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一章~17話 生き残るという罪

用語説明w

この施設:ラーズが収容された謎の変異体研究施設、通称「上」。変異体のお肉も出荷しているらしい


変異体:遺伝子工学をメインとした人体強化術。極地戦、飢餓、疲労、病気、怪我に耐える強化兵を作り出すが、完成率が著しく低い。三種類のタイプがある


ヘルマン:ドラゴンタイプの変異体。魚人のおっさんで元忍者


目が覚める


ビクビクしながら食堂に行き、急いで食事を終える


よかった、運よくシンヤには会わなかった

俺はホッとしながら、食器を片付ける


すぐに個室に戻る

…我ながら情けない



俺はしばらく休んでから運動場に向かった


運動場に入るとへルマンを見つける

向こうも俺に気が付いて手を挙げてきた



「また、シンヤにやられたんだって?」


「はい、理由もなく…」


「少しはやり返せばいいじゃねぇか」


「それができれば、こんな目に合っていませんよ…」


「うん?」


何と言ったらいいのか分からない


…シンヤが怖い

ただ、普通の怖さじゃない


シンヤの目を見ると、()()()()()()()()()

そうすると、心を握り潰されるような恐怖に動けなくなってしまう



「…怖いんですよ」


泣き言のように聞こえるが、これが全てだ


「…」

へルマンは、俺の顔をじっと見る


そして、視線を俺から外した


軽蔑されたのだろうか

表情から感情は読み取れない


「ま、怖いものは仕方がないさ」


そう言いながら、ヘルマンはまた武術の型をゆっくりと始めた


優雅な、ゆっくりとした動き

それなのに、キレがある


想定された敵がどこにいるのか、ヘルマンの動きで浮かび上がって見えるようだ


そういえば、ヘルマンはここに来る前は忍者として働いていたと言っていたな



忍者


斥候や諜報活動を行う者の中で、特に忍術を使う者のことだ

しかし、忍術は輪力を使う特技(スキル)の一種であるもの、またはその他秘伝の技術であり、暗殺術や軍人、盗賊の技術との明確な線引きは無い


火遁、土遁など「遁」と付くものは伝統ある技術であり明確に忍術と呼べるが、それ以外の技術も多数存在する(勝手に忍術と自称している場合もある)

一般的には、忍者を呼称する組織に所属していたり、忍術と呼称する技術を持っていれば忍者と呼ばれることが多いようだ



「ヘルマン、その型は忍者の格闘術なんですか?」


「ああ、俺が所属していた組織の忍術の型だ」

型を終えたヘルマンが、水を飲みながら答えてくれる


「…忍者として活動していたヘルマンが、何でこんなところに来たんですか?」


忍者の技術を持つ者はそこまで多くないため、喰いっぱぐれることは無さそうだけどな

モンスター退治でパーティーを組んだり、軍隊に就職したり、裏社会で働く者もいる


自分からこんな場所に来なくても活躍する場所はいくらでもある気がする

…俺と同じように、気がついたら被検体にされていたのだろうか?



「金のためさ。変異体の検査で陽性反応が出て、いろいろあって覚醒者にまでなったからな」


「金のためですか…」


「息子の学費と生活費のためにな。大学に行って、まっとうに生きて欲しくてよ」


「それは…、早く帰って息子さんの顔が見たいですね」


「ああ…、そうだな」

ヘルマンが寂しそうに笑う


ヘルマンは、この施設に入ってもう五年になる

息子さんに会えず寂しいだろうな


この施設の目的は、完成変異体という商品を作り出すことが目的だ

商品として扱われるため、衛生的で健康的な生活が保証されているが、監獄のように外との連絡は取れないし情報も入ってこない


「去年が息子の受験の年だったはずなんだ」

へルマンが心配そうに言う


「父親が体を張って稼いでくれた学費なんですから、息子さんだって頑張ります。絶対に入学してますよ」


「そうだといいけどな…」



俺達がゆっくりと体を動かしていると、一人の被験体が入ってきて知り合いであろう被験体と話始めた


「…おい……G13のやつ、やっぱりダメだったみたいだぞ…」


「…間違いないのか……」


「…医務室で、研究者が漏らしたんだ…もう戻らないって…」


「…あいつ…家族を置いてきたって…」


「…最近は副作用と…変異がうまくいってなかっ…」


「…やっぱり肉に…出荷されちまったのかな…」


「…俺達も他人事じゃ…くそ…気が狂いそうだぜ…」



聞こえてくる会話


俺達は商品だ

保護はされるが、うまく強制進化できなければ死ぬ

死ぬまで強制進化を試されて、途中でのリタイアは許されない


心なしか、運動場全体が沈黙に包まれている

あの二人の話を聞いているからだろう



「うまく変異できずに、いつか自分も…、と思うと不安ですね」


「その不安は全員が持っているさ。俺みたいにステージ1を長期間卒業できない場合は特にな」


「…」


強制進化の進み方は、努力ではどうにもならない

体質による運任せ、運に見放されたらここで死ぬしかない


出所できるかは運次第…

ここはなんて残酷な監獄なんだ


「ラーズは順調に強制進化が進んでいるから幸せだ……ゴフッ…」


へルマンが咳き込んだ


「…へルマン?」


へルマンが口を抑えた手が赤く染まっている


「ちっ…()()()…」

へルマンは、すぐにタオルで血をぬぐった


「へルマン、医務室…」


言いかけた言葉を、へルマンが手で止める


「五年も無理矢理体をいじられてたら、そりゃガタもくるさ」



このステージ1は、未完成の変異体が集まっている

…目的は選別だ


完成変異体になれるかどうかを試され続ける

そして、完成すればステージ2へ行け、完成しない場合でも人体実験を続けてデータを取られる

それこそ、死ぬまで使い続けられるのだ



「へルマン…」


「…罰が当たったのかもな」


「え?」


へルマンは椅子に座って力無く笑う


「…俺だけ生き残っちまったからな」


「生き残った?」


へルマンは、ゆっくりと話始めた



戦争、民族扮装はどこででも起きる


へルマンの国は三つの大きな勢力に別れて内線となっていた

だが、もっと小さい地域ごとに見れば、宗教や民族の違い、物資の奪い合いで細かい争いがある


「俺は軍の諜報部から依頼を受けている忍者組織に所属していた。各地で情報を集め、時にはゲリラ戦を仕掛けた」


目的は、自分の民族や領土を守るため

不足している医薬品や食料を確保、敵の補給路を破壊し、物資を奪取をするためだ


軍からの依頼は報酬もよかったし、優先して自分たちの集落に食事や衣料品、日用品の配給を行ってくれた


「ある時、物資の強奪や麻薬の密輸をしていた武装マフィアの拠点を強襲した。…作戦は成功したが、俺達の仲間もかなりやられてな」


「マフィア…」


「…だが、死んだ仲間の死体から、マフィアに俺達の集落を特定されちまったんだ」


へルマンが軍から医薬品や食料をもらって集落に帰ると、マフィアの報復によって集落が壊滅していた

戦闘員や、所属していた忍者組織だけでなく、女子供に至るまでが皆殺しにされていた

もちろん、ヘルマンの両親、妻、娘、友人も全てだ


結局、集落での生き残りは、たまたまに軍の病院に入院していた息子だけであった


ヘルマンはすぐに軍に訴え出たが、これ以上の正面衝突で消耗を恐れた軍は二の足を踏み静観を決め込んだ


それを機に、ヘルマンは息子を連れてその地を離れるしかなかった

マフィアの報復が、生き残りである息子にまで及ぶ可能性があったからだ


「集落と家族のために戦っていたのに、その結果集落が皆殺しにされちまったんだ」

へルマンが、力無く言う


「…」


()()()()、大切なものを失ったのか


罰があたった


失ってしまった、守れなかった自分を罰して欲しい

そういう意味だろう


俺も…分かる…



へルマンが、顔を上げて俺を見る


「…お前も、何か過去に失ったんだろ?」


「…ええ、まぁ……」


大切な戦友、自分の居場所

俺は自分の部隊を失った


「なぁ、ラーズ。()()()()()()()()()()()()()()()()?」


「え?」


「お前の、シンヤに対する怖がり方は異常だ。明らかに、お前の過去の何かが原因だろう」


「…」


言われて、改めて考えてみる


暴れ出す、()()()()()()

心を鷲掴みされる、あの感覚


攻撃されると、()()が叫びだす


「…攻撃されることが怖いんです」


自分の気持ちを客観的に見た言葉

攻撃される、そう思うと恐怖に鷲掴みにされる



だが、へルマンが首を振った


「…違うだろ? 相手を怖がっている感じじゃない。何かを思い出しているような…、フラッシュバックを起こしているというか…」


ヘルマンが、考えながら言う


「フラッシュバック…」


トラウマとなった光景を突発的に思い出すという症状


だが、何かを思い出したりはしていない

ただ、心の中で()()が起き上がって叫び始めるだけだ


…いや、待てよ


俺は今まで、恐怖で動けなくなることに目を向けていた


だがそもそも、俺の中で()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()



「俺が見た限りだと、シンヤを見て、何かを思いだしているような…、それでパニックになっているというか…、上手く言えないんだが…」

考え込んでいる俺に、ヘルマンが声をかける


「…でも、何も思い出してなんかいないんです」


「もしかしたら、それは過去の何かを記憶の奥底に押し込めているのかもしれない」


「過去の何かを…、ですか」


「まず、何を恐がっているのか。それを探してみたほうがいい」


「何を怖がっているのか…」


攻撃されること

争うこと


他に何かあるのだろうか?


「お前はまだ間に合う。…俺と違ってな」


「へルマン?」


へルマンはそう言うと、運動場を出ていってしまった





心の中…、疑問を持つことが第一歩

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― 新着の感想 ―
[一言] ヘルマーン‼︎お前死んじまうわじゃねぇよな⁈それがラーズの変異とかに関係しちゃうとか⁈そして一体ヘルマンは何が間に合わなかったんだ⁈ヘルマンも記憶の問題とかあったのかな?それかもう廃棄という…
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