六章 ~24話 取り戻した力
用語説明w
ナノマシン集積統合システム2.0:人体内でナノマシン群を運用・活用するシステム。治癒力の向上、身体能力の強化が可能
ルイ:マキ組の下忍、赤髪の獣人男性。スナイパー技能に長けている
ヤエ:マキ組の下忍、ノーマンの女性。潜入に特化した忍びで戦闘力は低い。回復魔法を使うため医療担当も兼務
ジョゼ:黒髪のエルフ男性。情報担当と事務を行う非戦闘員、整備などもこなす
フィーナが怒って行ってしまった
俺のことを思って言ってくれていたことは分かる
でも、俺はフィーナのために戦いたい
…いや、違う
俺の本音は、心配されないような力が欲しい、だ
フィーナに置いていかれないため
セフィ姉との約束のため
教団と戦うため
自分のやりたいことを押し通すため
…その為の力が欲しい
グレーターデーモンは強かった
疲労と怪我で、意識が朦朧とする
マキ組の廃校に戻ると、もう一度回復薬とナノマシン群の素材溶液をがぶ飲み
大量の飯をかっ込み、眠いのを我慢してしばらくゆったりする
ある程度消化してから寝た方がいい
「ラーズ、体調は?」
マキ組長が様子を見に来てくれた
「さすがに疲労困憊ですが、怪我はフィーナの回復魔法でかなり回復しました。寝れば治ると思います」
「…フィーナ姫に対して、つい、あんな態度を取ってしまいました。失敗でしたね」
マキ組長が俺から視線を外す
「俺は、自分の目的のためにクレハナに戦いに来ました。守られに来たわけではありませんし、フィーナが何を言おうが今後も戦い続けますよ」
「…私達兵士は、皆それぞれの理由で命を賭けて戦っています。そして、何人もの同志が戦場に散っています」
「ええ…、そうですね」
戦場は無情だ
殺す方にも、殺されたくないという大義がある
「ラーズがクレハナで戦う理由は何なのですか? セフィリア様との約束と聞きましたが…」
「………約束も、もちろん理由です。でも一番の理由は、戦う力が欲しいということかもしれません」
「戦う力…ですか」
「フィーナのために、というのもあります。でも、俺はこの戦場を生き抜けるのかを試してみたいんです」
「生き残れるか?」
「…俺は、過去に自分の部隊を皆殺しにされているんです。そして、俺だけが生き残った。俺に、生き残る価値があったのか…、それを試したい。…そう思っています」
「…」
マキ組長が、俺の顔を見つめる
「それと、クレハナに守るべき者も増えました。領境の近くにあるドミオール院という孤児院、ここだけは守りたいと思っています」
ヘルマンの息子、ウィリンと、タルヤ、マリアさん、子供達
俺が守りたいと思える人たちだ
「コウが言っていた施設ですね」
「ええ、コウは子供が好きみたいで、遊ぶのも上手なんですよ」
また、近いうちにコウやヤマトに声をかけて遊びに行こう
だが、マキ組長は冷たい表情で俺に口を開いた
「…私はこれ以上、その孤児院に関わるのは反対です」
「え?」
「そのような施設は、弱みにしかならない」
「…っ!?」
「あなたと孤児院の人間は、生きる世界が違う。関わりたいのなら戦いから離れるべきですし、戦士としての道を行くのなら切り捨てるべきです」
「ですが、俺達の支援が無いとドミオール院は…」
「自活できない施設など潰れて当然。下手に関わると共倒れになるだけでしょう」
マキ組長の冷徹な言葉は、ドミオール院の未来の暗示だ
余裕がなくなれば、何より最初に切り捨てられる
そんな、弱き子供たちがいる場所なのだ
「マキ組長…」
「忠告はしました。フィーナ姫の過保護のせいか、あなたは甘すぎます。いつか、足元を掬われますよ?」
「…」
「今日はゆっくり休んでください」
そう言って、マキ組長が行ってしまった
いや、このモヤモヤで寝れるわけなくね?
・・・・・・
ギュイィィィン…!
ドガガガガッ!
ガガガガッ!
ドッガァァァァン!
戦場を、銃を撃ちながら駆け抜ける
…これは夢だ
シグノイアの防衛軍時代の夢
右手には陸戦銃
左手には、前腕にナノマシンシステム2.1の変形機能で形成したアサルトライフル、更に小型杖を持つ
そして、ナノマシンシステム2.0で筋力強化
俺が使っていたダブルアサルトライフルスタイルだ
「………やっぱり夢か」
目を開けると、俺はベッドにいた
変異体となったことで、ナノマシンシステムがほぼ初期化された
そのために失ってしまった、過去の戦闘スタイルだ
「そろそろ2.1が復活しても良さそうなんだけどな…」
俺は、独り言を言いながら、自分の左腕を見る
「うおぉぁああっ!?」
そして、悲鳴を上げた
俺の左前腕が!?
明らかに太くなっている!?
「どうしたの、ラーズ?」
声を聞きつけたヤエが、部屋のドアを開ける
「あ、いや、俺の腕が…」
「え、何それ!?」
ヤエが目を見開く
その後ろから、ひょっこりとジョゼが顔を出した
「…何かの変形か?」
「え?」
変形?
まさか…
まさか、ナノマシンシステムなのか?
2.1の夢を見た直後の、左腕の異変
タイミングが良すぎる
俺は意識を前腕に向けると…
ギュイィィィ…
「…っ!?」
う、動いた…
ま、間違いない、これはナノマシンシステム2.1だ
何でいきなり、2.1が発現したんだ!?
いや、待てよ
俺は腕の変形を、2.1の変形機能を試したことが無かった
実は、少し前から変形機構を取り戻していたのかもしれない
普通は、身体を変形させようという発想がない
そう言えば、初めて2.1を使った時もこんな感じだったな
ドォン!
ドォン!
ドォン!
「…ナノマシンシステム2.1か、面白い能力だな」
ジョゼが感心したように言う
「体の変形なんて、これだけで忍術として認定していいんじゃないの?」
ヤエもお茶を飲みながら見物している
あれから一時間ほど
俺の腕の銃化能力は、あっけないほど簡単に再現が出来てしまった
何度も使ってきた能力は、やはり体と心が覚えていた
そして、ナノマシン群も覚えていたようで、すんなりと記憶の通りに変形を行った
俺のナノマシンシステム2.1は、左前腕の銃化だ
銃身や撃鉄、チャンバーといった銃の部品を前腕に取り込んでおき、必要な時にアサルトライフルを組み立てるという機能だ
肘から手首の間にアサルトライフルの機能を形成するため、銃身が短くなり命中精度は低下、反面手首から先が自由に使えるため、小型杖やナイフを持ちながらいつでも銃を撃つことが出来る状態を維持できる
ストックが無いため、衝撃で銃が安定して撃てないため、ナノマシンシステム2.0の筋力強化も併用
場合によっては右手に陸戦銃を持つダブルアサルトライフルスタイルとして弾幕特化の戦い方が出来た
汎用性と安定感を実現する能力だったと自負している
「これで、軍時代の能力を全て取り戻せたよ」
「…グレーターデーモンと戦っていたのに、まだ使えてない能力があったの?」
信じられないという顔でヤエが言う
「あれはマキ組長のフォローやジョゼの情報収集のおかげだよ」
ジョゼの複数の外部稼働ユニットによる観測は、あの戦いにおいて安定した立ち回りを可能にした
「情報処理と解析が俺の忍術だからな」
「ジョゼも忍者としての位置づけなんだ…。そう言えば、ヤエの忍術ってどんなものなの?」
俺はヤエを見る
確か、薬を使って男を堕とすとかは聞いたけど、戦いにおける忍術は聞いてなかった
「私は諜報活動に特化しているから、戦いでは役に立てないの。体に隠しカメラや録音機を仕込んでいて、情報を取るなんてことができるわ」
「それでも、素人くらいなら倒せそうだけどね。回復魔法も戦いでは助かるし」
マキ組の忍者は、全員が曲者だ
俺が銃化したナノマシンシステム2.1の試し打ちをしていると、その音を聞いてルイがやって来た
「ラーズ、面白い能力だな。使っている陸戦銃の弾丸って何を使ってるんだ?」
「え? 普通にアサルトライフルの弾丸だけど」
「その腕の銃だったら器用そうだから、使い分けてみたらどうだ?」
そう言って、ルイが先が窪んだ弾丸を渡して来た
これは、ホローポイント弾
先端が凹んだ形をしており、対象にぶつかると先端がつぶれてマッシュルームのような形になる
この現象はマッシュルーミングとも呼ばれ、命中時に弾丸が炸裂や膨張することで、ダメージが大きくなる
対人、狩猟用の弾丸であり、柔らかい生物を殺すことに特化した銃弾だ
戦車や装甲車を貫通させることはできないが、兵士を撃つときには有効となる
「そういや、グレーターデーモンと戦っていた時に、マキ組長が凄い銃を使ってたんだけど」
「あれは、超大口径の成形炸薬弾だ。大火力の運動エネルギーに加えて、着弾地点を金属ジェットで貫く超貫通力を有する。状況によっては、Bランクモンスターや闘氣さえも貫通させる」
「おぉ…」
マキ組長のあの銃は、俺の1991に負けない火力を持っていそうだ
「ルイ、俺に射撃のコツを教えてくれよ」
「コツって?」
「動いている敵に当てる方法とかさ」
ルイの射撃技術は凄いからな
聞いておきたい
「うーん…、銃口で追うんじゃなくて、敵が通りそうなところに銃口を向けておいて、そこを通ったら撃つ、とかかな…」
偶然が生んだ時間
俺は、ルイ、ヤエ、ジョゼと、いろいろな話をした
俺も、やっとマキ組に馴染めてきたのかもしれない
次は閑話です




