六章 ~26話 生き残る力
用語説明w
倉デバイス:仮想空間魔術を封入し、体積を無視して一定質量を収納できる
巻物:使い切りの呪文紙で魔法が一つ封印されている
モ魔:モバイル型呪文発動装置。巻物の魔法を発動できる
魔石装填型小型杖:使いきり魔石の魔法を発動できる
データ:戦闘補助をこなすラーズの個人用AIで倉デバイスやドローンを制御。戦闘用端末である外部稼働ユニットのデータ2と並行稼働している
「はぁ…」
俺は大きなため息をつく
…失敗した
つい、フィーナに言い返してしまった
喧嘩したかったわけじゃないのに
でも、フィーナに一般兵と言われたのはショックだった
もちろん、俺を心配して言ったのは分かっている
俺がいたところで、クレハナの戦いの何が変わるわけでもない
それでも、フィーナにだけは言われたくなかった
俺は闘氣を捨てた
チャクラ封印練を行って騎士の道を諦めた
俺が選んだ道は、想像以上に辛い道となった
…まるで、その道を否定されたようで
お前じゃ役に立たないと言われたみたいで…、嫌だった
「何やってるんだよ?」
ヤマトが、見かねたのか声をかけてくる
「…つい、イラっとして言い返しちまった。フィーナがショックを受けているのも分かっていたのに…」
その時、医者と思われる白衣の男性が近づいて来た
「ラーズ様ですね? これは、パニン様の持ち物の中にあった物でございます。フィーナ姫様から、ラーズ様に渡すようにと仰せつかっておりました」
「え? はい」
医者が渡して来たのは、まだらの文様が美しいダマスカスナイフだった
「何だよ、それ」
「オーティル家に伝わるナイフで、俺の曽祖父が作らせたとか言ってたな」
父さんは、ペンは剣より強しと言っていた
そして、このナイフではなく、カメラを向けて全世界に配信、その報道の力でナウカ軍を止めて見せた
父さんは、自分の戦い方でドミオール院を含む、あそこの集落を守って見せたんだ
「おじさん、凄いな」
それを聞いたヤマトが感心している
「マサカドってのは強いのか?」
「…ああ、強い。おそらくはB+ランク、今のフィーナやセフィリアさんクラスの力を持っている」
「…っ!? ちなみに、フィーナってB+ランクなの?」
「そうだぞ。仙人としての人体強化を終えて、宇宙戦艦をオーバーラップ、更に複合遁術を習得。得意だった魔法にもさらに磨きがかかっている。…俺でも勝てるかは分からないからな」
「え、それって、ヤマトもB+ランクってことか?」
「俺は獣化とトランスがあるからな」
ヤマトが得意そうに言う
こいつ、騎士学園時代から戦闘力が頭おかしかった
それは今も変わらないらしいな
「…それで全面戦争は近いのか?」
「ああ、近い。わざわざ、マサカド自身が領境を視察に来ているくらいだ。覚悟をしておいた方がいい。…俺は、マキ組の実力は分かっているし、信頼もしている」
「そうか」
「…ラーズ、死ぬなよ」
「お前まで不吉なこと言うなって」
パニン父さんは龍神皇国に搬送されて治療を受けるらしい
一応、ディード母さんにメッセージを送っておいた
・・・・・・
父さんは、有言実行をした
フィーナとクレハナのために、立派に戦ってみせたのだ
俺にできることは何だろう
俺は兵士として戦って来た
それなら俺は、純粋な戦力となるべきだ
フィーナやヤマトのような、英雄と呼ばれるような力でなくてもいい
俺が目指すのは、デモトス先生やヘルマン、そしてマキ組長のような、状況判断を力とする兵士だ
そして、少しでも戦線を押し上げる
ドミオール院まで戦火が及ぶのを防ぐ、その一助となれればい
あの、大崩壊のような、仲間も、町も、全てが壊れた絶望を
自分たちの敗北を嫌と言うほど思い知ったあの光景を、もう二度と見たくないから
「あ、ラーズ。お帰り」
ヤエが忙しそうに俺を出迎えた
「ただいま」
マキ組は、バタバタと準備をしていた
おそらく出撃だろう
「ラーズは拠点で待機をしていてください」
マキ組長が言う
「いいんですか?」
「今回のミッションはすぐに終わる予定ですから」
そう言って、ジョゼも含めてみんなが行ってしまった
拠点には俺一人が残った
時間を無駄にはできない
全面戦争が近い
俺は静かになった校舎の空き室で、床に静かに座る
「…」
意識を右腕の二―ベルングの腕輪に向ける
装具
自分の意識によって自由に出し入れできる道具であり、あの施設でハンクが手甲のような装具を使っていた
セフィ姉は、両腕を翼のようにする装具を使っている
俺も、新たな力が欲しい
フィーナを見返すため…ではない
単純に生き残るためだ
闘いとはサバイバル
生き残れさえすればチャンスは来る
その為の手段を増やしたい
ギリギリの勝負の時に、ナイフの一本でも装具として出せれば大きい
敵の隙も突けるだろう
「…」
感じる
腕輪に溜まっているであろう、俺の氣力と霊力
二種類の力が渦巻いているのが分かる
だが、この二つの力は混ざってはいない
水と油のように
互いを押し合いながら、別個に存在しているのだ
「…っ!?」
そして、俺の精神の力である精力
これを入れることで、少しずつ混ざって行く
精力が、まるで水と油を溶かす洗剤のように
少しづつ氣力と霊力の二つの力を混ぜていく
いや、正確には精力も混ざっているから三つの力か…
「ふあぁー…」
装具の訓練をし続けたおかげで疲れた
ひたすらテレキネシスを使っているような感覚であり、しかも感覚を全集中している
だんだん、集中力が持たなくなってきてしまった
俺は気分転換も兼ねて、自己生成爆弾の素材をセットしたり、倉デバイスの充電、物品の数の確認を行う
「ヒャーン!」
「ガウ!」
校庭では、リィとフォウルが追いかけっこをしている
フォウルも、リィと遊ぶことで少しは体力がつくかもしれない
サンダーブレスを使うと動けなくなってしまうのは危険だ
せめて、自力で安全圏まで飛んで行って欲しい
ちなみに、データ2は充電中だ
俺は、二匹のドラゴンを横目に、自分の使っているアイテムを並べる
改めて見ると、他の一般兵よりも俺の使っているアイテムは多い
陸戦銃とイズミF
アサルトライフルとスナイパーライフルであり、これは状況によって使い分けている
そして、爆弾と魔石だ
まずは爆弾
ハンドグレネードとロケットランチャーだ
ハンドグレネードは時限式だ
俺のロケットランチャーは、熱源感知である程度の誘導性能を持つ小型ミサイルタイプだ
データがターゲットを設定することも出来る
これに、自己生成爆弾の四種類が追加された
宇宙技術は素晴らしい
爆弾の性能も素晴らしいが、単純に腰にいつでも使える爆弾を付けられるのが便利だ
倉デバイスはアイテムのロードに時間がかかるため、すぐに使えるというだけで大きなメリットとなる
そして、魔石だ
これは、魔石装填型小型杖にはめることで、封印された単発魔法が発動する
力学属性引き寄せの魔石
土属性土壁の魔石
火属性照明の魔石
聖属性回復の魔石
…などを俺は使うことが多い
だが、クレハナに来て、水属性水球の魔石を常備するようになった
今までは、水を魔法で作り出してどうするの? と、思っていた
魔導士であれば、水を圧縮して発射する水の高圧ジェットカッターみたいな使い方をする者がいる
だが、魔石ではそんな使い方はできない
魔法で具現化した物質は時間が経てば魔素に戻るため、水分の補給にもならない
つまり、使い道なくね? と思っていたのだ
しかし、戦場で毒ガスに巻かれるは、ドラゴンのブレスで火だるまになるわ
水をいつでも被れるというメリットをこれでもかと痛感した
モンスター相手でも、毒の煙や酸などを被った場合に緊急避難的に使用することも考えられる
俺の危機管理能力は、発想力の無さが問題なのかもしれない
そして、モ魔に使う呪文紙、通常・巻物
巻物に封印された、範囲魔法(小)を発動することができる
更に、実体のない対霊体用の霊札
怪我の際の回復薬、カプセルワーム
データに運用させている偵察用ドローン
「うーん…」
…多すぎるな
倉デバイスからひっきりなしにアイテムの出し入れをしている
「ご主人! どうしたの?」
悩んでいると、データが声をかけて来た
「いや、アイテムが多すぎると思ってさ。倉デバイスって、ロードが結構遅いだろ? これだけ多いと、いざという時に困るかなって」
「それなら、少し体に取り付けてみる?」
「そうだなぁ…」
たすき掛けのベルトなどに魔石を付けるとかならありかもしれない
「後は、優先事項を設定すれば効率的にアイテムを出しておけるよ? 例えば、高速立体機動に使っている引き寄せの魔石を使ったら、自動的に倉デバイスから取り出しておくとか!」
「その設定はいいな。隙を見て小型杖に装填しておけるし」
「分かったよ!」
よし、もっと頼れるところはデータに頼ろう
効率的なアイテム運用、これは生き残るために必須だ
ハンクの装具
三章 ~28話 ダンジョンアタック五回目1




