「僕は、この国は最低だと思います。弱い者が虐げられている酷い世の中です」


「それは…」


「でもそれは、虐げる人間も他人を虐げないと生きていけないからです。他に糧を得る方法が無い、分け合ったら全員が死んでしまうからです」


「それは、まぁ…そういうことも…」


「だからこそ、前にお話しした神らしきものの教団の援助は本当にありがたかった。こういう援助が無ければ、力が無いものは死ぬしかない」


「…」


「ラーズさん、本当に神らしきものの教団を潰したいのなら…、僕は世界を良くするしかないと思います。貧しく、弱い者が虐げられる世の中である限り、教団のような組織は潰せない。そして、弱者は縋るしか方法が無い」


「あぁ…」


「僕は、父を使い潰した(そら)の恵みと教団は許せない。でも、恨む気はありません。その違法手段が僕たちを救ってくれたのは事実だから」


「ウィリン…」


言いたいことは分かる

だが、正しいとは言えないと思う


…じゃあ、何が正しいんだ?


教団の手法を正当化しろと?

ただ、弱者の弱みに付け込んだだけじゃないか


だが、弱みに付け込まれたとしても、ドミオール院を救ったのは教団だ

ウルラを始めとする国家ではない



「…ラーズさん、すみません。僕は最近、やっと父とドミオール院、そして教団との関係に心の折り合いを付けられてきたんです。それをラーズさんに聞いてほしくて…、混乱させて欲しかったわけじゃ…」


「いや、いいんだ。俺の考えはあくまで俺のもの。ウィリンは自分の考えを持つべきだ。………ただ俺は…」


「ラーズ、そんな考え込まないで? このドミオール院を救った力は教団だけじゃない。あなたやコウ、そしてヤマトさんやフィーナ姫の支援、そしてお父様の活動や大勢の人に支えられているのよ。どれかだけが正解というわけじゃないと思うわ」


「うん…」



夕方になって、俺達は帰り支度をする


たくさん遊んだ子供たちは、うつらうつらし始めた

それを見て、マリアさんが早めに食事と寝る準備を始めた


「ウィリン、タルヤ。何かあったら俺達にも連絡をしてくれ。ヤマトにもだ」


「はい、分かりました」


「また来るよ」

コウが、明るく言う



帰り際、タルヤが俺の所に来た


「ね、考えてくれた?」


「え?」


「…分かってるくせに。ラーズ、私はずっと待ってるから。都合よく使ってくれてもいいし、寂しいときだけ付き合ってくれるだけでもいい」


「タルヤ、そんなのないって」


「私はラーズが好き。………待ってる」


「…」


タルヤの優しさは、強さだ

だが、どこか危なく感じる


何でだろう?



フィーナに振られてから、全然気持ちの整理ができない

だが、優しくされると惹かれてしまうのも自覚する


失恋後は怖いな

しばらく、付き合うとかはとてもじゃないけど考えられない


タルヤのためにも、流されないようにしないと


タルヤを都合よくなんてできるわけない

タルヤはただの友人じゃない、命を懸けた戦友なんだから




ナオエ家 六章 ~16話 ウィリンの夢

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― 新着の感想 ―
[良い点] 今日も更新お疲れ様です‼︎いつも楽しく読ませてもらってます(*´﹃`*)
[良い点] 今思ったけどフィーナが別れを決意したのはフィーナが居なくなってもタルヤというラーズに惚れている女の子が居るから自分がいなくなってもフィーナの代わりにタルヤがラーズを支えてくれるだろうって感…
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