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六章 ~27話 支援物資

用語説明w

大崩壊:神らしきものの教団や龍神皇国の貴族が引き起こした人為的な大災害。約百万人に上ぼる犠牲者が出た


神らしきものの教団:現在の世界は神らしきものに滅ぼされるべきとの教義を持つカルト教団。テロ活動や人体実験など、世界各地で暗躍




マキ組のみんなが帰って来たのは、次の日の早朝だった


一日以上、一人で過ごしたのは久しぶりだ

集団生活だと一人になれることが少ない

人と接する時間が少なすぎるのも問題だが、一人になれないのも、それはそれでストレスだ


一人で自分の戦い方というものに向き合い、装具の訓練などに集中できた



「酷い現場だった…」


「保険をかけておいて正解でしたね」


コウとマキ組長が、返り血を浴びている


「どうしたの?」


「依頼主に裏切られて囲まれたのよ。ジョゼがシステムをハッキングしてたから、ドアを解錠してマキ組長が皆殺しにしたわ」

ヤエがやれやれと肩を竦める


え?

あんたら、どういう状況から帰って来たの?


「…軍部の権力争いに巻き込まれましたね。権力者が暗殺を考えるときは、暗殺対象と共に秘密を知る暗殺者も消そうとします。情報は権力者を殺す刃となる、暗殺の実行者を消すことほど、秘密を維持する確実な方法はありませんから」


「…勉強になりました」

コウが頷く


うん、闇が深くない?

だから、あんたらどんな依頼を受けて何をしてきたの?



俺は、深く聞くのを止めて、いそいそと出かける準備を始めた




・・・・・・




俺は、車を借りてドミオール院へ向かう


この間に、いろいろとあった

一番は父さんの負傷だ


緊急飛行機で無事に龍神皇国に到着したと、セフィ姉から連絡を貰った

集中治療室に入ったおかげで峠は越えた、とりあえず命に別状はないらしい


だが、やはり意識は戻っていない


父さん…



間もなくドミオール院


断られると思いながらも、徹夜明けのコウに声をかけたら一緒に行くとのこと


「疲れてないのかよ?」


「疲れてるけど、次の戦場で生き残れるかも分からない。子供達だって戦いに巻き込まれてしまうかもしれないから、会えるうちにさ」


「そ、それは、まぁ…」


「子供達と一緒に遊んで仲良くなれば、戦場に立つことが少しだけ怖くなくなるんだ。俺が戦うことが、少しでもあの子たちのためになると思えるからさ」


「…」


自分の命も守れない

子供達も、いついなくなってしまうか分からない

龍神皇国やシグノイアでは信じられない話だ


だが、同じウルと言う惑星の同じ大陸に、これだけの差がある

これが現実だ


そして、その安全だって、あの大崩壊の時にように簡単に無くなってしまうことだってあるのだ




ドミオール院に着くと

見慣れないものがあった


「あれ?」

「何だ、あの荷物は?」


ドミオール院には、段ボール箱がたくさん届いていた


「あ、ラーズさん!」

そして、その荷物の仕分けにマリアさんがてんてこ舞いになっていた


「こんにちは。どうしたんですか、この大量の荷物は?」


「パニンさんというジャーナリストの方が、このドミオール院を取材してくれたんです。そして、その映像を見てくれた方に寄付を募ってくれ…、すぐにいろいろな物資が送られてきたんです」


「え! これは、父さんの映像の効果なんですか!?」


「…パニンさんって、ラーズさんの!?」


「あ、そうです。パニンは、俺の父なんです」


「…パニンさんは、先の戦闘で負傷して……、ここに取材に来ていたのですが、私たちの集落を守るために、集落の戦闘に止めに入って…、それで……」


「そうだったんですか…」


パニン父さんは、ドミオール院に取材に来ていたのか


「うぅ…、本当に…、私たちのために、あんな人が犠牲になってしまって…、そして、その犠牲のおかげで私達は生き残る…本当に…うぅ……」

マリアさんが、ハンカチで顔を覆う


「父さんはウルラの城で治療を受け、その後に龍神皇国に搬送されました。命は助かりましたので安心してください」


「そ、それは良かった…!」


「さ、マリアさん。父さんの成果である、この荷物を運んでしまいましょう」

「力仕事は俺達に任せてください!」

俺とコウが腕まくりをする


「助かります。こちらの荷物は中に、こちらは戦いに巻き込まれた集落にお裾分けしますので、あちらのトラックに乗せてください」


「分かりました」


俺達が荷物を運び始めると…


「あ、お兄ちゃん!」

「ラーズ!」

「コウさんも!」


子供達と、タルヤ、ウィリンが中から出て来た


「おう、ちょっと待ってろよ! この荷物を片付けたら思いっきり遊ぶぜ!」


「やったー!」

「お兄ちゃん、約束だよ!」


コウが、笑顔で頷いた



大人たちで、荷物を仕分けしていく


「ラーズさんのお父さんのおかげで、何とか生活ができそうです。缶詰などの食料品から、子供服、燃料まで、いろいろな寄付が届きました」


「燃料まで送ってくれたんだ」


「お金の寄付も頂いたんですが、クレハナでは慢性的に物資が枯渇しています。食料品や燃料などは、品不足で買うのも一苦労なんですよ」


「そ、そうなのか…」


クレハナの情勢は厳しいな


「お父さん…、パニンさんから、ラーズさんのことも聞きました」

ウィリンが、少し申し訳なさそうに俺を見る


「俺の過去?」


「神らしきものの教団が関与した、あの大崩壊。それに巻き込まれたって…」


「あぁ…」


「父は、神らしきものの教団から金を受け取っていました。そして、その金で僕を大学に行かせてくれたんです」


「うん、ヘルマンから聞いてるよ」


「………教団は、このドミオール院に支援をしてくれました。救ってくれたと言ってもいい。国からの援助は無く、日々、食べ物を得る事さえも難しい。正直、パニンさんの話を聞いて驚いています」


「…だけど、ヘルマンはあの施設で死んだ。おそらくは、長く続けられた人体実験のせいだ。そして、その施設は教団の出資で運営されていた。つまり、教団の意思で俺達被検体を使い潰していたってことだ」


「…」

ウィリンが黙り込む


「教団は、信者や関係者に対しては善良な組織を装っている。本当の姿を見せたら、信者なんか増えるわけないからね」


「…僕は、信者になる人の気持ちが少しわかりますよ」


「え?」


「神らしきものの教団の教義は、この世を神らしきものに委ねるべきと言っています。つまり、信者になった者にとって、この世は生き辛く、地獄にも似た場所ということでしょう」


「それは…」


「ドミオール院もそうですが、今の国が全ての人を救っているとは言えません。実際に、教団の援助が無かったら、僕と父さんがたどり着く前にドミオール院は無くなっていたと聞いています」


「…」


俺がマリアさんを見ると、マリアさんは静かに頷いた


ウルラも戦争に明け暮れて、福祉の分野に資金を回せなくなっている

更に、ドミオール院を管轄するナオエ家もあまりいい小領主ではないようだ



「ラーズ、ウィリン、ちょっと手伝ってー?」


その時、タルヤの声が聞こえた

俺達は、話を止めて立ち上がる


「どうした、タルヤ?」


「こっちの段ボールは仕分けが終わったから、倉庫に持って行って欲しいの。そして、こっちの箱は全部外のトラックに…」


「分かった、暗くなる前にやっちゃおう」


俺とウィリンは、さっそく段ボールを運び出す


「ふぅ…」

ウィリンは学者肌なだけあって、いくつか運ぶとひぃひぃ言い始めた



三十分ほどで、段ボールは運び終わった


「ちょっと休憩させてください…」

ウィリンがフラフラしながらリビングに戻って行く


「ラーズ、ありがとう。おかげで、仕分けが今日中に全部終わったわ」

タルヤが言う


「そんなに急がなくてもよかったんじゃない?」


「変に荷物を置いておくと、泥棒に持って行かれたり、酷ければ強盗に狙われるのよ」


「そ、そうなのか…」


「はい、ご褒美よ。こっそり食べましょ?」

タルヤが、板チョコを半分に折って俺にくれる


「…甘いものが上手いね」


「ほんと、ここにいると甘味は貴重だから」


「そうだね。また、買ってくるよ」


「子供たちに?」


「…タルヤにも」


「やった」

タルヤが笑う


…タルヤ、元気になってきたな

あの施設にいた頃のタルヤ戻っている気がする



「…ねぇ、ラーズ」


「ん?」


しばらく二人で無言でチョコを齧っていると、タルヤが口を開く


「この戦いが終わったら、どうするの?」


「え? …まだ、何も考えてないな。生き残ることが、とりあえずの目的だからね」


「そう…」


タルヤが言葉を切る


そう言うタルヤはどうするんだろう?

ドミオール院に残るのか?


そもそも、聞いていいのか?

…いや、変に悩ませるだけか



「ラーズ…」


「あ、うん、どうした?」


もう一度、タルヤが俺を呼ぶ


「聞いて欲しいの」


「うん、何を?」


ふっと、タルヤが近づいてくる


「えっ…!?」


タルヤが、俺の胸にゆっくりと体を預ける

予想外のことに、俺は反応できなかった


「ラーズ…。私やっぱり、あなたのことが好き…」


俺の首に手を回しながら、タルヤは俺の目を間近で見上げる


「え…、ちょっ…、タルヤ!?」



ガチャッ…



突然、入口のドアが開く


「えっ!?」


「…っ!?」


ドアの外には、フィーナとヤマトが立っていた



ドミオール院の取材 六章 ~19話 家族との食事

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