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六章 ~25話 重傷者

用語説明w

ヤマト:龍神皇国騎士団の騎士、特別な獣化である神獣化、氣力を体に満たすトランスを使う近接攻撃のスペシャリスト


フィーナ:ラーズと同い年になった恋人。龍神皇国騎士団にBランク騎士として就職。現在はクレハナの姫として、内戦終結のために勤しんでいる


「ルイ、状況は?」


「狙撃準備は完了。カーテンも開いており、いつでも撃てます」


「了解。ヤエ、準備は?」


「私はトイレだと言って抜けています。いつでも大丈夫ですよ、マキ組長」


「ラーズ、コウ?」


「ラーズと共に配置完了です」


「分かりました。ジョゼ、ルイの狙撃と同時に電源を落として下さい」


「了解」



…俺達は、町の一角にある雑居ビルの一室を包囲している

ナウカ軍のスパイが入り込んでいるという情報を得て、俺達に制圧依頼が来たのだ


中には、パワードアーマー一体、戦闘用サイボーグ一体、脳手術と人工臓器移植による強化人間一体、その他数人の傭兵という、なかなかの戦闘集団がたむろしていた


「…総員、作戦開始の合図は狙撃音とします。ルイ、始めなさい」





………ァーーーン…



バツンッッ




狙撃音の直後、雑居ビルの電源が落ちる



ガッシャーーーン


ダダダダダダダッ!

ドガガガガガッ!



俺達は一階の裏口から突入

コウと共に、敵を撃ちながら一気に駆け上がる



「俺が上がる、コウはワンフロアずつ制圧を!」


「分かった!」



メインは、三階にある事務所

そこに、メインの戦闘員であるパワードアーマーたちがいる



ドガァッ!



ドアを蹴破って突入、陸戦銃と銃化した左腕の二つの銃口を向ける…



「…っ!?」


「お疲れさまでした」


そこには、返り血に染まり、同じく血の滴る二丁鎌を両手に持ったマキ組長が立っていた




全員が怪我無く作戦は終了した


凄いことに、事務所にいたパワードアーマー達は全員が生きていた

マキ組長は、殺さずに制圧したのだ


おそらく、窓を割って飛び込み、一瞬のうちに三人の戦闘員を戦闘不能にした

強化人間だけは回復能力が不明なため、ルイの狙撃で頭を撃ち抜いていた



「マキ組長を見ていると、近接武器って凄いのかなって思っちゃいますね…」


「部屋に飛び込んだ時点で、近接武器が銃に劣る要素は無くなっているじゃないですか」


「…」


いや、確かに距離は潰しているかもしれないけど…

俺のナイフで銃弾のような貫通力は出せないよ?

パワードアーマーの鎧をナイフで貫けるわけないんだよ?


「それなら、隙間を狙えばいいだけですよ」


「…心を読まないでください」



俺達が帰り支度をしていると、


「マキ組長! ラーズ!」

ジョゼが走って来た


「どうしました?」


「ナウカ軍の侵攻です!」


「うちにも出撃要請ですか?」


「いえ、何とか撃退したと。ただ、フィーナ姫と皇国騎士のヤマトさんから、ラーズの呼び出しです」


「ラーズの?」

「え、俺?」


俺とマキ組長が、同時に顔を見合わせる


「なんでも、国外の記者が戦闘に巻き込まれたとか…。これだけじゃ、ちょっとよく分からないが」


…俺は、嫌な予感がしてすぐに出かける準備をした




・・・・・・




クレハナ南部

ウルラ領内 灰鳥(あすか)



内戦中の現在、城内には病棟のような施設が作られており、重要人物専用の病院となっていた


「ヤマト、フィーナ!」


俺のPITにフィーナからのメッセージが届いていた


『パニン父さんが戦闘に巻き込まれて重傷を負ったの。すぐに灰鳥(あすか)城に来て』


そして、何とかたどり着いたところだ



「ラーズ!」


「ヤマト、父さんは?」


「…まだ生きている。だが、意識不明の重症だ」


「…っ!?」



ヤマトとフィーナが待っていた病室には、面会謝絶の表示がされていた

どうやら集中治療室になっているらしい


「…ラーズ、私の部屋に行こう?」

フィーナが、俯きながら俺に言う


「…」

俺は、とりあえず頷いてフィーナについて行くしかなかった



フィーナの部屋は、広い割に物が少ない

敷かれているじゅうたんに、見覚えがある気がする


騎士学園時代にフィーナについてこの灰鳥(あすか)城に来たことがあったが、その時に来た部屋がここだ

あの時も、広く、そして寂しそうな印象を受けた


ソファーに座ると、メイドさんが紅茶を入れてくれた

すげーな、リアルメイドさんだよ


「まだ、情報が集まり切ってないんだけど…」

フィーナが口を開く


フィーナもヤマトも、メイドさんがお茶を入れることに何の疑問も持っていないようだ

ちょっと、いや、かなり生活感に差を感じるな


「俺が救援に行った時には、ナウカ軍は撤退していた」

ヤマトが状況を話し始めた



ナウカ軍の少数部隊が領境を越えて侵入

ウルラ軍がその動きを察知した時には、すでに集落の一つに侵入されていた


その集落には、ジャーナリストとしてパニン父さんが滞在していた

侵攻してきたナウカ軍に対してカメラを向け、その映像を世界に放映、同時にマイクで呼びかけたのだ


「ナウカ軍に告ぐ! 民間人への攻撃は国際条約違反だ! 現在、映像をリアルタイム放映している! 攻撃をやめろ!!」


そして、住人に避難を呼びかけながら集落を走った

カメラをあえてナウカ軍の兵士に見えるように示して攻撃をけん制、住人を助けながら攻撃を静止し続けた


しかし、何らかの爆発を受けて吹き飛んだ…とのことだ



「実際に、世界に向けて動画が放映されていた。ナウカ軍が町を襲っている状況がしっかりとな」

ヤマトが映像をモニターに表示した


「そして、映像の最後は爆発に巻き込まれて終わっていた。俺が付いてすぐにおじさんを救助、応急処置をしてここまで運んだんだ」

ヤマトがため息をつく


「怪我は酷いのか?」


「右足が千切れて、内臓に深刻なダメージを受けている。だが、救助が早かったおかげで命は助かるそうだ」


「…命は?」


「問題は、脳へのダメージだ。…意識が戻るかは五分五分とのことだ」


「…うぅーー……!!」

それを聞いて、フィーナが泣き出してしまう



「…」


父さん…



穏やかで、いつも好きなことをしていて、母さんが大好きで

そう言えば、父さんの仕事中の顔って見たことなかったな


…こんなにかっこいい仕事をしやがるとは思わなかった



全力で前のめりに、自分の仕事をやり遂げる


かっこよすぎだよ、父さん


フィーナと母さんがどんな顔するかぐらい、分かるだろうよ



……何も守れなかった俺に比べて、嫉妬するくらいかっこよすぎる




フィーナが落ち着くのを待って、父さんが負傷した場所を地図で確認する


「…まさか、ここってドミオール院か?」


「そうだ。ドミオール院に来ていて戦闘に巻き込まれたらしい。ドミオール院は集落のはずれだったから被害は無い、安心しろ」


「そっか…。ナウカ軍は、何でこの場所を襲ったんだ?」


「おそらくだが、全面衝突に向けての領境の調査と周囲の拠点となり得る地点の破壊だろう」


「…」


「今回はおじさんが奇跡を起こした。映像には、チラッとだがマサカドと言うナウカ軍の総大将が映っていた。…ヤツがナウカの最大戦力だ。おじさんが映像を世界に流すことで、ナウカの国際世論による批判というリスクを呈示しなかったら、集落もドミオール院も間違いなく皆殺しにされて焼き払われていた。それも、人知れずにだ」


「そうか…」


タルヤやウィリン、マリアさんや子供達を、父さんが守ってくれたのか…



「ラーズ…」


「ん?」


すると、やっと泣き止んだフィーナが顔を上げて俺の目をまっすぐに見る


「パニン父さんと、龍神皇国へ帰ってほしいの」


「え?」


「…私は、ラーズやパニン父さんをクレハナの内戦に巻き込みたくない。父さんだって、もっとちゃんと止めればよかった! これ以上、危険に晒すのはもう嫌」


「…」


なんとなく、俺はフィーナがそう言うと思っていた

だが、俺は…


「フィーナ。俺は、自分の目的のために戦っているんだ」


「…」

フィーナが俺を睨みつける


「そして、それは父さんも同じだ」


「…っ!!」


「フィーナとクレハナのためになることをする。それも、俺と父さんの目的の一つだ」


「私は、そのために危険な目に遭ってほしくない!」


「…それを俺と父さんが言ったら、フィーナはクレハナから離れるか? フィーナが危険な目に遭うのは、俺達も嫌なんだ」


「ラーズもパニン父さんも、クレハナとは関係ないじゃない!」


「ないよ。でも、フィーナとは関係がある」


「だからって…!」


「そして、パニン父さんは自分の信念のため。俺は、セフィ姉との約束や、クレハナで出会った人たちを守るためにできることをやる。…それは変えられないよ」


「………一般兵のラーズが一人いたって、クレハナの内戦は変わらないよ!」


「…」


…確かに、な

一般兵の俺がいたって、戦況には大差ないだろう


その言葉を言った直後、フィーナがハッとした顔をした



「…俺一人の力は微々たるものだよ。でも、俺はクレハナのために戦いたい。それが、正しいし必要なことだと思うから。そして、それがフィーナと対等な関係でいられる方法だと思うから」


俺は小さな歯車でいい

この小さな力がいくつも積み重なることで、大きな力が生まれる

それが国という力の源なのだから



「…」


「悪いけど、これは俺の問題だ。価値の問題じゃない、信念の問題なんだ。…お姫様には分からないかもしれないけどな」



「………!」


バンッ!



フィーナがテーブルを力強く叩いて立ち上がる


…そして、部屋を飛び出していってしまった



パニン父さん 六章 ~19話 家族との食事

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― 新着の感想 ―
[一言] フィーナはラーズより強いからな〜自分より弱いのに大切か人が戦うってのは凄く不安よな。
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